Nova | 大人気アイドル×男前マネージャー

むぎしま

文字の大きさ
3 / 19
本編

02 恋に落ちる感覚

しおりを挟む
(……俺はもう、酔っ払ってないよな?)
 ああ、そうだ、一晩寝て酒は抜けた。そのはずなのに、心は浮ついていて、胸の奥がうるさかった。

「本郷さん、昨日、良かったねぇ」
 隣で笑ったのは、Star Novaの盛り上げ担当・春陽ハルだ。うんうん、と相槌を打つように頷くのは、癒し系の雪乃ユキ
Luminousルミナスを事務所に引き入れるって話が出た時は、正直どうなるかと思ったけどさ。……良かったな、ルカ」
浩誠コウ? 春陽? ……何の話だ?」
 戸惑って首を傾げた、その時だった。
 共有スペースの扉が開き、Luminousの面々が姿を見せる。本郷の視線は、反射的に、その中のひとりを追っていた。
(……櫻井、来夢らいむ
 目が合うと、にっこりと微笑まれる。その瞬間、胸が跳ねた。
 この鼓動の音はきっと、昨日の酒のせいなんかじゃない。


 何も考えないようにして仕事を終え、布団へ潜り込む。
 ひとりの夜。静けさの中で、ふいに思い出してしまったのは、櫻井来夢の温もり。
 腕に触れた体温も、近くで感じた息遣いも、重ねた唇も、鼻に残る香りも。すべてが、今になって胸の奥を満たしてきた。
(昨日は、良かったな……)
 目を閉じると、あの安心しきった時間が、やさしく蘇る。
 Star Novaのみんなのおかげで、恵まれた毎日を送っている。でも昨日、自分がこれまで知らなかった、もっと大きな〝幸せ〟を知ってしまった。


「……いえ、この案件は、僕が担当します」
「いいの? 三井みいくん。ドラマも始まって、忙しいんじゃ」
「本郷さんこそ、Luminousの面倒まで見ることになって、忙しいでしょう。せめてStarのことは、僕にやらせてください」
「気にすんなよ。お前はタレントだろ。マネージャーの俺とは、立場も役割も違う」

 Nova寮にて話し込むのは、Star Novaのリーダー三井と、マネージャー兼プロデューサーの本郷だった。

「いえ、僕がやりたいんです。……何か問題が発生した時に、頼るだけじゃなくて、自分で解決したい。自分でStarを守りたい。……俺は、本郷さんのように、みんなの前に立てる人間になりたいんです」
 三井の真剣な瞳に、本郷は照れくさそうに頬をかく。
「それに、本郷さんが嫁に行ったら、代わりが必要でしょう?」
「……は? 嫁? 代わり?」
「さ、仕事の話はこれで終わりです。約束通り、飲みましょう」
 三井が冷蔵庫から缶ビールを取り出し、テーブルに置いた。たしかに、他のメンバーが仕事で遅い今夜は、久しぶりに二人きりで飲もうと約束していたのだった。
「それじゃあ、乾杯」
「あ、あぁ。おつかれ」
 缶同士がぶつかり合い、鈍い音が部屋に響いた。

「ただいまーって、もう飲んでる! いいなぁ、俺もー」
 その声を皮切りに、仕事を終えた男たちが、次々と共有スペースに集まってくる。
 賑やかな空気に包まれる中、気が付けば櫻井来夢も、そこに居た。
 その存在に気づいた瞬間、本郷の胸の奥が、きゅっと何かに掴まれたように熱くなった。またこの間のように、キスがしたい。そして、宴が終わったら一緒のベッドに行き、互いの体温を感じながら眠りたい。
 あれほどまでに安心できた夜は初めてだった。あわよくば、眠りを誘うその声で名前を呼んで、「好き」と言ってもらいたい──。
(……あれ? 好き、って)
 その言葉を欲しがった瞬間、胸の奥に小さな違和感が走った。忘れたふりをしていたはずの記憶が、静かに引き寄せられる。


 ──これは、まだ俺が櫻井来夢を知らなかった頃の話だ。
 まだ彼が千早芸能に所属していた頃、同じ席で酒を酌み交わしたことがあった。
 Star Novaの雪乃と、櫻井が共演したドラマの打ち上げだ。不安げな雪乃の様子を察し、結果的に本郷もその場に顔を出すことになった。
 雪乃を気にかけながらスタッフと談笑していた本郷の隣に、いつの間にか櫻井が座っていた。
 酒が回り、口寂しさを覚えた頃、不意に視線が絡む。
「覚えてますか。前に、本郷さんに言ったこと」
「前に……?」
「はい。……本郷さん。俺は、あなたのことが好きなんです」
 一瞬、胸の奥がざわついた。だが、その違和感の正体を掴む前に、本郷は視線を逸らした。
(好き、か……)
 ライバル事務所。しかも、あの千早芸能。
 櫻井個人の言葉だとは、到底思えなかった。探りか、牽制か、あるいは事務所の思惑か。そう考えてしまう程度には、距離があった。
 グラスを持つ手に、無意識に力が入る。いくら酔っているとはいえ、理性は残っていた。心を許して良い人物かくらい、判断できる。
 だから、目の前で「おいで」と言うように微笑む櫻井から、視線を逸らした。
 知ろうとしなかった。知る必要はないと、そう判断した。

 ——その選択が、今になって胸の奥を締めつけることになるとも知らずに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

僕を守るのは、イケメン先輩!?

八乙女 忍
BL
 僕は、なぜか男からモテる。僕は嫌なのに、しつこい男たちから、守ってくれるのは一つ上の先輩。最初怖いと思っていたが、守られているうち先輩に、惹かれていってしまう。僕は、いったいどうしちゃったんだろう?

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

【完結】君の穿ったインソムニア

古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。 純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。 「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」 陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵
BL
 主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。  しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。  途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!  まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。  しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。  そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。  隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

処理中です...