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序章 謎の紳士の正体は……
序章4
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「毬瑠子はカクテル言葉をご存じですか?」
「カクテル言葉?」
マルセルはにっこりと微笑む。
「花言葉は有名ですね。赤いバラは愛や情熱の意味がある。お酒にも同じようにメッセージが込められています」
「じゃあ、このキールに意味があるってことですか?」
マルセルは「正解です」と言わんばかりの表情で毬瑠子をみつめる。
「最高の出会い、という意味です」
マルセルはどこか懐かしむように目を細めた。
「わたしは、どうしてもあなたとキールが飲みたかった。ここに毬瑠子といられて幸せです」
本当に幸せそうにマルセルが微笑むので、毬瑠子は頬を桃色に染めながら、どうしていいのかわからなくなった。
なぜこの人は、私の父親だなんて言うんだろう。
改めて興味を引かれる。
「誕生日カクテルもありますよ。誕生花や誕生石があるのと同じです」
「私の誕生日は来月です」
マルセルはうなずいた。
「十月全般の誕生日カクテルはホワイトレディーです。エレガントなカクテルの代名詞ともいえるショートカクテルで、カクテル言葉は“純心”です」
そう聞いた毬瑠子は頬を染める。自分のことを純真だと言われたようで、なんだか面映ゆくなったのだ。
「そして十月十日はチョコレートギムレット。基本のギムレットに、ビターチョコレートの香りや味わいがある、チョコレートリキュールを入れた遊び心のあるカクテルです。カクテル言葉は、“人を助け思いやるピュアな心の持ち主”になります。あなたの誕生日に、初めてアルコールを飲みかわすのはわたしでありたいものです。チョコレートギムレットで乾杯しましょう」
毬瑠子は驚き、マルセルのほとんどの言葉は耳を素通りしていった。
「どうして、私の誕生日を知っているの?」
思えば、初めから毬瑠子の名前も知っていた。もう種明かしをしてほしい。
「わたしはあなたの父親ですから」
「それはさっき聞きました。じゃあ私はあなたの十歳ころの子供ですか? それとも養子的な話ですか?」
マルセルは首を横に振る。
「私は人ではありません、吸血鬼です。年を取ることがないのです」
「吸血鬼、って……」
あまりの内容に、毬瑠子はただマルセルの言葉をただ繰り返すしかなかった。まさか「私は吸血鬼です」なんて告白を、ドラマや映画以外で聞くことがあろうとは。
しかしマルセルは冗談を言っている様子ではなかった。いたって真剣な表情だ。
「心当たりがあるのではないですか?」
毬瑠子ははっとする。両手で頭を押さえた。
今日起こったこと以外にも、些細な違和感はあった。
傷の治りが早いこと。髪の色が染まらないこと。友達には見えないものの気配を感じること。
それらのことは「そういう体質なのだろう」と受け入れてきた。
「私は、吸血鬼だったの?」
だから牙が生えるなどしたのだろうか。
「正確には半妖です。理子は……、あなたの母親は人間ですから。人と吸血鬼のハーフです」
母が人間だと言われてホッとする。しかし自分の血の半分は吸血鬼なのだ。
吸血鬼。
血を栄養源とするという、あまりにも有名な化け物。
「お母さんは、あなたのこと……」
「はい、吸血鬼だと知っていました。それで理子に嫌われてしまって、あなたに会わせてもらえなかったんです」
マルセルは顔を伏せる。確かに、毬瑠子は「父親は死んだ」と母に聞かされていた。
「でも、お母さんが死んだのは二年も前です。どうして今さら私の前に現れたの?」
戸惑いながら、カウンターを挟んで向かいにいるマルセルを見上げた。まだ情報が歯抜けで心の整理もできていないが、自分に会いたいというのなら、母が他界してすぐに現れるものではないか。
「あなたに吸血鬼になる兆候が表れたからです」
毬瑠子は、あっ、と声を漏らした。
「カクテル言葉?」
マルセルはにっこりと微笑む。
「花言葉は有名ですね。赤いバラは愛や情熱の意味がある。お酒にも同じようにメッセージが込められています」
「じゃあ、このキールに意味があるってことですか?」
マルセルは「正解です」と言わんばかりの表情で毬瑠子をみつめる。
「最高の出会い、という意味です」
マルセルはどこか懐かしむように目を細めた。
「わたしは、どうしてもあなたとキールが飲みたかった。ここに毬瑠子といられて幸せです」
本当に幸せそうにマルセルが微笑むので、毬瑠子は頬を桃色に染めながら、どうしていいのかわからなくなった。
なぜこの人は、私の父親だなんて言うんだろう。
改めて興味を引かれる。
「誕生日カクテルもありますよ。誕生花や誕生石があるのと同じです」
「私の誕生日は来月です」
マルセルはうなずいた。
「十月全般の誕生日カクテルはホワイトレディーです。エレガントなカクテルの代名詞ともいえるショートカクテルで、カクテル言葉は“純心”です」
そう聞いた毬瑠子は頬を染める。自分のことを純真だと言われたようで、なんだか面映ゆくなったのだ。
「そして十月十日はチョコレートギムレット。基本のギムレットに、ビターチョコレートの香りや味わいがある、チョコレートリキュールを入れた遊び心のあるカクテルです。カクテル言葉は、“人を助け思いやるピュアな心の持ち主”になります。あなたの誕生日に、初めてアルコールを飲みかわすのはわたしでありたいものです。チョコレートギムレットで乾杯しましょう」
毬瑠子は驚き、マルセルのほとんどの言葉は耳を素通りしていった。
「どうして、私の誕生日を知っているの?」
思えば、初めから毬瑠子の名前も知っていた。もう種明かしをしてほしい。
「わたしはあなたの父親ですから」
「それはさっき聞きました。じゃあ私はあなたの十歳ころの子供ですか? それとも養子的な話ですか?」
マルセルは首を横に振る。
「私は人ではありません、吸血鬼です。年を取ることがないのです」
「吸血鬼、って……」
あまりの内容に、毬瑠子はただマルセルの言葉をただ繰り返すしかなかった。まさか「私は吸血鬼です」なんて告白を、ドラマや映画以外で聞くことがあろうとは。
しかしマルセルは冗談を言っている様子ではなかった。いたって真剣な表情だ。
「心当たりがあるのではないですか?」
毬瑠子ははっとする。両手で頭を押さえた。
今日起こったこと以外にも、些細な違和感はあった。
傷の治りが早いこと。髪の色が染まらないこと。友達には見えないものの気配を感じること。
それらのことは「そういう体質なのだろう」と受け入れてきた。
「私は、吸血鬼だったの?」
だから牙が生えるなどしたのだろうか。
「正確には半妖です。理子は……、あなたの母親は人間ですから。人と吸血鬼のハーフです」
母が人間だと言われてホッとする。しかし自分の血の半分は吸血鬼なのだ。
吸血鬼。
血を栄養源とするという、あまりにも有名な化け物。
「お母さんは、あなたのこと……」
「はい、吸血鬼だと知っていました。それで理子に嫌われてしまって、あなたに会わせてもらえなかったんです」
マルセルは顔を伏せる。確かに、毬瑠子は「父親は死んだ」と母に聞かされていた。
「でも、お母さんが死んだのは二年も前です。どうして今さら私の前に現れたの?」
戸惑いながら、カウンターを挟んで向かいにいるマルセルを見上げた。まだ情報が歯抜けで心の整理もできていないが、自分に会いたいというのなら、母が他界してすぐに現れるものではないか。
「あなたに吸血鬼になる兆候が表れたからです」
毬瑠子は、あっ、と声を漏らした。
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