バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

文字の大きさ
57 / 79
勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。

お好み焼きはとにかく見守ることが大事です。

しおりを挟む
 あべのハルカスの最寄り駅から私が行きたかった鶴橋まではそんなに遠くなかった。鶴橋商店街近辺は関西屈指のコリアンタウンである。そこに一歩足を踏み入れると異国に紛れ込んだかと錯覚してしまいそうになる。

「こっちこっち。お姉ちゃんが修学旅行で行った美味しかった惣菜屋さん」

 普通の商店街のような店が並ぶ中で韓国文化が融合されている感じの商店街はやっぱり日本じゃないみたいだ。ふと焼肉やキムチの香りが漂ってきた。韓国惣菜を取り扱ってるお店では量り売りの惣菜が並べられている。手作りのマッコリだったり、白菜キムチだけじゃなくていろんなキムチが勢揃いしていたりと目でも楽しめた。

「あっ多分ここ! 韓国風の海苔巻きが美味しいってお姉ちゃんが言ってたんだ!」

 私はそこでキンパとよばれる海苔巻きを購入した。一緒に来ていた悠木君たちも購入して、食べ歩きをしながら商店街内を見て回った。お姉ちゃんが言っていた通り海苔巻きは超美味しかった。中にキムチが入っていたけど、辛くないから食べやすかった。

 口直しのコーン茶を飲みながら私は思った。鶴橋エリアに入ると極端に目につくので気になっていたけど、この辺ベタベタするカップル多いな…。
 欧米人を見ているような気になるけど、ファッションからして恐らく韓国系の人なんだろう。お互いの腰に腕を回してぴったりくっついて歩くカップルを眺めていると私が恥ずかしくなった。
 海外留学に行ったらああいうカップルに何度も遭遇しちゃうのだろうか…今のうちに慣れないと息切れしてしまいそうである。いちゃつくカップルをじぃっと観察していると、悠木君にまた手を繋がれた。自然に繋がれたぞ……迷子防止だろうか。

「ホットクがある。あれも食べてみようぜ」

 ホットク屋のメニューを見るなり違う味を買ってはんぶんこしようと言われ、黒糖ピーナッツとカレーを分け合った。丸いホットケーキみたいなホットクはさっくりしていて美味しかった。韓国で定番のおやつらしい。
 おやつを食べるのに一旦離していた手は、再び移動を開始するとまた自然と繋がれた。共に行動する眼鏡と桐生さんから見られて恥ずかしい気持ちもあったけど、自分からその手をほどこうとは思わなかった。

「うぅーん、ふたりしてイチャイチャしてずるいなぁ。礼奈、俺と手ぇ繋ぐ?」
「えっ!?」

 眼鏡が桐生さんにお手々つなぎをお誘いすると、普段余裕の表情を維持している桐生さんの顔色がぱっと桃色に染まった。

「なーんてね! 冗談だよ!」

 眼鏡としては冗談だったらしい。なんちゃってーと話を終わらせると、私と悠木君の間に割り込むように肩を組んで来た。

「歩きにくいだろ」
「俺とも修学旅行の思い出作ろうよぉ夏生クゥン」
「耳元でささやくなよ、ゾワッてするだろ」

 悠木君に絡み始めた眼鏡を呆れ半分に見上げていると、視界の端で桐生さんがひとり立ち止まっているのが見えた。私が振り返ると彼女は胸元で両手を握りしめて俯いていた。…なんとなくしょんぼりしているように見えたのは目の錯覚かな。


■□■


「大阪に来たからにはお好み焼きでしょ!」

 鶴橋商店街を大方見回った後にそう言ったのは眼鏡だった。

「えぇ? さっき海苔巻食べてたじゃない…夕飯食べられなくなるわよ?」

 お好み焼き案に渋い顔をしていたのは桐生さん。まぁ彼女の言い分もわかるが、私は眼鏡と同じ気持ちだ。大阪に来たのに食べないのは勿体ないと思うのだ。

「じゃあ私とはんぶんこする? 男子は一枚くらい平気でしょ?」
「まぁな。鶴橋でそんな食べたわけでもないし、胃袋はまだ余裕」

 そんな感じで話はまとまり、私達はお好み焼き屋へ移動した。
 あまり乗り気ではなかった桐生さんも、実際お店の鉄板で焼かれたお好み焼きを見たら小腹がすいたようで、箸を止めることなく食べていた。私達が頼んだのはモダン焼きだ。パリパリに焼けた麺と濃いお好みソースがとても美味である。

「森宮さん、ちょっとちょうだいよ」

 ふざけたことを抜かすのはシーフード焼きを食べていた眼鏡である。私と桐生さんは同じものを食べているのになんで私にお願いするんだろうかと思いつつも、シーフードお好み焼きも美味しそうなので私は話に乗ってやることにした。

「ほい」

 ヘラでガッと自分の分を一口サイズカットしてそれをすっと鉄板上で横流しした私は、眼鏡のお好み焼きにヘラを突き刺して大きなイカが乗っている部分を奪ってやった。

「えぇ? あ~んってしてくれないのぉ?」

 ふざけたことを抜かす眼鏡の妄言は無視だ。自分で食べられるくせに何を言っているんだこの眼鏡。ふざけたことを言うヤツは半眼で睨んでおく。
 すると、眼鏡に横流ししたモダン焼きに斜めから箸が伸びてきた。キャッチされたそれがふわりと宙に浮く。それを目で追うと悠木君が大口開けて食べていた。 

「ちょっと夏生!? それ俺がもらったやつ!」

 もっしゃもっしゃと咀嚼する悠木君の口元にはソースとマヨネーズがついていた。彼は眼鏡をじろりと見てフンと鼻を鳴らしているではないか。

「ソース付いてるよ、悠木君はけっこう食いしん坊だね」

 備え付けの紙ナプキンを手にとって、対面の席に座る悠木君の口元を拭ってあげると、彼はゴクリと食べていたものを飲み込んで目を丸くして固まっていた。
 ──パシャリ
 横から聞こえたシャッター音とフラッシュに私はぎょっとする。横を見たらそこにはスマホカメラをこっちに向けている眼鏡。

「眼鏡! 今。写真撮った!?」
「いい写真が取れたよ」

 ニヤニヤ顔の眼鏡がこちらにスマホを見せてくる。私が悠木君の口を拭ってあげているシーンを撮影されたらしい。ちょっと、抜き打ちで撮影しないでよ!
 私が文句を言おうとしたら、「大輔、後で送って」と真顔の悠木君が転送をお願いしていた。私はてっきり悠木君は不快感を露わにすると思ったのに意外である。

「……大輔」

 そこにポツリと声を落としたのは蚊帳の外になっていた桐生さんである。

「ん? なに、礼奈もほしいの?」

 なんで桐生さんが悠木君の口を拭う私の写真を欲しがるというのか。呆れて眼鏡を見ていると、眼鏡の口に一口大のお好み焼きがズボッと突っ込まれていた。

「むごっ!?」
「……食べたかったんでしょう? 私が食べさせてあげるわ」

 彼女はにっこり笑っていた。

「う、うぐぐ…」
「私お腹いっぱいになっちゃったの。だから残り全部あげる」

 口にいっぱいモダン焼きを入れられた眼鏡はいらないいらないと首を横に振っている。しかし桐生さんは目が笑ってない笑みを浮かべて、次のモダン焼きを構えている。
 よくわからんけど、関わるのはよしておこう。
 私と悠木君は何も見なかったことにして黙々とお好み焼きを完食したのである。


 桐生さんに促されるまま1枚と4分の1ほどお好み焼きを食した眼鏡であったが、ケロリとしていた。彼はお店を出ると大阪の繁華街で楽しそうに色んなものへ目移りしてチョロチョロと動き回っていた。

「あっ! 見てよこれ!」

 眼鏡が歓声をあげたのは食品サンプル店だった。飲食店でよく見かける食品サンプルから、一般人向けのアイテムが販売されているお店だった。狭いお店にそこそこお客さんが入っており、それなりに混んでいた。
 私はどれどれと商品を一つ手にとって無言で元に戻した。意外と高いのでお土産には向かないなと判断したのである。

「森宮さんこれ付けてみてよ!」

 眼鏡に進められたのは、ベーコンエッグの形をしたバレッタである。
 私にこれをつけろと申すか……私は視線で拒絶した。悪いがこういうネタものはちょっと……拒絶に気づいていない眼鏡は私の髪にベーコンエッグのバレッタを当ててきた。

「意外と森宮さん、これ似合う」
「それ本気で言ってる?」

 あんたの審美眼はどうなっているんだ。
 女にそんな事言ったら喜ぶとでも思っているのか。

「ほらベーコンがリボンみたいになってて可愛い。買ってあげようか」
「いらない」

 それは本気で言っているのか、眼鏡よ。
 ベーコンが可愛いって……どこからどう見てもベーコンエッグじゃないか。髪の毛にベーコンエッグひっつけた女のどこが可愛いのか。100文字以内で答えなさい。

「──嫌がってるでしょ、大輔」

 やめてあげなさいよ、と止めたのは真顔の桐生さんだった。
 桐生さんはさっきから少し機嫌が悪く、それを察していた眼鏡は肩をすくめつつベーコンエッグのバレッタを棚に戻していた。

「どうした礼奈ぁ? お腹痛いのか?」
「別に」

 眼鏡が気遣う言葉にもツンケンしていて……私は一つの可能性を見出してはっとする。
 桐生さんは……もしかして欲しかったのかな…。ベーコンエッグのバレッタが。

「悠木君、これ私に似合うと思う?」

 少し不安になったので隣にいた悠木君に確認したら、彼は「欲しいなら…買ってやるけど」と返してきた。
 いらないよ。私が欲しいのはそんな言葉じゃないんだよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

元男装傭兵、完璧な淑女を演じます。――嫁ぎ先はかつての団長でした!?

中野森
恋愛
貧乏男爵家の長女クラリスは、弟の学費を稼ぐために男装して傭兵団へ入団した。 副団長にまで上り詰め、団長をはじめとした仲間から信頼を得るが、決して正体は明かさなかった。 やがて戦争が終わり、傭兵団は解散となる。 出稼ぎするために流した嘘の悪評により、修道院入りを覚悟していたクラリスだったが、帰郷した彼女を待っていたのは父からの「嫁ぎ先が決まった」という一言だった。 慌ただしく始まる淑女教育、そして一度も未来の夫と顔合わせすることなく迎えた結婚式当日。 誓いの言葉を促され隣からきこてくる声に、クラリスは凍りつく。 ……嘘でしょ、団長!? かつての想い人でもある傭兵仲間が今は夫となり、妻の正体には気づいていない――気づかれてはいけないのだ、絶対に! 本作品はゆるふわ設定、ご都合主義、細かいことは気にしたら負け! ※この小説は、ほかの小説投稿サイトにも投稿しています。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

処理中です...