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Ⅰ章 生きることが許されますように
8 タクマの想い <SIDE:タクマ>
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ルーカス様に仕事が入ってしまい、サラさんと護衛さんと森を散歩している。サムさんとトムさんも途中で参加すると言っていた。
いつも優しいサラさんと一緒は嬉しいけれど、ルーカス様と居る時のように心がワクワクしない。よろけた時に支える手が、サラさんの優しい手なのに、「違う」と心が訴える。
僕はこんなに人を差別するような人間だったのかと、自分にがっかりする。優しさを、こんな風に思うなんて。徐々に下を向いてしまう。
何故だろう。木漏れ日のきらめきも、葉のゆらめきも、心に入ってこない。
「何を、考えておいでですか?」
優しい笑顔のサラさん。何も言えずに地面を見る。
「タクマさま。何か、心配になりましたか?」
サラさんがゆっくり、声をかける。困ってしまい、首をかしげる。
「ここで、ちょっと休憩しましょうか。ルーカス様が美味しいものを持たせてくれましたよ。殿下は、今日一緒に出掛けることを楽しみに考えていらっしゃいました。タクマ様が食べきれない量を用意されています。きっと、尻尾を揺らめかせて考えてくださったと思いますよ」
尻尾を、揺らめかせて。考えて、噴き出してしまった。分かる! その様子が頭に浮かんだ。真剣な顔で尻尾がゆらゆら嬉しそうに揺れている様子。僕、何度も見ている。想像したら、心が一気に明るく花咲いた。
「分かるよ! 僕、そのルーカス様、知っているよ。こう、顔の表情と尻尾の動きの、ミスマッチ感が面白いよね!」
ブハっと護衛の数名が噴き出し笑いをして「申し訳ありません」と謝られる。皆、知っているんだと思ったら、笑いがこみ上げてきた。
「あはは」
「ふふふ」
サラさんと声を上げて笑った。
敷物を護衛さんが広げて、クッションを置いてくれる。至れり尽くせりで申し訳なくなる。「ありがとうございます」と伝えると、いつも護衛さんは真っ赤な顔で「光栄です」と言ってくれる。僕の方が光栄です、と頭の中でお返事する。
サラさんとお茶をして、殿下はこうだ、ああだ、と言い合うと森に来て良かったと思った。ルーカス様の事を話す相手がいて心が温かくなる。話していると心が満ちてくる。
サラさんも、護衛さんもルーカス様を大切にされている。周りから愛される皇子様っていいよね。皆がルーカス様を褒めると、なぜか僕が嬉しくて照れてしまう。不思議な思いに、胸がドキドキして、今すぐにでもルーカス様に抱きつきたい気持ちになる。
ソワソワする。会いたい。ルーカス様に、会いたい。こんな気持ちは初めてだ。
「まだ、仕事かなぁ」
ぽつりと言葉が漏れてしまった。
「ルーカス様ですか?」
優しい声でサラさんが言う。
「うん。僕、おかしいんです。こんな少しの散歩で離れているだけなのに、もうルーカス様に会いたくなっているんだ。こう、胸の奥がキュ~ってするんです。これ、何かな」
サラさんも、護衛さんも、無言で僕を見ている。
「何?」
「いえ。何でもありません。きっと、神様も返答に困るでしょうね。ルーカス殿下なら、答えを知っていると思いますよ」
顔を赤らめて、幸せそうに笑うサラさんを見た。護衛さんたちも同じ、温かみのある表情。よくわからないけれど、ルーカス様に話してみようと思った。
「では、早めに帰りましょうか。そうですね、ルーカス様がご準備くださったお食事は食べていきましょう」
「うん。サラさんも一緒に食べてもらえますか?」
もちろんです、と言ってもらえた。
量が多いから護衛さんにも勧めたけれど、仕事中です、とにこやかに断られた。
多すぎるよね、とサラさんと笑いながら食べた。冷たいゼリーも必ずつけてくれる。ルーカス様の優しさに、心がほっこりする。
会いたいな。
昼食を早めに終えて基地に戻る。行きとは違って、ルーカス様に早く話したくて気持ちがウキウキする帰り道。
「タクマ様」
サラさんが僕を呼ぶ。サラさんから急に話しかけられることは少ない。立ち止まって振り返る。
「歩みを止めないで」
あれ? 顔が、怖い。何だろう。コクリと頷き、前を向いて歩く。こんな顔は初めて見た。どうしたのだろう。
「いいですか。何があっても、歩みを止めず、ルーカス様のところに行ってください。とにかく、基地に急いで。私に何があろうと、振り返ってはいけません」
小さい声で僕にささやく。声が、緊迫している。何が起きている?
周りを気にしてみるけれど、いつも周囲にいる護衛さんが、まったく見えない。
それに気が付くと、心臓がバクバクと鳴り出す。歩みを早める。
後ろから、強い風。少しあおられて驚く。足元がふらつく。
「え……?」
振り返ると、そこには、誰もいなかった。
いつも優しいサラさんと一緒は嬉しいけれど、ルーカス様と居る時のように心がワクワクしない。よろけた時に支える手が、サラさんの優しい手なのに、「違う」と心が訴える。
僕はこんなに人を差別するような人間だったのかと、自分にがっかりする。優しさを、こんな風に思うなんて。徐々に下を向いてしまう。
何故だろう。木漏れ日のきらめきも、葉のゆらめきも、心に入ってこない。
「何を、考えておいでですか?」
優しい笑顔のサラさん。何も言えずに地面を見る。
「タクマさま。何か、心配になりましたか?」
サラさんがゆっくり、声をかける。困ってしまい、首をかしげる。
「ここで、ちょっと休憩しましょうか。ルーカス様が美味しいものを持たせてくれましたよ。殿下は、今日一緒に出掛けることを楽しみに考えていらっしゃいました。タクマ様が食べきれない量を用意されています。きっと、尻尾を揺らめかせて考えてくださったと思いますよ」
尻尾を、揺らめかせて。考えて、噴き出してしまった。分かる! その様子が頭に浮かんだ。真剣な顔で尻尾がゆらゆら嬉しそうに揺れている様子。僕、何度も見ている。想像したら、心が一気に明るく花咲いた。
「分かるよ! 僕、そのルーカス様、知っているよ。こう、顔の表情と尻尾の動きの、ミスマッチ感が面白いよね!」
ブハっと護衛の数名が噴き出し笑いをして「申し訳ありません」と謝られる。皆、知っているんだと思ったら、笑いがこみ上げてきた。
「あはは」
「ふふふ」
サラさんと声を上げて笑った。
敷物を護衛さんが広げて、クッションを置いてくれる。至れり尽くせりで申し訳なくなる。「ありがとうございます」と伝えると、いつも護衛さんは真っ赤な顔で「光栄です」と言ってくれる。僕の方が光栄です、と頭の中でお返事する。
サラさんとお茶をして、殿下はこうだ、ああだ、と言い合うと森に来て良かったと思った。ルーカス様の事を話す相手がいて心が温かくなる。話していると心が満ちてくる。
サラさんも、護衛さんもルーカス様を大切にされている。周りから愛される皇子様っていいよね。皆がルーカス様を褒めると、なぜか僕が嬉しくて照れてしまう。不思議な思いに、胸がドキドキして、今すぐにでもルーカス様に抱きつきたい気持ちになる。
ソワソワする。会いたい。ルーカス様に、会いたい。こんな気持ちは初めてだ。
「まだ、仕事かなぁ」
ぽつりと言葉が漏れてしまった。
「ルーカス様ですか?」
優しい声でサラさんが言う。
「うん。僕、おかしいんです。こんな少しの散歩で離れているだけなのに、もうルーカス様に会いたくなっているんだ。こう、胸の奥がキュ~ってするんです。これ、何かな」
サラさんも、護衛さんも、無言で僕を見ている。
「何?」
「いえ。何でもありません。きっと、神様も返答に困るでしょうね。ルーカス殿下なら、答えを知っていると思いますよ」
顔を赤らめて、幸せそうに笑うサラさんを見た。護衛さんたちも同じ、温かみのある表情。よくわからないけれど、ルーカス様に話してみようと思った。
「では、早めに帰りましょうか。そうですね、ルーカス様がご準備くださったお食事は食べていきましょう」
「うん。サラさんも一緒に食べてもらえますか?」
もちろんです、と言ってもらえた。
量が多いから護衛さんにも勧めたけれど、仕事中です、とにこやかに断られた。
多すぎるよね、とサラさんと笑いながら食べた。冷たいゼリーも必ずつけてくれる。ルーカス様の優しさに、心がほっこりする。
会いたいな。
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「タクマ様」
サラさんが僕を呼ぶ。サラさんから急に話しかけられることは少ない。立ち止まって振り返る。
「歩みを止めないで」
あれ? 顔が、怖い。何だろう。コクリと頷き、前を向いて歩く。こんな顔は初めて見た。どうしたのだろう。
「いいですか。何があっても、歩みを止めず、ルーカス様のところに行ってください。とにかく、基地に急いで。私に何があろうと、振り返ってはいけません」
小さい声で僕にささやく。声が、緊迫している。何が起きている?
周りを気にしてみるけれど、いつも周囲にいる護衛さんが、まったく見えない。
それに気が付くと、心臓がバクバクと鳴り出す。歩みを早める。
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「え……?」
振り返ると、そこには、誰もいなかった。
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