姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

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第九話 三番港

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 宿屋の前には、戦闘で地面に倒れた多くの男達が横たわり、騒ぎを聞きつけた野次馬が人だかりを作り、街の警備兵が男達を次々と運び出していた。
 
「終わった?」
 カリーナは、宿屋の前に集まった皆に尋ねた。
 
「全員、終わったみたいですね」
 アイが、宿屋の入り口からゆっくりと外に出てきた。
 彼女の服には、埃一つ付いていない。
 
「アイはずっと宿屋に?」
 カリーナはアイに尋ねる。
 
「はい。襲撃者達の意識は全員そちらに向かっていましたので、私は宿屋で一人静かに待っていましたよ」
 アイは、一連の騒動とは無関係であるかのように冷静に答えた。
 
「ブルー、落ち着いたか?」
 ブレイブは、道脇に座り込んでいるブルーに聞いた。
 ブルーの毛皮の色は、興奮状態の真紅から、元の落ち着いた茶色に戻っていた。
 
「ああ、おかげさまでね」
 ブルーは、ゆっくりとした口調でそう言った。
 
 辺りは増え続ける群衆と、駆け回る兵士たちで収集がつかなくなっていた。ドワーフの国とはいえ、この種の騒乱は珍しいのかもしれない。
 
 カリーナは、この状況に辟易としていた。
 
「寝ましょうか」
 カリーナのその一言に、この騒動を起こした全員が頷き、静かに宿屋へ入っていった。

 翌朝。昨夜の激しい出来事を忘れてしまったかのように、街は元通りに舗装され、活気を取り戻していた。
 
「これがドワーフの技術……」
 一晩で完璧に修繕された通りを見て、カリーナは感嘆の声を漏らした。
 
「良かったですね、修理費を請求されなくて」
 アイは、建物の壁をペタペタと触るカリーナに、冷静に釘を刺した。
 
「あ、あはは……」
 カリーナは、図星を指されて気まずそうに笑った。
 
「なぁ、ブレイブ。トゥオブ商会のジルって奴が内通者なんだっけ?」
 ブルーは、歯に挟まった朝食でも気にしているのか、シーシーと口から音を鳴らしながら外に出てきた。
 それに続いて、サラマンダーも出てくる。
 
「揃ったわね」
 
「カリーナ、今日はどうする?」
 サラマンダーは、今日の行動方針をカリーナに尋ねる。
 
「もう一度、トゥオブ商会に行くわ」

 ◆◇◆◇
 
 昨日と同じ応接室に通されたカリーナ達は、昨日と同じく、商会長のバラガを待った。
 キィ……と扉が開き、バラガが応接室に入ってくる。
 
「遅れてすまない。少し立て込んでいてな」
 バラガは、昨日とは打って変わって、どこか疲れたような表情をしていた。
 
「それで、昨日の今日で何の話が……」
 バラガはカリーナに尋ねる。
 
「ここの商会の副会長ジルについて話したいことがありまして……」
 カリーナは、昨夜の襲撃の詳細をバラガに説明し始めた。
 
「ほお、それで」
 バラガは眉間に深く皺を寄せた。
 
「実は昨夜の騒動の首謀者がジルだと、襲撃者の人が吐き出しまして……」
 
「なるほど、そういうことか……」
 何か思い当たる節があったのか、バラガは何かを納得した様子だった。
 
「実は、今度、商品を運送することを任された商人が数人、突然、行方不明になってな。その代わりの商人達を、ジルが手際よく手配してくれたんだが……」
 
「自分の駒を使って、都合よく商品を奪おうと……」
 アイが、バラガの考えを整理するように、小さく呟いた。
 
 バラガはそんなアイの独り言を拾う。
「さぁな。君たちの話が本当かどうかも定かではないから、真相は分からんが。調べる価値はありそうだ」
 バラガは、残念そうに肩を落とした。
 
「はぁ……ジルのアホが……」
 
「バラガさん! 是非、私達にジルの居場所を教えてください!」
 カリーナは、机に乗り出す勢いでバラガに詰め寄る。
 
「ジルは、今、三番港の支部にいるはずだ」
 バラガはため息混じりにそう伝えた。

 ◆◇◆◇

 三番港。
 アルブヘイブンが他国へ輸出する商品の多くは、比較的大きな機械類であり、その多くはアルブヘイブンの海にある港から船で運ばれていく。
 数多くある港には、それぞれどの国に輸出するものなのかを区別する為、各港に数字が振ってあり、三番港は、カルファス王国に輸出する港であった。
 
 そんな港に面するように、トゥオブ商会の巨大な支社が建っていた。
 
「これまたデケェ建物だな」
 ブルーは、その巨大な建物を仰ぎ見て、感心した。
 
「ジルが中にいたとして、どうするんだ?」
 ブレイブは、冷静にカリーナに尋ねる。
 
「そりゃもちろん、こうよ!」
 カリーナは、拳を作ると、振り下ろすジェスチャーをした。
 
「カリーナ、真実が分かってから行動しましょうね。無実かもしれませんから」
 アイは、興奮するカリーナを宥めた。
 
「とにかく、盗賊団を壊滅させたら、足? 羽根? をバラガのおっさんから貰えるんだろ」
 ブルーは、体を伸ばして戦闘準備の運動をした。
 
「その予定よ」
 カリーナは扉を開け、トゥオブ商会の支部へと足を踏み入れた。

 建物内は、バラガがいた本部の建物とは異なり、受付の人が見当たらず、人の気配を感じなかった。

「怪しさ満点ね」
 カリーナはそう言うと、建物を探索し始める。

「カリーナ、勝手にそんなことをしたら……」
 アイが不安そうに呟くと、ブレイブがアイの肩をポンと叩いた。

「何か言われたら、後で謝ればいいだろ。いつものことだ」
 アイは、そんな能天気なブレイブの発言に、頭が痛くなった。

「こんな些細な事で、そんなに気を病むな、アイ。どうせこれからもっと取り返しのつかない事になる」
 半ば既に諦めているサラマンダーは、アイをそう諭した。

 一行は、一階から二階へと上がり、盗賊団の手掛かりを見つけるべく、もぬけの殻になっていた建物を物色していた。
 突然、バタン!と言う音と複数の足音が建物内を響かせた。
 商会の入り口の扉が開き、何者かが入ってきたのである。
 
「誰だ!私の建物に勝手に入っているやつは!」
 一階から、男の怒号が聞こえてきた。

 アイは、「ほら言ったでしょう」と言わんばかりにサラマンダーの顔を覗く。
 サラマンダーは肩をすくめた。
 

 
 
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