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勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。
アイス入りクレープはお持ち帰り用にはできません。
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1学年の終業式が終わり、春休みがやってきた。
私はもれなく毎日掛け持ちバイトのシフトを入れていた。悠木君に春休みの予定を聞かれたので毎日バイトだと知らせると、「あーやっぱり?」といった反応があった。逆にこの私が長期休暇をぐうたら過ごすとでも思っていたのかと問いかけたい。
【バイト先ってどこ?】
そんなメッセージが入ったのは春休み初日だ。慣れないバイトで少しばかり疲れて、帰宅してすぐに寝たためメッセージを確認したのは翌日朝になった。
私の新たなバイト先は繁華街の商業施設にオープンした若者向けのスイーツショップ。高校生OK・かけもちOKだったので試しに面接に行ってみると受かったのだ。
ここは春休みだけの短期勤務であるが。他はいつものコンビニ、スーパー、お弁当屋さんである。早い時間はスイーツショップ、シフト入っていない日&夜は後者って感じでガッツリ入っている。なのでいつどこで私が出没するかはお楽しみ状態である。
【今日はモールの中にあるスイーツショップにオープンから15時まで。夕方からはスーパーに入っているよ】
返信すると私は支度を始めた。その間スマホがチカチカしているのには気づいていたが、バイトに遅刻したくないので確認せずバイト用のかばんにスマホを放り込んだのであった。
私はお店で慣れないクレープ生地焼きに手こずっていた。先輩はサラッと焼いてしまうのに、私が焼くと破けて失敗作が量産されるのだ…
「まぁ、慣れだから」
指導係の先輩にどんまい、と肩を叩かれる。
しかしここでくじけては駄目だ。私は早くクレープ生地をきれいに焼けるようになり、ワンオペで商品を提供できるようになりたいのだ…!
鉄板の熱さに額から汗がにじむが、こんなの真夏のたこ焼き販売よりマシである。そう言えば今年の夏もたこ焼きバイトしない? って海の家の店主から連絡来てたんだよな…どうしよう。あれ本気で熱中症になりそうで、バイト代が医療費に消えてしまう恐れがあるんだよなぁ。
「あのぅ、おひとりですかぁ?」
「あ、そういうの間に合ってますんで」
繰り返し焼いていると、店の外でお客さんが逆ナンパしている声が聞こえた。こんなショッピングモールで逆ナンとは…
「うわ…ものすごいイケメン…モデルかなにかかな…」
私の指導を見てくれていた先輩が感嘆混じりに呟いたので、逆ナンされているイケメンの顔を拝んでやろうと顔を上げた。
どれどれ…モデル級のイケメンとやらはどこだ…
「よっ」
私が入っているカウンターの透明の仕切り板の向こう側からこっちに向けて軽く手を上げたのは悠木君であった。彼が私に声をかけたことで周りの女子たちの視線が鋭く突き刺さった。なんて恐ろしい。
悠木君たら自分の容姿を自覚しているくせに、その美貌が周りに与える影響をど忘れしていないかね。
「……どうしたの、悠木君。私がスイーツショップでバイトしてるって知らせたから食べたくなっちゃったの?」
「差し入れに来た」
そう言って持ち上げたのは某企業が百貨店に出店しているスナック菓子。スーパーに置いてあるようなお菓子と違って少し高級感漂うお菓子である。普通に5倍くらい高いのにそれを差し入れだと…?
「甘いものの匂い嗅いでいたら逆にしょっぱいものが食べたくなると思って」
ほい、と手渡された紙袋を見下ろして思った。
これをわざわざ買ってきたのか。それとも貰い物を横流ししているのか……いや、どっちにしてもなんか悪いなぁ。
「あ、ありがとう」
「ついでだから森宮がなんか作ってよ」
目を細めて私に笑いかけてくる悠木君を直視した先輩が顔を赤らめてポヤーンとしてしまっている。さすが伝説の悠木夏生。学校の外でも女を射止めてしまったな。
「そんなこと言われても…見てよこれ」
私は失敗作の残骸を持ち上げてみせた。破けているそれを見た悠木君が「ふはっ」と吹き出す。
「器用だと思っていたけど、案外不器用なのな」
「違うよ! これかなり難しいんだよ!」
「それでいいよ。ロスするよりいいだろ? 姉貴にも持って帰るから森宮失敗作クレープでなんか作って」
ひどい。好きで失敗作にしたんじゃないのに…
私は膨れつつ、甘いものとおかず系のクレープを作った。一つはシンプルなチョコバナナクレープ。もう一つはソーセージサラダクレープだ。それをお持ち帰り用として包装した。
「あ、ここスマホ決済できるんだ、それでよろしく」
「はぁい」
いつものバイト先とは違うレジなので慎重に打ってお会計を済ませると、商品を悠木君に手渡した。
「じゃあな、頑張れよ」
きらきらきらと悠木君は輝かんばかりの笑顔を振りまくと爽やかに立ち去っていった。
その後、先輩にどういう関係かと問い詰められ、あの場にいた女性客にじろじろガン見、ひそひそ話されたのは言うまでもない。
もんのすごい疲れた。
ちなみにそれ以降も何度か悠木君がご来店しては差し入れを持ってきてくれ、上達した私のクレープ焼き技術を褒めてくれた。
その度に先輩の圧力と周りの女性客の視線に苛まれ……
とうとう私は音を上げた。
【女達の視線が怖いから、もう差し入れに来なくていいよ】
バイトに集中したいのでメッセージで差し入れの辞退を申し出ると、その翌日また彼はやってきた。なんと彼は黒縁眼鏡にマスク、目出し帽というものすごく不審者スタイルでやってきたのだ。
マスクの中が熱いのか息苦しそうだし、眼鏡は曇っているけど、一度も顔を晒すことなく差し入れを手渡し、クレープをご購入いただいた。
風景の一つとしてモブに扮装した悠木君。……何が彼をそうさせるのか。差し入れもクレープ購入も出費が大変だろうからしなくていいのに、本当彼は懐が広い男だな…
■□■
とても短い春休みはあっという間に終わった。
ガッツリ働いたお陰で毎晩夢も見ずに眠る日々を送っていたが、かなり充実していたと思う。給料日がとても楽しみだ。
早朝のコンビニバイトを終えて登校する。その生活にもすっかり慣れた。つい先日には入学式が行われ、沢山の新1年生が入学してきた。それを見ていると、去年の私は高校生活に心躍らせるんじゃなく、バイトが堂々とできる年齢になったことに心躍らせて沢山面接受けまくってたことを思い出してしまった。自分のことながら、金にがめつい。
去年入学したときから悠木君はその存在感で騒がれていたそうだが、今年も新1年生の中に容姿の整った女子生徒がいるとかで男子が噂しているのを耳にした。
「うわぁ…くっそかわいい…」
「あの子見たらそのへんの女子は雑草のようなもんだな」
ひどい言われようである。周りに女子がいるのに、雑草呼ばわりしてすごい度胸だ。女子を敵に回すの怖くないのかな。それ以前にあんたは自分の顔を鏡で見たほうがいいぞ。
「あっ悠木のやつに接触したぞ!」
「くっそイケメンめ…」
どうやら評判の美少女が悠木君と一緒にいるようだ。ちょっと興味が湧いたので男子の視線の先を覗き込むと、昇降口前廊下に彼らはいた。美少女が悠木君を呼び止めた形のようだ。
二つ結びにした髪はウェーブがかかっている。…多分天パ…ではない。小さい顔に配置された瞳はぱっちり大きくて、小鼻は小さめ、口はぽってり桜色だ。化粧しているけどしていないように見せているなかなかの技術だ。ナチュラルメイクって実はなかなか難しいって友達が言っていた。
それを抜きにしても素材からして特上の美少女だ。そんな上物を釣り上げたとは…さすが悠木君、なかなかやるな。
「──気になる?」
横からかけられた声に私はぎくりとした。その声が私の苦手な桐生礼奈のものだったから。私は動揺を悟られぬよう小さく呼吸すると、彼女の方に向き直った。
気になるって…そりゃあ友達のことだもん。悠木君は変な女に押されがちだから、心配になるもん。
桐生礼奈はいつもの調子だった。正統派美女と名高い彼女は唇に弧を描いて私に笑いかけている。…悠木君が美少女に話しかけているのが気になっているのはそちらではないのでしょうか。
私が悠木君と話していると決まって出現するくせに、相手があの美少女だと割り込まないのか。…私にかまっている暇があるとでも思っているのか。
「それよりいいの? 悠木君取られちゃうよ?」
おせっかいかもしれないけど、教えてあげると、桐生礼奈は変な顔をした。
「……まさか、まだ私と夏生が付き合ってるって思ってるの…? 夏生は一体何をしているの…? だからあれだけ誤解を解けと言ったのに…!」
なんか額を手で覆って頭が痛そうにしている桐生礼奈は独り言を言って嘆いていた。なんのこっちゃ。付き合ってるどうのこうのっていうか、二股手前の三角関係なんでしょ。どっちかを選ぶんじゃなく、2人とも侍らせているんでしょ?今更じゃないか。
「あ、バイト行かなきゃ! お先!」
「まって森宮さん!」
呼び止められたけど無視した。バイトに遅刻してしまうから待ちません。
タイムイズマネー。時は金なんだよ!
私はもれなく毎日掛け持ちバイトのシフトを入れていた。悠木君に春休みの予定を聞かれたので毎日バイトだと知らせると、「あーやっぱり?」といった反応があった。逆にこの私が長期休暇をぐうたら過ごすとでも思っていたのかと問いかけたい。
【バイト先ってどこ?】
そんなメッセージが入ったのは春休み初日だ。慣れないバイトで少しばかり疲れて、帰宅してすぐに寝たためメッセージを確認したのは翌日朝になった。
私の新たなバイト先は繁華街の商業施設にオープンした若者向けのスイーツショップ。高校生OK・かけもちOKだったので試しに面接に行ってみると受かったのだ。
ここは春休みだけの短期勤務であるが。他はいつものコンビニ、スーパー、お弁当屋さんである。早い時間はスイーツショップ、シフト入っていない日&夜は後者って感じでガッツリ入っている。なのでいつどこで私が出没するかはお楽しみ状態である。
【今日はモールの中にあるスイーツショップにオープンから15時まで。夕方からはスーパーに入っているよ】
返信すると私は支度を始めた。その間スマホがチカチカしているのには気づいていたが、バイトに遅刻したくないので確認せずバイト用のかばんにスマホを放り込んだのであった。
私はお店で慣れないクレープ生地焼きに手こずっていた。先輩はサラッと焼いてしまうのに、私が焼くと破けて失敗作が量産されるのだ…
「まぁ、慣れだから」
指導係の先輩にどんまい、と肩を叩かれる。
しかしここでくじけては駄目だ。私は早くクレープ生地をきれいに焼けるようになり、ワンオペで商品を提供できるようになりたいのだ…!
鉄板の熱さに額から汗がにじむが、こんなの真夏のたこ焼き販売よりマシである。そう言えば今年の夏もたこ焼きバイトしない? って海の家の店主から連絡来てたんだよな…どうしよう。あれ本気で熱中症になりそうで、バイト代が医療費に消えてしまう恐れがあるんだよなぁ。
「あのぅ、おひとりですかぁ?」
「あ、そういうの間に合ってますんで」
繰り返し焼いていると、店の外でお客さんが逆ナンパしている声が聞こえた。こんなショッピングモールで逆ナンとは…
「うわ…ものすごいイケメン…モデルかなにかかな…」
私の指導を見てくれていた先輩が感嘆混じりに呟いたので、逆ナンされているイケメンの顔を拝んでやろうと顔を上げた。
どれどれ…モデル級のイケメンとやらはどこだ…
「よっ」
私が入っているカウンターの透明の仕切り板の向こう側からこっちに向けて軽く手を上げたのは悠木君であった。彼が私に声をかけたことで周りの女子たちの視線が鋭く突き刺さった。なんて恐ろしい。
悠木君たら自分の容姿を自覚しているくせに、その美貌が周りに与える影響をど忘れしていないかね。
「……どうしたの、悠木君。私がスイーツショップでバイトしてるって知らせたから食べたくなっちゃったの?」
「差し入れに来た」
そう言って持ち上げたのは某企業が百貨店に出店しているスナック菓子。スーパーに置いてあるようなお菓子と違って少し高級感漂うお菓子である。普通に5倍くらい高いのにそれを差し入れだと…?
「甘いものの匂い嗅いでいたら逆にしょっぱいものが食べたくなると思って」
ほい、と手渡された紙袋を見下ろして思った。
これをわざわざ買ってきたのか。それとも貰い物を横流ししているのか……いや、どっちにしてもなんか悪いなぁ。
「あ、ありがとう」
「ついでだから森宮がなんか作ってよ」
目を細めて私に笑いかけてくる悠木君を直視した先輩が顔を赤らめてポヤーンとしてしまっている。さすが伝説の悠木夏生。学校の外でも女を射止めてしまったな。
「そんなこと言われても…見てよこれ」
私は失敗作の残骸を持ち上げてみせた。破けているそれを見た悠木君が「ふはっ」と吹き出す。
「器用だと思っていたけど、案外不器用なのな」
「違うよ! これかなり難しいんだよ!」
「それでいいよ。ロスするよりいいだろ? 姉貴にも持って帰るから森宮失敗作クレープでなんか作って」
ひどい。好きで失敗作にしたんじゃないのに…
私は膨れつつ、甘いものとおかず系のクレープを作った。一つはシンプルなチョコバナナクレープ。もう一つはソーセージサラダクレープだ。それをお持ち帰り用として包装した。
「あ、ここスマホ決済できるんだ、それでよろしく」
「はぁい」
いつものバイト先とは違うレジなので慎重に打ってお会計を済ませると、商品を悠木君に手渡した。
「じゃあな、頑張れよ」
きらきらきらと悠木君は輝かんばかりの笑顔を振りまくと爽やかに立ち去っていった。
その後、先輩にどういう関係かと問い詰められ、あの場にいた女性客にじろじろガン見、ひそひそ話されたのは言うまでもない。
もんのすごい疲れた。
ちなみにそれ以降も何度か悠木君がご来店しては差し入れを持ってきてくれ、上達した私のクレープ焼き技術を褒めてくれた。
その度に先輩の圧力と周りの女性客の視線に苛まれ……
とうとう私は音を上げた。
【女達の視線が怖いから、もう差し入れに来なくていいよ】
バイトに集中したいのでメッセージで差し入れの辞退を申し出ると、その翌日また彼はやってきた。なんと彼は黒縁眼鏡にマスク、目出し帽というものすごく不審者スタイルでやってきたのだ。
マスクの中が熱いのか息苦しそうだし、眼鏡は曇っているけど、一度も顔を晒すことなく差し入れを手渡し、クレープをご購入いただいた。
風景の一つとしてモブに扮装した悠木君。……何が彼をそうさせるのか。差し入れもクレープ購入も出費が大変だろうからしなくていいのに、本当彼は懐が広い男だな…
■□■
とても短い春休みはあっという間に終わった。
ガッツリ働いたお陰で毎晩夢も見ずに眠る日々を送っていたが、かなり充実していたと思う。給料日がとても楽しみだ。
早朝のコンビニバイトを終えて登校する。その生活にもすっかり慣れた。つい先日には入学式が行われ、沢山の新1年生が入学してきた。それを見ていると、去年の私は高校生活に心躍らせるんじゃなく、バイトが堂々とできる年齢になったことに心躍らせて沢山面接受けまくってたことを思い出してしまった。自分のことながら、金にがめつい。
去年入学したときから悠木君はその存在感で騒がれていたそうだが、今年も新1年生の中に容姿の整った女子生徒がいるとかで男子が噂しているのを耳にした。
「うわぁ…くっそかわいい…」
「あの子見たらそのへんの女子は雑草のようなもんだな」
ひどい言われようである。周りに女子がいるのに、雑草呼ばわりしてすごい度胸だ。女子を敵に回すの怖くないのかな。それ以前にあんたは自分の顔を鏡で見たほうがいいぞ。
「あっ悠木のやつに接触したぞ!」
「くっそイケメンめ…」
どうやら評判の美少女が悠木君と一緒にいるようだ。ちょっと興味が湧いたので男子の視線の先を覗き込むと、昇降口前廊下に彼らはいた。美少女が悠木君を呼び止めた形のようだ。
二つ結びにした髪はウェーブがかかっている。…多分天パ…ではない。小さい顔に配置された瞳はぱっちり大きくて、小鼻は小さめ、口はぽってり桜色だ。化粧しているけどしていないように見せているなかなかの技術だ。ナチュラルメイクって実はなかなか難しいって友達が言っていた。
それを抜きにしても素材からして特上の美少女だ。そんな上物を釣り上げたとは…さすが悠木君、なかなかやるな。
「──気になる?」
横からかけられた声に私はぎくりとした。その声が私の苦手な桐生礼奈のものだったから。私は動揺を悟られぬよう小さく呼吸すると、彼女の方に向き直った。
気になるって…そりゃあ友達のことだもん。悠木君は変な女に押されがちだから、心配になるもん。
桐生礼奈はいつもの調子だった。正統派美女と名高い彼女は唇に弧を描いて私に笑いかけている。…悠木君が美少女に話しかけているのが気になっているのはそちらではないのでしょうか。
私が悠木君と話していると決まって出現するくせに、相手があの美少女だと割り込まないのか。…私にかまっている暇があるとでも思っているのか。
「それよりいいの? 悠木君取られちゃうよ?」
おせっかいかもしれないけど、教えてあげると、桐生礼奈は変な顔をした。
「……まさか、まだ私と夏生が付き合ってるって思ってるの…? 夏生は一体何をしているの…? だからあれだけ誤解を解けと言ったのに…!」
なんか額を手で覆って頭が痛そうにしている桐生礼奈は独り言を言って嘆いていた。なんのこっちゃ。付き合ってるどうのこうのっていうか、二股手前の三角関係なんでしょ。どっちかを選ぶんじゃなく、2人とも侍らせているんでしょ?今更じゃないか。
「あ、バイト行かなきゃ! お先!」
「まって森宮さん!」
呼び止められたけど無視した。バイトに遅刻してしまうから待ちません。
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