姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

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第五話 賭け事

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 飛行船内の賭博場。
 地上の薄汚い酒場にあるそれとは客層が異なり、金に困っている様子はなく、純粋な娯楽として賭博を楽しむ人々で溢れている。もちろん、中には生活を賭けて勝負に挑む、博打打ちもいるが、ここでは少数派だった。
 
「ブルー、調子はどうだ?」
 ブレイブは賭けの席を立つと、ブルーの席へ賭けの調子を伺いにいった。
 
「ダメだ、負け続きだ」
 ブルーは顔を覆い、首を振る。手元のチップが心細くなっていた。
 
「下手なのかもな、俺たち」
 ブレイブは、半分本気で呟く。ブレイブは全ての掛け金を失ったばかりだった。
 
「そうかもな」
 ブルーは否定しなかった。
 
 ウォォォォォォ!
 
 突然、賭博場の遠い一角から、人々の熱狂的な歓声が沸き起こった。
 
「何だ?」
 
 ブレイブは近くにいた上品な男に声をかけた。
「向こうの席で何かあったのか?」
 
 男は、手を口に当てると、静かに教えてくれた。
「どうやら、どこかのお嬢様が大勝ちしているらしいんだ」
そう言うと、質問に答えてくれた男は、その幸運にあやかろうとせずに賭博場から出ていった。
 
「だとよ、ブルー」
 ブレイブは興味を惹かれ、ブルーの木札を覗き込んだ。
 
「また負けだ」
 ブルーは、呆れたように机に頬杖をついた。
 
「見に行ってみねぇか? 勝ち続けているやつから運気を分けてもらうんだ」
 ブレイブは、たった今負けたばかりのブルーを誘う。
 
「勝ってるやつ見に行っても、腹立つだけだぜ……」
 ブルーはそう言いながらも、渋々、ブレイブに付き合った。
 賭けの席に集まる群衆をかき分けて奥に進むと、その中心の席で、信じられない光景が広がっていた。大勝ちし、金貨の山を築いているのはカリーナだった。
 
「マジかよ……」
 ブレイブは言葉を失う。
 
 カリーナは、勝負に飽きたのか、賭け事をそこそこに席を立った。手には、ずっしりと重い大袋に入った、大量の金貨があった。
 
「二人ともいたんだね」
 カリーナは、少し前に人から借りた金を全額すった惨めな二人を見て、涼しい顔で微笑んだ。
 
「まさか……賭け事の才能があったとはな……」
 ブレイブはぽつりと呟いた。
 
「そんな眼をしてもあげないわよ。これは大事な生活資金だから。アイに預けるわ」
 カリーナは、その金貨の袋を抱きかかえるようにして言った。
 
「流石の俺たちも、姫様の生活資金にまで手は出さねぇよ」
 ブレイブは、かろうじて残った一欠片の良心で、欲に抗った。
 
「なぁ、ブルー」
 
「……」
 ブルーは、何も答えなかった。
 
「ブルー?」
 ブルーは、飢えた狼のような眼で、カリーナの手にある金貨の袋を、ただ一点だけ見つめていた。

 ◆◇◆◇
 
 飛行船内の高級レストランでは、ゆったりとした空の旅を楽しみながら、アイとサラマンダーは早めの昼食をとっていた。
 
「ジロジロ見られて大変じゃないですか?」
 アイは、スプーンでスープを一口飲んだ後、向かいのサラマンダーに尋ねた。
 サラマンダーの龍人の姿は、当然ながらこの上品なレストランでは非常に目立っていた。
 
「そんなこともない。見た目が見た目だから、変な輩に絡まれる心配はないからな。それより、大変なのは、オークの見た目のブルーだろう」
 サラマンダーは肉を切って口に運んだ。
 
「そうですね……」
 アイは、飛行船に乗る前の二人の騒動を思い出しながら、スープを啜った。
 
「あ、いたいた!」
 ジャラジャラと金貨の詰まった袋を鳴らしながら、カリーナがやって来る。
 
「なんですか? その袋は」
 アイは、口周りをナプキンで拭くと、カリーナに聞いた。
 
「大勝ちしたのよ! 預かっといてちょうだい」
 カリーナは、袋の口を大胆に開く。眩しく光る金貨に、アイは思わず顔を逸らした。
 
「ほお。それだけ賭け事がお上手なら、それだけで生活していけるのでは?」
 サラマンダーは、龍人特有の冷静な声で関心を示した。
 
「サラマンダー?」
 アイは、生活資金を賭け事に頼ることを助長するような発言に、サラマンダーをジロリと睨む。
 
「コホン……失礼」
 サラマンダーはわざとらしく咳をすると、食事の続きを始めた。
 
「カリーナ、こんなところで開いたら危険ですよ」
 アイは、カリーナの手を抑えると、金貨の詰まった袋の紐をキツく結び直した。
 
「分かってるわ。だから貴女に預けるのよ。それに……」
 カリーナは、隣のテーブルから椅子を持ってくると、それに腰を下ろした。
 彼女の顔には、金銭以上のものを手に入れたという、確信に満ちた表情が浮かんでいた。
 
「いい情報を貰えたわ」
 カリーナは自信気に言った。
 
「金貨1000万枚相当!?」
 アイが、思わず耳打ちされた言葉を大声で復唱してしまう。
 
「しー!うるさいわよ、アイ!」
 
「ごめんなさい……」
 アイは、慌てて口を塞いだ。
 
「しかし、ドワーフの国で、そんな途方もないものが作られているとはな」
 サラマンダーが興味深そうに顎を触る。
 
「報酬には、それを頂きましょう」
 カリーナは、笑顔で大胆に宣言した。
 
「そう易々と渡せるような代物ではない気がしますが……」
 
「考えるより先に行動よ、アイ。ぶつかってから考えるの!」
 アイは、そんなカリーナの、有無を言わせぬ強い笑顔に押し負けた。

 ◆◇◆◇

「戻ったぞー」
 賭博場から、ブレイブとブルーの二人が、肩を組みながら帰ってきた。
 
「どうした? みんなして」
 親に叱られた子供のような顔をするアイを見て、ブレイブは不思議に思った。
 
「向こうに着いてからやることが、明確になったわ」
 カリーナは、パンと両手を叩いた。
 
「そうか、それは良かった。俺たちも金がなくなって、視界が綺麗になったところだからな」
 ブレイブは爽やかにそう言った。
 
「今なら、空の果てまで見えそうだぜ!」
 ブルーは両手で丸を作り、眼鏡を作って見せた。
 
「機嫌が治って良かったわ」
 カリーナは、一呼吸おくと――
 
「外に出ない?」
 皆を外に誘った。
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