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第六話 雲の割れ目
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飛行船の外側にある甲板は、吹き飛ばされないように柵が設けられ、雨天や強風以外の天候では乗客に解放される人気の場所だった。
「寒くねぇか」
動きやすいように半袖を着ていたブレイブは、風に晒されブルブルと身を震わせていた。
「軟弱だな」
ブルーは、厚いオークの皮膚と肉体を誇るかのように胸を張り、そんなブレイブを小馬鹿にした。
少し遅れて、食事を終えたカリーナ、アイ、サラマンダーの三人が甲板に現れる。
「風が気持ちいいわね!」
カリーナは両手を広げ、その身に風を受け止めていた。
ビュン!
突然、吹いた突風にアイの体が流され、アイは小さな悲鳴を上げた。
「わっ!」
ぽす。
「大丈夫か?」
ちょっとした風に体勢を崩しそうになったアイを、サラマンダーは胸で受け止めた。龍人にとってこの程度の風は屁でもなかった。
アイの華奢な体は、龍人の屈強な体躯に完全に包まれ、アイは慌ててサラマンダーと距離をとる。
「ごめんなさい……!」
「足元には気をつけてくれ」
顔を真っ赤に染めたアイは、慌ててカリーナの元へと走っていく。
(言ったそばからつまずきそうになってるぞ)
サラマンダーはそう心の中で呟きながら、皆がいる飛行船の先頭へと歩いていった。
飛行船の先頭では、カリーナが皆を集めて話をしている。
「そうだわ! ブルーとブレイブには言ってなかったね。私たちの足が決まったわよ!」
カリーナは胸を張って二人に伝える。
「足が? まだドワーフの国にも着いてないのに、どう決まったんだ?」
ブレイブはカリーナの言葉を理解できずに、首を傾げる。ここまで候補に上がった足は『ドライブ』のみ。それなら、飛行船に乗る前に終わっている話であったからである。
カリーナは、足が決まるまでの出来事を事細かに説明し始めた。
「話が見えてこないな」
なかなか本題に入らないカリーナに、焦れたブルーは、後ろを振り返る。既に答えを知っているアイとサラマンダーに聞こうとした。
しかし、アイは目線を逸らし、サラマンダーは静かに顎を動かして、カリーナの方を指し示すだけで答えてくれない。
「それで結局、何になったんだ?」
漸く、カリーナの話がひと段落したところで、ブレイブが改めて尋ねる。
「新型の飛行船!!」
カリーナは大声で宣言した。
「「は!?」」
ブルーとブレイブは目を丸くして固まった。
「新型の飛行船ったって、どうやってそんなもの操縦するんだ? 」
ブルーが体を大きく動かしてジェスチャーをする。
「そんなの、後で考えたらいいでしょ!」
カリーナは、根拠のない自信に満ち溢れていた。
「動かせなかったら――
ブレイブの言葉をカリーナが遮る。
「一旦聞いて。飛行船と言っても、どうやらただの飛行船じゃないみたいなの。誰でも操縦できるように作られた、革新的な飛行船だとか……」
「だとか……って」
ここにいる全員、誰一人として飛行船を操縦した経験などない。ブレイブは呆れたように首を振った。
「まぁとにかくそういうことだから、報酬には、それを提案してみるわ!」
「へーい」
ブレイブはやる気なさげに返事を返した。
飛行船は果てしなく続く雲の上を飛ぶ。
「何も見えねぇな」
ブルーは柵から上半身を乗り出して、飛行船の下を覆い尽くす白い雲海を見つめていた。
「何を見てるんだ?」
「うぉい! びっくりした! 何だ、サラマンダーかよ」
突然の問いかけに、ブルーは危うく雲の海に飛び込みそうになり、冷や汗を垂らした。
「雲だよ雲。雲の上に生き物がいるって聞いたことがあったから探していただけだ」
「聞いたことがないな」
サラマンダーは雲海を見ながら呟く。
「それで、聞きたいのはそれじゃないだろ? 何の用だよ」
「……気は済んだか?」
サラマンダーは、宿屋からずっと苛立ちを見せていたブルーを気にかけていた。
「ああ、元通りだ。馬鹿な賭けに乗った俺も悪かっただけだったよ」
ブルーの顔は、清々しいものに変わっていた。
「それなら、良かった」
サラマンダーは、ブルーの隣に並び、雲一つない青空を見上げた。
「そうだ……直接は恥ずかしいから、あいつにこれを渡しといてくれ」
ブルーは、小さく折り畳まれた一枚の紙をサラマンダーに預ける。
サラマンダーは、その紙が何なのかを確認しようと、何気なく開こうとした。
「おいおいおい、ダメだ、ダメだ! 開けるんじゃねえ!」
ブルーに慌てて止められ、サラマンダーは怪訝な顔で手を止めた。
「……分かった。後で渡しておこう」
サラマンダーは、その紙を胸の裏ポケットにしまった。
飛行船は、徐々に高度を下げ始める。高度を下げ始めたということは目的地が近づいてきたということであった。
「皆ー! こっちに来てよ!」
カリーナが、喜びを抑えきれない様子で大声で叫ぶ。
それぞれ、自分の好きな場所で空の旅を楽しんでいた一行は、カリーナがいる飛行船の先頭に集まった。
「どうしました?」
アイが尋ねる。
「下を見てよ! やっと見えてきたわ!」
飛行船の下。厚い雲の割れ目から、緑の大地が顔を覗かせた。飛行船の高度が下がるにつれ、どんどんとその解像度が上がっていく。
「あれが……ドワーフの国」
「うわっ、耳が……何の音だ、これ?」
「金属音じゃねぇか、これ?」
「…………」
雲を抜け、一行を出迎えたのは、上空を無数に飛ぶ、大小さまざまな飛行船であった。
そして、地上から空にまで絶え間なく巨大な金属音が響き渡るそんなドワーフの国――アルブヘイブンの姿である。
「さあ、みんな準備して。始めるわよ!」
カリーナは、新たなる冒険の舞台を目にして、目を輝かせながら飛行船の中へと戻っていった。
「俺たちも戻るか」
ブレイブもカリーナの後に続こうと、踵を返す。
「ブレイブにこれを」
サラマンダーはブレイブを呼び止めると、折り畳まれた一枚の紙を渡した。
「何だこれ」
ブレイブは、それを興味深く観察する。
「ブルーからだ」
「ブルーからねぇ……」
ブレイブは、折り畳まれている紙を丁寧に開いた。すると中には、乱暴な殴り書きで「ばかやろう」とだけ書かれてあった。
一瞬、くしゃくしゃにして、そっくり投げ返してやろうかと思ったブレイブだったが、彼はその紙を笑いと共に丁寧に折り直すと、それを甲板から広大な空へ向けて、そっと手放した。
折り畳まれた紙は、風を受けてどこまでも遠くへと飛んでいった。
「いいのか?」
サラマンダーが、その光景を静かに見つめながら尋ねた。他人に開けられたくないほどの内容が書かれている紙である。飛ばして良いものだったのかが心配になった。
「いいよ。終わったことだ」
ブレイブは、紙の行方を見届けることなく、清々しい顔で飛行船の中へと入っていった。
「そうか。ならいいか」
「寒くねぇか」
動きやすいように半袖を着ていたブレイブは、風に晒されブルブルと身を震わせていた。
「軟弱だな」
ブルーは、厚いオークの皮膚と肉体を誇るかのように胸を張り、そんなブレイブを小馬鹿にした。
少し遅れて、食事を終えたカリーナ、アイ、サラマンダーの三人が甲板に現れる。
「風が気持ちいいわね!」
カリーナは両手を広げ、その身に風を受け止めていた。
ビュン!
突然、吹いた突風にアイの体が流され、アイは小さな悲鳴を上げた。
「わっ!」
ぽす。
「大丈夫か?」
ちょっとした風に体勢を崩しそうになったアイを、サラマンダーは胸で受け止めた。龍人にとってこの程度の風は屁でもなかった。
アイの華奢な体は、龍人の屈強な体躯に完全に包まれ、アイは慌ててサラマンダーと距離をとる。
「ごめんなさい……!」
「足元には気をつけてくれ」
顔を真っ赤に染めたアイは、慌ててカリーナの元へと走っていく。
(言ったそばからつまずきそうになってるぞ)
サラマンダーはそう心の中で呟きながら、皆がいる飛行船の先頭へと歩いていった。
飛行船の先頭では、カリーナが皆を集めて話をしている。
「そうだわ! ブルーとブレイブには言ってなかったね。私たちの足が決まったわよ!」
カリーナは胸を張って二人に伝える。
「足が? まだドワーフの国にも着いてないのに、どう決まったんだ?」
ブレイブはカリーナの言葉を理解できずに、首を傾げる。ここまで候補に上がった足は『ドライブ』のみ。それなら、飛行船に乗る前に終わっている話であったからである。
カリーナは、足が決まるまでの出来事を事細かに説明し始めた。
「話が見えてこないな」
なかなか本題に入らないカリーナに、焦れたブルーは、後ろを振り返る。既に答えを知っているアイとサラマンダーに聞こうとした。
しかし、アイは目線を逸らし、サラマンダーは静かに顎を動かして、カリーナの方を指し示すだけで答えてくれない。
「それで結局、何になったんだ?」
漸く、カリーナの話がひと段落したところで、ブレイブが改めて尋ねる。
「新型の飛行船!!」
カリーナは大声で宣言した。
「「は!?」」
ブルーとブレイブは目を丸くして固まった。
「新型の飛行船ったって、どうやってそんなもの操縦するんだ? 」
ブルーが体を大きく動かしてジェスチャーをする。
「そんなの、後で考えたらいいでしょ!」
カリーナは、根拠のない自信に満ち溢れていた。
「動かせなかったら――
ブレイブの言葉をカリーナが遮る。
「一旦聞いて。飛行船と言っても、どうやらただの飛行船じゃないみたいなの。誰でも操縦できるように作られた、革新的な飛行船だとか……」
「だとか……って」
ここにいる全員、誰一人として飛行船を操縦した経験などない。ブレイブは呆れたように首を振った。
「まぁとにかくそういうことだから、報酬には、それを提案してみるわ!」
「へーい」
ブレイブはやる気なさげに返事を返した。
飛行船は果てしなく続く雲の上を飛ぶ。
「何も見えねぇな」
ブルーは柵から上半身を乗り出して、飛行船の下を覆い尽くす白い雲海を見つめていた。
「何を見てるんだ?」
「うぉい! びっくりした! 何だ、サラマンダーかよ」
突然の問いかけに、ブルーは危うく雲の海に飛び込みそうになり、冷や汗を垂らした。
「雲だよ雲。雲の上に生き物がいるって聞いたことがあったから探していただけだ」
「聞いたことがないな」
サラマンダーは雲海を見ながら呟く。
「それで、聞きたいのはそれじゃないだろ? 何の用だよ」
「……気は済んだか?」
サラマンダーは、宿屋からずっと苛立ちを見せていたブルーを気にかけていた。
「ああ、元通りだ。馬鹿な賭けに乗った俺も悪かっただけだったよ」
ブルーの顔は、清々しいものに変わっていた。
「それなら、良かった」
サラマンダーは、ブルーの隣に並び、雲一つない青空を見上げた。
「そうだ……直接は恥ずかしいから、あいつにこれを渡しといてくれ」
ブルーは、小さく折り畳まれた一枚の紙をサラマンダーに預ける。
サラマンダーは、その紙が何なのかを確認しようと、何気なく開こうとした。
「おいおいおい、ダメだ、ダメだ! 開けるんじゃねえ!」
ブルーに慌てて止められ、サラマンダーは怪訝な顔で手を止めた。
「……分かった。後で渡しておこう」
サラマンダーは、その紙を胸の裏ポケットにしまった。
飛行船は、徐々に高度を下げ始める。高度を下げ始めたということは目的地が近づいてきたということであった。
「皆ー! こっちに来てよ!」
カリーナが、喜びを抑えきれない様子で大声で叫ぶ。
それぞれ、自分の好きな場所で空の旅を楽しんでいた一行は、カリーナがいる飛行船の先頭に集まった。
「どうしました?」
アイが尋ねる。
「下を見てよ! やっと見えてきたわ!」
飛行船の下。厚い雲の割れ目から、緑の大地が顔を覗かせた。飛行船の高度が下がるにつれ、どんどんとその解像度が上がっていく。
「あれが……ドワーフの国」
「うわっ、耳が……何の音だ、これ?」
「金属音じゃねぇか、これ?」
「…………」
雲を抜け、一行を出迎えたのは、上空を無数に飛ぶ、大小さまざまな飛行船であった。
そして、地上から空にまで絶え間なく巨大な金属音が響き渡るそんなドワーフの国――アルブヘイブンの姿である。
「さあ、みんな準備して。始めるわよ!」
カリーナは、新たなる冒険の舞台を目にして、目を輝かせながら飛行船の中へと戻っていった。
「俺たちも戻るか」
ブレイブもカリーナの後に続こうと、踵を返す。
「ブレイブにこれを」
サラマンダーはブレイブを呼び止めると、折り畳まれた一枚の紙を渡した。
「何だこれ」
ブレイブは、それを興味深く観察する。
「ブルーからだ」
「ブルーからねぇ……」
ブレイブは、折り畳まれている紙を丁寧に開いた。すると中には、乱暴な殴り書きで「ばかやろう」とだけ書かれてあった。
一瞬、くしゃくしゃにして、そっくり投げ返してやろうかと思ったブレイブだったが、彼はその紙を笑いと共に丁寧に折り直すと、それを甲板から広大な空へ向けて、そっと手放した。
折り畳まれた紙は、風を受けてどこまでも遠くへと飛んでいった。
「いいのか?」
サラマンダーが、その光景を静かに見つめながら尋ねた。他人に開けられたくないほどの内容が書かれている紙である。飛ばして良いものだったのかが心配になった。
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