癒しのあやかしBAR~あなたのお悩み解決します~

じゅん

文字の大きさ
4 / 44
序章 謎の紳士の正体は……

序章4

しおりを挟む
「毬瑠子はカクテル言葉をご存じですか?」
「カクテル言葉?」
 マルセルはにっこりと微笑む。
「花言葉は有名ですね。赤いバラは愛や情熱の意味がある。お酒にも同じようにメッセージが込められています」
「じゃあ、このキールに意味があるってことですか?」
 マルセルは「正解です」と言わんばかりの表情で毬瑠子をみつめる。
「最高の出会い、という意味です」
 マルセルはどこか懐かしむように目を細めた。
「わたしは、どうしてもあなたとキールが飲みたかった。ここに毬瑠子といられて幸せです」
 本当に幸せそうにマルセルが微笑むので、毬瑠子は頬を桃色に染めながら、どうしていいのかわからなくなった。
 なぜこの人は、私の父親だなんて言うんだろう。
 改めて興味を引かれる。
「誕生日カクテルもありますよ。誕生花や誕生石があるのと同じです」
「私の誕生日は来月です」
 マルセルはうなずいた。
「十月全般の誕生日カクテルはホワイトレディーです。エレガントなカクテルの代名詞ともいえるショートカクテルで、カクテル言葉は“純心”です」
 そう聞いた毬瑠子は頬を染める。自分のことを純真だと言われたようで、なんだか面映ゆくなったのだ。
「そして十月十日はチョコレートギムレット。基本のギムレットに、ビターチョコレートの香りや味わいがある、チョコレートリキュールを入れた遊び心のあるカクテルです。カクテル言葉は、“人を助け思いやるピュアな心の持ち主”になります。あなたの誕生日に、初めてアルコールを飲みかわすのはわたしでありたいものです。チョコレートギムレットで乾杯しましょう」
 毬瑠子は驚き、マルセルのほとんどの言葉は耳を素通りしていった。
「どうして、私の誕生日を知っているの?」
 思えば、初めから毬瑠子の名前も知っていた。もう種明かしをしてほしい。
「わたしはあなたの父親ですから」
「それはさっき聞きました。じゃあ私はあなたの十歳ころの子供ですか? それとも養子的な話ですか?」
 マルセルは首を横に振る。
「私は人ではありません、吸血鬼です。年を取ることがないのです」
「吸血鬼、って……」
 あまりの内容に、毬瑠子はただマルセルの言葉をただ繰り返すしかなかった。まさか「私は吸血鬼です」なんて告白を、ドラマや映画以外で聞くことがあろうとは。
 しかしマルセルは冗談を言っている様子ではなかった。いたって真剣な表情だ。
「心当たりがあるのではないですか?」
 毬瑠子ははっとする。両手で頭を押さえた。
 今日起こったこと以外にも、些細な違和感はあった。
 傷の治りが早いこと。髪の色が染まらないこと。友達には見えないものの気配を感じること。
 それらのことは「そういう体質なのだろう」と受け入れてきた。
「私は、吸血鬼だったの?」
 だから牙が生えるなどしたのだろうか。
「正確には半妖です。理子は……、あなたの母親は人間ですから。人と吸血鬼のハーフです」
 母が人間だと言われてホッとする。しかし自分の血の半分は吸血鬼なのだ。
 吸血鬼。
 血を栄養源とするという、あまりにも有名な化け物。
「お母さんは、あなたのこと……」
「はい、吸血鬼だと知っていました。それで理子に嫌われてしまって、あなたに会わせてもらえなかったんです」
 マルセルは顔を伏せる。確かに、毬瑠子は「父親は死んだ」と母に聞かされていた。
「でも、お母さんが死んだのは二年も前です。どうして今さら私の前に現れたの?」
 戸惑いながら、カウンターを挟んで向かいにいるマルセルを見上げた。まだ情報が歯抜けで心の整理もできていないが、自分に会いたいというのなら、母が他界してすぐに現れるものではないか。
「あなたに吸血鬼になる兆候が表れたからです」
 毬瑠子は、あっ、と声を漏らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...