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勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。
我が岡に さを鹿来鳴く 初萩の 花嬬どひに 来鳴くさを鹿
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「悠木くーん!」
「森宮、待ちなさいよ…!」
私が呼んだのは悠木君なのに、お呼びじゃない一軍女子が般若の顔して女子トイレから飛び出してきた。相手は血走った目をしてこちらを睨みつけている。
──悠木君を捜索したいのはやまやまだが、ここは身の安全を優先しよう。恐ろしい顔の女子たちから逃げるべく、私は一目散に逃げた。
「あっ! 逃げた!」
私が駆け出すと後ろで焦る声が聞こえた。だけど足音はついてこないから、走ってまでは追いかけてくる気はないみたい。
おそらく周りに通行人が居るから乱暴なことしたらまずいと思ったのだろう……ホテル戻ったら友達から離れないようにしよ。何されるか分かったもんじゃない。
「…そうだ、スマホ」
悠木君を探すために鹿と人を避けながら走って逃げてきた私は、周りを見渡して安全を確認した後立ち止まるとスマホを確認した。──しかし悠木君からの連絡は一件も入ってない。
こちらからメッセージを送ろうとするがどうにもサクサク動かない。え、まさか通信制限? それでもメッセージは送れるだろうとスマホを操作するも送信に失敗する。
何ということでしょう。
スマホを使えず、この広い公園の中で迷子になったら、合流は不可能なのでは……?
何度か再チャレンジするけど、失敗してしまう。こんな拓けている場所で…なぜだ。
「あれー? そこにいるのって森宮さん?」
呼びかけられて私が振り返ると、そこには眼鏡と桐生さんが並んで歩いていた。その側に季衣はいない。彼女もあの後別行動に入ったのだろうか。
「てっきり夏生とデート中かと思ったけど、一人なの?」
「トイレで悠木君狙いの女に絡まれてはぐれちゃった」
スマホもつながらないと見せると、桐生さんが顎に手をやって神妙な表情で「もしかしたら他の女の子に追い回されているんじゃないかしら?」とつぶやいた。
なるほど、そういうわけか。さすが長年の付き合いだ。悠木君の行動パターンを把握しきっているな。
「あ、ホントだ。俺のスマホも圏外になってる」
どうやらつながらないのは私のスマホだけじゃないらしい。アプリメッセージ画面では回線マークがくるくるしたままだ。
「一緒に探そうか?」
眼鏡は一緒に探すかと言ってくれたけど、私は首を横に振る。
スマホがこんな状態だから手分けして探しても合流するのが難しいし、多分公園内から出ていないだろうから一人でも大丈夫だろうと思ったからである。
「ううん、大丈夫! 自分で探し出してみせるから!」
私は2人と別れると再び駆け出した。広場に出てみるとあちこちに学生観光客がいて、似た制服姿の男子を見つけては違う人であるとがっかりする。
スマホは未だに繋がらず、時間は過ぎ去っていくのみ。
私は焦っていた。このまま再会できなかったらどうしようなんて不安な気持ちでいっぱいになる。商業施設でひとり迷子になった時、寂しくて心細くなった幼い頃の自分と同じ気持ちになった。
途中、まだ公園にいた例の一軍女子と遭遇しそうになって慌てて避けて逃げて、汗ダラダラ流しながら走る。出かける前に季衣がしっかり化粧してくれたのに崩れていそうな気がした。
私は激しい息切れを起こしていた。公園2周分くらい走った気がするけど見つからない…一体どこに居るんだ悠木君…!
「せんべいは後でやるから!」
悲鳴に似た懇願が耳に飛び込んできたのは、その時だった。
先程女子高生と鹿のミステリーサークルを作っていた彼は、今度は鹿オンリーのミステリーサークルを形成していた。
──いた!
「悠木君!」
やっと見つけた喜びで私が大声で呼ぶと、悠木君が反応してこちらを見た。
「森宮!」
どこ行ってたんだよー! と文句の一つくらい言ってやろうと彼のもとに駆け寄ろうとすると、悠木君も鹿達をあしらって私のもとに近づいてきた。
「悠木くっ」
彼の顔を見上げていた私の視界が突然真っ暗になった。
なぜなら私は彼に抱き寄せられて、彼の胸板に顔を押し付ける形になったからである。カッターシャツ越しの悠木君の胸からはドッドッド…とハイペースで鼓動する心臓の音が聞こえた。それは私も人のことは言えない。ギュウギュウに抱きしめられると、走ってきた体が余計に暑くなる。
…暑いけど、悪くはないと思ってしまうのは、再会した嬉しさのおかげだろうか。
「ごめん。しつこい女子と鹿を追い払って逃げ回ってた」
ほーっ…と私の耳元で安心のため息を吐き出す悠木君の声が至近距離で聞こえてきた。
悠木君いわく、トイレに行った私を待っている間、修学旅行中の女子に再び目をつけられて、あまりのしつこさにそれから逃げていたと。それに加えて、私を待ってる間に売店で購入した鹿せんべいを持って逃げ回ってたら鹿にも狙われて追い回されて居たらしい。
食欲旺盛な鹿のおかげで女子を追い払えたから良かった、と彼は言ってるが……果たして良かったのかな、それって。
「立ち止まってせんべいあげたらよかったのに」
「冷静に考えたらそうだよな。鹿の勢いが凄くて体が勝手に逃げてた」
元はと言えば女子から逃げていたから仕方ないんだろうけどさ。行方不明になったときは肝が冷えたよ。
「ともかく見つかってよかった!」
スマホがいきなり使えなくなって私もパニクっていた自覚はあるので、これ以上は言うまい、悠木君は被害者なんだからね。
悠木君の腕の中で見上げると目があった。悠木君は眉を八の字にして困ったように笑っていた。
どうしたの、私は怒ってないよ。彼を安心させるべく笑ってみせた。
「ピュエェーッ」
「いてっ」
急に悠木君がどんと体当りしてきた。
犯人、いや…犯鹿はせんべいを狙う男鹿だった。せんべいを寄越さない悠木君にいい加減焦れて足に頭突きしてきたのだ。
悠木君は私が倒れないように踏ん張って転倒を阻止すると、バッと鹿を見た。鹿は地面をガッガッと蹴りながら【せんべい、はよ】と圧をかけている。
「ったくもう…ほらよ」
悠木君がムッとした顔で丸い鹿せんべいを突き出すと、待ってましたと言わんばかりにそれに噛み付く鹿。それを合図に続々と鹿が私達を取り囲んだ。
しゃもしゃもと咀嚼する鹿を眺めていると、悠木君が紙ひもで固められた鹿せんべいを手渡してきたので、私はお礼を言ってそれを受け取った。新たな鹿が近づいて来たので食べやすく割って与えた。
鹿には私達の再会劇とか関係ないようで、せんべいをせびるだけせびったら塩対応となり離れていった。
手についたせんべい屑を叩いて落としながら私は思い出す。
「あ、そうだ。さっき何を言いかけてたの? ほら、私のスカートが食べられる前。私に伝えたい事があるって言ってたよね?」
話がまだだったよね、と聞くと、悠木君はギクッと肩をこわばらせた。その不可解な反応に私は首を傾げる。
彼は「あー」とか「うー」とボヤいて、視線をさまよわせながら言う言葉を探していた。
話しにくい内容なんだろうか。場所を変えたほうがいいのかな…と私が不安に思い始めていると、悠木君は手を伸ばして私の肩を両手でそっと掴んできた。
急に肩を固定された私は驚きに身を固める。
えっ、何…?
悠木君は眉間にシワを寄せて難しい顔をしているのに、どんどん顔が赤らんでいく。私に対してなにか怒っているのだろうかと私が身構えていると、悠木君は重い口をゆっくり開いた。
「──好きだ」
3文字の言葉だ。
別に難しい単語でもない。
だけど私はその単語を一瞬では理解できなくてぽかんとしていた。
「俺、森宮が好きだ。女として……俺と付き合ってほしいんだ」
鈍感だと馬鹿にされ続けてきた私だってそこまで言われて気づかないほど馬鹿じゃない。
しかし、私の中には冷静に考える自分がいて、その言葉を素直に受け止められなかった。
…私が中学の時、からかうために嘘の告白ゲームをして楽しんでいる同級生を見かけたことがある。悪い冗談だ。そのことは学年で噂になり、被害者は登校拒否になっていた。つまりこの言葉も【嘘】じゃないかと疑ってしまったのだ。
「ま、またまた…眼鏡と賭けでもしてるの…?」
あの眼鏡である。悪ふざけして男の友情を確かめるために悪趣味な遊びに誘った可能性だってある。だから私は笑い飛ばそうとしたのだけど、悠木君の表情は険しくなるだけだった。
彼の反応をみて、本気なんだと察した。それと同時に冗談で笑い飛ばそうとした自分の軽率な発言に頭を抱えたくなる。
女として好き、付き合いたい、というのはつまり、そのー…あの……何故かここで夏のバイト前にお姉ちゃんに言われたあれこれを思い出してしまって恥ずかしくなった。
“異性愛者なら異性に欲情するものなの!”
異性の私を好きだという悠木君は、私を女としてそういう対象で見ているってことで……そういうことをしたいと思っているってこと……
私は性愛対象で悠木君とどうこうすると考えたことがなかったのでひどく混乱していた。
「あの、私…と、友達だと思っていて」
急にそんな事言われても困る、と言おうとしたらグッと肩を握られた。身を屈めた悠木君の顔が近づいてきて、私はその瞳から目が反らせなくなった。
「なら考えて」
真剣な表情、硬い声。
人をからかう色は存在しない。
私は彼が放つ空気に飲まれて、頷きそうになったところをグッとこらえる。
「俺はお前の特別になりたい」
何かを言いたいのに、心臓が大暴れして胸が苦しい。やけに変な汗をかいてしまう。話せば声が震えそうだ。
今の私は冷静じゃない。今返事を出すべきじゃない。悠木君は本気なんだ、私も本気で考えねば。
そもそもこういう修学旅行という状況はイベント効果で普段はしないような行動をするとも言われているんだ。一旦クールダウンしたほうがいい。混乱してぐるぐるしていたが私はなんとか口を開いた。
「か、考えさせてください。」
震える唇で発した言葉は、先延ばしを望む返事だけだった。
友達だと思っていた彼を今日から彼氏に、と軽く決められるほど私は恋愛経験が無いのである。
「森宮、待ちなさいよ…!」
私が呼んだのは悠木君なのに、お呼びじゃない一軍女子が般若の顔して女子トイレから飛び出してきた。相手は血走った目をしてこちらを睨みつけている。
──悠木君を捜索したいのはやまやまだが、ここは身の安全を優先しよう。恐ろしい顔の女子たちから逃げるべく、私は一目散に逃げた。
「あっ! 逃げた!」
私が駆け出すと後ろで焦る声が聞こえた。だけど足音はついてこないから、走ってまでは追いかけてくる気はないみたい。
おそらく周りに通行人が居るから乱暴なことしたらまずいと思ったのだろう……ホテル戻ったら友達から離れないようにしよ。何されるか分かったもんじゃない。
「…そうだ、スマホ」
悠木君を探すために鹿と人を避けながら走って逃げてきた私は、周りを見渡して安全を確認した後立ち止まるとスマホを確認した。──しかし悠木君からの連絡は一件も入ってない。
こちらからメッセージを送ろうとするがどうにもサクサク動かない。え、まさか通信制限? それでもメッセージは送れるだろうとスマホを操作するも送信に失敗する。
何ということでしょう。
スマホを使えず、この広い公園の中で迷子になったら、合流は不可能なのでは……?
何度か再チャレンジするけど、失敗してしまう。こんな拓けている場所で…なぜだ。
「あれー? そこにいるのって森宮さん?」
呼びかけられて私が振り返ると、そこには眼鏡と桐生さんが並んで歩いていた。その側に季衣はいない。彼女もあの後別行動に入ったのだろうか。
「てっきり夏生とデート中かと思ったけど、一人なの?」
「トイレで悠木君狙いの女に絡まれてはぐれちゃった」
スマホもつながらないと見せると、桐生さんが顎に手をやって神妙な表情で「もしかしたら他の女の子に追い回されているんじゃないかしら?」とつぶやいた。
なるほど、そういうわけか。さすが長年の付き合いだ。悠木君の行動パターンを把握しきっているな。
「あ、ホントだ。俺のスマホも圏外になってる」
どうやらつながらないのは私のスマホだけじゃないらしい。アプリメッセージ画面では回線マークがくるくるしたままだ。
「一緒に探そうか?」
眼鏡は一緒に探すかと言ってくれたけど、私は首を横に振る。
スマホがこんな状態だから手分けして探しても合流するのが難しいし、多分公園内から出ていないだろうから一人でも大丈夫だろうと思ったからである。
「ううん、大丈夫! 自分で探し出してみせるから!」
私は2人と別れると再び駆け出した。広場に出てみるとあちこちに学生観光客がいて、似た制服姿の男子を見つけては違う人であるとがっかりする。
スマホは未だに繋がらず、時間は過ぎ去っていくのみ。
私は焦っていた。このまま再会できなかったらどうしようなんて不安な気持ちでいっぱいになる。商業施設でひとり迷子になった時、寂しくて心細くなった幼い頃の自分と同じ気持ちになった。
途中、まだ公園にいた例の一軍女子と遭遇しそうになって慌てて避けて逃げて、汗ダラダラ流しながら走る。出かける前に季衣がしっかり化粧してくれたのに崩れていそうな気がした。
私は激しい息切れを起こしていた。公園2周分くらい走った気がするけど見つからない…一体どこに居るんだ悠木君…!
「せんべいは後でやるから!」
悲鳴に似た懇願が耳に飛び込んできたのは、その時だった。
先程女子高生と鹿のミステリーサークルを作っていた彼は、今度は鹿オンリーのミステリーサークルを形成していた。
──いた!
「悠木君!」
やっと見つけた喜びで私が大声で呼ぶと、悠木君が反応してこちらを見た。
「森宮!」
どこ行ってたんだよー! と文句の一つくらい言ってやろうと彼のもとに駆け寄ろうとすると、悠木君も鹿達をあしらって私のもとに近づいてきた。
「悠木くっ」
彼の顔を見上げていた私の視界が突然真っ暗になった。
なぜなら私は彼に抱き寄せられて、彼の胸板に顔を押し付ける形になったからである。カッターシャツ越しの悠木君の胸からはドッドッド…とハイペースで鼓動する心臓の音が聞こえた。それは私も人のことは言えない。ギュウギュウに抱きしめられると、走ってきた体が余計に暑くなる。
…暑いけど、悪くはないと思ってしまうのは、再会した嬉しさのおかげだろうか。
「ごめん。しつこい女子と鹿を追い払って逃げ回ってた」
ほーっ…と私の耳元で安心のため息を吐き出す悠木君の声が至近距離で聞こえてきた。
悠木君いわく、トイレに行った私を待っている間、修学旅行中の女子に再び目をつけられて、あまりのしつこさにそれから逃げていたと。それに加えて、私を待ってる間に売店で購入した鹿せんべいを持って逃げ回ってたら鹿にも狙われて追い回されて居たらしい。
食欲旺盛な鹿のおかげで女子を追い払えたから良かった、と彼は言ってるが……果たして良かったのかな、それって。
「立ち止まってせんべいあげたらよかったのに」
「冷静に考えたらそうだよな。鹿の勢いが凄くて体が勝手に逃げてた」
元はと言えば女子から逃げていたから仕方ないんだろうけどさ。行方不明になったときは肝が冷えたよ。
「ともかく見つかってよかった!」
スマホがいきなり使えなくなって私もパニクっていた自覚はあるので、これ以上は言うまい、悠木君は被害者なんだからね。
悠木君の腕の中で見上げると目があった。悠木君は眉を八の字にして困ったように笑っていた。
どうしたの、私は怒ってないよ。彼を安心させるべく笑ってみせた。
「ピュエェーッ」
「いてっ」
急に悠木君がどんと体当りしてきた。
犯人、いや…犯鹿はせんべいを狙う男鹿だった。せんべいを寄越さない悠木君にいい加減焦れて足に頭突きしてきたのだ。
悠木君は私が倒れないように踏ん張って転倒を阻止すると、バッと鹿を見た。鹿は地面をガッガッと蹴りながら【せんべい、はよ】と圧をかけている。
「ったくもう…ほらよ」
悠木君がムッとした顔で丸い鹿せんべいを突き出すと、待ってましたと言わんばかりにそれに噛み付く鹿。それを合図に続々と鹿が私達を取り囲んだ。
しゃもしゃもと咀嚼する鹿を眺めていると、悠木君が紙ひもで固められた鹿せんべいを手渡してきたので、私はお礼を言ってそれを受け取った。新たな鹿が近づいて来たので食べやすく割って与えた。
鹿には私達の再会劇とか関係ないようで、せんべいをせびるだけせびったら塩対応となり離れていった。
手についたせんべい屑を叩いて落としながら私は思い出す。
「あ、そうだ。さっき何を言いかけてたの? ほら、私のスカートが食べられる前。私に伝えたい事があるって言ってたよね?」
話がまだだったよね、と聞くと、悠木君はギクッと肩をこわばらせた。その不可解な反応に私は首を傾げる。
彼は「あー」とか「うー」とボヤいて、視線をさまよわせながら言う言葉を探していた。
話しにくい内容なんだろうか。場所を変えたほうがいいのかな…と私が不安に思い始めていると、悠木君は手を伸ばして私の肩を両手でそっと掴んできた。
急に肩を固定された私は驚きに身を固める。
えっ、何…?
悠木君は眉間にシワを寄せて難しい顔をしているのに、どんどん顔が赤らんでいく。私に対してなにか怒っているのだろうかと私が身構えていると、悠木君は重い口をゆっくり開いた。
「──好きだ」
3文字の言葉だ。
別に難しい単語でもない。
だけど私はその単語を一瞬では理解できなくてぽかんとしていた。
「俺、森宮が好きだ。女として……俺と付き合ってほしいんだ」
鈍感だと馬鹿にされ続けてきた私だってそこまで言われて気づかないほど馬鹿じゃない。
しかし、私の中には冷静に考える自分がいて、その言葉を素直に受け止められなかった。
…私が中学の時、からかうために嘘の告白ゲームをして楽しんでいる同級生を見かけたことがある。悪い冗談だ。そのことは学年で噂になり、被害者は登校拒否になっていた。つまりこの言葉も【嘘】じゃないかと疑ってしまったのだ。
「ま、またまた…眼鏡と賭けでもしてるの…?」
あの眼鏡である。悪ふざけして男の友情を確かめるために悪趣味な遊びに誘った可能性だってある。だから私は笑い飛ばそうとしたのだけど、悠木君の表情は険しくなるだけだった。
彼の反応をみて、本気なんだと察した。それと同時に冗談で笑い飛ばそうとした自分の軽率な発言に頭を抱えたくなる。
女として好き、付き合いたい、というのはつまり、そのー…あの……何故かここで夏のバイト前にお姉ちゃんに言われたあれこれを思い出してしまって恥ずかしくなった。
“異性愛者なら異性に欲情するものなの!”
異性の私を好きだという悠木君は、私を女としてそういう対象で見ているってことで……そういうことをしたいと思っているってこと……
私は性愛対象で悠木君とどうこうすると考えたことがなかったのでひどく混乱していた。
「あの、私…と、友達だと思っていて」
急にそんな事言われても困る、と言おうとしたらグッと肩を握られた。身を屈めた悠木君の顔が近づいてきて、私はその瞳から目が反らせなくなった。
「なら考えて」
真剣な表情、硬い声。
人をからかう色は存在しない。
私は彼が放つ空気に飲まれて、頷きそうになったところをグッとこらえる。
「俺はお前の特別になりたい」
何かを言いたいのに、心臓が大暴れして胸が苦しい。やけに変な汗をかいてしまう。話せば声が震えそうだ。
今の私は冷静じゃない。今返事を出すべきじゃない。悠木君は本気なんだ、私も本気で考えねば。
そもそもこういう修学旅行という状況はイベント効果で普段はしないような行動をするとも言われているんだ。一旦クールダウンしたほうがいい。混乱してぐるぐるしていたが私はなんとか口を開いた。
「か、考えさせてください。」
震える唇で発した言葉は、先延ばしを望む返事だけだった。
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