姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

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第三十話 反撃の時

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 王都上空には『スターダッシュ号』の姿があった。乗船しているのは、アイとアリスの二人である。
 二人は王都の上空から戦況を見守っていた。

 アリスは、小窓に張り付きながら祈りを捧げていた。二人に任せられた仕事は、王と王妃を救出したカリーナ達の脱出を手伝うことである。

 王都を馬が駆け回り、あちらこちらで爆発が起きる。アリスはそんな戦場を眺めながら、今の自分に出来ることがないかを必死に考えていた。
 アリスは敵を倒せるだけの武力を持っていない。それだけでなく知力も大人に比べれば足りない。しかし王女として、この国を救うために一人、行動するだけの心の強さは持ち合わせている。

 昨夜のカリーナの言葉を思い出しながら、アリスは自分に出来ることを考え続ける。
 やがて、一つの答えを見つけた。

「アイ様は、戦いに向かわなくて大丈夫なのでしょうか?」

「私が任せられているのはアリス様の護衛ですので、戦いには向かいません」
 
 操縦桿を握るアイは、後方からのアリスの質問に背を向けながら答えた。アリスの方を向くことが出来ないのは、前に後ろにと操縦桿を器用に倒しながらホバリングする操作に多くの集中力を要するからあった。

「それはわたくしが、どこにいても護衛をしてくれるということでしょうか?」

 何かしらの意図を孕んだアリスの質問に疑問を浮かべながらも、護衛対象がどこにいても護衛が仕事であるなら、対象を護らなけらばならないという至極当然のことに、アイは大きく「はい、もちろんでございます」と返事を返した。
 アリスの質問攻めは続く。

「アイ様はお強いですか?」

「一騎当千とまではいかないでしょうが、お強い方だと自負しております」

「今わたくしが、あの戦場にいたとして護りきれますか?」

「護りきりますよ」
 アイは当然だと答えてみせた。

「それならアイ様にお願いがあります」
 
「何でしょうか」

「わたくしをあの戦場へ連れていってください!この国の力になりたいのです!」
 アリスの思わぬ発言にアイは、思わず操縦桿から手を離しそうになる。

「アリス様。例え、戦場であっても護りきりますとは言いましたが……自ら戦場に飛び込むことについて、許可を出すことは出来ません」

「アイ様。わたくしは本気です」
 アリスは操縦桿を握るアイの真横に立った。

 アイは、アリスの覚悟を決めた目つきにカリーナの姿を重ねていた。
 
 (弱々しかったカリーナが覚悟を決めたあの時……私はその思いを汲んでカリーナの意思を尊重した……)

「分かりました」
 アイは覚悟を決めると操縦桿を前に倒し、飛行船を下降させた。

 戦場が近づくにつれ、戦場の凄惨な光景がアリスの目に映る。しかしアリスはその光景から目を逸らさなかった。

「降りますよ」

 局地的な戦いに移行している戦場では、兵士の姿が見えず、ただ死体が放置されているだけの通りが幾つもあった。その内の一つ。王都の一番端の通りに、アイはゆっくりと飛行船を降ろした。

 プシューッ

 ハッチが開き、アリスとアイは地面に降り立つ。

「アリス様、これからどうなさいますか?この飛行船はかなり目立っていましたから、もうそろそろ、ここに敵がきてしまいますよ」

 アリスは通りの中心に立つと、建物の中に避難している国民に大声で呼びかけた。

「わたくしは、アリス・シビーク・カルファス。カルファス王国の王女でございます!」

 アリスの声を聞いて、カーテンの隙間から覗き見る国民の姿がちらほらと見え始める。

「今、この国は悪い人たちに蝕まれています。しかし今日!わたくし達の誇り高きカルファス王国正規兵・兵長率いる反乱軍が、悪い人たちからこの国を取り戻そうと戦ってくれています!」

「これからわたくしは戦場へ向かいます!武器ならこの飛行船にいくらでもあります!共に戦って下さい!お願いします!」
 アリスは王女らしからず頭を下げたが、アリスの必死の呼びかけに国民は出てこなかった。

「いたぞ!こっちだ!」
 飛行船を見つけた敵兵が、アリス達を目掛けて走ってくる。

「来ましたよ、アリス様」

「アイ様、あの炸裂玉を投げて下さい」

「かしこまりました」

 アイは船内に戻ると、炸裂玉の入った木箱を一つ持ち出した。それを地面に置くと、中から一つだけ炸裂玉を手に取ると、それを思い切り、振りかぶって敵の集団に投げつけた。

 ズドオオオオン!!!

 凄まじい爆音と衝撃波で敵の集団は木っ端微塵になった。

「ブレイブとブルーはこんなものを、隠していたのですね」
 
 その炸裂玉の威力を確認したからか、近くの建物の扉がキィと開く。中から分厚い腕を持った男が袖を捲って歩いてきた。
 
「姫さんや、その球を敵に投げつけるだけでいいなら力貸すぜ」

「ありがとうございます!」
 アリスは男に頭を下げると、木箱を運び出す為に船内に戻っていった。

「お前ら!この球を投げるだけで敵がぶっ飛ぶんだ!家から出てきて手伝いやがれ!」
 男はさっきまで避難していた建物に呼びかける。すると中から男の知り合いが続々と外へ出てきた。それに続くようにして、建物という建物の扉が開き、民衆が顔を出し始めた。

「数は多い方がいいだろ?」
 男は迫り来る敵兵に無言で、炸裂玉を投げ続けるアイの横顔を見る。

「もちろんです。玉ならいくらでもありますから」
 アイは炸裂玉を投げながら返事を返した。

「やるぞ、テメェら!幼い女の子だけに任しちゃならねぇ!」
 男の投げた球が敵の集団にぶつかり、爆ぜる。

「投げて投げて投げまくるんだ!」

 次々と炸裂玉を投げ続ける国民達。魔法使いが魔法を唱える前に爆ぜ、重厚な盾を構えた兵士の盾が爆風で飛ばされる。彼らの前では、いや炸裂玉というドワーフの作り上げたオーバーテクロノジーの前では全てが無力であった。

「大丈夫か!?助けに来た……ぞ」

 突然、近くの地面が白く光ると、数名の反乱軍の兵士が地上に現れた。この通りの騒ぎを聞きつけた反乱軍が民を助ける為に兵を送り込んだと彼らは説明するが、目の前に広がる光景は違っていた。
 
 迫り来る敵兵士の大群を炸裂玉で返り撃つ国民の姿を見た反乱軍の兵士たちは、その光景に脳を震わせる。

「これなら勝てる……」
 
 丁度その時、木箱を船内から運び出してきたアリスの姿を見つけた兵士たちはひざまづくと協力を申し出た。

「アリス様。私たちにも手伝わせて下さい!」

 アリスはうなずくと、兵士に木箱を手渡した。

「まだまだあります。運んでください。そして反乱軍の皆さまにも分けてあげて下さい」

 木箱を抱えた兵士は、地面の扉を開けるとまた地下へと潜っていった。
 すぐに他の通りの戦いにも変化が訪れることを確信したアリスは、カルのつけていたカルファス王国の誇り高き正規兵の胸章を胸につけた。

「さぁ反撃です!」

 士気が最高潮に達し、炸裂玉を身につけ無敵と化した群衆がゆっくりと王都を従軍し始める。

 ――戦況がゆっくりと変わり始めていた。

 
 

 
 

 

 

 

 
 
 
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