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四章 雨降り小僧と狐の嫁入り
四章 6
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しとしとと雨の降る公園に、黄色っぽい人影があった。白銀とお揃いのレインコートを着ているこの少年が翔太だろう。
彼はなにをするでもなく、鉄棒に座って長靴をはいた足をプラプラとさせていた。
「翔太くん」
毬瑠子が声をかけると、翔太は驚いたように毬瑠子を見た。翔太の顔はマルセルよりも少し高い位置にある。
「どうしてオレの名前を知ってるんだ」
「白銀に聞いたからです」
マルセルが翔太に答えた。
「白銀に会ったのか」
翔太は大きく瞳を開いた。
「あいつ、元気にしてるか」
翔太は鉄棒から飛び降りて、飛びかからんばかりにマルセルの上着を掴んだ。
「いいえ、あなたに嫌いだと言われて、ずっと泣いています」
「……そっか、やっぱりな。あれからずっと雨が続くから、この雨は白銀の涙なのかなって思ってたんだ。悪いことしたなあ」
マルセルから手を放して、翔太は上がり気味の目を伏せた。
「どうしてそんなことを言ったの?」
毬瑠子が尋ねた。そんなに白銀を心配しているようなのに。
「あのときのオレは、自分のことしか考えてなかったんだ」
翔太は、白銀は一生の友達だと思っていた。
相手があやかしだということは関係なかった。
だから夕食時に、その考えを母親に話したのだ。
母親には昔、妖怪の友達がいたと言っていた。いわば経験者、妖怪の友達を作った先輩なのだ。
ところが翔太の母親は、
「そんなの無理よ」
とあっさりと否定した。
「どうしてだよ」
翔太はむっとした。母親とはいえ、白銀との友情を否定するのは許しがたい。
「あんたたちが仲良しなのは聞いていればわかるわよ。でも気持ちは関係ないの、妖怪は子供にしか見えないのよ。あんたも大人になったら、白銀くんが見えなくなるの」
翔太はその言葉を受け入れられなかった。
「そんなの、うそだ」
「うそじゃないわよ。ママだって見えなくなったもの。あれはいくつだったかなあ、中学校に通い始めたころには、もう見えなくなってたな」
母親は天井辺りを見ながら、懐かしむように目を細めた。
「大好きな、大切な友達だった。親きょうだい、学校の友達含めて気持ち悪がられたけどさ。あの子さえいればいいと思ってた。ママもあんたみたいに妖怪の友達に入れ込んでたからさあ、いなくなったときはショックで泣いたなあ。嫌われたから、どっかに行っちゃったんだって」
母親はグラスに入れたビールを一口飲んだ。
「それで調べたら、妖怪は一部の子供にしか見えないって書いてあったの。だからあの子がママを嫌っていなくなったんじゃないってわかって、少しほっとしたけどね。でも今度は申し訳ない気にもなったよね。もしかしたらあの子、ママの近くにいて、話しかけてくれていたのかもしれない。だけどママには、もうその子の声を聞くことも、姿を見ることもできないんだから」
だから悔いが残らないよう、会える間の時間を大切にしなさいね、と母親は言う。
翔太は白銀が見えなくなるという衝撃で、目の前が真っ暗になっていた。
「この際だから言っておくけど、ママはちょっと、あんたを心配していたの」
「心配?」
「そう。言おうか迷ってたんだけどさ、ちょうどいい機会だわ」
母親は肉じゃがのニンジンを口の中に放り込み、箸が止まってるよ、と翔太を注意した。しかし翔太の食欲は失せていた。
「ママは長いこと、その子とだけ遊んでたの。妖怪ってみんなには見えないでしょ。だからママは一人でしゃべったり笑ったりしている変人って扱いをされたんだ。学校ではのけ者だったんだけど、学校が終わればあの子と遊べるからいいやって思っていたのね。だけどほら、いきなりあの子がいなくなるわけじゃない。あのあとママ、友達作るのに苦労したのよ」
母親は苦笑した。
「ホント、親子よね。あんたもママと同じ状態になりかかってるんだから。あんたの場合は、妖怪と外で派手に遊ぶのは雨の日だから、そんなにご近所さんに見られてないと思うけど。でもこのままじゃ、ママと同じように妖怪以外に友達がいなくなっちゃうかもなあって心配してた。あんたがいじめられても困るし」
「いじめ……」
翔太は眉をひそめた。クラスで人気者の翔太には縁のなかった言葉だ。
しかし、最近はどうだろう。
クラスメイトとの関係をないがしろにしていたので、友達が減っていた。それに白銀と遊んでいるところを見られていたのだろう、仲のいい友達もよそよそしい気がする。
「あんたなら大丈夫だと思うけどさ。学校の友達も大事にして、妖怪とはひっそりと遊んだ方がいいかもね。あとあんた、聞きかじった言葉使うのやめなさいね、子供らしくないし、結構間違えてるから」
母はだんだん関係のない説教になってきた。
「……わかった。ごちそうさま」
翔太は立ち上がった。
「ちょっと、全然食べてないじゃない」
「もうお腹いっぱい」
翔太は二階の自室に戻り、ベッドに寝ころんだ。
彼はなにをするでもなく、鉄棒に座って長靴をはいた足をプラプラとさせていた。
「翔太くん」
毬瑠子が声をかけると、翔太は驚いたように毬瑠子を見た。翔太の顔はマルセルよりも少し高い位置にある。
「どうしてオレの名前を知ってるんだ」
「白銀に聞いたからです」
マルセルが翔太に答えた。
「白銀に会ったのか」
翔太は大きく瞳を開いた。
「あいつ、元気にしてるか」
翔太は鉄棒から飛び降りて、飛びかからんばかりにマルセルの上着を掴んだ。
「いいえ、あなたに嫌いだと言われて、ずっと泣いています」
「……そっか、やっぱりな。あれからずっと雨が続くから、この雨は白銀の涙なのかなって思ってたんだ。悪いことしたなあ」
マルセルから手を放して、翔太は上がり気味の目を伏せた。
「どうしてそんなことを言ったの?」
毬瑠子が尋ねた。そんなに白銀を心配しているようなのに。
「あのときのオレは、自分のことしか考えてなかったんだ」
翔太は、白銀は一生の友達だと思っていた。
相手があやかしだということは関係なかった。
だから夕食時に、その考えを母親に話したのだ。
母親には昔、妖怪の友達がいたと言っていた。いわば経験者、妖怪の友達を作った先輩なのだ。
ところが翔太の母親は、
「そんなの無理よ」
とあっさりと否定した。
「どうしてだよ」
翔太はむっとした。母親とはいえ、白銀との友情を否定するのは許しがたい。
「あんたたちが仲良しなのは聞いていればわかるわよ。でも気持ちは関係ないの、妖怪は子供にしか見えないのよ。あんたも大人になったら、白銀くんが見えなくなるの」
翔太はその言葉を受け入れられなかった。
「そんなの、うそだ」
「うそじゃないわよ。ママだって見えなくなったもの。あれはいくつだったかなあ、中学校に通い始めたころには、もう見えなくなってたな」
母親は天井辺りを見ながら、懐かしむように目を細めた。
「大好きな、大切な友達だった。親きょうだい、学校の友達含めて気持ち悪がられたけどさ。あの子さえいればいいと思ってた。ママもあんたみたいに妖怪の友達に入れ込んでたからさあ、いなくなったときはショックで泣いたなあ。嫌われたから、どっかに行っちゃったんだって」
母親はグラスに入れたビールを一口飲んだ。
「それで調べたら、妖怪は一部の子供にしか見えないって書いてあったの。だからあの子がママを嫌っていなくなったんじゃないってわかって、少しほっとしたけどね。でも今度は申し訳ない気にもなったよね。もしかしたらあの子、ママの近くにいて、話しかけてくれていたのかもしれない。だけどママには、もうその子の声を聞くことも、姿を見ることもできないんだから」
だから悔いが残らないよう、会える間の時間を大切にしなさいね、と母親は言う。
翔太は白銀が見えなくなるという衝撃で、目の前が真っ暗になっていた。
「この際だから言っておくけど、ママはちょっと、あんたを心配していたの」
「心配?」
「そう。言おうか迷ってたんだけどさ、ちょうどいい機会だわ」
母親は肉じゃがのニンジンを口の中に放り込み、箸が止まってるよ、と翔太を注意した。しかし翔太の食欲は失せていた。
「ママは長いこと、その子とだけ遊んでたの。妖怪ってみんなには見えないでしょ。だからママは一人でしゃべったり笑ったりしている変人って扱いをされたんだ。学校ではのけ者だったんだけど、学校が終わればあの子と遊べるからいいやって思っていたのね。だけどほら、いきなりあの子がいなくなるわけじゃない。あのあとママ、友達作るのに苦労したのよ」
母親は苦笑した。
「ホント、親子よね。あんたもママと同じ状態になりかかってるんだから。あんたの場合は、妖怪と外で派手に遊ぶのは雨の日だから、そんなにご近所さんに見られてないと思うけど。でもこのままじゃ、ママと同じように妖怪以外に友達がいなくなっちゃうかもなあって心配してた。あんたがいじめられても困るし」
「いじめ……」
翔太は眉をひそめた。クラスで人気者の翔太には縁のなかった言葉だ。
しかし、最近はどうだろう。
クラスメイトとの関係をないがしろにしていたので、友達が減っていた。それに白銀と遊んでいるところを見られていたのだろう、仲のいい友達もよそよそしい気がする。
「あんたなら大丈夫だと思うけどさ。学校の友達も大事にして、妖怪とはひっそりと遊んだ方がいいかもね。あとあんた、聞きかじった言葉使うのやめなさいね、子供らしくないし、結構間違えてるから」
母はだんだん関係のない説教になってきた。
「……わかった。ごちそうさま」
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