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4 髪切り屋敷の謎【恐怖指数 ☆★★★★】
髪切り屋敷の謎【恐怖指数 ☆★★★★】 4
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《赤い部屋、あったぞ! 東側二階、一番奥の部屋だ》
アカリは言われた部屋にかけつけた。すでに冴子は来ていた。
「ホントに、赤い……」
鮮やかな赤だ。他の部屋とあまりにも違う。
「なんだかこの部屋だけ、じゅうたんや壁紙を新しくしたみたいね」
冴子のつぶやきと同じことを、アカリも思っていた。
深紅のカーテンは破れても汚れてもいないし、窓も割れていない。
天蓋つきのベッドがあり、大理石でできたようなテーブルもある。イスは猫足だ。
(なんでだろう。こんなに豪華できれいな部屋なのに……、あの汚いバスルームより気味が悪いよ)
さっきから鳥肌がとまらない。
「なんか、また『やらせだ』って書かれそうな部屋だな」
翔陽はウンザリした口調だ。
《さて、これから楽しい検証タイムだ。冴子くんはその部屋で三十分間、一人でいてくれ。ぼくたちはモニタリングしているから、なにかあったら教えてほしい》
「はいはい。さっさと始めましょ」
冴子は椅子に座った。アカリは冴子を中心として部屋が広めに映るようにカメラをセッティングすると、翔陽といっしょに部屋を出た。
「アカリ」
「ん?」
京四郎に合流しようとしていたアカリは、赤い部屋を出てすぐに翔陽に呼びとめられた。翔陽はヘッドセットの電源を切り、アカリにも切るようにジェスチャーする。アカリは従った。
「京四郎がさ、ヘッドセットを切って、部屋のすぐ近くで待機してくれって。冴子になにかあったら、おれたちがすぐに駆けつけられるように」
「なんでヘッドセットを切るの?」
「冴子を怖がらせたいんだろ。おれたちが壁一枚をへだててとなりにいるのと、屋敷に一人残されるのとでは、だいぶ心持ちが違うだろうからな」
「京四郎くん、優しいんだかキチクなんだか、わからないね」
「あいつはフツーにキチクだよ」
(そうだけどね)
冴子のために対策を講じていることは、好感がもてる。
翔陽はタブレットの電源を入れた。二画面に分かれていて、冴子の自撮りと、アカリがセットした部屋全体が映る映像、両方が流れている。
「おれたちはこれで冴子の声が聞こえるし、部屋の状態もわかる。音声は、おれたちが聞き取れるギリギリ小さくしておくな」
「このためのタブレットだったんだ」
――十分ほどが、なんの変化もなく過ぎていった。
《冴子くん、様子はどうだい?》
京四郎が冴子に話しかけるのが、タブレットから聞こえてきた。
《見ればわかるでしょ、変化なし。なにかあったら報告してるわ》
《このまま、なにもなく終わるのも動画的につまらないからね。なにかしゃべってくれないか》
《なにかって?》
《そうだな……、髪の願掛けについて、とか》
《……》
冴子は答えない。モニターに映る表情も動きがない。
スルーするのかと思いきや、しばらくして冴子は口を開いた。
《いいわ。話しているほうが気がまぎれるし。プライベートすぎて、動画じゃ使えないわよ》
冴子は長い足を組んで、組んだ指を膝にひっかけた。
《私はずっと、子供らしくないと言われ続けてきたの。成長が早かったせいもあるけど、感情が乏しかったからだと思う》
アカリも昨年まで、冴子はランドセルが似合わないなとずっと思っていた。
(気にしてたんだ。言わなくてよかった)
《親はそれが恥ずかしかったみたいで、子供らしくしなさい、年相応になりなさいって、口を酸っぱくして言っていた》
《子供らしいフリくらいできるだろ》
《そんな器用じゃないのよ。あなただって、笑顔に腹黒さがにじんでるわよ》
《ぼくは隠すつもりがないからね》
冴子は肩をすくめた。
《私は、浮いている自分がイヤだったのよ。大人っぽいと言われるのもキライ。それで見本を作ろうとしたの。平均的な成績で、平均的な運動能力で、平均的な容姿で、クラスでいい意味でも悪い意味でも目立たず、いつもニコニコ楽しそうに過ごしているクラスメイトに話しかけた》
つまりは、平凡の中の平凡で、能天気な生徒ということだ。
《それが、アカリ》
「……っ!」
アカリと翔陽は、同時に自分の口を押えた。アカリは驚いた声をあげそうになり、翔陽は吹き出しそうになったのだ。
「確かにアカリは、凡人オブザ凡人だな」
「翔ちゃんまでっ。わたしって、そんなにつまらない人だったんだ」
「そうじゃねえって。黙って続きを聞こうぜ」
(そういえば、冴子ちゃんに突然話しかけられて、いつの間にか仲良くなっていた気がする)
《はじめは、かんたんにマネできると思ってた。私は趣味がないし、熱中したこともない。心から笑ったことも、怖がったこともない。だから喜怒哀楽の感情も薄かった。表情豊かなアカリをマネしていれば、『年相応』になれる気がした。でも、アカリを近くから観察していたら、気づいたの。アカリはどのグループともちょうどいい距離感をたもっていて、誰にでも同じように接するし、だから誰にも嫌われない。むしろ、愛されるキャラクターなんだって。そこがアカリの特別な能力で、到底マネできないと思った。気づいたら、私もアカリが好きになってた》
冴子はレポートでも読み上げるように、淡々と話した。
(冴子ちゃんに、そんなふうに思われてたんだ)
アカリは照れて顔を真っ赤にした。
《だからアカリのマネをするのはあきらめたけど、せめてアカリみたいに、仲のいい仲間を作ったり、感情が豊かになればいい。そうなったら、髪を切ろうと思っているの》
《なるほど……。それなら、もう切れるんじゃないか?》
《どういうこと?》
《ぼくたちはキミにとって、仲間ではないのか?》
冴子の目が、心底驚いたように見開かれた。
続けて冴子はなにかを言ったが、画面が乱れ、ノイズが入ったことで聞き取れなかった。
「翔ちゃん、急に電波が悪くなった」
「いや、画面をよく見ろよ」
乱れた画面は、白いもやがかかり始めていた。心霊現象がおきるときには、いつもこうなる。
アカリは言われた部屋にかけつけた。すでに冴子は来ていた。
「ホントに、赤い……」
鮮やかな赤だ。他の部屋とあまりにも違う。
「なんだかこの部屋だけ、じゅうたんや壁紙を新しくしたみたいね」
冴子のつぶやきと同じことを、アカリも思っていた。
深紅のカーテンは破れても汚れてもいないし、窓も割れていない。
天蓋つきのベッドがあり、大理石でできたようなテーブルもある。イスは猫足だ。
(なんでだろう。こんなに豪華できれいな部屋なのに……、あの汚いバスルームより気味が悪いよ)
さっきから鳥肌がとまらない。
「なんか、また『やらせだ』って書かれそうな部屋だな」
翔陽はウンザリした口調だ。
《さて、これから楽しい検証タイムだ。冴子くんはその部屋で三十分間、一人でいてくれ。ぼくたちはモニタリングしているから、なにかあったら教えてほしい》
「はいはい。さっさと始めましょ」
冴子は椅子に座った。アカリは冴子を中心として部屋が広めに映るようにカメラをセッティングすると、翔陽といっしょに部屋を出た。
「アカリ」
「ん?」
京四郎に合流しようとしていたアカリは、赤い部屋を出てすぐに翔陽に呼びとめられた。翔陽はヘッドセットの電源を切り、アカリにも切るようにジェスチャーする。アカリは従った。
「京四郎がさ、ヘッドセットを切って、部屋のすぐ近くで待機してくれって。冴子になにかあったら、おれたちがすぐに駆けつけられるように」
「なんでヘッドセットを切るの?」
「冴子を怖がらせたいんだろ。おれたちが壁一枚をへだててとなりにいるのと、屋敷に一人残されるのとでは、だいぶ心持ちが違うだろうからな」
「京四郎くん、優しいんだかキチクなんだか、わからないね」
「あいつはフツーにキチクだよ」
(そうだけどね)
冴子のために対策を講じていることは、好感がもてる。
翔陽はタブレットの電源を入れた。二画面に分かれていて、冴子の自撮りと、アカリがセットした部屋全体が映る映像、両方が流れている。
「おれたちはこれで冴子の声が聞こえるし、部屋の状態もわかる。音声は、おれたちが聞き取れるギリギリ小さくしておくな」
「このためのタブレットだったんだ」
――十分ほどが、なんの変化もなく過ぎていった。
《冴子くん、様子はどうだい?》
京四郎が冴子に話しかけるのが、タブレットから聞こえてきた。
《見ればわかるでしょ、変化なし。なにかあったら報告してるわ》
《このまま、なにもなく終わるのも動画的につまらないからね。なにかしゃべってくれないか》
《なにかって?》
《そうだな……、髪の願掛けについて、とか》
《……》
冴子は答えない。モニターに映る表情も動きがない。
スルーするのかと思いきや、しばらくして冴子は口を開いた。
《いいわ。話しているほうが気がまぎれるし。プライベートすぎて、動画じゃ使えないわよ》
冴子は長い足を組んで、組んだ指を膝にひっかけた。
《私はずっと、子供らしくないと言われ続けてきたの。成長が早かったせいもあるけど、感情が乏しかったからだと思う》
アカリも昨年まで、冴子はランドセルが似合わないなとずっと思っていた。
(気にしてたんだ。言わなくてよかった)
《親はそれが恥ずかしかったみたいで、子供らしくしなさい、年相応になりなさいって、口を酸っぱくして言っていた》
《子供らしいフリくらいできるだろ》
《そんな器用じゃないのよ。あなただって、笑顔に腹黒さがにじんでるわよ》
《ぼくは隠すつもりがないからね》
冴子は肩をすくめた。
《私は、浮いている自分がイヤだったのよ。大人っぽいと言われるのもキライ。それで見本を作ろうとしたの。平均的な成績で、平均的な運動能力で、平均的な容姿で、クラスでいい意味でも悪い意味でも目立たず、いつもニコニコ楽しそうに過ごしているクラスメイトに話しかけた》
つまりは、平凡の中の平凡で、能天気な生徒ということだ。
《それが、アカリ》
「……っ!」
アカリと翔陽は、同時に自分の口を押えた。アカリは驚いた声をあげそうになり、翔陽は吹き出しそうになったのだ。
「確かにアカリは、凡人オブザ凡人だな」
「翔ちゃんまでっ。わたしって、そんなにつまらない人だったんだ」
「そうじゃねえって。黙って続きを聞こうぜ」
(そういえば、冴子ちゃんに突然話しかけられて、いつの間にか仲良くなっていた気がする)
《はじめは、かんたんにマネできると思ってた。私は趣味がないし、熱中したこともない。心から笑ったことも、怖がったこともない。だから喜怒哀楽の感情も薄かった。表情豊かなアカリをマネしていれば、『年相応』になれる気がした。でも、アカリを近くから観察していたら、気づいたの。アカリはどのグループともちょうどいい距離感をたもっていて、誰にでも同じように接するし、だから誰にも嫌われない。むしろ、愛されるキャラクターなんだって。そこがアカリの特別な能力で、到底マネできないと思った。気づいたら、私もアカリが好きになってた》
冴子はレポートでも読み上げるように、淡々と話した。
(冴子ちゃんに、そんなふうに思われてたんだ)
アカリは照れて顔を真っ赤にした。
《だからアカリのマネをするのはあきらめたけど、せめてアカリみたいに、仲のいい仲間を作ったり、感情が豊かになればいい。そうなったら、髪を切ろうと思っているの》
《なるほど……。それなら、もう切れるんじゃないか?》
《どういうこと?》
《ぼくたちはキミにとって、仲間ではないのか?》
冴子の目が、心底驚いたように見開かれた。
続けて冴子はなにかを言ったが、画面が乱れ、ノイズが入ったことで聞き取れなかった。
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