姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

文字の大きさ
5 / 42

第五話 賭け事

しおりを挟む
 飛行船内の賭博場。
 地上の薄汚い酒場にあるそれとは客層が異なり、金に困っている様子はなく、純粋な娯楽として賭博を楽しむ人々で溢れている。もちろん、中には生活を賭けて勝負に挑む、博打打ちもいるが、ここでは少数派だった。
 
「ブルー、調子はどうだ?」
 ブレイブは賭けの席を立つと、ブルーの席へ賭けの調子を伺いにいった。
 
「ダメだ、負け続きだ」
 ブルーは顔を覆い、首を振る。手元のチップが心細くなっていた。
 
「下手なのかもな、俺たち」
 ブレイブは、半分本気で呟く。ブレイブは全ての掛け金を失ったばかりだった。
 
「そうかもな」
 ブルーは否定しなかった。
 
 ウォォォォォォ!
 
 突然、賭博場の遠い一角から、人々の熱狂的な歓声が沸き起こった。
 
「何だ?」
 
 ブレイブは近くにいた上品な男に声をかけた。
「向こうの席で何かあったのか?」
 
 男は、手を口に当てると、静かに教えてくれた。
「どうやら、どこかのお嬢様が大勝ちしているらしいんだ」
そう言うと、質問に答えてくれた男は、その幸運にあやかろうとせずに賭博場から出ていった。
 
「だとよ、ブルー」
 ブレイブは興味を惹かれ、ブルーの木札を覗き込んだ。
 
「また負けだ」
 ブルーは、呆れたように机に頬杖をついた。
 
「見に行ってみねぇか? 勝ち続けているやつから運気を分けてもらうんだ」
 ブレイブは、たった今負けたばかりのブルーを誘う。
 
「勝ってるやつ見に行っても、腹立つだけだぜ……」
 ブルーはそう言いながらも、渋々、ブレイブに付き合った。
 賭けの席に集まる群衆をかき分けて奥に進むと、その中心の席で、信じられない光景が広がっていた。大勝ちし、金貨の山を築いているのはカリーナだった。
 
「マジかよ……」
 ブレイブは言葉を失う。
 
 カリーナは、勝負に飽きたのか、賭け事をそこそこに席を立った。手には、ずっしりと重い大袋に入った、大量の金貨があった。
 
「二人ともいたんだね」
 カリーナは、少し前に人から借りた金を全額すった惨めな二人を見て、涼しい顔で微笑んだ。
 
「まさか……賭け事の才能があったとはな……」
 ブレイブはぽつりと呟いた。
 
「そんな眼をしてもあげないわよ。これは大事な生活資金だから。アイに預けるわ」
 カリーナは、その金貨の袋を抱きかかえるようにして言った。
 
「流石の俺たちも、姫様の生活資金にまで手は出さねぇよ」
 ブレイブは、かろうじて残った一欠片の良心で、欲に抗った。
 
「なぁ、ブルー」
 
「……」
 ブルーは、何も答えなかった。
 
「ブルー?」
 ブルーは、飢えた狼のような眼で、カリーナの手にある金貨の袋を、ただ一点だけ見つめていた。

 ◆◇◆◇
 
 飛行船内の高級レストランでは、ゆったりとした空の旅を楽しみながら、アイとサラマンダーは早めの昼食をとっていた。
 
「ジロジロ見られて大変じゃないですか?」
 アイは、スプーンでスープを一口飲んだ後、向かいのサラマンダーに尋ねた。
 サラマンダーの龍人の姿は、当然ながらこの上品なレストランでは非常に目立っていた。
 
「そんなこともない。見た目が見た目だから、変な輩に絡まれる心配はないからな。それより、大変なのは、オークの見た目のブルーだろう」
 サラマンダーは肉を切って口に運んだ。
 
「そうですね……」
 アイは、飛行船に乗る前の二人の騒動を思い出しながら、スープを啜った。
 
「あ、いたいた!」
 ジャラジャラと金貨の詰まった袋を鳴らしながら、カリーナがやって来る。
 
「なんですか? その袋は」
 アイは、口周りをナプキンで拭くと、カリーナに聞いた。
 
「大勝ちしたのよ! 預かっといてちょうだい」
 カリーナは、袋の口を大胆に開く。眩しく光る金貨に、アイは思わず顔を逸らした。
 
「ほお。それだけ賭け事がお上手なら、それだけで生活していけるのでは?」
 サラマンダーは、龍人特有の冷静な声で関心を示した。
 
「サラマンダー?」
 アイは、生活資金を賭け事に頼ることを助長するような発言に、サラマンダーをジロリと睨む。
 
「コホン……失礼」
 サラマンダーはわざとらしく咳をすると、食事の続きを始めた。
 
「カリーナ、こんなところで開いたら危険ですよ」
 アイは、カリーナの手を抑えると、金貨の詰まった袋の紐をキツく結び直した。
 
「分かってるわ。だから貴女に預けるのよ。それに……」
 カリーナは、隣のテーブルから椅子を持ってくると、それに腰を下ろした。
 彼女の顔には、金銭以上のものを手に入れたという、確信に満ちた表情が浮かんでいた。
 
「いい情報を貰えたわ」
 カリーナは自信気に言った。
 
「金貨1000万枚相当!?」
 アイが、思わず耳打ちされた言葉を大声で復唱してしまう。
 
「しー!うるさいわよ、アイ!」
 
「ごめんなさい……」
 アイは、慌てて口を塞いだ。
 
「しかし、ドワーフの国で、そんな途方もないものが作られているとはな」
 サラマンダーが興味深そうに顎を触る。
 
「報酬には、それを頂きましょう」
 カリーナは、笑顔で大胆に宣言した。
 
「そう易々と渡せるような代物ではない気がしますが……」
 
「考えるより先に行動よ、アイ。ぶつかってから考えるの!」
 アイは、そんなカリーナの、有無を言わせぬ強い笑顔に押し負けた。

 ◆◇◆◇

「戻ったぞー」
 賭博場から、ブレイブとブルーの二人が、肩を組みながら帰ってきた。
 
「どうした? みんなして」
 親に叱られた子供のような顔をするアイを見て、ブレイブは不思議に思った。
 
「向こうに着いてからやることが、明確になったわ」
 カリーナは、パンと両手を叩いた。
 
「そうか、それは良かった。俺たちも金がなくなって、視界が綺麗になったところだからな」
 ブレイブは爽やかにそう言った。
 
「今なら、空の果てまで見えそうだぜ!」
 ブルーは両手で丸を作り、眼鏡を作って見せた。
 
「機嫌が治って良かったわ」
 カリーナは、一呼吸おくと――
 
「外に出ない?」
 皆を外に誘った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

処理中です...