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二章 発情トラブル
発情トラブル 9
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「いくぞ」
リザード族は巨躯に見合った巨大な剣でヴィンセントに斬りかかった。ヴィンセントは軽快なステップで避けると、その巨大な剣を真っ二つに斬り、返す刀でリザード族の首に聖剣カレトヴルッフを突きつけた。
一瞬で勝負はついた。
「どうだ、魔力のないひ弱な人間に、剣を突きつけられた気分は」
ヴィンセントはニヤリと笑った。
「くそ……」
顔を真っ赤にしたリザード族は尻尾を振りまわした。土や小石をヴィンセントにぶつける。
ヴィンセントが離れて目を押さえているうちに、リザード族は仲間から剣を受け取ると、再びヴィンセントに斬りかかった。
「死ねぇぇぇ!」
「ヴィンセント!」
思わずぼくは叫んだ。勝負はついたのに、なんて卑怯なんだ。
魔法で助けようかと思ったのだけれど、ぼくは見た。
目を閉じているヴィンセントが、ニヤリと笑うのを。
まだ土煙が舞う中で、剣を振りかぶっているリザード族の懐に、ヴィンセントは素早い動きで飛び込んだ。そして剣の柄頭をリザードマンの腹に叩きつける。鎧が砕け、柄頭が腹に食い込んだ。
「がっ……!」
両膝をついたリザード族の首の後ろを、ヴィンセントはもう一度、剣の柄頭でポンと打つ。
「目を閉じていたって余裕だったオレと、まだやる気?」
強い。
リザード族は戦闘民族だ。決して弱い種族ではない。
まだ駆け出しの騎士だと思っていたけれど、ヴィンセントは既に相当の手練れだった。
「今度は俺が……」
「はい、そこまでぇ」
火のついた別のリザード族がヴィンセントに剣を向けた時、気が抜けるような柔和な声が止めた。
「二度も首を取られてさあ、実力差くらいわからないの? そっちのほうが恥ずかしくない?」
長身を揺らしながら、目の奥が笑っていない笑顔を浮かべてやってきたのはエルネストだった。いつものように執事服を着崩している。
「俺、あんたらには川から農地に水を運ぶ用水路を作って、って言ったじゃん」
それからエルネストの笑顔が消え、赤い目だけがギラリと光る。
「なんでここにいるの?」
底冷えするようなエルネストの声に、リザード族は「すぐ戻る!」と逃げて行った。
「みんな、なかなか言うこと聞かなくて困るよ。アーシェンの血が報酬じゃなかったら、やってられないね」
さっきの表情が幻だったかのように、エルネストはまた柔和な笑みとゆっくりとした口調に戻った。
「ねぇねぇアーシェン。俺、こんなに頑張ってるんだからさぁ、作戦が上手くいかなくても、味見くらいさせてくれるよね?」
長身を折り曲げて、エルネストがすり寄ってくる。こうしていると、人懐こくて可愛く見えなくもない。
そうだな。レザードの言っていたように、エルネストはかなり頑張ってくれているようだから、血くらい少し分けてあげても……。
「俺、思うんだけどね」
エルネストはまた、ぼくの肩に腕を回した。
「少しでもアーシェンの血を飲んだら、俺の魔力が増幅して、アーシェンに勝てちゃう気がするんだよね。そうしたら、アーシェンの血を全部飲めちゃうね」
怖っ! それ、一滴もあげられないやつ!
「あはは、大丈夫だよ。最近のアーシェンは隙だらけだけど、勝手に血を飲む気はないから。今のところはね」
お願いだから、気が変わらないでほしい。
それにしても、ぼくは隙だらけなのか。やっぱり“純粋な魔王”の頃と、どこか変わってしまったのかもしれない。
リザード族は巨躯に見合った巨大な剣でヴィンセントに斬りかかった。ヴィンセントは軽快なステップで避けると、その巨大な剣を真っ二つに斬り、返す刀でリザード族の首に聖剣カレトヴルッフを突きつけた。
一瞬で勝負はついた。
「どうだ、魔力のないひ弱な人間に、剣を突きつけられた気分は」
ヴィンセントはニヤリと笑った。
「くそ……」
顔を真っ赤にしたリザード族は尻尾を振りまわした。土や小石をヴィンセントにぶつける。
ヴィンセントが離れて目を押さえているうちに、リザード族は仲間から剣を受け取ると、再びヴィンセントに斬りかかった。
「死ねぇぇぇ!」
「ヴィンセント!」
思わずぼくは叫んだ。勝負はついたのに、なんて卑怯なんだ。
魔法で助けようかと思ったのだけれど、ぼくは見た。
目を閉じているヴィンセントが、ニヤリと笑うのを。
まだ土煙が舞う中で、剣を振りかぶっているリザード族の懐に、ヴィンセントは素早い動きで飛び込んだ。そして剣の柄頭をリザードマンの腹に叩きつける。鎧が砕け、柄頭が腹に食い込んだ。
「がっ……!」
両膝をついたリザード族の首の後ろを、ヴィンセントはもう一度、剣の柄頭でポンと打つ。
「目を閉じていたって余裕だったオレと、まだやる気?」
強い。
リザード族は戦闘民族だ。決して弱い種族ではない。
まだ駆け出しの騎士だと思っていたけれど、ヴィンセントは既に相当の手練れだった。
「今度は俺が……」
「はい、そこまでぇ」
火のついた別のリザード族がヴィンセントに剣を向けた時、気が抜けるような柔和な声が止めた。
「二度も首を取られてさあ、実力差くらいわからないの? そっちのほうが恥ずかしくない?」
長身を揺らしながら、目の奥が笑っていない笑顔を浮かべてやってきたのはエルネストだった。いつものように執事服を着崩している。
「俺、あんたらには川から農地に水を運ぶ用水路を作って、って言ったじゃん」
それからエルネストの笑顔が消え、赤い目だけがギラリと光る。
「なんでここにいるの?」
底冷えするようなエルネストの声に、リザード族は「すぐ戻る!」と逃げて行った。
「みんな、なかなか言うこと聞かなくて困るよ。アーシェンの血が報酬じゃなかったら、やってられないね」
さっきの表情が幻だったかのように、エルネストはまた柔和な笑みとゆっくりとした口調に戻った。
「ねぇねぇアーシェン。俺、こんなに頑張ってるんだからさぁ、作戦が上手くいかなくても、味見くらいさせてくれるよね?」
長身を折り曲げて、エルネストがすり寄ってくる。こうしていると、人懐こくて可愛く見えなくもない。
そうだな。レザードの言っていたように、エルネストはかなり頑張ってくれているようだから、血くらい少し分けてあげても……。
「俺、思うんだけどね」
エルネストはまた、ぼくの肩に腕を回した。
「少しでもアーシェンの血を飲んだら、俺の魔力が増幅して、アーシェンに勝てちゃう気がするんだよね。そうしたら、アーシェンの血を全部飲めちゃうね」
怖っ! それ、一滴もあげられないやつ!
「あはは、大丈夫だよ。最近のアーシェンは隙だらけだけど、勝手に血を飲む気はないから。今のところはね」
お願いだから、気が変わらないでほしい。
それにしても、ぼくは隙だらけなのか。やっぱり“純粋な魔王”の頃と、どこか変わってしまったのかもしれない。
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