バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

文字の大きさ
34 / 79
勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。

可燃物、酸素供給体、点火源。

しおりを挟む
 2年生は勉強合宿なるものに参加しなくてはならない。これは普通科も特進科も例外はない。5月の連休明けに行われる2泊3日の合宿は名前の通り泊まり込みでみっちり勉強するのだが、時折勉強以外のイベントごとがある。
 例えば1日目の夜は、グループごとに自分たちで夕飯メニューを決めて屋外でキャンプさながら調理するのだ。その時のメニューや手際によって、その後の時間の過ごし方も大きく変わる。2日目は肝試しなんてものもあって、勉強の息抜きイベントも用意されているのだ。

 先生たちから火の扱いには気をつけるようにと念押しされ、各自グループごとに所定の位置に集まると手分けして調理を開始する。
 ちなみに火元とかも原始的な方法でやるように指示を受けている。ガスコンロとか素晴らしいものは存在しない。そこにあるのは薪とおかくず、新聞紙、マッチ、炭などの原始的な道具ばかり……勉強してきたことをここで活かせってことなんだろうが、流石にサバイバルがすぎると思うんだが。
 とはいえ、私は小学生の時友達家族とともにキャンプに幾度となく出かけて、その時火の起こし方をマスターしているので問題ない。

 同じグループの男子は夕飯はカレーにしようとか言っていたが、意外とカレーは作業工程が多く時間を食うのでその案を却下し、私は焼きそばを推した。こんなときだからこそ、効率を考えたメニューにすべきなのだ。カレーは個人でキャンプ行ったときに勝手に作ってくれ。
 野菜やお肉のカットを分担して行うと、私がちゃちゃっと火を起こしてキャンプ場からレンタルした大きな鉄板を使って具材を焼き始めた。
 ヘラでじゃんじゃか具材を炒めている光景を眺めながら私は思った。焼きそばだけじゃ物足りない。そうだ、卵を乗せよう。

 キャンプ場では使用料金を払えば、自由に食材を使用していいことになっている。なので食材置き場に卵を人数分もらいに行こうと一人移動していると、包丁片手に困った顔をしている悠木君の姿を見つけた。私は卵をもらったあと一旦自分のグループのところに戻り、使い終わったあるものを手にすると、再度引き返した。

「包丁だけじゃ辛いでしょ、家から持ってきたピーラー貸してあげるよ」

 私がずずいとピーラーを差し出すと、悠木君は目を丸くしていた。
 今まさに人参と包丁と戦っていた悠木君はキョトンとした顔をしている。

「うちはもう皮むき終わって、焼きの作業入ってるからいいよ、使いなよ」

 包丁危ないから、と私が悠木君の手から包丁を取り上げると、ピーラーを持たせた。

「もう焼いてんのか、早いな。何作ってんの?」
「うちのチームは焼きそばだよー。楽だから」

 邪魔にならぬようすぐに退散するつもりでいたので、そのまま所定の位置に戻ろうとしたのだが、特進科のどこかのグループが飯盒炊爨しようとしているのに火起こしで躓いているのを見かけた。
 「着かない?」「すぐに火が消える」と困った風な様子だったので、おせっかいとは思ったけど、私は声をかけた。

「火着かないの? つけてあげるよ」

 ここで「やってあげようか?」と疑問系で聞くと、特進の人はプライドが先立って「結構です」と強がりそうなので、私は強引に割ってはいって道具類を奪い去った。

「え、ちょっと」
「任せな。火起こしは小学生の時に習ったんだ。キャンプ行ったときに友達のお父さんから教えてもらったんだ」

 まず棒状にした新聞紙の着火材を中心に置く。新聞紙を囲むようにおがくずを置く。そして割りばしなどの細い木や小枝を組む。このとき空気が通るようにべちゃっとつぶさないようにするのがコツ。

「はい、じゃあ新聞紙にマッチの火をつけて」

 私が促すと、戸惑った様子の特進科の子が何度かマッチを擦って火をつけた。

「着火剤からおがくず、小枝、少し大きな枝に火が移っていくまでが勝負。ここで慌てて薪を入れると消えるから、じっと我慢しながら火がまわっていくのを待って」

 ここでうちわで仰ぐとかは絶対にしてはいけない。気長に待つのが大事なのだ。
 しばらく静かに見守っているとじわじわと火種が広がり始めたので、私はさらに少し太い枝を組んでいく。

「ピラミッドのように三角錐をつくっていくの。火は下から上へ上へと向かっていくからこうすることで新聞紙の先端から火が燃え移りやすくなるわけ」

 火が消える原因として薪を詰め込んでいくというものがある。薪を詰め込むと空気の通りが悪くなり、せっかく燃えた火が消えてしまうのだ。
 三角錐のように立てかけるのは空気の通り道をつくるためだ。最初からうまくいくとは思わない方が無難。二度三度と失敗を重ねるうちにコツがわかってくるもの。私は経験があるからできるだけで、初心者には少々難しいから出来なくとも恥ずかしがることはない。

「薪と薪の間に空間がなければ火は消えてしまうけど、逆に間を開けすぎると熱が逃げていくからそこは気をつけて」

 薪に炎が灯ったのを見て、私は飯盒をセットしてあげた。

「多分この後の流れはわかってると思うから大丈夫だと思うけど、火加減には気をつけてね、火力が弱いとお米が半生になっちゃうから」
「美玖ー! 焼きそば出来たよー!」
「おっと、目玉焼き作んなきゃ」

 友達が大声で私に焼きそば完成を知らせてきたので私は小走りで自分のグループに戻った。すぐに目玉焼きを作って、グループ全員で目玉焼きのせ大盛り焼きそばを平らげた。鉄板で焼いたからか、隠し味でもはいっているのかめちゃくちゃ美味しかった。
 他の班がまだ食事を始めていない段階で私のグループは早々に片付けを済ませてすぐに学習ワークにはいった。合宿期間中に終わらせる必要のある課題もあるので、早めに勉強時間を取れて良かった。



 目の疲れや肩こり疲労を大浴場のお風呂でゆっくり癒やした後、ホカホカしながら女子部屋に戻っていると、途中でピーラーを片手に持った悠木君と遭遇した。

「悠木君も今からお風呂?」

 悠木君は私の問いに答えることなく、なぜか羽織っていたジャージを脱いだ。そしてさっとそれを私の肩へかけてきた。所要時間約3秒だろうか。

「…なに? 寒くないんだけど…」

 むしろ暑いんだけど…
 私が寒くて震えているように見えたのか?

「薄着すぎるから着てろ」
「いやこれ…学校の体操着…みんな同じもの着てる…」

 合宿期間中はみんなもれなく体操着かジャージ姿だ。以前はパジャマは自前で良かったんだけど、過激なパジャマを着る女子が過去に数名出て風紀が乱れたことがあるそうで、それ以降合宿中は体操着が基本になっている。
 体操着姿の私が薄着なら、みんな薄着になるんだがそこのところどうなのだろう。

 悠木君は私の背中をグイグイ押すと、女子部屋のある棟の手前まで送ってくれた。その先へは進むつもりが無いようである。そういうところ本当真面目だよね。

「いいな、女子と一緒にいろよ。男子と2人きりになるな!」
「お父さんかあんたは」

 今まさに男子と2人きりなんだが、それはいいのか悠木君。そもそも悠木君は男子じゃなかった…?

「あぁじゃあこれ返すね…」
「いいから!」

 肩に掛けられたジャージを返そうとしたら受取拒否された。なぜ? 私は寒くないし、際どい格好をしているわけでもないのになぜ私にジャージを着せる。悠木君の中で体操着は卑猥な着用物なのかい? ちょっと流石にその趣味は引いちゃうなぁ…
 悠木君は私の問いかけから逃れるように慌てた様子で引き返していった。彼の手にはピーラー。私の私物のピーラーがそのまま持ち去られてしまった。

「…なんで悠木君は顔が真っ赤なんだろう」

 私はお風呂上がりで暑いけど、悠木君は……なんだろう。今日の悠木君もおかしいな。たまに情緒不安定になるよね彼。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

元男装傭兵、完璧な淑女を演じます。――嫁ぎ先はかつての団長でした!?

中野森
恋愛
貧乏男爵家の長女クラリスは、弟の学費を稼ぐために男装して傭兵団へ入団した。 副団長にまで上り詰め、団長をはじめとした仲間から信頼を得るが、決して正体は明かさなかった。 やがて戦争が終わり、傭兵団は解散となる。 出稼ぎするために流した嘘の悪評により、修道院入りを覚悟していたクラリスだったが、帰郷した彼女を待っていたのは父からの「嫁ぎ先が決まった」という一言だった。 慌ただしく始まる淑女教育、そして一度も未来の夫と顔合わせすることなく迎えた結婚式当日。 誓いの言葉を促され隣からきこてくる声に、クラリスは凍りつく。 ……嘘でしょ、団長!? かつての想い人でもある傭兵仲間が今は夫となり、妻の正体には気づいていない――気づかれてはいけないのだ、絶対に! 本作品はゆるふわ設定、ご都合主義、細かいことは気にしたら負け! ※この小説は、ほかの小説投稿サイトにも投稿しています。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

処理中です...