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本編
02 恋に落ちる感覚
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(……俺はもう、酔っ払ってないよな?)
ああ、そうだ、一晩寝て酒は抜けた。そのはずなのに、心は浮ついていて、胸の奥がうるさかった。
「本郷さん、昨日、良かったねぇ」
隣で笑ったのは、Star Novaの盛り上げ担当・春陽だ。うんうん、と相槌を打つように頷くのは、癒し系の雪乃。
「Luminousを事務所に引き入れるって話が出た時は、正直どうなるかと思ったけどさ。……良かったな、ルカ」
「浩誠? 春陽? ……何の話だ?」
戸惑って首を傾げた、その時だった。
共有スペースの扉が開き、Luminousの面々が姿を見せる。本郷の視線は、反射的に、その中のひとりを追っていた。
(……櫻井、来夢)
目が合うと、にっこりと微笑まれる。その瞬間、胸が跳ねた。
この鼓動の音はきっと、昨日の酒のせいなんかじゃない。
何も考えないようにして仕事を終え、布団へ潜り込む。
ひとりの夜。静けさの中で、ふいに思い出してしまったのは、櫻井来夢の温もり。
腕に触れた体温も、近くで感じた息遣いも、重ねた唇も、鼻に残る香りも。すべてが、今になって胸の奥を満たしてきた。
(昨日は、良かったな……)
目を閉じると、あの安心しきった時間が、やさしく蘇る。
Star Novaのみんなのおかげで、恵まれた毎日を送っている。でも昨日、自分がこれまで知らなかった、もっと大きな〝幸せ〟を知ってしまった。
「……いえ、この案件は、僕が担当します」
「いいの? 三井くん。ドラマも始まって、忙しいんじゃ」
「本郷さんこそ、Luminousの面倒まで見ることになって、忙しいでしょう。せめてStarのことは、僕にやらせてください」
「気にすんなよ。お前はタレントだろ。マネージャーの俺とは、立場も役割も違う」
Nova寮にて話し込むのは、Star Novaのリーダー三井と、マネージャー兼プロデューサーの本郷だった。
「いえ、僕がやりたいんです。……何か問題が発生した時に、頼るだけじゃなくて、自分で解決したい。自分でStarを守りたい。……俺は、本郷さんのように、みんなの前に立てる人間になりたいんです」
三井の真剣な瞳に、本郷は照れくさそうに頬をかく。
「それに、本郷さんが嫁に行ったら、代わりが必要でしょう?」
「……は? 嫁? 代わり?」
「さ、仕事の話はこれで終わりです。約束通り、飲みましょう」
三井が冷蔵庫から缶ビールを取り出し、テーブルに置いた。たしかに、他のメンバーが仕事で遅い今夜は、久しぶりに二人きりで飲もうと約束していたのだった。
「それじゃあ、乾杯」
「あ、あぁ。おつかれ」
缶同士がぶつかり合い、鈍い音が部屋に響いた。
「ただいまーって、もう飲んでる! いいなぁ、俺もー」
その声を皮切りに、仕事を終えた男たちが、次々と共有スペースに集まってくる。
賑やかな空気に包まれる中、気が付けば櫻井来夢も、そこに居た。
その存在に気づいた瞬間、本郷の胸の奥が、きゅっと何かに掴まれたように熱くなった。またこの間のように、キスがしたい。そして、宴が終わったら一緒のベッドに行き、互いの体温を感じながら眠りたい。
あれほどまでに安心できた夜は初めてだった。あわよくば、眠りを誘うその声で名前を呼んで、「好き」と言ってもらいたい──。
(……あれ? 好き、って)
その言葉を欲しがった瞬間、胸の奥に小さな違和感が走った。忘れたふりをしていたはずの記憶が、静かに引き寄せられる。
──これは、まだ俺が櫻井来夢を知らなかった頃の話だ。
まだ彼が千早芸能に所属していた頃、同じ席で酒を酌み交わしたことがあった。
Star Novaの雪乃と、櫻井が共演したドラマの打ち上げだ。不安げな雪乃の様子を察し、結果的に本郷もその場に顔を出すことになった。
雪乃を気にかけながらスタッフと談笑していた本郷の隣に、いつの間にか櫻井が座っていた。
酒が回り、口寂しさを覚えた頃、不意に視線が絡む。
「覚えてますか。前に、本郷さんに言ったこと」
「前に……?」
「はい。……本郷さん。俺は、あなたのことが好きなんです」
一瞬、胸の奥がざわついた。だが、その違和感の正体を掴む前に、本郷は視線を逸らした。
(好き、か……)
ライバル事務所。しかも、あの千早芸能。
櫻井個人の言葉だとは、到底思えなかった。探りか、牽制か、あるいは事務所の思惑か。そう考えてしまう程度には、距離があった。
グラスを持つ手に、無意識に力が入る。いくら酔っているとはいえ、理性は残っていた。心を許して良い人物かくらい、判断できる。
だから、目の前で「おいで」と言うように微笑む櫻井から、視線を逸らした。
知ろうとしなかった。知る必要はないと、そう判断した。
——その選択が、今になって胸の奥を締めつけることになるとも知らずに。
ああ、そうだ、一晩寝て酒は抜けた。そのはずなのに、心は浮ついていて、胸の奥がうるさかった。
「本郷さん、昨日、良かったねぇ」
隣で笑ったのは、Star Novaの盛り上げ担当・春陽だ。うんうん、と相槌を打つように頷くのは、癒し系の雪乃。
「Luminousを事務所に引き入れるって話が出た時は、正直どうなるかと思ったけどさ。……良かったな、ルカ」
「浩誠? 春陽? ……何の話だ?」
戸惑って首を傾げた、その時だった。
共有スペースの扉が開き、Luminousの面々が姿を見せる。本郷の視線は、反射的に、その中のひとりを追っていた。
(……櫻井、来夢)
目が合うと、にっこりと微笑まれる。その瞬間、胸が跳ねた。
この鼓動の音はきっと、昨日の酒のせいなんかじゃない。
何も考えないようにして仕事を終え、布団へ潜り込む。
ひとりの夜。静けさの中で、ふいに思い出してしまったのは、櫻井来夢の温もり。
腕に触れた体温も、近くで感じた息遣いも、重ねた唇も、鼻に残る香りも。すべてが、今になって胸の奥を満たしてきた。
(昨日は、良かったな……)
目を閉じると、あの安心しきった時間が、やさしく蘇る。
Star Novaのみんなのおかげで、恵まれた毎日を送っている。でも昨日、自分がこれまで知らなかった、もっと大きな〝幸せ〟を知ってしまった。
「……いえ、この案件は、僕が担当します」
「いいの? 三井くん。ドラマも始まって、忙しいんじゃ」
「本郷さんこそ、Luminousの面倒まで見ることになって、忙しいでしょう。せめてStarのことは、僕にやらせてください」
「気にすんなよ。お前はタレントだろ。マネージャーの俺とは、立場も役割も違う」
Nova寮にて話し込むのは、Star Novaのリーダー三井と、マネージャー兼プロデューサーの本郷だった。
「いえ、僕がやりたいんです。……何か問題が発生した時に、頼るだけじゃなくて、自分で解決したい。自分でStarを守りたい。……俺は、本郷さんのように、みんなの前に立てる人間になりたいんです」
三井の真剣な瞳に、本郷は照れくさそうに頬をかく。
「それに、本郷さんが嫁に行ったら、代わりが必要でしょう?」
「……は? 嫁? 代わり?」
「さ、仕事の話はこれで終わりです。約束通り、飲みましょう」
三井が冷蔵庫から缶ビールを取り出し、テーブルに置いた。たしかに、他のメンバーが仕事で遅い今夜は、久しぶりに二人きりで飲もうと約束していたのだった。
「それじゃあ、乾杯」
「あ、あぁ。おつかれ」
缶同士がぶつかり合い、鈍い音が部屋に響いた。
「ただいまーって、もう飲んでる! いいなぁ、俺もー」
その声を皮切りに、仕事を終えた男たちが、次々と共有スペースに集まってくる。
賑やかな空気に包まれる中、気が付けば櫻井来夢も、そこに居た。
その存在に気づいた瞬間、本郷の胸の奥が、きゅっと何かに掴まれたように熱くなった。またこの間のように、キスがしたい。そして、宴が終わったら一緒のベッドに行き、互いの体温を感じながら眠りたい。
あれほどまでに安心できた夜は初めてだった。あわよくば、眠りを誘うその声で名前を呼んで、「好き」と言ってもらいたい──。
(……あれ? 好き、って)
その言葉を欲しがった瞬間、胸の奥に小さな違和感が走った。忘れたふりをしていたはずの記憶が、静かに引き寄せられる。
──これは、まだ俺が櫻井来夢を知らなかった頃の話だ。
まだ彼が千早芸能に所属していた頃、同じ席で酒を酌み交わしたことがあった。
Star Novaの雪乃と、櫻井が共演したドラマの打ち上げだ。不安げな雪乃の様子を察し、結果的に本郷もその場に顔を出すことになった。
雪乃を気にかけながらスタッフと談笑していた本郷の隣に、いつの間にか櫻井が座っていた。
酒が回り、口寂しさを覚えた頃、不意に視線が絡む。
「覚えてますか。前に、本郷さんに言ったこと」
「前に……?」
「はい。……本郷さん。俺は、あなたのことが好きなんです」
一瞬、胸の奥がざわついた。だが、その違和感の正体を掴む前に、本郷は視線を逸らした。
(好き、か……)
ライバル事務所。しかも、あの千早芸能。
櫻井個人の言葉だとは、到底思えなかった。探りか、牽制か、あるいは事務所の思惑か。そう考えてしまう程度には、距離があった。
グラスを持つ手に、無意識に力が入る。いくら酔っているとはいえ、理性は残っていた。心を許して良い人物かくらい、判断できる。
だから、目の前で「おいで」と言うように微笑む櫻井から、視線を逸らした。
知ろうとしなかった。知る必要はないと、そう判断した。
——その選択が、今になって胸の奥を締めつけることになるとも知らずに。
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