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勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。
鹿に鹿せんべい以外のものは与えないでください。
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ソフトクリームを食べ終えてからの謎の沈黙の中、立ち寄ったのは奈良公園だ。街のあちこちで鹿が存在したけど、公園に行くと鹿が山盛りいた。奈良公園と言えば鹿なので当然のことであるが。
「ごめん、ちょっとトイレに行ってくるから、ここで待っててくれる?」
催した私は悠木君にそう断って公園内のトイレを捜索した。その後、用を済ませたはいいが、トイレを探すのに必死になってたせいで悠木君を待たせている場所はどこだったっけ? と少し道に迷う。
スマホで連絡取るかなと思い始めていたが、その間に彼の姿を見つけた。
彼はたくさんの女子高生たちに囲まれて逆ナンされており、とても目立っていた。しかもその周りを複数の鹿がお辞儀をしながら更に囲っている。それを無関係の観光客が遠巻きにして見ていた。
……なにあれ、生け贄を捧げる儀式か何か? 古都奈良でサバトですか……?
「人待ってるから」
「じゃあ連絡先教えて?」
「断る」
悠木君は淡々と逆ナンしてくる女子高生をあしらっていた。うん、通常運転である。
断られて諦めるならいいけど、彼女たちは悠木君の腕に巻き付いたり、甘えた声で話しかけたりありとあらゆる作戦で気を引こうとしていた。
──私はそれを見てフッと笑った。
甘いな、トップクラスの美女と仲良くて、今年注目の入学生の美少女にも言い寄られ、海では水着ギャルに全く鼻を伸ばさなかった悠木君だぞ。
そんな手が通用するなら、悠木君はジゴロの名をものにしていただろうよ…! 何故か私には謎の自信があった。
遠くで高校生達と鹿が描くミステリーサークルを眺めていると、逆ナンされて仏頂面だった悠木君がこちらに気づいたようだ。
「森宮!」
ぱぁっと喜びに満ちた笑顔を浮かべた悠木君は先程とは人が違って見えた。その眩しさに硬直した女子高生の肩を押して身体から引き剥がすと、彼は私のもとに駆け寄ってきた。
「…ごめん、遅くなった」
「いや、平気。行こうぜ」
悠木君はその場から離れてしまいたいようで私の手を引っ張ってきた。それにざわついたのは逆ナンしていた他校の女子高生たちである。
知らない子達が私の顔面をジロジロ見てきて、眉間にシワを寄せて顔をしかめたり、羨ましいと言わんばかりに睨まれたりした。
おぉ怖い。
「相変わらずモテるね」
速歩きの悠木君に合わせるために小走りで後を着いて行っていると、彼の足が急に止まった。危うく彼を追い越して先に進んでしまいそうだった私は急ブレーキをかけて止まる。
どうした、何事だと悠木君を見上げると、悠木君は複雑な顔をしていた。
「外見でしか見られないって感じがしてたまに虚しくなるけどな」
容姿に悩んでる人が聞いたら怒り出しそうな発言だな。
本音なんだろうけど、周りの一般人には嫌味にも聞こえるし、あまり外で言えなさそうな悩みである。
「だけど外見だけで見てない人もいるでしょ」
例に出すと桐生さんとか眼鏡とか。数は多くないけど、悠木君自身を見ようとする人はいてくれるじゃないか。
周りと違うことで孤独感もあるだろうけど、悠木君はひとりじゃないぞ。私が大丈夫だの意味を込めてうなずくと、彼が私の顔を覗き込んできた。それにびっくりした私は目を丸くして固まってしまう。
「…お前も?」
その問いかけは縋るような、懇願するような声だった。
……なにか不安に感じているのだろうか。
「もちろん」
悠木君から見て私がどんな風に見えているか知らないが、私は悠木君の容姿目当てに近づいたことはないぞ。君は確かにイケメンだ。これは揺るぎない真実である。
しかしそれは関係ないのだ。私は君が悠木夏生という人間だから親しくしているだけで、悠木君の顔面が今のキラキラフェイスじゃなくても仲良くなれてた気がするぞ。
「女に冷たいのかなーと思ってたけど、一度懐に入れたら優しいよね、悠木君って」
第一印象というものは簡単に覆るものなんだなと君を見て学んだよ。うちの学校の普通科と特進科の間柄は把握していたので、科をまたいでこんなに仲良くなれるなんて思わなかったよ。
私達は友達を超えた存在だ。ズッ友と言っても過言ではない。そう言おうとしたけど、私の口からその単語は飛び出してこなかった。
悠木君はとろりと溶けそうな瞳で私を見つめてくるもんだから、私はその瞳に見惚れて何も言えなくなったのだ。
「お前は、特別枠なんだけど…」
掠れた声で囁く悠木君の真剣な表情にドキッと大きく跳ねた心臓。どくどくと耳にまで届く心臓の音を聞きながら、彼を見つめ返した。
悠木君は時々そんな目で私を見ることがあるね。私はその目に見つめられる度に心臓が変な動きがするんだ。胸の奥で眠っている何かが目覚めてしまいそうで私はそれが怖くなる。
悠木君、どうしてそんな目で私を見るの?
「…お前に伝えたいことがあるんだ。聞いてくれるか?」
繋がれたままの手を繋ぎ直され、指を絡められた。
悠木君の指が私の指の股をそっと撫でる。それがくすぐったくて肩を揺らした。
「俺──…」
悠木君の伝えたいことってなんだろう。
彼をじっと見上げていると、スカートを後ろから引っ張られている感触がした。悠木君から目が離せなかったはずの私はくるりと首を後ろにまわして違和感の原因を確認しようとして……息を呑んだ。
背後では鹿が私のスカートをハミハミして唾液まみれにしてくれていた。
「イヤッいやぁぁー!?」
「!? あっこらやめろ離せ!」
私の悲鳴に反応した悠木君は私のスカートの惨劇に気づくとすぐに鹿を追い払ってくれた。
しかし時既に遅し。スカートの一部はよだれまみれになってしまっていた……。
「……もう一度トイレに行ってくる…」
私がずーんと落ち込んでいると、悠木君は「ホテルに戻る?」と気遣ってくれたが、それはしたくない。折角の修学旅行なのに途中で帰るのはつまらないもの。
トイレの洗面台で唾液まみれのスカート部分を軽く水で濯いで、ハンカチで水分を取る。これでしばらく濡れたままだけど、何もしないよりはマシだろう。
鹿…なんで私のスカートを……思わずため息が漏れ出る。
鹿せんべい催促されたのかな。持ってないのに。
──トン
「ねぇあんたさぁ、本当何なの?」
どんよりしていると、洗面台に手をついた人からいきなり話しかけられた。
「マジ調子乗り過ぎだし」
「悠木の周りチョロチョロすんなし」
囲ってきたのは、同じ学校の女子らだった。彼女たちは私を睨みつけながらイチャモンを付けてきた。
ちょ、ここで私を囲むか…? ぎょっとした私にお構いなしに、自分に自信がある系の一軍女子のひとりがズズイと顔を近づけてきた。
「あんた、悠木のなんなの? あんたのせいで悠木と話せないんだけど!」
ヘーゼルカラーのカラコンの入った彼女の瞳がギラギラ輝いて虹色に光る。その色彩は綺麗なはずなのにとても恐ろしい。
「と、友達だけど?」
「ならどっか行ってよ! いい加減、邪魔なの!」
関係性を聞かれたので素直に答えてあげたのに怒鳴られた。どっかいけってあんた……何様のつもりなの。私は呆れてしまった。
こちらとしても彼女でも友達でもない人にそんな事されてもなぁ……。なんの権利があるっていうのか。
私は悠木君と約束して一緒に観光してるんだ。邪魔しているのはどっちか冷静になってよく考えた方がいい。
約束もしてない人間に排除されるいわれはないぞ。
「なんでそんなこと言われなきゃならないの? 脅して排除して楽しい?」
相手の怒りゲージがマックスになった気配を察知した私はサッと避けた。その直後に前に立っていた女子がエアビンタしてスカッと空振りしていた。
この展開も見切っている!
少女漫画で読んだ展開だよね、主人公格の女はライバルたちに囲まれて嫌がらせされるんだよね!
しかし私はおとなしく殴られてはやらん! なぜ私が叩かれなきゃならないのか理解し難い! 殴りたいならそこの壁を叩いているがいいさ!
「きゃあ!」
三十六計逃げるに如かず!
囲んできた女子たちの隙間を強行突破した。誰かと肩がぶつかったがここで止まるのは拙い。
「待ちなさいよ!」
背後で怒鳴りつけられたが、私は止まらず振り返らず女子トイレから飛び出す。
人目につけばあいつらも何もしないだろう。悠木君の目の前なら……と思って外に出たんだけど、そこには彼の姿がなかった。
……あれ? トイレの近くまで付いてきてくれて、ここで待ってるって言ってたよね?
「悠木君!?」
彼を呼んでみたけど、返事は無かった。
どこに消えたんだ、悠木君!
「ごめん、ちょっとトイレに行ってくるから、ここで待っててくれる?」
催した私は悠木君にそう断って公園内のトイレを捜索した。その後、用を済ませたはいいが、トイレを探すのに必死になってたせいで悠木君を待たせている場所はどこだったっけ? と少し道に迷う。
スマホで連絡取るかなと思い始めていたが、その間に彼の姿を見つけた。
彼はたくさんの女子高生たちに囲まれて逆ナンされており、とても目立っていた。しかもその周りを複数の鹿がお辞儀をしながら更に囲っている。それを無関係の観光客が遠巻きにして見ていた。
……なにあれ、生け贄を捧げる儀式か何か? 古都奈良でサバトですか……?
「人待ってるから」
「じゃあ連絡先教えて?」
「断る」
悠木君は淡々と逆ナンしてくる女子高生をあしらっていた。うん、通常運転である。
断られて諦めるならいいけど、彼女たちは悠木君の腕に巻き付いたり、甘えた声で話しかけたりありとあらゆる作戦で気を引こうとしていた。
──私はそれを見てフッと笑った。
甘いな、トップクラスの美女と仲良くて、今年注目の入学生の美少女にも言い寄られ、海では水着ギャルに全く鼻を伸ばさなかった悠木君だぞ。
そんな手が通用するなら、悠木君はジゴロの名をものにしていただろうよ…! 何故か私には謎の自信があった。
遠くで高校生達と鹿が描くミステリーサークルを眺めていると、逆ナンされて仏頂面だった悠木君がこちらに気づいたようだ。
「森宮!」
ぱぁっと喜びに満ちた笑顔を浮かべた悠木君は先程とは人が違って見えた。その眩しさに硬直した女子高生の肩を押して身体から引き剥がすと、彼は私のもとに駆け寄ってきた。
「…ごめん、遅くなった」
「いや、平気。行こうぜ」
悠木君はその場から離れてしまいたいようで私の手を引っ張ってきた。それにざわついたのは逆ナンしていた他校の女子高生たちである。
知らない子達が私の顔面をジロジロ見てきて、眉間にシワを寄せて顔をしかめたり、羨ましいと言わんばかりに睨まれたりした。
おぉ怖い。
「相変わらずモテるね」
速歩きの悠木君に合わせるために小走りで後を着いて行っていると、彼の足が急に止まった。危うく彼を追い越して先に進んでしまいそうだった私は急ブレーキをかけて止まる。
どうした、何事だと悠木君を見上げると、悠木君は複雑な顔をしていた。
「外見でしか見られないって感じがしてたまに虚しくなるけどな」
容姿に悩んでる人が聞いたら怒り出しそうな発言だな。
本音なんだろうけど、周りの一般人には嫌味にも聞こえるし、あまり外で言えなさそうな悩みである。
「だけど外見だけで見てない人もいるでしょ」
例に出すと桐生さんとか眼鏡とか。数は多くないけど、悠木君自身を見ようとする人はいてくれるじゃないか。
周りと違うことで孤独感もあるだろうけど、悠木君はひとりじゃないぞ。私が大丈夫だの意味を込めてうなずくと、彼が私の顔を覗き込んできた。それにびっくりした私は目を丸くして固まってしまう。
「…お前も?」
その問いかけは縋るような、懇願するような声だった。
……なにか不安に感じているのだろうか。
「もちろん」
悠木君から見て私がどんな風に見えているか知らないが、私は悠木君の容姿目当てに近づいたことはないぞ。君は確かにイケメンだ。これは揺るぎない真実である。
しかしそれは関係ないのだ。私は君が悠木夏生という人間だから親しくしているだけで、悠木君の顔面が今のキラキラフェイスじゃなくても仲良くなれてた気がするぞ。
「女に冷たいのかなーと思ってたけど、一度懐に入れたら優しいよね、悠木君って」
第一印象というものは簡単に覆るものなんだなと君を見て学んだよ。うちの学校の普通科と特進科の間柄は把握していたので、科をまたいでこんなに仲良くなれるなんて思わなかったよ。
私達は友達を超えた存在だ。ズッ友と言っても過言ではない。そう言おうとしたけど、私の口からその単語は飛び出してこなかった。
悠木君はとろりと溶けそうな瞳で私を見つめてくるもんだから、私はその瞳に見惚れて何も言えなくなったのだ。
「お前は、特別枠なんだけど…」
掠れた声で囁く悠木君の真剣な表情にドキッと大きく跳ねた心臓。どくどくと耳にまで届く心臓の音を聞きながら、彼を見つめ返した。
悠木君は時々そんな目で私を見ることがあるね。私はその目に見つめられる度に心臓が変な動きがするんだ。胸の奥で眠っている何かが目覚めてしまいそうで私はそれが怖くなる。
悠木君、どうしてそんな目で私を見るの?
「…お前に伝えたいことがあるんだ。聞いてくれるか?」
繋がれたままの手を繋ぎ直され、指を絡められた。
悠木君の指が私の指の股をそっと撫でる。それがくすぐったくて肩を揺らした。
「俺──…」
悠木君の伝えたいことってなんだろう。
彼をじっと見上げていると、スカートを後ろから引っ張られている感触がした。悠木君から目が離せなかったはずの私はくるりと首を後ろにまわして違和感の原因を確認しようとして……息を呑んだ。
背後では鹿が私のスカートをハミハミして唾液まみれにしてくれていた。
「イヤッいやぁぁー!?」
「!? あっこらやめろ離せ!」
私の悲鳴に反応した悠木君は私のスカートの惨劇に気づくとすぐに鹿を追い払ってくれた。
しかし時既に遅し。スカートの一部はよだれまみれになってしまっていた……。
「……もう一度トイレに行ってくる…」
私がずーんと落ち込んでいると、悠木君は「ホテルに戻る?」と気遣ってくれたが、それはしたくない。折角の修学旅行なのに途中で帰るのはつまらないもの。
トイレの洗面台で唾液まみれのスカート部分を軽く水で濯いで、ハンカチで水分を取る。これでしばらく濡れたままだけど、何もしないよりはマシだろう。
鹿…なんで私のスカートを……思わずため息が漏れ出る。
鹿せんべい催促されたのかな。持ってないのに。
──トン
「ねぇあんたさぁ、本当何なの?」
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「マジ調子乗り過ぎだし」
「悠木の周りチョロチョロすんなし」
囲ってきたのは、同じ学校の女子らだった。彼女たちは私を睨みつけながらイチャモンを付けてきた。
ちょ、ここで私を囲むか…? ぎょっとした私にお構いなしに、自分に自信がある系の一軍女子のひとりがズズイと顔を近づけてきた。
「あんた、悠木のなんなの? あんたのせいで悠木と話せないんだけど!」
ヘーゼルカラーのカラコンの入った彼女の瞳がギラギラ輝いて虹色に光る。その色彩は綺麗なはずなのにとても恐ろしい。
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関係性を聞かれたので素直に答えてあげたのに怒鳴られた。どっかいけってあんた……何様のつもりなの。私は呆れてしまった。
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私は悠木君と約束して一緒に観光してるんだ。邪魔しているのはどっちか冷静になってよく考えた方がいい。
約束もしてない人間に排除されるいわれはないぞ。
「なんでそんなこと言われなきゃならないの? 脅して排除して楽しい?」
相手の怒りゲージがマックスになった気配を察知した私はサッと避けた。その直後に前に立っていた女子がエアビンタしてスカッと空振りしていた。
この展開も見切っている!
少女漫画で読んだ展開だよね、主人公格の女はライバルたちに囲まれて嫌がらせされるんだよね!
しかし私はおとなしく殴られてはやらん! なぜ私が叩かれなきゃならないのか理解し難い! 殴りたいならそこの壁を叩いているがいいさ!
「きゃあ!」
三十六計逃げるに如かず!
囲んできた女子たちの隙間を強行突破した。誰かと肩がぶつかったがここで止まるのは拙い。
「待ちなさいよ!」
背後で怒鳴りつけられたが、私は止まらず振り返らず女子トイレから飛び出す。
人目につけばあいつらも何もしないだろう。悠木君の目の前なら……と思って外に出たんだけど、そこには彼の姿がなかった。
……あれ? トイレの近くまで付いてきてくれて、ここで待ってるって言ってたよね?
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どこに消えたんだ、悠木君!
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