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三章 愛しい人との別れ
愛しい人との別れ 18
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「待て、アーシェン」
ヴィンセントが追いかけてくる。
「ヴィンセントはまだ国王たちと話があるでしょ、戻って」
ぼくは小声で話しかける。するとヴィンセントは歯ぎしりせんばかりの苛立った表情を隠しもせずにぼくの手首を掴むと、率先して出口に向かった。
「ちょっと、ヴィンセント、あっちは……」
「それどころじゃねえだろ」
ヴィンセントはしばらく無言で回廊を渡り、ドアを開けてぼくを押し込んだ。そこは使われていない客室のようで、家具が一式揃ったこぢんまりとした部屋だった。
「さっきのはなんだよ」
ヴィンセントはぼくの手首を握ったまま、ぼくを壁に押し付けた。
……すごく、怒ってる。
「そのままの意味だけど」
「アーシェンはオレと会えなくてもいいのか」
ヴィンセントと会えなくなる。
そう、だよね。
改めて、国王と大変な約束をしてしまったことを実感する。
さっきはヴィンセントが罰せられてしまうんじゃないかと心配で、とにかく嫌疑を晴らすことで頭がいっぱいだったんだ。
それに、あの国王に信用してもらえなかったら、どちらにしても、ぼくたちは会わせてもらえなかったはずだ。
「永遠に会えないわけじゃない。ぼくとヴィンセントが揃っていても問題ないと、みんなに認めてもらえるようになればいい」
「それはいつの話だよ。あのタヌキたちが納得すると思うのか?」
ヴィンセントはぼくを強く抱きしめた。
「アーシェンもオレと同じ気持ちなのかと思ってた。離れたくない。愛してるんだ」
ヴィンセントが、ぼくを、愛してる……?
理解するのに時間がかかった。
カチリと脳内の電子信号が噛み合うと、そこから身体の反応は早かった。一気に体温が上昇して、信じられないほど鼓動が高鳴る。
嬉しい……!
ぼくはヴィンセントの背中に回している腕に力を込めた。
胸の中のモヤモヤが消えて行った。
そうだ。ぼくは、ヴィンセントのことを愛しているんだ。
はっきりと自覚した。むしろ、いままで気づけなかったことが不思議なくらいだ。
だけど。
今は、だめだ。
ぼくはそっとヴィンセントの胸に両手をついて、首を横に振った。
「アーシェンは、違うのか?」
ヴィンセントが不安げな表情でぼくの顔を覗き込んでくる。
ぼくもだよ。
そう答えたいけれど。
口に出してしまえば、ぼくはこの優しい手を離したくなくなってしまう。
ヴィンセントも、なんとしてでもぼくといようとしてくれるだろう。
でも、それじゃあダメだ。
ぼくたちのことをきっかけに、争いが起きてしまうかもしれない。
作りたかった世界とは、正反対の結果だ。
誰も幸せになれない。
ぼくはきつく口を結んで、ただ首を横に振った。
口を開けば、「好きだよ」って言ってしまいそうだから。
「オレの肩書が邪魔をしているのか」
ヴィンセントは自分の襟元を掴んで、胸をはだけさせた。ボタンがはじけ飛ぶ。
あらわになった左胸には、紋章が浮かんでいる。
「だったら、こんなもの、いらない」
ヴィンセントは剣を抜き、胸を刺そうとする。
「やめて!」
ぼくは紋章を庇うようにヴィンセントに抱きついた。
「ヴィンセントにしかできないことがあるでしょ。自棄にならないで。こんなことしてたら、それこそあの貴族たちの思う壺だよ!」
「アーシェン……」
ヴィンセントは力なく剣を壁に立てかけた。
ぼくはそのままヴィンセントの身体に腕を回して、逞しい首筋に鼻先をこすりつける。
新緑のような、土っぽいような、海の香りもするような。ヴィンセントからは、そんな大自然の匂いがする。
ああ、ずっとこうしていたいな……。
ヴィンセントの大きな手が、ぼくの頭部をなでている。
顔をあげると、ヴィンセントもぼくを見つめていた。
精悍な顔は、痛みに耐えるように少しだけ歪んでいる。
大好きなヴィンセント。
「しばらく、さよならだね」
「すぐに迎えに行くから」
ぼくは頷いた。
名残惜しくて、少しだけヴィンセントを見つめてから、魔族領の自分の部屋に瞬間移動をした。
ソファに腰かけて、腕を抱き、顔をうずめた。
そこには、まだヴィンセントのぬくもりがあった。
「ぼくもヴィンセントに、愛してるって言いたかったな……」
それが心残りだった。
一人で口にしただけでも、胸がトクンと鳴った。
ヴィンセントが追いかけてくる。
「ヴィンセントはまだ国王たちと話があるでしょ、戻って」
ぼくは小声で話しかける。するとヴィンセントは歯ぎしりせんばかりの苛立った表情を隠しもせずにぼくの手首を掴むと、率先して出口に向かった。
「ちょっと、ヴィンセント、あっちは……」
「それどころじゃねえだろ」
ヴィンセントはしばらく無言で回廊を渡り、ドアを開けてぼくを押し込んだ。そこは使われていない客室のようで、家具が一式揃ったこぢんまりとした部屋だった。
「さっきのはなんだよ」
ヴィンセントはぼくの手首を握ったまま、ぼくを壁に押し付けた。
……すごく、怒ってる。
「そのままの意味だけど」
「アーシェンはオレと会えなくてもいいのか」
ヴィンセントと会えなくなる。
そう、だよね。
改めて、国王と大変な約束をしてしまったことを実感する。
さっきはヴィンセントが罰せられてしまうんじゃないかと心配で、とにかく嫌疑を晴らすことで頭がいっぱいだったんだ。
それに、あの国王に信用してもらえなかったら、どちらにしても、ぼくたちは会わせてもらえなかったはずだ。
「永遠に会えないわけじゃない。ぼくとヴィンセントが揃っていても問題ないと、みんなに認めてもらえるようになればいい」
「それはいつの話だよ。あのタヌキたちが納得すると思うのか?」
ヴィンセントはぼくを強く抱きしめた。
「アーシェンもオレと同じ気持ちなのかと思ってた。離れたくない。愛してるんだ」
ヴィンセントが、ぼくを、愛してる……?
理解するのに時間がかかった。
カチリと脳内の電子信号が噛み合うと、そこから身体の反応は早かった。一気に体温が上昇して、信じられないほど鼓動が高鳴る。
嬉しい……!
ぼくはヴィンセントの背中に回している腕に力を込めた。
胸の中のモヤモヤが消えて行った。
そうだ。ぼくは、ヴィンセントのことを愛しているんだ。
はっきりと自覚した。むしろ、いままで気づけなかったことが不思議なくらいだ。
だけど。
今は、だめだ。
ぼくはそっとヴィンセントの胸に両手をついて、首を横に振った。
「アーシェンは、違うのか?」
ヴィンセントが不安げな表情でぼくの顔を覗き込んでくる。
ぼくもだよ。
そう答えたいけれど。
口に出してしまえば、ぼくはこの優しい手を離したくなくなってしまう。
ヴィンセントも、なんとしてでもぼくといようとしてくれるだろう。
でも、それじゃあダメだ。
ぼくたちのことをきっかけに、争いが起きてしまうかもしれない。
作りたかった世界とは、正反対の結果だ。
誰も幸せになれない。
ぼくはきつく口を結んで、ただ首を横に振った。
口を開けば、「好きだよ」って言ってしまいそうだから。
「オレの肩書が邪魔をしているのか」
ヴィンセントは自分の襟元を掴んで、胸をはだけさせた。ボタンがはじけ飛ぶ。
あらわになった左胸には、紋章が浮かんでいる。
「だったら、こんなもの、いらない」
ヴィンセントは剣を抜き、胸を刺そうとする。
「やめて!」
ぼくは紋章を庇うようにヴィンセントに抱きついた。
「ヴィンセントにしかできないことがあるでしょ。自棄にならないで。こんなことしてたら、それこそあの貴族たちの思う壺だよ!」
「アーシェン……」
ヴィンセントは力なく剣を壁に立てかけた。
ぼくはそのままヴィンセントの身体に腕を回して、逞しい首筋に鼻先をこすりつける。
新緑のような、土っぽいような、海の香りもするような。ヴィンセントからは、そんな大自然の匂いがする。
ああ、ずっとこうしていたいな……。
ヴィンセントの大きな手が、ぼくの頭部をなでている。
顔をあげると、ヴィンセントもぼくを見つめていた。
精悍な顔は、痛みに耐えるように少しだけ歪んでいる。
大好きなヴィンセント。
「しばらく、さよならだね」
「すぐに迎えに行くから」
ぼくは頷いた。
名残惜しくて、少しだけヴィンセントを見つめてから、魔族領の自分の部屋に瞬間移動をした。
ソファに腰かけて、腕を抱き、顔をうずめた。
そこには、まだヴィンセントのぬくもりがあった。
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