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普通科の彼女と特進科の彼。
知足安分:多くのことを望まず、自分の立場や境遇に満足すること。
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新春明けて、心新たに新学期を迎えた。学年一斉実力テスト当日の朝、しっかり体調も整えた私はしっかり朝ごはんを食べて家を出た。
高校の正門付近を自転車で走行していると、スマホをガン見したり、テキストを見て二宮金次郎像スタイルで歩いている生徒たちの姿を目撃した。危ないなぁ。事故や怪我でテストを受けるどころじゃなくなってもいいのだろうか。
目元に立派なクマさんを飼って明らかに睡眠不足ですという風体で歩いているのは特進科の生徒っぽい。普通科の人も焦っては居るけど、そこまで追い詰められている人は見かけなかった。
校内の自転車置き場にチャリを停め、いつものように昇降口に向かうと「森宮」と後ろから呼びかけられた。
「ややっ悠木君おはよう!」
「…元気そうだな。いつものことだけど」
「昨日は22時に寝たからね! スッキリ目覚めたいい朝だよ!」
睡眠不足は脳の回転を遅らせる。なのでテスト前だけは無理な徹夜を避けているのだ。
「今日のテスト…大丈夫か?」
心の底から心配と言った表情で悠木君は私にテストへの自信を問いかけてくる。
だが心配するな。
私はニッと不敵な笑みを浮かべてあげた。
「任せて……今回の実力テストで結果を出してあやつらをギャフンと言わせてやるから…!」
イヒヒヒ…と不気味に笑ってしまったからか、悠木君がビクッとしていた。おっと思わず笑いがこみ上げてきてしまったぞ。
「結果発表の日を楽しみにしておいて! 悠木君、これから私達はライバルだ! ベストを尽くそうね!」
じゃあ! と私が手を上げると悠木君は苦笑いを浮かべて、私の手にパチンと軽く手のひらをぶつけてきた。別にハイタッチを望んだわけじゃないんだが。
「おう、頑張ろうな」
それにしても悠木君は今日も爽やかだな。徹夜した気配がまるでない。私と同じく、勝負のときは早めに睡眠する主義なのだろうか。
教室の前で別れて自分のクラスに入ると、クラスメイトはみんなテスト前の復習をしていた。私も最後の見直しでもするかな。
テスト自体は何の問題もなく進んだ。お姉ちゃん直伝の書はここでもものすごい力を発揮した。周りがうーんと悩んでいる声を耳にしながら、見直しをする余裕すらあった。
イケる。前回の8位よりも更に上を目指せるかもしれない。
実力テストすべての教科が終わると、HRもそこそこに私は放課後のバイトに出かけた。休んだ分しっかり稼がねば。
生徒たちは教室に居残りして各々自己採点なんてしているみたいだけど、そんなの結果が出たらその時先生が解答くれるし後回しで良いのだ。
□■□
実力テストの日から土日を挟んで3日後、全ての教科の採点が出て順位表が上位100位まで掲示された。
他の学校だと順位表を貼るのを廃止したってところもあるらしいけど、この学校は競争心を掻き立てて学習意欲を高める目的で今も掲示しているんだって。
1学年全体上位100名の名前が1位から順に連なっている……
「およ」
私の口から間抜けな音が漏れる。
いい感じだなと自信を持っていたが、まさかまさかの結果である。
【第一位 普通科一年一組 森宮美玖 四百九十八点】
堂々の1位に私の名前が輝いていた。流石に少し驚いてしまったぞ。
「…お前やっぱり余裕で特進科イケるだろ」
いつの間にか横に立っていた悠木君が呆れた眼差しを私に降り注いでくる。なんだねその目は。
それに悠木君は私を買いかぶりすぎである。
「無理だよ無理ー。今が精一杯だもん」
「過ぎた謙遜は嫌味になるぞ」
今回はいつも以上に本気を出したから出来たの。バイトをセーブしての結果だから、これから先もずっとこれってのは無理である。私はハハッと困ったように笑うと、首を横に振った。
「まぐれだよ」
「まぐれで学年1位とられてたまるか」
私の返事が気に入らないのか、悠木君がアイアンクローを噛ましてきた。なんということだ。悠木君、女子に技をかけてはいけないよ。君はそんな乱暴な男の子ではないでしょう?
とはいえ、全然手に力が入っていないから痛くもなんともないのだが。悠木君手が大きいな。まるでエイリアンが顔に密着しているかのような安心感がある。
私に技をかけているそんな彼は20位に名を連ねている。「悠木君もランクインおめでとう、頑張ったね」とお祝いの言葉を述べると、なぜかほっぺたをつねられた。1位のやつに言われたくないってことか。じゃあなんと言えば君は喜んでくれるんだ。
「おめでとう森宮さん!」
ほっぺたを摘んでくる手と格闘していると、そこに飛び込んだ明るい声。
「流石森宮さん! いつかは下剋上すると思ってたよ!」
「秘伝の書パワー発揮だね!」
「だまらっしゃい!」
また口を滑らせようとする3人娘1名の口を手で覆って塞ぐ。
どうにもこうにも口が軽いなあんたは。
もごもごと何かを言おうとするのを目で制すと、相手は黙った。
「なぁ、秘伝の書ってなに?」
「企業秘密です」
こんな人がたくさん居る中で言えるわけがない。
そもそも悠木君はアレに頼らずとも余裕なのだから存在を知らなくてもなんともないと思うのだ。
しかし私が教えないのを不快に思ったのか、彼はムッと口を尖らせて子どもみたいにいじけていた。別に仲間はずれというわけじゃないのだが、悠木君には面白くなかったのか……あ、悠木君はボッチ気質があるから余計にハブられ感があるのかな…
「…仲間はずれじゃないよ……女の子同士の秘密なんだ…」
「…あぁ、そう」
そう言ってしまえばそれ以上踏み込めないと悠木君は諦めた。不満と不信でいっぱいの顔をしているから、その言い訳で信じているかは謎だが。
「──おい。森宮美玖」
ザッ…と効果音でも醸し出しそうな雰囲気でやってきたのは、苦悶の表情をした例の特進科の輩どもである。彼らはぐぬぅと歯を噛み締め、屈辱だと言わんばかりである。
「わ、悪かったな!」
おぉ、あの約束ちゃんと履行してくれるのか。
でも違うぞ。約束は“私が勝ったら「普通科の分際で」って言葉撤回してもらう”ってこと。
「もう二度と、“普通科の分際で”と普通科の人間に喧嘩を売るマネはしないでね。約束だよ」
「わかったよっ」
吐き捨てるように了承した男子ではあるが、納得はできないと反発しそうな空気がある。
“普通科の分際で”という言葉を使わず、単語を変えて普通科の人間をこき下ろすか、態度に出すだけに済ませるか……彼らの八つ当たり先はこれから先も普通科の関係ない人間になるのかもしれない。
私はコイツらの性根を叩き直す暇もないし、その義理もない。人を変えるのは無理なので、そうなれば諦める。
一番は自分の立ち位置で満足することなんだけどねぇ。上を見ても下を見ても終わりがないんだし。
「私達普通科一同はあんたたちのご機嫌を直すための存在じゃないんだよ。自分の機嫌は自分で取りな! いいね!」
普通に言ったつもりだけど、蓄積していた感情が表に出てきたことで私の言葉は荒々しいものになった。
私の声が廊下に響き渡ると、相手は…っていうか周りにいた特進科の生徒たちは肩をビクリと震わせて驚きを見せた。
それで溜飲を下げた私は鼻を鳴らす。よし、これにて任務完了である。貴重なお昼休みを有意義に活用しようと踵を返した。
「…っ!?」
しかし私の足はぴたりと止まった。思わぬ障害が目の前に立ちはだかっていたからである。
「森宮美玖さん…」
私の背後には教頭先生が突っ立っていたのだ。教頭先生は私を名指しして、なにやらふるふる震えていた。
やべ、掲示板前で大声出したの注意されるのかしらと私が及び腰になっていると、ガシッと肩を掴まれた。
「学業面で明らかに不利な普通科に在籍した上で学年一位を獲るとは素晴らしい…! やはり君は普通科の器ではない! 新学年からぜひ特進科にクラスアップするべきだ!」
「へぁ!?」
「学年主任には先生から話しておこう。大丈夫君ならやっていけるはずだ」
教頭先生に説教されるのかなと思ったら、昇格の話をされた。
…なにを一人で突っ走ってるんだろうこの教頭。全然大丈夫じゃないよ。
「いえ、私は普通科に在籍して普通科の生徒として卒業します」
「何故だ!? 君の才能をそのまま腐らせておくつもりか!?」
「だってバイトできなくなりますし」
私が拒否の姿勢を見せると、教頭先生が愕然とした顔をした。
斜め後ろで「はぁ…」と悠木君がため息を吐き出す音が聞こえた。おい、君は私の目的を知っているはずだろう。先生にクラス替えを迫られて困っている友達を庇って見せたらどうなんだ。
「森宮さん…」
なにやら教頭先生が説教しそうな雰囲気を察知した私はピャッと飛び跳ねて後ずさると、人と人の隙間を狙ってそこへ突っ込んだ。
忍法目くらましの術!
「お昼寝の時間なんで失礼しますー!」
木を隠すなら森!
私は生徒たちに紛れ込み、その場から逃走を図った。
なんといわれようと私は普通科に居座り続ける! これ絶対!
教頭先生が「待ちなさいー!」と騒いでいるけど私は何も聞こえていないふりをした。
高校の正門付近を自転車で走行していると、スマホをガン見したり、テキストを見て二宮金次郎像スタイルで歩いている生徒たちの姿を目撃した。危ないなぁ。事故や怪我でテストを受けるどころじゃなくなってもいいのだろうか。
目元に立派なクマさんを飼って明らかに睡眠不足ですという風体で歩いているのは特進科の生徒っぽい。普通科の人も焦っては居るけど、そこまで追い詰められている人は見かけなかった。
校内の自転車置き場にチャリを停め、いつものように昇降口に向かうと「森宮」と後ろから呼びかけられた。
「ややっ悠木君おはよう!」
「…元気そうだな。いつものことだけど」
「昨日は22時に寝たからね! スッキリ目覚めたいい朝だよ!」
睡眠不足は脳の回転を遅らせる。なのでテスト前だけは無理な徹夜を避けているのだ。
「今日のテスト…大丈夫か?」
心の底から心配と言った表情で悠木君は私にテストへの自信を問いかけてくる。
だが心配するな。
私はニッと不敵な笑みを浮かべてあげた。
「任せて……今回の実力テストで結果を出してあやつらをギャフンと言わせてやるから…!」
イヒヒヒ…と不気味に笑ってしまったからか、悠木君がビクッとしていた。おっと思わず笑いがこみ上げてきてしまったぞ。
「結果発表の日を楽しみにしておいて! 悠木君、これから私達はライバルだ! ベストを尽くそうね!」
じゃあ! と私が手を上げると悠木君は苦笑いを浮かべて、私の手にパチンと軽く手のひらをぶつけてきた。別にハイタッチを望んだわけじゃないんだが。
「おう、頑張ろうな」
それにしても悠木君は今日も爽やかだな。徹夜した気配がまるでない。私と同じく、勝負のときは早めに睡眠する主義なのだろうか。
教室の前で別れて自分のクラスに入ると、クラスメイトはみんなテスト前の復習をしていた。私も最後の見直しでもするかな。
テスト自体は何の問題もなく進んだ。お姉ちゃん直伝の書はここでもものすごい力を発揮した。周りがうーんと悩んでいる声を耳にしながら、見直しをする余裕すらあった。
イケる。前回の8位よりも更に上を目指せるかもしれない。
実力テストすべての教科が終わると、HRもそこそこに私は放課後のバイトに出かけた。休んだ分しっかり稼がねば。
生徒たちは教室に居残りして各々自己採点なんてしているみたいだけど、そんなの結果が出たらその時先生が解答くれるし後回しで良いのだ。
□■□
実力テストの日から土日を挟んで3日後、全ての教科の採点が出て順位表が上位100位まで掲示された。
他の学校だと順位表を貼るのを廃止したってところもあるらしいけど、この学校は競争心を掻き立てて学習意欲を高める目的で今も掲示しているんだって。
1学年全体上位100名の名前が1位から順に連なっている……
「およ」
私の口から間抜けな音が漏れる。
いい感じだなと自信を持っていたが、まさかまさかの結果である。
【第一位 普通科一年一組 森宮美玖 四百九十八点】
堂々の1位に私の名前が輝いていた。流石に少し驚いてしまったぞ。
「…お前やっぱり余裕で特進科イケるだろ」
いつの間にか横に立っていた悠木君が呆れた眼差しを私に降り注いでくる。なんだねその目は。
それに悠木君は私を買いかぶりすぎである。
「無理だよ無理ー。今が精一杯だもん」
「過ぎた謙遜は嫌味になるぞ」
今回はいつも以上に本気を出したから出来たの。バイトをセーブしての結果だから、これから先もずっとこれってのは無理である。私はハハッと困ったように笑うと、首を横に振った。
「まぐれだよ」
「まぐれで学年1位とられてたまるか」
私の返事が気に入らないのか、悠木君がアイアンクローを噛ましてきた。なんということだ。悠木君、女子に技をかけてはいけないよ。君はそんな乱暴な男の子ではないでしょう?
とはいえ、全然手に力が入っていないから痛くもなんともないのだが。悠木君手が大きいな。まるでエイリアンが顔に密着しているかのような安心感がある。
私に技をかけているそんな彼は20位に名を連ねている。「悠木君もランクインおめでとう、頑張ったね」とお祝いの言葉を述べると、なぜかほっぺたをつねられた。1位のやつに言われたくないってことか。じゃあなんと言えば君は喜んでくれるんだ。
「おめでとう森宮さん!」
ほっぺたを摘んでくる手と格闘していると、そこに飛び込んだ明るい声。
「流石森宮さん! いつかは下剋上すると思ってたよ!」
「秘伝の書パワー発揮だね!」
「だまらっしゃい!」
また口を滑らせようとする3人娘1名の口を手で覆って塞ぐ。
どうにもこうにも口が軽いなあんたは。
もごもごと何かを言おうとするのを目で制すと、相手は黙った。
「なぁ、秘伝の書ってなに?」
「企業秘密です」
こんな人がたくさん居る中で言えるわけがない。
そもそも悠木君はアレに頼らずとも余裕なのだから存在を知らなくてもなんともないと思うのだ。
しかし私が教えないのを不快に思ったのか、彼はムッと口を尖らせて子どもみたいにいじけていた。別に仲間はずれというわけじゃないのだが、悠木君には面白くなかったのか……あ、悠木君はボッチ気質があるから余計にハブられ感があるのかな…
「…仲間はずれじゃないよ……女の子同士の秘密なんだ…」
「…あぁ、そう」
そう言ってしまえばそれ以上踏み込めないと悠木君は諦めた。不満と不信でいっぱいの顔をしているから、その言い訳で信じているかは謎だが。
「──おい。森宮美玖」
ザッ…と効果音でも醸し出しそうな雰囲気でやってきたのは、苦悶の表情をした例の特進科の輩どもである。彼らはぐぬぅと歯を噛み締め、屈辱だと言わんばかりである。
「わ、悪かったな!」
おぉ、あの約束ちゃんと履行してくれるのか。
でも違うぞ。約束は“私が勝ったら「普通科の分際で」って言葉撤回してもらう”ってこと。
「もう二度と、“普通科の分際で”と普通科の人間に喧嘩を売るマネはしないでね。約束だよ」
「わかったよっ」
吐き捨てるように了承した男子ではあるが、納得はできないと反発しそうな空気がある。
“普通科の分際で”という言葉を使わず、単語を変えて普通科の人間をこき下ろすか、態度に出すだけに済ませるか……彼らの八つ当たり先はこれから先も普通科の関係ない人間になるのかもしれない。
私はコイツらの性根を叩き直す暇もないし、その義理もない。人を変えるのは無理なので、そうなれば諦める。
一番は自分の立ち位置で満足することなんだけどねぇ。上を見ても下を見ても終わりがないんだし。
「私達普通科一同はあんたたちのご機嫌を直すための存在じゃないんだよ。自分の機嫌は自分で取りな! いいね!」
普通に言ったつもりだけど、蓄積していた感情が表に出てきたことで私の言葉は荒々しいものになった。
私の声が廊下に響き渡ると、相手は…っていうか周りにいた特進科の生徒たちは肩をビクリと震わせて驚きを見せた。
それで溜飲を下げた私は鼻を鳴らす。よし、これにて任務完了である。貴重なお昼休みを有意義に活用しようと踵を返した。
「…っ!?」
しかし私の足はぴたりと止まった。思わぬ障害が目の前に立ちはだかっていたからである。
「森宮美玖さん…」
私の背後には教頭先生が突っ立っていたのだ。教頭先生は私を名指しして、なにやらふるふる震えていた。
やべ、掲示板前で大声出したの注意されるのかしらと私が及び腰になっていると、ガシッと肩を掴まれた。
「学業面で明らかに不利な普通科に在籍した上で学年一位を獲るとは素晴らしい…! やはり君は普通科の器ではない! 新学年からぜひ特進科にクラスアップするべきだ!」
「へぁ!?」
「学年主任には先生から話しておこう。大丈夫君ならやっていけるはずだ」
教頭先生に説教されるのかなと思ったら、昇格の話をされた。
…なにを一人で突っ走ってるんだろうこの教頭。全然大丈夫じゃないよ。
「いえ、私は普通科に在籍して普通科の生徒として卒業します」
「何故だ!? 君の才能をそのまま腐らせておくつもりか!?」
「だってバイトできなくなりますし」
私が拒否の姿勢を見せると、教頭先生が愕然とした顔をした。
斜め後ろで「はぁ…」と悠木君がため息を吐き出す音が聞こえた。おい、君は私の目的を知っているはずだろう。先生にクラス替えを迫られて困っている友達を庇って見せたらどうなんだ。
「森宮さん…」
なにやら教頭先生が説教しそうな雰囲気を察知した私はピャッと飛び跳ねて後ずさると、人と人の隙間を狙ってそこへ突っ込んだ。
忍法目くらましの術!
「お昼寝の時間なんで失礼しますー!」
木を隠すなら森!
私は生徒たちに紛れ込み、その場から逃走を図った。
なんといわれようと私は普通科に居座り続ける! これ絶対!
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