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本編
3月 ①
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あれからオレは神凪先生をできる限り避け続けた。
呼ばれたらクラスメイトを無理矢理引っ張って行った。
あの人と2人っきりになるのが怖かった。
顔を見る度に起きる頭痛もどんどん酷くなってきてるのも理由だ。
3月の頭は期末試験があり、先生との接触が限りなくなくなり、初めて試験期間に感謝した。
でも、試験の翌週末は卒業式だ。
その日を過ぎると、先輩たちと学園内で会うことがなくなる。
そんなことを考える度、胸にポッカリ空いたような喪失感に視界がボヤける。
オレはもしかしたら先輩のことを…。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
卒業式当日。
在校生はその儀式を遠くから見るだけだ。
「結季くん、そろそろ移動だって」
「ああ、うん」
ゾロゾロと移動する人の波に乗り講堂に向かう。
1年生にとっては2年後の儀式だし、何度も予行練習をしたから、特に緊張もなくガヤガヤ喋りしながら移動してる。
まあ、今日の主役は3年生で、他人事感の方が強いからかもしれない。
「あ、結季くん」
「瑠可、どうした?」
「ボク、おトイレ行きたくなっちゃった」
コラッ、ウッカリしすぎだ。
そう言いつつ、瑠可に付き添ってオメガ用のトイレに行く。
ついでにオレも済ませて廊下に出ると、もう生徒は誰もいなかった。
「瑠可、急ごう」
「うん」
廊下を走り、階段を駆け降りると、階下から人が現れ、オレはギクリとした。
「あ、神凪先生」
「まだ時間に余裕がありますから、慌てないで大丈夫ですよ」
「はーい」
微笑む先生に瑠可は笑顔を向けるが、オレは背筋に寒気が走って笑えない。
「失礼します」
階段を駆け降り、踊り場にいる先生の横を通り抜ける。
「結季くん、待ってぇ」
残り3段のところで、後ろからオレを慌てて追いかける瑠可の声にハッとして振り返る。
「瑠可、ごめっ、置いてっ、た…」
「…?…結季くん、どうしたの?」
首を傾げて聞く瑠可の後ろにいた先生の微笑みが、オレには残虐な笑顔に見えた。
その笑顔に見覚えがある。
あれは…いつだ?
「瑠可、急ごう」
「結季くーーえ…?」
瑠可の体が宙に浮いたと思ったら、オレの目の前に落ちてきた。
視界の隅で手を突き出し微笑む先生が見えた。
「うわっ」
ドンっと瑠可を抱えたオレは背中から倒れ、一瞬息が詰まった。
ぶつけた背中が痛くて起き上がれない。
頭もぶつけたようで痛い。
「結季くん!結季くん!…あ、血が…」
耳に生暖かいものが伝う。
視線を動かすと赤い液体が見えた。
トントンとリズミカルに階段を降りる足音がする。
その人を無意識に呼んだ。
「ぁ……清暙、兄さん…」
「結季、思い出したのか……」
「思い出したって、えっ、何?」
パニックになっている瑠可を見下ろす先生は「邪魔だ」と瑠可を蹴り飛ばした。
「る、か…」
背中の痛みに耐え起きあがろうとするオレの腕を掴んだ先生は、そのままオレを引っ張り上げた。
「さあ家に帰ろうか、結季」
腹に衝撃が走り、オレの意識は途切れた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
あの日。
オレを取り囲む人の視線が刺さる。
「結季はオメガかもしれないとは誠か?よくやった!ならば、番は次の当主である清暙、お前だ」
「はい、お祖父様」
中心で会話を交わし残虐な笑顔を向ける2人の視線に恐怖で竦み上がる。
涙を流し震えるオレを誰かが抱きしめた。
「ゆうは道具じゃない」
誰かが叫んだ。
だけど……。
「決めるのはお前ではない。現当主である、このわしだ」
オレはオレを止める声を無視して家を飛び出した。
あの子が待つ約束の場所へ……。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
頬を撫でる冷んやりとした空気に意識が覚醒する。
見知らぬ木の天井がそこにあった。
横を見ようと首を動かすと、頭に痛みが走った。
「痛っ……え……何これ…?」
そこには格子状に組まれた木が見えた。
それはまるで…
「牢…屋?」
呼ばれたらクラスメイトを無理矢理引っ張って行った。
あの人と2人っきりになるのが怖かった。
顔を見る度に起きる頭痛もどんどん酷くなってきてるのも理由だ。
3月の頭は期末試験があり、先生との接触が限りなくなくなり、初めて試験期間に感謝した。
でも、試験の翌週末は卒業式だ。
その日を過ぎると、先輩たちと学園内で会うことがなくなる。
そんなことを考える度、胸にポッカリ空いたような喪失感に視界がボヤける。
オレはもしかしたら先輩のことを…。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
卒業式当日。
在校生はその儀式を遠くから見るだけだ。
「結季くん、そろそろ移動だって」
「ああ、うん」
ゾロゾロと移動する人の波に乗り講堂に向かう。
1年生にとっては2年後の儀式だし、何度も予行練習をしたから、特に緊張もなくガヤガヤ喋りしながら移動してる。
まあ、今日の主役は3年生で、他人事感の方が強いからかもしれない。
「あ、結季くん」
「瑠可、どうした?」
「ボク、おトイレ行きたくなっちゃった」
コラッ、ウッカリしすぎだ。
そう言いつつ、瑠可に付き添ってオメガ用のトイレに行く。
ついでにオレも済ませて廊下に出ると、もう生徒は誰もいなかった。
「瑠可、急ごう」
「うん」
廊下を走り、階段を駆け降りると、階下から人が現れ、オレはギクリとした。
「あ、神凪先生」
「まだ時間に余裕がありますから、慌てないで大丈夫ですよ」
「はーい」
微笑む先生に瑠可は笑顔を向けるが、オレは背筋に寒気が走って笑えない。
「失礼します」
階段を駆け降り、踊り場にいる先生の横を通り抜ける。
「結季くん、待ってぇ」
残り3段のところで、後ろからオレを慌てて追いかける瑠可の声にハッとして振り返る。
「瑠可、ごめっ、置いてっ、た…」
「…?…結季くん、どうしたの?」
首を傾げて聞く瑠可の後ろにいた先生の微笑みが、オレには残虐な笑顔に見えた。
その笑顔に見覚えがある。
あれは…いつだ?
「瑠可、急ごう」
「結季くーーえ…?」
瑠可の体が宙に浮いたと思ったら、オレの目の前に落ちてきた。
視界の隅で手を突き出し微笑む先生が見えた。
「うわっ」
ドンっと瑠可を抱えたオレは背中から倒れ、一瞬息が詰まった。
ぶつけた背中が痛くて起き上がれない。
頭もぶつけたようで痛い。
「結季くん!結季くん!…あ、血が…」
耳に生暖かいものが伝う。
視線を動かすと赤い液体が見えた。
トントンとリズミカルに階段を降りる足音がする。
その人を無意識に呼んだ。
「ぁ……清暙、兄さん…」
「結季、思い出したのか……」
「思い出したって、えっ、何?」
パニックになっている瑠可を見下ろす先生は「邪魔だ」と瑠可を蹴り飛ばした。
「る、か…」
背中の痛みに耐え起きあがろうとするオレの腕を掴んだ先生は、そのままオレを引っ張り上げた。
「さあ家に帰ろうか、結季」
腹に衝撃が走り、オレの意識は途切れた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
あの日。
オレを取り囲む人の視線が刺さる。
「結季はオメガかもしれないとは誠か?よくやった!ならば、番は次の当主である清暙、お前だ」
「はい、お祖父様」
中心で会話を交わし残虐な笑顔を向ける2人の視線に恐怖で竦み上がる。
涙を流し震えるオレを誰かが抱きしめた。
「ゆうは道具じゃない」
誰かが叫んだ。
だけど……。
「決めるのはお前ではない。現当主である、このわしだ」
オレはオレを止める声を無視して家を飛び出した。
あの子が待つ約束の場所へ……。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
頬を撫でる冷んやりとした空気に意識が覚醒する。
見知らぬ木の天井がそこにあった。
横を見ようと首を動かすと、頭に痛みが走った。
「痛っ……え……何これ…?」
そこには格子状に組まれた木が見えた。
それはまるで…
「牢…屋?」
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