姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

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第二十一話 レオンハート

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「暗いから足元に気をつけてくれ」
 フードを深く被った男の声が、湿った空気の漂う空間に低く響いた。彼が掲げるランプの淡い光が、石造りの狭い階段をぼんやりと照らし出す。カリーナたちは、その背中を追って地中深くへと潜っていた。
 
 数分前、絶体絶命の窮地で男の誘いに乗ったカリーナたちが目にしたのは、信じがたい光景だった。男が短く呪文を唱えると、何もないはずの地面に魔方陣が浮かび上がり、隠し扉が出現したのだ。
 
 男に促されるがまま、追っ手の怒号を背に扉に飛び込んだ三人は今、王都の地下に伸びた階段を降りていた。
 階段を下りきった突き当たり。重厚な鉄の扉の前で、男は足を止めた。
 
「アドウ」
 扉の向こうから、声が聞こえてくる。
 
「スタラ」
 男が合言葉を返すと、重い音を立てて扉が開かれた。
 そこには、想像もつかない光景が広がっていた。巨大な地下洞窟を改造した基地である。
 そこら中で、鎧を纏った兵士たちが武器を磨き、地図を広げて議論を交わし、洞窟の通路を兵士たちが行き来しているのだ。
 
「ようこそ、我らが反乱軍の拠点へ」
 案内された一室で、男は深く被っていたフードを外した。
 現れたのは、短く整えられた黒髪に、彫りの深い凛々しい顔立ち。そして、服の上からでもわかるほど強靭に鍛え上げられた、丸太のような腕の筋肉。その佇まいは、彼が長年戦場を支配してきた武の者であることを証明していた。
 
「私の名前は、レオンハートだ」
 
「カリーナよ。後ろの二人はアイとサラマンダー。私たちは何でも屋『ベルタ』……それで、ここは一体どこなの?」

 レオンハートは、肩に食い込んでいた金属の胸当てを外すと、重々しくソファーに腰を下ろした。
 
「ここは反乱軍の司令部だ。この腐りきった国を、この国の貴族――クラリオ・ビザカルの手から奪還するためのな。……君たちのことは、酒場の部下から聞いている。この国の真実を暴きに来たそうだな」
 カリーナは一瞬、眉を潜めて警戒の眼差しを向けたが、レオンハートは苦笑して首を振った。
 
「すまない、探っていたわけではない。あの酒場は、我々の情報収集の場でもあるんだ。君たちの派手な立ち回りが、嫌でも耳に入っただけだ」
 
「……そう。それならいいわ。で、どうして私たちを助けたの?」
 
「この国を蝕む連中に正面から立ち向かえる、本物の戦士だったからだ」
 レオンハートは指を組み、射抜くような視線をカリーナに向けた。
 
「単刀直入に言おう。君たちの力が欲しい。この軍に加わり、共に戦ってくれないか」
 
「軍に加わるのはお断り。私たちは私たちのやり方でやる……でも、協力関係なら結べるわ」
 カリーナが不敵に笑って手を差し出すと、レオンハートはわずかに目を見開いた後、力強くその手を握り返した。
 
「ああ、それで十分だ。感謝する」

 カリーナたちは、レオンハートから国の惨状を詳しく聞いた。不当な重税、消えた正規兵。そして城に囚われた国王夫妻。

「他の貴族は王都を助けないわけ?」

「王都より自分の領地が大切だから王都に興味がない」

「同じ国民なのに?」

「貴族は貴族、平民は平民として、平民寄りの政策を行う王様だから、貴族からの評判があまり良くないことも助けない理由の一つだ」

「何よそれ……」
 カリーナは貴族の態度に開いた口が塞がらなかった。
 
 
「まぁそれ以外の話は、カルから聞いていた話と大体同じね」
 
「カルか……懐かしい名だ。今も元気にしているか?」
 レオンハートは優しく問いかける。
 
「大変そうだったけど、元気にやってたわよ。知り合いなの?」
 
「知り合いも何も……彼は、私の元にいた最も信頼できる部下の一人だ」
 アイが怪訝そうに尋ねる。
 
「失礼ですが……貴方の以前の役職は?」
 
「この国の正規兵を束ねる兵長だ」
 その言葉に、カリーナとアイは思わず目を丸くした。かつての軍のトップが反乱軍を率いていたのだ。
 
「どおりで。その強靭な肉体と覇気、納得した」
 後ろで立っているサラマンダーが一人、深く頷く。
 
「話を進めよう。君たちはアリス王女の依頼で、この国を救うために来た。我々の目的は、国を私物化するクラリオを倒すこと。目的は一致しているはずだ」
 レオンハートは立ち上がると、机の引き出しから『海鳥の胸章』を取り出した。
 
「それは?」
 
「カルファス王国の正規兵にのみ与えられる名誉の証だ」
 彼は胸章をカリーナに手渡すと、厳粛な声で告げた。
 
「一人ずつこれを胸に当て、誓ってほしい。己の信念の下に、自由のために戦うと」
 カリーナ、アイ、サラマンダー。三人は代わる代わるその重みを感じながら、それぞれの心の中で誓いを立てる。

「早速だが、作戦の準備に取り掛かる」
 レオンハートが地図を広げた瞬間、勢いよく部屋の扉が開いた。

「一つお願いしたいことがあるんだけど……」

「どんな願いだ?」

「私たちって貴方達みたいに規律の下に行動するのが出来なくって……出来れば別行動でも良いかな?だけど安心して。戦いは任せて欲しい!」

「分かった、戦いは任せよう」

 バン!
 
「レオン様! 朗報です!」
 扉を開け勢いよく入ってきた兵士が、興奮を隠せずに叫んだ。
 
「各地に潜伏していた元正規兵の面々が、我々の決起に応じて合流してくれるそうです!」
 
「本当か!?」
 
「はい! 明後日には王都へ到着するとの報せが!」
 その報告に、レオンハートは大きく肩の荷を下ろした。深刻な兵員不足に悩んでいた彼らにとって、それは勝利への希望を繋ぐ女神の微笑みだった。
 
「風向きが変わったようだ。……カリーナ、三日後に決行だ」

「私たちが来てからトントン拍子で話が進んでいるけど、三日後にいきなり行動できるの?」

「心配無用。いつでも作戦を実行できるように私たちは準備をしてきた。あとは実行するのみだ」
 レオンハートは胸を大きく叩く。

「頼もしいわね。三日後、思い切りやり返してやりましょう!」
 カリーナは両手の拳をバチンと合わせた。
 
 サラマンダーが、ふと外の様子を気にするように口を開いた。
「だが何にせよ、まずはこの王都から出なければな。森で待つブレイブたちと話が出来ない」
 
「その心配は無用だ。この地下洞窟は王都を網の目のように走り、王都の外まで繋がっている」
 レオンハートは誇らしげに地図の隠しルートを指し示した。
 
「やるじゃない!……それじゃあ、作戦決行日に向けて、作戦を叩き込みましょうか」
 
 レオンハートの指が、地図上の王都の入り口をなぞる。
 
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