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四章 雨降り小僧と狐の嫁入り
四章 7
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翔太は二階の自室に戻り、ベッドに寝ころんだ。
「白銀、いなくなっちゃうんだ」
あとどれくらいで見えなくなるのだろう。一年か、二年か。
するとムクムクと、いなくなる者に費やす時間は無駄なのではないかと思い始めた。
白銀といるのは楽しい。
だけど白銀と出会う前だって毎日が楽しかった。その生活に戻るだけだ。
今ならばまだ学校の友達との関係を修復できるだろう。公園で芝居の練習をしていたとでも言えばごまかせるに違いない。
それに実は、小学三年の末から中学受験のための塾に行く予定だった。
だけど塾に通い始めると白銀と遊ぶ時間が減ってしまうので、母親に断ったという経緯がある。そういえば、学校の成績も落ち始めている気がする。
どれもこれも、白銀と出会ったから起きたことだ。
一生残る友達なら、このままでもよかったかもしれない。
しかし、あと一、二年の関係だ。
それからは、二度と会えなくなる。
自分にはなにも残らない。
それに、これからも会っていたら、もっと白銀のことが好きになるかもしれない。
好きになるほど、別れはつらくなるはずだ。それが怖かった。
ならばすぐに白銀との関係を絶って、進路の修復をした方がいい。
翔太はそう考えた。
スケジュールを組んで、その範囲内で白銀と会う、なんてことはできる気がしなかった。
白銀に会えば、ずっと遊びたくなってしまう。
勉強も他の友達のことも忘れて。
だったら、白銀に嫌われたらいい。
向こうから近づいてこなければ、こっちは会いようがない。白銀がどこに住んでいるのか、翔太は知らないのだから。
怒らせる作戦でいこう。
翔太はそう考え、翌日に実行したのだった。
「だけど、あのあとすぐにオレは後悔した」
大嫌いだと言ったときの、白銀の悲しそうな表情が目に焼き付いて離れない。
「傷つけるつもりじゃなかったんだ」
怒ってオレを嫌いになればいい。翔太はそう思った。
あのときの翔太は冷静ではなかった。
白銀なら怒る前に悲しむに決まっていたのに、そんなこともわからなくなっていた。
「白銀と会わなくなってから、なにもする気が起きなくなった。なにをしてもつまらなかった。食べ物も美味しくないし、勉強をしても頭に入らない。学校の友達と遊んだけど、楽しいふりをするのが精いっぱいだった。なんでオレは笑ってるんだろう。どうしてオレの隣りにいるのは白銀じゃないんだろうって」
静かに語る翔太の濡れた頬に雫が流れた。それは雨か、涙か。
「やっぱり白銀といるときが一番楽しいんだ。あいつが大好きなんだ。いつか見えなくなるとしても、最後の一瞬まで一緒にいればよかった」
翔太は毬瑠子とマルセルを見上げた。
「白銀に、オレが謝ってたって伝えてよ。許してもらおうなんて虫のいいことは考えてないけどさ。少しはあいつの気が軽くなればいいなって」
「自分で伝えたらいかがですか」
マルセルの言葉に、翔太は力なく首を振る。
「合わす顔がねえよ。それに、もうこの街には来たくないだろう」
「そんなことないよ!」
少し離れた場所から高い声が届いた。滑り台の影から雨降り小僧が飛び出した。その後ろには青藍がいる。
毬瑠子は驚いたがマルセルは平然としている。マルセルの指示で、青藍が白銀をこの地に連れて来たのだろう。
「白銀、どうして……」
瞠目して固まっている翔太に、白銀は駆け寄った。
「翔太、会いたかった!」
飛びついてきた白銀を翔太は受け止めた。お揃いのレインコートが重なった。
「白銀、いなくなっちゃうんだ」
あとどれくらいで見えなくなるのだろう。一年か、二年か。
するとムクムクと、いなくなる者に費やす時間は無駄なのではないかと思い始めた。
白銀といるのは楽しい。
だけど白銀と出会う前だって毎日が楽しかった。その生活に戻るだけだ。
今ならばまだ学校の友達との関係を修復できるだろう。公園で芝居の練習をしていたとでも言えばごまかせるに違いない。
それに実は、小学三年の末から中学受験のための塾に行く予定だった。
だけど塾に通い始めると白銀と遊ぶ時間が減ってしまうので、母親に断ったという経緯がある。そういえば、学校の成績も落ち始めている気がする。
どれもこれも、白銀と出会ったから起きたことだ。
一生残る友達なら、このままでもよかったかもしれない。
しかし、あと一、二年の関係だ。
それからは、二度と会えなくなる。
自分にはなにも残らない。
それに、これからも会っていたら、もっと白銀のことが好きになるかもしれない。
好きになるほど、別れはつらくなるはずだ。それが怖かった。
ならばすぐに白銀との関係を絶って、進路の修復をした方がいい。
翔太はそう考えた。
スケジュールを組んで、その範囲内で白銀と会う、なんてことはできる気がしなかった。
白銀に会えば、ずっと遊びたくなってしまう。
勉強も他の友達のことも忘れて。
だったら、白銀に嫌われたらいい。
向こうから近づいてこなければ、こっちは会いようがない。白銀がどこに住んでいるのか、翔太は知らないのだから。
怒らせる作戦でいこう。
翔太はそう考え、翌日に実行したのだった。
「だけど、あのあとすぐにオレは後悔した」
大嫌いだと言ったときの、白銀の悲しそうな表情が目に焼き付いて離れない。
「傷つけるつもりじゃなかったんだ」
怒ってオレを嫌いになればいい。翔太はそう思った。
あのときの翔太は冷静ではなかった。
白銀なら怒る前に悲しむに決まっていたのに、そんなこともわからなくなっていた。
「白銀と会わなくなってから、なにもする気が起きなくなった。なにをしてもつまらなかった。食べ物も美味しくないし、勉強をしても頭に入らない。学校の友達と遊んだけど、楽しいふりをするのが精いっぱいだった。なんでオレは笑ってるんだろう。どうしてオレの隣りにいるのは白銀じゃないんだろうって」
静かに語る翔太の濡れた頬に雫が流れた。それは雨か、涙か。
「やっぱり白銀といるときが一番楽しいんだ。あいつが大好きなんだ。いつか見えなくなるとしても、最後の一瞬まで一緒にいればよかった」
翔太は毬瑠子とマルセルを見上げた。
「白銀に、オレが謝ってたって伝えてよ。許してもらおうなんて虫のいいことは考えてないけどさ。少しはあいつの気が軽くなればいいなって」
「自分で伝えたらいかがですか」
マルセルの言葉に、翔太は力なく首を振る。
「合わす顔がねえよ。それに、もうこの街には来たくないだろう」
「そんなことないよ!」
少し離れた場所から高い声が届いた。滑り台の影から雨降り小僧が飛び出した。その後ろには青藍がいる。
毬瑠子は驚いたがマルセルは平然としている。マルセルの指示で、青藍が白銀をこの地に連れて来たのだろう。
「白銀、どうして……」
瞠目して固まっている翔太に、白銀は駆け寄った。
「翔太、会いたかった!」
飛びついてきた白銀を翔太は受け止めた。お揃いのレインコートが重なった。
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