癒しのあやかしBAR~あなたのお悩み解決します~

じゅん

文字の大きさ
40 / 44
四章 雨降り小僧と狐の嫁入り

四章 7

しおりを挟む
 翔太は二階の自室に戻り、ベッドに寝ころんだ。
「白銀、いなくなっちゃうんだ」
 あとどれくらいで見えなくなるのだろう。一年か、二年か。
 するとムクムクと、いなくなる者に費やす時間は無駄なのではないかと思い始めた。
 白銀といるのは楽しい。
 だけど白銀と出会う前だって毎日が楽しかった。その生活に戻るだけだ。
 今ならばまだ学校の友達との関係を修復できるだろう。公園で芝居の練習をしていたとでも言えばごまかせるに違いない。
 それに実は、小学三年の末から中学受験のための塾に行く予定だった。
 だけど塾に通い始めると白銀と遊ぶ時間が減ってしまうので、母親に断ったという経緯がある。そういえば、学校の成績も落ち始めている気がする。
 どれもこれも、白銀と出会ったから起きたことだ。
 一生残る友達なら、このままでもよかったかもしれない。
 しかし、あと一、二年の関係だ。
 それからは、二度と会えなくなる。
 自分にはなにも残らない。
 それに、これからも会っていたら、もっと白銀のことが好きになるかもしれない。
 好きになるほど、別れはつらくなるはずだ。それが怖かった。
 ならばすぐに白銀との関係を絶って、進路の修復をした方がいい。
 翔太はそう考えた。
 スケジュールを組んで、その範囲内で白銀と会う、なんてことはできる気がしなかった。
 白銀に会えば、ずっと遊びたくなってしまう。
 勉強も他の友達のことも忘れて。
 だったら、白銀に嫌われたらいい。
 向こうから近づいてこなければ、こっちは会いようがない。白銀がどこに住んでいるのか、翔太は知らないのだから。
 怒らせる作戦でいこう。
 翔太はそう考え、翌日に実行したのだった。

「だけど、あのあとすぐにオレは後悔した」
 大嫌いだと言ったときの、白銀の悲しそうな表情が目に焼き付いて離れない。
「傷つけるつもりじゃなかったんだ」
 怒ってオレを嫌いになればいい。翔太はそう思った。
 あのときの翔太は冷静ではなかった。
 白銀なら怒る前に悲しむに決まっていたのに、そんなこともわからなくなっていた。
「白銀と会わなくなってから、なにもする気が起きなくなった。なにをしてもつまらなかった。食べ物も美味しくないし、勉強をしても頭に入らない。学校の友達と遊んだけど、楽しいふりをするのが精いっぱいだった。なんでオレは笑ってるんだろう。どうしてオレの隣りにいるのは白銀じゃないんだろうって」
 静かに語る翔太の濡れた頬に雫が流れた。それは雨か、涙か。
「やっぱり白銀といるときが一番楽しいんだ。あいつが大好きなんだ。いつか見えなくなるとしても、最後の一瞬まで一緒にいればよかった」
 翔太は毬瑠子とマルセルを見上げた。
「白銀に、オレが謝ってたって伝えてよ。許してもらおうなんて虫のいいことは考えてないけどさ。少しはあいつの気が軽くなればいいなって」
「自分で伝えたらいかがですか」
 マルセルの言葉に、翔太は力なく首を振る。
「合わす顔がねえよ。それに、もうこの街には来たくないだろう」
「そんなことないよ!」
 少し離れた場所から高い声が届いた。滑り台の影から雨降り小僧が飛び出した。その後ろには青藍がいる。
 毬瑠子は驚いたがマルセルは平然としている。マルセルの指示で、青藍が白銀をこの地に連れて来たのだろう。
「白銀、どうして……」
 瞠目して固まっている翔太に、白銀は駆け寄った。
「翔太、会いたかった!」
 飛びついてきた白銀を翔太は受け止めた。お揃いのレインコートが重なった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】

naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。 舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。 結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。 失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。 やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。 男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。 これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。 静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。 全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。

香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/  香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。  ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……  その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。  香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。  彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。  テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。  後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。  シリアス成分が少し多めとなっています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...