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三章 愛しい人との別れ
愛しい人との別れ 17
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「世界を乗っ取る? オレが?」
あまりに驚いたからだろう、ヴィンセントが普段の口調に戻った。
ぼくも驚いた。
「隠しているつもりだったのだろうが、我々は知っているのだぞ。魔王城に泊まり込んでいることも、魔王と懇意にしていることもな。貴様が世界で唯一、魔王に対抗しうる勇者の血筋であることは周知の事実だ。人の口に戸は立てられん。その勇者が魔王と手を組めば、世界を席巻するのも夢ではないだろう」
ヴィンセントは慌てて立ち上がった。
「待て、なにを言っているんだ。特区は人と魔族の共存の場だ。オレが人の代表として、魔族の王と会うのは当たり前じゃないか」
「なぜ勇者が人の代表であらねばならん」
「オレのほかに、誰もやりたがらなかったじゃねえか」
「勇者と魔王が手を組んで世界征服を企んでいる。この城にいて、その噂を一度も聞かずにいる者はおるまいよ」
ヴィンセントは愕然としている。
噂を広めた犯人捜しをしても意味はない。タルボット侯爵の話が本当なら、ヴィンセントの立場は危ういものになる。
勇者の皮をかぶった裏切者、人に仇をなす反逆者。
ヴィンセントに力があるからこそ、寝返る危険があるのなら、その芽を早くに摘みたいはずだ。
「陛下……」
ヴィンセントは玉座にいる国王を見上げた。
国王は特区の百パーセントの出資者であり、理解者であるはずだ。
しかし、国王は無表情で固く唇を閉ざしている。
その鋭い視線はヴィンセントではなく……。
――ずっと、ぼくを見ていた。
国王はなぜ、ぼくをこの場に呼んだのか。
きっと、この話を聞かせたかったからだ。
ブルーシア国王は公正な判断をする聡明な王だ。国民の幸福や国益を重視する。
魔族との争いがなくなるのは国益になるとして、特区の推進に協力してくれた。
だけど、こうして内紛が起こることも、生きる国宝ともいえるヴィンセントを失うことも、国王は是としないだろう。
国王はぼくの言動を見ている。
ぼくは試されている。
信用たる人物かを。
「陛下、発言をお許しいただけますか」
「許す」
許諾を得たぼくは、平伏したまま顔をあげた。王の炯眼がぼくを貫く。厳格に満ちたその相貌は、しわの一つ一つからも知性が感じられた。
ぼくはすぐ傍に立つヴィンセントに視線を向けた。
「ヴィンセントさまはしばらく、魔族の王とお会いにならないほうがいいでしょう」
「なにを言っているんだ、アーシェン」
ヴィンセントが強張った表情をぼくに向けた。
「こうして逆心の嫌疑をかけられているのだから当然です。あなたの失敗は、この国で地盤を築いていなかったことです。だから痛くもない腹を探られ、偽りの噂を流されてしまった」
ぼくはあえて失敗という言葉を使ったけれど、地盤がないのはヴィンセントのせいではない。
国はヴィンセントを勇者だと祭り上げたくせに、それに箝口令を敷いていた。それはヴィンセントを守るための措置であったかもしれないが、事情を知る者が少なすぎて、基礎など作りようがないだろう。
「あなたが今すべきことは、この国で信頼を積み、力をつけることです。特区については、代表のレザードに任せるといいでしょう。魔族の王への連絡事項も、レザード経由でこと足ります」
「なぜだ。直接話した方が早い」
「何度言わせるのですか」
ぼくは立ち上がった。
「あなたと魔族の王が直接会うこと自体が、人に不信感を与えるのです。特区は平和の象徴であるべきで、争いの火種になっては本末転倒。ご自重ください」
「だが……」
ぼくは首を振ってヴィンセントをとめた。それから国王に顔を向ける。
「陛下、ヴィンセントさまをお願いします」
「ヴィンセントはこの国になくてはならない存在だ」
そう聞いて、ぼくは安心して頷いた。国王の表情も先ほどよりも緩んでいる。ぼくの対応は及第点だったらしい。
「ヴィンセントさまを魔族領に入れないよう、わたしから魔族たちに徹底させますので、ご安心ください。失礼します」
ぼくは一礼すると、踵を返して出口に向かった。ぼくの役目は終わったはずだ。
「待て、アーシェン」
ヴィンセントが追いかけてくる。
あまりに驚いたからだろう、ヴィンセントが普段の口調に戻った。
ぼくも驚いた。
「隠しているつもりだったのだろうが、我々は知っているのだぞ。魔王城に泊まり込んでいることも、魔王と懇意にしていることもな。貴様が世界で唯一、魔王に対抗しうる勇者の血筋であることは周知の事実だ。人の口に戸は立てられん。その勇者が魔王と手を組めば、世界を席巻するのも夢ではないだろう」
ヴィンセントは慌てて立ち上がった。
「待て、なにを言っているんだ。特区は人と魔族の共存の場だ。オレが人の代表として、魔族の王と会うのは当たり前じゃないか」
「なぜ勇者が人の代表であらねばならん」
「オレのほかに、誰もやりたがらなかったじゃねえか」
「勇者と魔王が手を組んで世界征服を企んでいる。この城にいて、その噂を一度も聞かずにいる者はおるまいよ」
ヴィンセントは愕然としている。
噂を広めた犯人捜しをしても意味はない。タルボット侯爵の話が本当なら、ヴィンセントの立場は危ういものになる。
勇者の皮をかぶった裏切者、人に仇をなす反逆者。
ヴィンセントに力があるからこそ、寝返る危険があるのなら、その芽を早くに摘みたいはずだ。
「陛下……」
ヴィンセントは玉座にいる国王を見上げた。
国王は特区の百パーセントの出資者であり、理解者であるはずだ。
しかし、国王は無表情で固く唇を閉ざしている。
その鋭い視線はヴィンセントではなく……。
――ずっと、ぼくを見ていた。
国王はなぜ、ぼくをこの場に呼んだのか。
きっと、この話を聞かせたかったからだ。
ブルーシア国王は公正な判断をする聡明な王だ。国民の幸福や国益を重視する。
魔族との争いがなくなるのは国益になるとして、特区の推進に協力してくれた。
だけど、こうして内紛が起こることも、生きる国宝ともいえるヴィンセントを失うことも、国王は是としないだろう。
国王はぼくの言動を見ている。
ぼくは試されている。
信用たる人物かを。
「陛下、発言をお許しいただけますか」
「許す」
許諾を得たぼくは、平伏したまま顔をあげた。王の炯眼がぼくを貫く。厳格に満ちたその相貌は、しわの一つ一つからも知性が感じられた。
ぼくはすぐ傍に立つヴィンセントに視線を向けた。
「ヴィンセントさまはしばらく、魔族の王とお会いにならないほうがいいでしょう」
「なにを言っているんだ、アーシェン」
ヴィンセントが強張った表情をぼくに向けた。
「こうして逆心の嫌疑をかけられているのだから当然です。あなたの失敗は、この国で地盤を築いていなかったことです。だから痛くもない腹を探られ、偽りの噂を流されてしまった」
ぼくはあえて失敗という言葉を使ったけれど、地盤がないのはヴィンセントのせいではない。
国はヴィンセントを勇者だと祭り上げたくせに、それに箝口令を敷いていた。それはヴィンセントを守るための措置であったかもしれないが、事情を知る者が少なすぎて、基礎など作りようがないだろう。
「あなたが今すべきことは、この国で信頼を積み、力をつけることです。特区については、代表のレザードに任せるといいでしょう。魔族の王への連絡事項も、レザード経由でこと足ります」
「なぜだ。直接話した方が早い」
「何度言わせるのですか」
ぼくは立ち上がった。
「あなたと魔族の王が直接会うこと自体が、人に不信感を与えるのです。特区は平和の象徴であるべきで、争いの火種になっては本末転倒。ご自重ください」
「だが……」
ぼくは首を振ってヴィンセントをとめた。それから国王に顔を向ける。
「陛下、ヴィンセントさまをお願いします」
「ヴィンセントはこの国になくてはならない存在だ」
そう聞いて、ぼくは安心して頷いた。国王の表情も先ほどよりも緩んでいる。ぼくの対応は及第点だったらしい。
「ヴィンセントさまを魔族領に入れないよう、わたしから魔族たちに徹底させますので、ご安心ください。失礼します」
ぼくは一礼すると、踵を返して出口に向かった。ぼくの役目は終わったはずだ。
「待て、アーシェン」
ヴィンセントが追いかけてくる。
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