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普通科の彼女と特進科の彼。
ポテトも一緒にいかがですか?
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「いらっしゃいませ! ご注文がお決まりでしたらお伺い致します!」
新たに来店したお客様を元気よくお出迎えするバイトさんの声を聞きながら、私は「らっしゃっせー」と鸚鵡返しする。
今日のバイト先はファーストフード店。その店はチェーン店で、どの地区にも点在する珍しくともなんともない存在である。
お客さんが使用した後のテーブルを清拭して、椅子を並べ直したり、ゴミ箱周辺を片付けたり……地味な作業を繰り返していた私はちらりと店の壁にかけられた時計を見上げる。
バイト終了時間まであと30分。高校生が働いていい時間の22時までもうちょっと。
まだまだ仕事は終わらない。使用済みトレイを回収していると、団体客とすれ違った。
制服姿の高校生で、私と同じ高校の特進科2年の集団だった。塾通いか何かで帰る前になにか食べに来たのだろうか。
「今年の生徒会の推薦って顔で選んでんじゃねーの?」
「桐生礼奈に悠木夏生、あとは…あの眼鏡だっけ?」
「もうひとり普通科の女子がいたらしいけど、そっちは辞退されたらしいよ」
しかし、彼らの会話の内容に聞き覚えのある名前が含まれていたため、私はピタリと足を止めた。
特進科の2年…名前と顔は全く知らないけど、彼らはどうやら生徒会役選に関心があるようである。
「あの生徒会長、何考えてるの……私達が一年間どれだけ頑張ってきたかわかってないの?」
どうやら、推薦された1年組に大いなる不満があるようで、彼女らは不機嫌そうに顔を歪めていた。
「顔だけの推薦者に負けるとか笑えないよな」
「生徒会をアイドルグループと勘違いしてんのかな」
「まぁ有利にはなるんじゃね? 困ったことがあっても顔で解決できそうだし」
いえてるーと笑い合う彼ら。
その意見に私は一理あるなと頷いた。
容姿が良ければ、相手の態度は一変するもの。それはこの世の摂理である。
例えば私と桐生礼奈が同じことしたらきっと、桐生礼奈のほうが有利なはずだもの。生徒会の運営は表向きのキラキラしてそうな雰囲気とは別に雑用の仕事ばかり。先生や生徒とごちゃごちゃしたやり取りをすることもあるだろうから、人当たりがいいほうがことがスムーズにいく。
それを考えたら顔がいいほうが得である。
「笑い事じゃないでしょ! ……生徒会活動した実績があれば、進学に有利だし、後々役に立つから頑張ってきたのに、やる気のなさそうな1年を推薦って…気持ちを踏みにじられたみたいじゃない!」
中にいた女子生徒は怒り狂っていた。その声はファーストフード店内に響き渡り、お客さんと店員の視線が集中する。
「…お客様…申し訳ございませんが、他のお客様の御迷惑になりますので…」
仕方なく私がお願いしに行くと、仲間のうちの男子生徒が軽くぺこりと頭を下げてきた。
「あ。すいません……おい、声落とせよ。怒られたじゃねーか」
生徒会長の推薦に反発してる彼らの間には温度差があるみたいだ。気に入らなくて熱くなっている人と。面白くはないけど怒り狂うほどでもない人。あんまり興味がなさそうな人…
彼らはみんな生徒会の関係者なのだろうか。
「……あんなに顔がいいんだから、探せばいかがわしい情報が出てくるんじゃない?」
その不穏な言葉に彼女の仲間は揃って訝しんでいた。
その人は今の今まで沈黙して彼らの憤る姿を傍観していただけであった。てっきり興味がないのかと思ったが、そうじゃなかったみたいだ。
「もともと推薦だもん。少し怖い思いすれば、自分から辞退申し出すでしょ」
──企むようにほくそ笑んだ。
彼らは何かをしようとしている。推薦で出馬することが決まったあの3人を蹴落とすために、何かを…。
拙い話を聞いちゃったなぁ。辞退したとはいえ、一時は私も推薦者に名を連ねていたので、下手したら巻き込まれていた可能性があるなぁと渋い気持ちに襲われる。
盗み聞きしていることがバレぬよう、掃除をしているふりをする。その際にバイト先の制服のポケットに入れている機械を取り出して、きちんと起動し続けていることを確認した。
変な話を聞いたからとはいえ、私は進んで関わる気は毛頭なかった。
だってめんどいじゃん。それに相手が行動を起こさなくては、ただの言いがかりになってしまう。
そんなに生徒会というのは魅力たっぷりなのだろうか。
進学には有利かもしれんが、その分時間を拘束されるので勉強時間も減る。本末転倒てはなかろうか。私には到底理解し難い話である。
そもそも…痛い目に、ねぇ。
推薦3人組を呼び出してカツアゲみたいなことでもするのであろうか。そんなことせずとも、実績があるなら信頼で票を勝ち取ることだって可能だろうに。
そこまでして役員になりたいのか……引くわー。
「森宮さん、上がっていいよ」
「あっ、はい!」
バイト先の先輩に声をかけられた私はお言葉に甘えて上がることにした。着替え終わったあとに店の裏口から外に出て、ぐるっと店の入り口前まで回ってみると、まだ彼らは店内にいた。身を寄せ合って何やら真剣に会議をしているようだ。
生徒会役選、なにやら荒れる気がしないでもない。
◆◇◆
学校でも生徒会役選に出馬する人の噂が流れ始め、昇降口前にある掲示板にはデカデカとポスターが貼られた。
政治家の選挙ポスターさながらである。なんかそれらしいキャッチコピーとともに悠木君のポスターがデカデカと飾られているのを見ると、なんだか笑いたくなる。
「えぇっだめなんですか!?」
「君らにあげたら、他の人もこぞって欲しがるだろう?」
選挙終了後にポスターをくれとねだる女子生徒に選挙管理委員会の人が面倒臭そうに応対していた。
「“学校に革命を、生徒に希望を”…か」
選挙管理委員会の人の後ろ姿を一瞥した後に、もう一度悠木君のポスターを見て、私はフフッと笑った。なんかそれらしいシンプルなキャッチコピーだが、若干クサい。
「それ、生徒会長が適当に決めた文言だからな。俺が決めたんじゃない」
キャッチコピーにツボっていた私をどこで見つけたのか、いつの間にか隣に悠木君が立っていた。目ざとい。
「いいじゃん、かっこいいよ。このキメ顔とか、女性向け雑誌に載ってる俳優みたいで」
私が褒めると、悠木君は平然とした顔で「ふーん」と返してきた。謙遜も何もない。さては自分の容姿に自覚と自信があるのだな。
いやこの容姿で謙遜されたら逆に腹立つし、俺かっこいいと自覚してくれてたほうが逆にいいのかな?
「……推薦、お前みたいに断りゃよかったかもな」
「……え?」
悠木君のつぶやきは油断していたら聞き逃してしまいそうな声量だった。
私が怪訝な顔で悠木君を見上げると、悠木君はどこを見ているのかわからない、遠い目をしていた。
なんとなく、疲れたような顔をしているように見えた。
「あっ悠木君!」
「悠木君、選挙頑張ってね! 応援してるから!」
「…どうも」
何事かと問いかける前に、悠木君は女子の先輩たちに囲まれてしまった。私はその群れに押しのけられ、ぶつかってきた先輩に睨まれた。怖い。
悠木君はといえば、言葉少なめに彼女らの応援を受け取り、興味なさそうに踵を返していた。
なんだろう、今更になって生徒会の面倒臭さに気づいて嫌になり始めたのだろうか。
「あ…見て、悠木夏生だ」
悠木君の後ろ姿を見ていた通りすがりの生徒がヒソヒソと噂話をしていた。
モテ男は大変だなぁとそれをスルーしようとしたのだが、とある単語に私の足は止まった。
「あの人、彼女妊娠させた上に捨てたんでしょ」
以前の私なら、その噂を真に受けていたかもしれない。
だけど今は、それは彼らしくないなと思った。
「まじで? でもありそー。だって各地に彼女がいるんでしょ? 顔いいもんねー」
「だけど桐生さんは? あの人が本命って聞くけど」
周りの人は他人事だからと好き勝手に噂している。
「昨日の放課後、たくさんの女の子くっつけて繁華街の方に歩いていたの見たって子もいるよ」
「うわぁ…」
選挙に出たことで露出が増えて、悠木君に近づく女の子が増えたのかもしれない。それを運悪く学校の生徒が見て、噂がネジ曲がっているのかも…
仮に彼女を妊娠させたら、ちゃんと責任取る男だと思う。少なくとも私はそう思うぞ。
口さがない噂なんてそのうち消えてなくなるだろう。事実無根だろうし。
そう思っていたのだが、イケメン悠木君、そして学校1の美女である桐生さんの周りはどんどん不穏な空気に包まれて行くのであった。
新たに来店したお客様を元気よくお出迎えするバイトさんの声を聞きながら、私は「らっしゃっせー」と鸚鵡返しする。
今日のバイト先はファーストフード店。その店はチェーン店で、どの地区にも点在する珍しくともなんともない存在である。
お客さんが使用した後のテーブルを清拭して、椅子を並べ直したり、ゴミ箱周辺を片付けたり……地味な作業を繰り返していた私はちらりと店の壁にかけられた時計を見上げる。
バイト終了時間まであと30分。高校生が働いていい時間の22時までもうちょっと。
まだまだ仕事は終わらない。使用済みトレイを回収していると、団体客とすれ違った。
制服姿の高校生で、私と同じ高校の特進科2年の集団だった。塾通いか何かで帰る前になにか食べに来たのだろうか。
「今年の生徒会の推薦って顔で選んでんじゃねーの?」
「桐生礼奈に悠木夏生、あとは…あの眼鏡だっけ?」
「もうひとり普通科の女子がいたらしいけど、そっちは辞退されたらしいよ」
しかし、彼らの会話の内容に聞き覚えのある名前が含まれていたため、私はピタリと足を止めた。
特進科の2年…名前と顔は全く知らないけど、彼らはどうやら生徒会役選に関心があるようである。
「あの生徒会長、何考えてるの……私達が一年間どれだけ頑張ってきたかわかってないの?」
どうやら、推薦された1年組に大いなる不満があるようで、彼女らは不機嫌そうに顔を歪めていた。
「顔だけの推薦者に負けるとか笑えないよな」
「生徒会をアイドルグループと勘違いしてんのかな」
「まぁ有利にはなるんじゃね? 困ったことがあっても顔で解決できそうだし」
いえてるーと笑い合う彼ら。
その意見に私は一理あるなと頷いた。
容姿が良ければ、相手の態度は一変するもの。それはこの世の摂理である。
例えば私と桐生礼奈が同じことしたらきっと、桐生礼奈のほうが有利なはずだもの。生徒会の運営は表向きのキラキラしてそうな雰囲気とは別に雑用の仕事ばかり。先生や生徒とごちゃごちゃしたやり取りをすることもあるだろうから、人当たりがいいほうがことがスムーズにいく。
それを考えたら顔がいいほうが得である。
「笑い事じゃないでしょ! ……生徒会活動した実績があれば、進学に有利だし、後々役に立つから頑張ってきたのに、やる気のなさそうな1年を推薦って…気持ちを踏みにじられたみたいじゃない!」
中にいた女子生徒は怒り狂っていた。その声はファーストフード店内に響き渡り、お客さんと店員の視線が集中する。
「…お客様…申し訳ございませんが、他のお客様の御迷惑になりますので…」
仕方なく私がお願いしに行くと、仲間のうちの男子生徒が軽くぺこりと頭を下げてきた。
「あ。すいません……おい、声落とせよ。怒られたじゃねーか」
生徒会長の推薦に反発してる彼らの間には温度差があるみたいだ。気に入らなくて熱くなっている人と。面白くはないけど怒り狂うほどでもない人。あんまり興味がなさそうな人…
彼らはみんな生徒会の関係者なのだろうか。
「……あんなに顔がいいんだから、探せばいかがわしい情報が出てくるんじゃない?」
その不穏な言葉に彼女の仲間は揃って訝しんでいた。
その人は今の今まで沈黙して彼らの憤る姿を傍観していただけであった。てっきり興味がないのかと思ったが、そうじゃなかったみたいだ。
「もともと推薦だもん。少し怖い思いすれば、自分から辞退申し出すでしょ」
──企むようにほくそ笑んだ。
彼らは何かをしようとしている。推薦で出馬することが決まったあの3人を蹴落とすために、何かを…。
拙い話を聞いちゃったなぁ。辞退したとはいえ、一時は私も推薦者に名を連ねていたので、下手したら巻き込まれていた可能性があるなぁと渋い気持ちに襲われる。
盗み聞きしていることがバレぬよう、掃除をしているふりをする。その際にバイト先の制服のポケットに入れている機械を取り出して、きちんと起動し続けていることを確認した。
変な話を聞いたからとはいえ、私は進んで関わる気は毛頭なかった。
だってめんどいじゃん。それに相手が行動を起こさなくては、ただの言いがかりになってしまう。
そんなに生徒会というのは魅力たっぷりなのだろうか。
進学には有利かもしれんが、その分時間を拘束されるので勉強時間も減る。本末転倒てはなかろうか。私には到底理解し難い話である。
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「森宮さん、上がっていいよ」
「あっ、はい!」
バイト先の先輩に声をかけられた私はお言葉に甘えて上がることにした。着替え終わったあとに店の裏口から外に出て、ぐるっと店の入り口前まで回ってみると、まだ彼らは店内にいた。身を寄せ合って何やら真剣に会議をしているようだ。
生徒会役選、なにやら荒れる気がしないでもない。
◆◇◆
学校でも生徒会役選に出馬する人の噂が流れ始め、昇降口前にある掲示板にはデカデカとポスターが貼られた。
政治家の選挙ポスターさながらである。なんかそれらしいキャッチコピーとともに悠木君のポスターがデカデカと飾られているのを見ると、なんだか笑いたくなる。
「えぇっだめなんですか!?」
「君らにあげたら、他の人もこぞって欲しがるだろう?」
選挙終了後にポスターをくれとねだる女子生徒に選挙管理委員会の人が面倒臭そうに応対していた。
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選挙管理委員会の人の後ろ姿を一瞥した後に、もう一度悠木君のポスターを見て、私はフフッと笑った。なんかそれらしいシンプルなキャッチコピーだが、若干クサい。
「それ、生徒会長が適当に決めた文言だからな。俺が決めたんじゃない」
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「いいじゃん、かっこいいよ。このキメ顔とか、女性向け雑誌に載ってる俳優みたいで」
私が褒めると、悠木君は平然とした顔で「ふーん」と返してきた。謙遜も何もない。さては自分の容姿に自覚と自信があるのだな。
いやこの容姿で謙遜されたら逆に腹立つし、俺かっこいいと自覚してくれてたほうが逆にいいのかな?
「……推薦、お前みたいに断りゃよかったかもな」
「……え?」
悠木君のつぶやきは油断していたら聞き逃してしまいそうな声量だった。
私が怪訝な顔で悠木君を見上げると、悠木君はどこを見ているのかわからない、遠い目をしていた。
なんとなく、疲れたような顔をしているように見えた。
「あっ悠木君!」
「悠木君、選挙頑張ってね! 応援してるから!」
「…どうも」
何事かと問いかける前に、悠木君は女子の先輩たちに囲まれてしまった。私はその群れに押しのけられ、ぶつかってきた先輩に睨まれた。怖い。
悠木君はといえば、言葉少なめに彼女らの応援を受け取り、興味なさそうに踵を返していた。
なんだろう、今更になって生徒会の面倒臭さに気づいて嫌になり始めたのだろうか。
「あ…見て、悠木夏生だ」
悠木君の後ろ姿を見ていた通りすがりの生徒がヒソヒソと噂話をしていた。
モテ男は大変だなぁとそれをスルーしようとしたのだが、とある単語に私の足は止まった。
「あの人、彼女妊娠させた上に捨てたんでしょ」
以前の私なら、その噂を真に受けていたかもしれない。
だけど今は、それは彼らしくないなと思った。
「まじで? でもありそー。だって各地に彼女がいるんでしょ? 顔いいもんねー」
「だけど桐生さんは? あの人が本命って聞くけど」
周りの人は他人事だからと好き勝手に噂している。
「昨日の放課後、たくさんの女の子くっつけて繁華街の方に歩いていたの見たって子もいるよ」
「うわぁ…」
選挙に出たことで露出が増えて、悠木君に近づく女の子が増えたのかもしれない。それを運悪く学校の生徒が見て、噂がネジ曲がっているのかも…
仮に彼女を妊娠させたら、ちゃんと責任取る男だと思う。少なくとも私はそう思うぞ。
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