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意識し始めた彼女と積極的に動く彼。
脳内物質とホルモン分泌により、現在甚大なエラーが起きております。
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「ねぇこれ、箸ついてないよ」
「あっ! 申し訳ございません!」
お客さんに指摘されて、慌ててお箸を渡す。
「いや、ひとつでいいよ」
慌てるあまり、箸の束を鷲掴みで差し出していたらしい。
更にやらかした。無意識って怖い。
やばい、慣れているはずのバイトで失敗多発してる。昨日は常連さんのタバコ間違えるし、お釣りを募金箱に入れそうになった。今日は缶コーヒーをレンジに掛けようとするし、お箸を渡しそこねるし……
私は一体何をしてるんだ。
自分の不甲斐なさにがっくり落ち込んた。
「どうしたの? 最近ぼうっとしてるよね?」
同じバイトの大学生に突っ込まれてぐぅの音も出ない。
どうにも集中途切れる。いつもなら仕事モードに切り替えられるのに、雑音が入ってきてしまうのだ。
「あ、わかった」
閃いたとばかりに大学生が人差し指をこちらに向けてくる。
「彼氏できた? 森宮さん、最近雰囲気変わったもん」
「あのイケメン君となんかあったんでしょう!」といわれ、私は持っていた箸を盛大にばら撒いた。
な、何故わかるんだ。
私が悠木君に一度ならず二度もキスされたことをこの人は見抜いておられるのか……!
「あ、いらっしゃっせー」
落とした箸を拾い集めていると、新たにお客さんが入店していたので、大学生が砕けた挨拶をする。
「いらっ……アイテッ」
私も続けて挨拶しようとしたけど、そこに登場したのが悠木君本人だったため、激しく動揺してカウンターに思いっきり頭をぶつけたのである。
□■□
ふと、窓の外で渡り廊下を歩く悠木君と、その後ろを追う女子の姿を見つけて、2階の廊下を歩いていた私は歩を止めた。
悠木君の腕に手を回して捕獲した彼女…雨宮さんは何やら話かけているようだが、悠木君に頭を掴まれて押しのけられていた。
「ひどーい! 女の子にすることじゃなーい!」
上の階まで届いた雨宮さんの声は校舎にぶつかってきんきんと反響していた。悠木君は知らん顔して速歩きで逃げている。
悠木君が女の子に追われているこんな光景なんて今までに何度も見てきた。私もいい加減に見慣れているはずだ。
それなのに胃の腑が煮詰まるようなこの嫌な感じはなんだろう。
最近の私は悠木君のことを考えると調子が狂う。自分の軸がブレそうになるのだ。今朝のバイトでもいつもはしないミスをしてしまったし、勉強するときもふっと悠木君のことを思い出して集中が途切れてしまう。
自分がおかしい原因は悠木君だってって理解している。
──このまま悠木君と関わり続けていたら、いつもの自分が違う人間になってしまいそうでこわい。悠木君といると自分が自分じゃなくなるんだ。
彼と離れたいとは全く思わない。だけど自分や関係性が一気に変わってしまって、変化について行けないのだ。
「──いつまで返事を先延ばしするつもりなの?」
いきなり横から掛けられた言葉に私はびくりとした。
振り返ればそこには桐生さんの姿。いつからそこにいたんだろうか。
彼女の視線は私が先ほどまで見ていた人物に向けられていた。逃げる悠木君と追っていく雨宮さんを静かに眺めている彼女を見上げて、私は複雑な気持ちになった。
「……わかんないんだ、自分の感情が」
返事の先延ばし云々よりも、自分が悠木君をどう思っているのかがわからない。
悠木君にキスされると、今までに自分が抱えたことのない感情に襲われる。ただされるがままに従ってしまいそうになるんだ。そんな自分にも戸惑っている。
悠木君が他の女の子と話してるのを見てるとが辛いんだ。他の誰のものにもならないでほしい。……友達のままならこんな気持ちにならなかったのに。
きっと悠木くんも私のこと呆れているよね、こんなにも優柔不断なんだもん。
「森宮さんが抱えているそれが、好きってことなんじゃないのかしら」
桐生さんの指摘に私はぽかんとする。
そんな私を見た桐生さんは苦笑いを浮かべていた。
「森宮さんて、本当に鈍感なのね。呆れ通り越して驚きだわ」
この人にまで鈍感って言われた…なんだろう、眼鏡に言われたときより傷つくんだけど。
「今のあなたは誰がどう見ても、夏生に恋してるわよ。周りがそれに気づいて火をつけようとしているのに、あなたいつになっても気づこうとしないんだもの」
髪をサラッと振り払った彼女は「一緒に振り回されるこっちも疲れるのよね」と呆れを隠さずに口にする。
恋…この気持ちが、好きという感情。──私が、悠木君を好き。
「このままじゃ一生気づかなそうだから教えてあげたわ。感謝してね」
あぁそうか、目が勝手に悠木君を探しているのもそれなのか。桐生さんからストレートに言われて、すとんと胸に落ちた。
じわじわと自覚すると、無性に恥ずかしくなった。顔が火を吹いたように熱くなる。
両手で顔を覆って唸っていると、「あなたはいいわね、おめでたくて」と桐生さんから笑顔で嫌味を言われた。
なんでそこで刺々しいことを言うのか。あんたは私に嫌味を言いに来たのか。
「礼奈ぁぁー…」
やっぱり桐生さん苦手、と再認識して渋い顔をしていると、そこに情けない声で桐生さんを呼ぶ眼鏡が現れた。
「大輔…? どうしたのその頬…」
眼鏡に視線を移した桐生さんは目を見張って驚いていた。
彼女の指摘通り、眼鏡の左頬は赤く腫れている。ひどい虫歯にでもなったのだろうか。
「別れ話したら殴られた」
彼女と別れ話をして叩かれたからと泣きつきに来たそうだ。情けない男である。
ていうかあんなにラブラブそうだったのに、別れるの早くない? 眼鏡から振ったんだよね? もう飽きたとか? 3人娘が「長続きしない」って噂話をしてたけど、マジだったのか……
私がさり気なく引いている目の前では、桐生さんが眼鏡の頬をそっと撫でてあげていた。
その手付きは優しく労るようであった。
「言ったじゃない。軽い気持ちで交際したらこうなるって」
「だってさぁ……」
冷戦状態だったくせに、なんか急に元通り仲良くなったな。
桐生さんは先程までの作り笑顔(刺々しいタイプ)とは異なり、素の笑顔を浮かべているように見えた。
多分これは眼鏡と悠木君の前でしかしない表情なんだろなってなんとなく予想つく。
「頬を冷やせるもの買ってくるわ」
桐生さんはくるりと踵を返すと、軽やかなステップで歩き始めた。
……嬉しそうだなおい。仮にも友人が破局して殴られたってのに……そしてこれまでの事をよく考えてみて、私は理解した。
まさか桐生さんは……眼鏡のことが好きなの?
そう考えると、今までの八つ当たりっぽい発言の数々を理解できる。私と眼鏡が親しくするのが嫌だから刺々しい事を言ってきたんだあの人。
……眼鏡かぁ。お調子者にしか見えないけど、桐生さんには素敵に見えんのかな。私には魅力がわからないけど。
「森宮さん、みて、これ酷くない? 手形残ってないかな?」
「自業自得でしょ」
眼鏡が私にも絡み始めたので、私は一蹴して突き放してやった。
また桐生さんに嫌味言われたくないから眼鏡の相手すんのやめよ。
後ろで「森宮さんが冷たい!」と騒ぐ眼鏡を放置して自分のクラスに戻ると、「美玖!」と友人達が焦った顔をして私の元へ駆け寄ってきた。
「美玖、これ見て!」
食い気味に季衣が見せてきたスマホの画像にはふたりの男女が映っていた。
なにかの特集ページみたいなのに映る子は雨宮さんと腕を組む悠木君の姿。画像の下には街で見かけたベストカップルという文字が載っている。
「SNSで流れてきたのを開いて見たら、悠木君が雨宮と映ってたんだよ!」
「美玖、ヤバくない? 悠木君、去年生徒会役選で似たような状況になったでしょ」
確かに去年もそれらしい写真を撮られてSNSに流された悠木君は大変な苦労をしていた。
写真をよく見ると、校舎内で撮影したものらしいけど……また誰かが悠木君に振られて逆恨みでもしたのかな。
「ねぇ、正門に他校の女子がいんだけど……」
ゆうちゃんの言葉を受けて、窓から正門側を確認すると数名の女子が群がっていた。私は教室の壁に掛けられた時計を確認して、もうすぐ5時間目の授業が始まる時間であることを確認した。
他の学校は、終わるのが早かったのだろうか……?
防犯のために学校の門は閉まったままなので、侵入はされないだろうが……去年に引き続き、今年も悠木君には災厄が訪れる予感しかない。
「あっ! 申し訳ございません!」
お客さんに指摘されて、慌ててお箸を渡す。
「いや、ひとつでいいよ」
慌てるあまり、箸の束を鷲掴みで差し出していたらしい。
更にやらかした。無意識って怖い。
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私は一体何をしてるんだ。
自分の不甲斐なさにがっくり落ち込んた。
「どうしたの? 最近ぼうっとしてるよね?」
同じバイトの大学生に突っ込まれてぐぅの音も出ない。
どうにも集中途切れる。いつもなら仕事モードに切り替えられるのに、雑音が入ってきてしまうのだ。
「あ、わかった」
閃いたとばかりに大学生が人差し指をこちらに向けてくる。
「彼氏できた? 森宮さん、最近雰囲気変わったもん」
「あのイケメン君となんかあったんでしょう!」といわれ、私は持っていた箸を盛大にばら撒いた。
な、何故わかるんだ。
私が悠木君に一度ならず二度もキスされたことをこの人は見抜いておられるのか……!
「あ、いらっしゃっせー」
落とした箸を拾い集めていると、新たにお客さんが入店していたので、大学生が砕けた挨拶をする。
「いらっ……アイテッ」
私も続けて挨拶しようとしたけど、そこに登場したのが悠木君本人だったため、激しく動揺してカウンターに思いっきり頭をぶつけたのである。
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ふと、窓の外で渡り廊下を歩く悠木君と、その後ろを追う女子の姿を見つけて、2階の廊下を歩いていた私は歩を止めた。
悠木君の腕に手を回して捕獲した彼女…雨宮さんは何やら話かけているようだが、悠木君に頭を掴まれて押しのけられていた。
「ひどーい! 女の子にすることじゃなーい!」
上の階まで届いた雨宮さんの声は校舎にぶつかってきんきんと反響していた。悠木君は知らん顔して速歩きで逃げている。
悠木君が女の子に追われているこんな光景なんて今までに何度も見てきた。私もいい加減に見慣れているはずだ。
それなのに胃の腑が煮詰まるようなこの嫌な感じはなんだろう。
最近の私は悠木君のことを考えると調子が狂う。自分の軸がブレそうになるのだ。今朝のバイトでもいつもはしないミスをしてしまったし、勉強するときもふっと悠木君のことを思い出して集中が途切れてしまう。
自分がおかしい原因は悠木君だってって理解している。
──このまま悠木君と関わり続けていたら、いつもの自分が違う人間になってしまいそうでこわい。悠木君といると自分が自分じゃなくなるんだ。
彼と離れたいとは全く思わない。だけど自分や関係性が一気に変わってしまって、変化について行けないのだ。
「──いつまで返事を先延ばしするつもりなの?」
いきなり横から掛けられた言葉に私はびくりとした。
振り返ればそこには桐生さんの姿。いつからそこにいたんだろうか。
彼女の視線は私が先ほどまで見ていた人物に向けられていた。逃げる悠木君と追っていく雨宮さんを静かに眺めている彼女を見上げて、私は複雑な気持ちになった。
「……わかんないんだ、自分の感情が」
返事の先延ばし云々よりも、自分が悠木君をどう思っているのかがわからない。
悠木君にキスされると、今までに自分が抱えたことのない感情に襲われる。ただされるがままに従ってしまいそうになるんだ。そんな自分にも戸惑っている。
悠木君が他の女の子と話してるのを見てるとが辛いんだ。他の誰のものにもならないでほしい。……友達のままならこんな気持ちにならなかったのに。
きっと悠木くんも私のこと呆れているよね、こんなにも優柔不断なんだもん。
「森宮さんが抱えているそれが、好きってことなんじゃないのかしら」
桐生さんの指摘に私はぽかんとする。
そんな私を見た桐生さんは苦笑いを浮かべていた。
「森宮さんて、本当に鈍感なのね。呆れ通り越して驚きだわ」
この人にまで鈍感って言われた…なんだろう、眼鏡に言われたときより傷つくんだけど。
「今のあなたは誰がどう見ても、夏生に恋してるわよ。周りがそれに気づいて火をつけようとしているのに、あなたいつになっても気づこうとしないんだもの」
髪をサラッと振り払った彼女は「一緒に振り回されるこっちも疲れるのよね」と呆れを隠さずに口にする。
恋…この気持ちが、好きという感情。──私が、悠木君を好き。
「このままじゃ一生気づかなそうだから教えてあげたわ。感謝してね」
あぁそうか、目が勝手に悠木君を探しているのもそれなのか。桐生さんからストレートに言われて、すとんと胸に落ちた。
じわじわと自覚すると、無性に恥ずかしくなった。顔が火を吹いたように熱くなる。
両手で顔を覆って唸っていると、「あなたはいいわね、おめでたくて」と桐生さんから笑顔で嫌味を言われた。
なんでそこで刺々しいことを言うのか。あんたは私に嫌味を言いに来たのか。
「礼奈ぁぁー…」
やっぱり桐生さん苦手、と再認識して渋い顔をしていると、そこに情けない声で桐生さんを呼ぶ眼鏡が現れた。
「大輔…? どうしたのその頬…」
眼鏡に視線を移した桐生さんは目を見張って驚いていた。
彼女の指摘通り、眼鏡の左頬は赤く腫れている。ひどい虫歯にでもなったのだろうか。
「別れ話したら殴られた」
彼女と別れ話をして叩かれたからと泣きつきに来たそうだ。情けない男である。
ていうかあんなにラブラブそうだったのに、別れるの早くない? 眼鏡から振ったんだよね? もう飽きたとか? 3人娘が「長続きしない」って噂話をしてたけど、マジだったのか……
私がさり気なく引いている目の前では、桐生さんが眼鏡の頬をそっと撫でてあげていた。
その手付きは優しく労るようであった。
「言ったじゃない。軽い気持ちで交際したらこうなるって」
「だってさぁ……」
冷戦状態だったくせに、なんか急に元通り仲良くなったな。
桐生さんは先程までの作り笑顔(刺々しいタイプ)とは異なり、素の笑顔を浮かべているように見えた。
多分これは眼鏡と悠木君の前でしかしない表情なんだろなってなんとなく予想つく。
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桐生さんはくるりと踵を返すと、軽やかなステップで歩き始めた。
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まさか桐生さんは……眼鏡のことが好きなの?
そう考えると、今までの八つ当たりっぽい発言の数々を理解できる。私と眼鏡が親しくするのが嫌だから刺々しい事を言ってきたんだあの人。
……眼鏡かぁ。お調子者にしか見えないけど、桐生さんには素敵に見えんのかな。私には魅力がわからないけど。
「森宮さん、みて、これ酷くない? 手形残ってないかな?」
「自業自得でしょ」
眼鏡が私にも絡み始めたので、私は一蹴して突き放してやった。
また桐生さんに嫌味言われたくないから眼鏡の相手すんのやめよ。
後ろで「森宮さんが冷たい!」と騒ぐ眼鏡を放置して自分のクラスに戻ると、「美玖!」と友人達が焦った顔をして私の元へ駆け寄ってきた。
「美玖、これ見て!」
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「SNSで流れてきたのを開いて見たら、悠木君が雨宮と映ってたんだよ!」
「美玖、ヤバくない? 悠木君、去年生徒会役選で似たような状況になったでしょ」
確かに去年もそれらしい写真を撮られてSNSに流された悠木君は大変な苦労をしていた。
写真をよく見ると、校舎内で撮影したものらしいけど……また誰かが悠木君に振られて逆恨みでもしたのかな。
「ねぇ、正門に他校の女子がいんだけど……」
ゆうちゃんの言葉を受けて、窓から正門側を確認すると数名の女子が群がっていた。私は教室の壁に掛けられた時計を確認して、もうすぐ5時間目の授業が始まる時間であることを確認した。
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