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序章 謎の紳士の正体は……
序章2
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ドアスコープで外を見ると、一人のスーツ姿の男性が立っていた。背が高いせいかドア近くに立っているからなのか、顔までは見えない。
「はい、どなたですか?」
毬瑠子はチェーンをしたまま数センチドアを開けた。ドアの隙間から相手の顔の位置まで視線を上げていくと……。
男性を見て、毬瑠子は絶句した。
なに、この金髪イケメン。
二十代後半だろうか、英国紳士のようなスーツを着て、長めの前髪はサイドに流しながらも、その金髪はホテルマンのように清潔に整えられている。背は見上げるほど高く、百八十センチ半ばくらいあるだろう。彫の深いその顔は間違いなく日本人ではなく、ハリウッドスターが間違えて訪問してきたのかと思うくらいだ。
こんなに印象的な人と一度でも会っていれば忘れるわけがない。訪問先を間違えているのだろう。
「あの、部屋が違いますよ。えっと、ユーメイクアミステイク。通じてるかな」
毬瑠子は小首をかしげた。英語には全く自信がない。
困っていると、男性はにっこりと微笑んだ。
「いいえ、間違いではありませんよ、毬瑠子」
相手は流暢に日本語を話した。毬瑠子は驚く。
「どうして私の名前を知ってるの?」
表札は出していない。ファーストネームで呼ばれたということは、知り合いだろうか。
「はじめまして、わたしはマルセルと申します。突然すみません」
やっぱり「はじめまして」なんだ。
ならば、なんの用なのだろう。
「毬瑠子に大切な話があります。長くなりますので、中に入れていただけませんか?」
名前を名乗ったとはいえ、この男が何者なのかさっぱりわからない。新手の訪問販売だろうか。
イケメンだったら強引でも許されると思うなよ。
毬瑠子は半眼になって黙ってドアを閉めようとすると、それを察したらしいマルセルは慌てたようにドアの隙間に手を入れてきた。
「すみません、性急すぎました。あなたの目が赤くなった理由を早く伝えなければいけないと思いまして」
「あっ」
とっさに毬瑠子は片目を押さえた。
「私の目が赤くなった理由を知っているの?」
毬瑠子が疑わし気に尋ねる。この赤い目は目立つ。毬瑠子が気を引く話題をアドリブで作ったのではないか。
「ええ、歯のことも」
やはり思わず口元に手を添えながら、この人は本当に事情を知っているのでは、と思い始めた。目の色は会えばすぐにわかるだろうが、牙は見えなかったはずだ。
「毬瑠子とわたしは同じですから」
毬瑠子は目を見開いた。
目の前でマルセルの青い瞳が赤く変化していく。白い歯を見せて笑うと、そこには牙もあった。さっきまではなかったはずだ。
「あなたは、一体……?」
マルセルは笑みを深める。
「早く打ち明けたいのですが、これ以上話すと毬瑠子がパニックになってしまいそうですね。落ち着いたらここに来てください。わたしはこの店のマスターをしています。店は夜七時からですが、何時に来ていただいても結構です。お待ちしていますよ」
ドアの隙間から差し出された名刺サイズの紙を毬瑠子は受け取った。それはショップカードで、店の情報が書いてある。
「バー、サング? 歌えるバー?」
カードに『BAR SANG』と書いてあった。
「英語ではなく、フランス語です」
マルセルは微笑んだ。
「あなたのこれからの人生において、とても重要なことです。必ず来てくださいね」
そんな気になる発言をして、マルセルは去っていった。
毬瑠子の手にはショップカードだけが残る。
店の場所はそう遠くはない。電車で二駅くらいなので、自転車でも無理なく行ける範囲だ。
初対面の男性がいなくなったことで、無意識に強張らせていた身体から力が抜けた。心臓がドキドキとしている。
「私の人生において、重要なこと……」
自分と同じ、赤い目と牙。
否が応でも想像してしまう。
マルセルさんって、もしかして、私のお父さん?
毬瑠子は父の顔を知らない。写真も残っていなかった。
毬瑠子はベッドに腰を下ろして、頭を強く振った。胸まである紅茶色の髪が揺れる。
まさか、年齢が合わない。彼はどうみても二十代。毬瑠子はあと一か月で二十歳になるのだ。
しかし、父親の関係者かもしれない。
もう少し詳しい話を聞いておけばよかったと毬瑠子は後悔した。
「でも急だったし、不審者かもしれなかったし、やけに格好良かったし」
そうつぶやいていると、窓が視界に入った。
「あっ、また来てる!」
毬瑠子は再びベッドにあるぬいぐるみを掴んで、さっきよりも力を抜いて窓に投げつけた。コウモリが飛び立っていく。
「コウモリ避けって売ってるのかな」
毬瑠子はため息をついた。
「はい、どなたですか?」
毬瑠子はチェーンをしたまま数センチドアを開けた。ドアの隙間から相手の顔の位置まで視線を上げていくと……。
男性を見て、毬瑠子は絶句した。
なに、この金髪イケメン。
二十代後半だろうか、英国紳士のようなスーツを着て、長めの前髪はサイドに流しながらも、その金髪はホテルマンのように清潔に整えられている。背は見上げるほど高く、百八十センチ半ばくらいあるだろう。彫の深いその顔は間違いなく日本人ではなく、ハリウッドスターが間違えて訪問してきたのかと思うくらいだ。
こんなに印象的な人と一度でも会っていれば忘れるわけがない。訪問先を間違えているのだろう。
「あの、部屋が違いますよ。えっと、ユーメイクアミステイク。通じてるかな」
毬瑠子は小首をかしげた。英語には全く自信がない。
困っていると、男性はにっこりと微笑んだ。
「いいえ、間違いではありませんよ、毬瑠子」
相手は流暢に日本語を話した。毬瑠子は驚く。
「どうして私の名前を知ってるの?」
表札は出していない。ファーストネームで呼ばれたということは、知り合いだろうか。
「はじめまして、わたしはマルセルと申します。突然すみません」
やっぱり「はじめまして」なんだ。
ならば、なんの用なのだろう。
「毬瑠子に大切な話があります。長くなりますので、中に入れていただけませんか?」
名前を名乗ったとはいえ、この男が何者なのかさっぱりわからない。新手の訪問販売だろうか。
イケメンだったら強引でも許されると思うなよ。
毬瑠子は半眼になって黙ってドアを閉めようとすると、それを察したらしいマルセルは慌てたようにドアの隙間に手を入れてきた。
「すみません、性急すぎました。あなたの目が赤くなった理由を早く伝えなければいけないと思いまして」
「あっ」
とっさに毬瑠子は片目を押さえた。
「私の目が赤くなった理由を知っているの?」
毬瑠子が疑わし気に尋ねる。この赤い目は目立つ。毬瑠子が気を引く話題をアドリブで作ったのではないか。
「ええ、歯のことも」
やはり思わず口元に手を添えながら、この人は本当に事情を知っているのでは、と思い始めた。目の色は会えばすぐにわかるだろうが、牙は見えなかったはずだ。
「毬瑠子とわたしは同じですから」
毬瑠子は目を見開いた。
目の前でマルセルの青い瞳が赤く変化していく。白い歯を見せて笑うと、そこには牙もあった。さっきまではなかったはずだ。
「あなたは、一体……?」
マルセルは笑みを深める。
「早く打ち明けたいのですが、これ以上話すと毬瑠子がパニックになってしまいそうですね。落ち着いたらここに来てください。わたしはこの店のマスターをしています。店は夜七時からですが、何時に来ていただいても結構です。お待ちしていますよ」
ドアの隙間から差し出された名刺サイズの紙を毬瑠子は受け取った。それはショップカードで、店の情報が書いてある。
「バー、サング? 歌えるバー?」
カードに『BAR SANG』と書いてあった。
「英語ではなく、フランス語です」
マルセルは微笑んだ。
「あなたのこれからの人生において、とても重要なことです。必ず来てくださいね」
そんな気になる発言をして、マルセルは去っていった。
毬瑠子の手にはショップカードだけが残る。
店の場所はそう遠くはない。電車で二駅くらいなので、自転車でも無理なく行ける範囲だ。
初対面の男性がいなくなったことで、無意識に強張らせていた身体から力が抜けた。心臓がドキドキとしている。
「私の人生において、重要なこと……」
自分と同じ、赤い目と牙。
否が応でも想像してしまう。
マルセルさんって、もしかして、私のお父さん?
毬瑠子は父の顔を知らない。写真も残っていなかった。
毬瑠子はベッドに腰を下ろして、頭を強く振った。胸まである紅茶色の髪が揺れる。
まさか、年齢が合わない。彼はどうみても二十代。毬瑠子はあと一か月で二十歳になるのだ。
しかし、父親の関係者かもしれない。
もう少し詳しい話を聞いておけばよかったと毬瑠子は後悔した。
「でも急だったし、不審者かもしれなかったし、やけに格好良かったし」
そうつぶやいていると、窓が視界に入った。
「あっ、また来てる!」
毬瑠子は再びベッドにあるぬいぐるみを掴んで、さっきよりも力を抜いて窓に投げつけた。コウモリが飛び立っていく。
「コウモリ避けって売ってるのかな」
毬瑠子はため息をついた。
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