姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

文字の大きさ
20 / 42

第二十話 酒場の騒動

しおりを挟む
 カルファス王国の王都。その正門を潜ったカリーナ達が目にしたのは、死んだ魚のような目をして街を歩く人達と沈黙した街であった。

「……よっぽどの悪政を敷いてるみたいだな」
 サラマンダーが下を向いて、そそくさと歩く人々を見て吐き捨てるように言った。

「とっとと、この国を蝕む悪い奴をぶちのめすわよ!」
 カリーナは両手の拳を合わせる。いつも以上の気合が入っていた。

「カリーナ、口が悪くなっていますよ」

「情報収集と言えば酒場!ついてきて!」

 ◆◇◆◇

 酒場に入ると、王都に漂う空気とはまた違った空気が流れていた。酒の力のおかげか、幾分か活気があり、人々から笑顔が見えていた。

 カリーナは、気持ちよさそうに酒を口に運ぶ年老いた男性に話を聞くことにした。
 
「隣、いいかしら?」

「ん……?見ない顔だな。外から来たのか?物好きな奴だ。座って良いぞ」
 男は見定めるようにカリーナの顔を覗くと、カリーナ達を歓迎した。

「ええ、外から来たわ」

「そうか、この国にいても楽しくないだろう。またどうしてこんな国に」

「こんな国になってしまった真相を探りに来たのよ」
 カリーナは真意をはぐらかさずに直球で伝えた。

 男はカリーナの発言に耳を疑うと、ジョッキをテーブルに置き、周りを確認してから小声で話した。

「滅多なことを言うんじゃない……奴らが聞いていたらどうする?」

「奴らって誰よ」

「正規兵だ」

「でもその正規兵は、ただの貴族のお抱えなのよね?」
 
 男は口に人差し指を当てると、カリーナに静かにするように促した。

「一つ忠告しておくぞ。正規兵に逆らってみろ、直ぐにその首が飛ぶ。明日には広場で晒し首だ」
 男の言葉からは、まるで自分がそれを目撃したかのような重みを感じた。
 それから男は、追加の酒を頼んだ。

「その貴族の名前を聞いてもいいでしょうか?」
 後ろで二人のやりとりを立って見ていたアイが男に尋ねる。

 男は届いたジョッキに手を伸ばしながら、アイの方を向くと目を細めた。

「頼むから、ワシをそんな話に巻き込むな。今ある命を大切にしたい」

「分かった、失礼するわ」
 カリーナはゆっくりと席を立った。

 バタン!

 突然、酒場の両開きの扉が大きな音を立てて開かれ、酒場にピンと張り詰めた空気が流れた。
 全身を金属の鎧で包んだガラの悪い兵士が数人、酒場に入って来たのである。
 その胸元には、蛇の胸章が描かれていた。

「そこをどけ!」
 兵士の一人が、まるで命からがら辿り着いたオアシスを奪われたかのような悲痛な表情を浮かべる客を蹴り飛ばし、強引に席を奪い取った。

「良かったわ。手っ取り早く話が聞けそうね」
 カリーナは、ゆっくりと兵士が座るテーブルへと歩き出した。

「何だ?お前ら」
 兵士の一人が威圧するかのようにカリーナを睨みつける。

「少し質問したいことがあるんだけど」
 カリーナはそんな威圧をものともせずにニコニコとしながら話し始めた。

「人にものを尋ねる時は、礼儀ってものがあるんじゃねぇのか?」
 座っていた兵士達が次々と立ち上がる。

「礼儀ねぇ。昔に置き忘れてしまったわ」

「テメェ……。ほお?よく見れば可愛い顔をしているじゃねぇか。後ろの女も上玉そうだ」
 兵士達がニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべながら、カリーナの周りに集まってくる。

 サラマンダーがそれを見て、鞘に手をかけた。
 何かが弾ければすぐに戦いが始まる。そんな雰囲気が酒場に漂い始め、戦いに巻き込まれたくない客が次々と店の外へと出ていき始める。

「それで、私のお願いを聞いてくれるかしら?」

「言ってみろ。但し、俺たちの願いも聞いてもらうぞ」

「貴方たちを雇っている人は誰?」

「知らねぇな。なぁ、お前ら」
 男達はニタニタと笑いながら首を横に振った。

「ほら、答えてやったぞ。次は俺たちの……」

「ありがとうね。それじゃあ」
 カリーナは酒場から出ようと入口の方に歩き出す。

「待てよ。誰が勝手に外へ出ていいと言った?俺たちのお願いも聞いてもらうぞ」
 兵士達はカリーナの周りを取り囲む。

「邪魔だからどいてくれる?」

「冷たいこというなよ」
 
 兵士の一人がカリーナに手を伸ばそうとしたその時――

 ズドン!!ガラガラガラガラ

「うぐぅっ!」

 鈍い衝撃音と共に兵士の一人がテーブルを巻き込んで吹き飛び、壁に思い切り叩きつけられた。

「退いてって言ったよね?」
 カリーナは握った拳を解く。

「この女ぁ!!」
 一人の兵士が剣を抜き、カリーナに襲いかかる。しかしカリーナは、その剣の刃を拳で折ると、そのまま腹に思い切り拳を叩き込んだ。

 ズドドドドン!

 その拳撃で男は酒場の壁を突き破り、表の通りまで、吹っ飛んでいく。

 少し離れたところからカリーナを見守っていたアイは、その光景を見て頭を抱え、サラマンダーは鞘にかけた手を離して笑い、アイに背中を叩かれた。

 カリーナに襲いかかる兵士達は次々と投げ飛ばされ、拳に沈められていき、あっという間に全員が地面に倒れたのであった。

「くそ……なんだ、この女」
 カリーナは、まだノビていないかった男の元へ近づくと、満面の笑みで質問を投げかける。

「それで、誰が貴方達の主なのかしら?」

「教えねぇよ」
 男は吐き捨てるように答えると、意識を手放した。

 戦い終わったカリーナの元に、アイとサラマンダーがゆっくりと歩み寄る。

「もう少し穏便に済ますことはできなかったのでしょうか?」
 アイは、カリーナの顔を両手で挟むと、壁に大穴が開いた酒場の方へ首を動かさせた。

「あらやだ、私ったら」
 視線を逸らしながらカリーナは答える。

「ひ・め・さ・ま」

「いたぞ!こっちだ!」
 騒ぎを聞きつけた兵士たちが集まってくる。

「アイ、お叱りは後にして。今は……」

 迫り来る兵士たちに懲りずにファイティングポーズを取ろうとしていたカリーナの首根っこを掴んだアイは、サラマンダーと一緒に逃げ始める。
 背後から弓矢が飛んでくるが、サラマンダーが綺麗な太刀筋でそれを切り落としていた。

「ねぇちょっと!アイ、どこいくのよ」

「無限に湧いてくるように兵士達とこれから戦い続けるなんて正気じゃないです、今は逃げましょう。キリがありません」

 三人は、次々と合流して数を増やしつづける兵士たちを撒こうと王都の入り組んだ路地を駆け回った。
 右に左にと道を逸らし、撒こうとするが数の暴力に押され、どの道を曲がっても兵士たちと出会ってしまう。
 徐々に逃げ道が塞がれていく。

「どうするのよ、アイ。戦って数を減らすしかないわ」
 カリーナは隣を走るアイの顔を見る。

「一旦、諦めて出直すしかありません」

 追っ手との距離を離せところでカリーナ達は立ち止まり、呼吸を整える。
 しかし、しばらくしてまた追っ手の声が近くで聞こえ始め、逃げざる得なくなってしまった。

「君たち、こっちだ!入りなさい!」

 突然、どこからか男の声が聞こえてきた。

「こっちだ!早く!」

 声が聞こえる方向に、建物と建物の間に人一人が通れるほどの細い隙間があった。その隙間に立つフードを被った男が、カリーナ達を手招いていたのである。

「いたぞ!犯人がいたぞ!」
 兵士たちに見つかり、徐々にその距離を詰められていく。気づけば、通りを挟み込まれていた。

「行くしかないわ」
 カリーナ達は、意を決して細い隙間へと入っていった。


 
 

 
 

 
 
 
 
 


 
 
 
 

 

 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

処理中です...