バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

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番外編

彼女がいるのにロンリークリスマスになるの確定【悠木夏生視点】

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「ごめんねクリスマス、バイトになっちゃった。パン屋の奥さんがぎっくり腰になったらしくて、店長に頭下げられちゃってさ…」

 昼休みに社会科準備室で落ち合うと、申し訳なさそうな顔をした美玖に謝られた。そう、あと数日で冬休みに突入する。そしたら自然とクリスマスがやってくるわけで。
 交際して初めて迎えたクリスマスはちょっと遠出して、いい感じのデートスポットに行っていい雰囲気になりたいと考えていたのに、彼女の口から飛び出してきたのはクリスマスには会えないという言葉だった。
 正直、がっかりした。

「本当にゴメン…」

 目に見えてがっかりしているのは美玖も同じだった。
 美玖が働いているバイト先はどこも時間帯によってはとても忙しい。しかもそのシーズンだけクリスマス商戦に参加するもんだからなおさら人手が足りないのだろう。
 当初は早朝のコンビニのバイトだけを入れていたそうだ。他の掛け持ち先は前もって休みを入れていた。

 しかしここに来てパン屋のピンチ。クリスマスにはローストチキンやケーキなどを販売することになっているそうで、終わるのは夜になるだろうとのこと。他のパート達は都合が付かず、お鉢が回って来たのが美玖だ。頭を下げられたのなら断りにくいはずだ。

「仕方ないよな…」

 俺は彼女を責める気持ちにはなれなかった。ここで彼女を責めてもお互い幸せになれないとわかっていた。なにより彼女の申し訳なさそうな顔をこれ以上見たくなかったのだ。

「日を改めて出かけよう。なにもクリスマスにこだわる必要はないんだからさ」

 提案してみると、美玖は恐る恐る顔を上げて俺の表情を伺うように上目遣いで見つめてきた。俺は表情筋に力を入れて、残念に思っている気持ちを表に出さないように耐えた。

「それより早く昼飯食おうぜ」
「うん…」

 話を切り替えるべく、俺は昼食をすすめた。
 今はせっかく2人きりなんだ。いつまでも暗い雰囲気のままでいるのは嫌だったからだ。

 食事を終えてから5分後、アイマスクとイヤホンをした美玖が静かな寝息を立てていた。彼女の日課であるお昼寝の時間だ。
 そんな彼女を膝枕しながらスマホを眺めていた俺は、スマホにブクマしていたページ見てため息を吐き出した。

 予約していたレストランは今のうちにキャンセルしておいた方が良さそうだ。今ならまだキャンセル料かからないはずだし。5時間目終わったら店に電話するかと考えながら、俺はレストランのクリスマスメニューの写真を見て落ち込む。豪華なフルコース。見晴らしのいい席。ここで彼女と過ごす日を想像して浮かれていたはずなのに、どん底に落とされたような気分だ。

 あーぁ。いろいろ考えていたのになぁ…。プレゼントとか、ちゃんと用意してさぁ…一緒に過ごしたかったなぁ。

 ──だけど俺は頑張る彼女が好きなのだ。

 そもそも接客業をバイトに選んでいる時点でイベントごとで休める方が稀なのだ。クリスマスではしゃぐ人たちの影で働く人間がいるから世の中が回っている。──そう、大人ぶったことを考えないとやってられない。

「夏生せーんぱい♪」

 横から囁かれた声に俺はビクッと肩を揺らした。
 考え事をしていたせいで、社会科準備室に侵入してきた存在に気づけずにいたのだ。すかさず侵入者を睨むと、相手はにんまり笑っていた。

「…勝手に入ってくんなよ」
「ここ社会科準備室じゃないですか。先輩たちの私有じゃないんですから別にいいじゃないでしょ」

 無遠慮に入ってきたその女──後輩の雨宮は熟睡する美玖を見下ろし、目を細める。
 この雨宮には散々付き纏われて、挙げ句の果てにSNSに写真をばらまかれたりといろいろ迷惑を掛けられてきた。こいつは俺をマネキンかなにかだと思っているようだが、俺には可愛い彼女がいるんだ。いい加減に俺のことを諦めて別の男を狙ってほしいところである。

「聞きましたよぉ。森宮先輩ったらクリスマスもバイトなんですってね」

 わざとらしい猫なで声で言われて、俺は眉間にしわを寄せた。この部屋の前で聞き耳立ててたのかこいつ……趣味悪。
 雨宮がずずいと顔を近づけて来たので体を後ろに引いて接近を回避した。

「夏生先輩たらかわいそう、私ならバイト休むのに」

 雨宮からの哀れみはいらん。ていうか勝手に人をかわいそうな人扱いをしないで欲しい。

「美玖がバイトする理由を知ってるし、一生懸命なこいつが好きだから構わねぇ」

 それで俺が心揺れるとでも思ったか? 残念だったな。
 冷たくあしらうと、相手はムッとしていた。惚気られてうざいって言いたいのか。こちとら交際1ヶ月目だぞ。大目に見ろよ。

「そのレストラン、私が一緒に行ってあげますけど?」

 藪から棒になんだ。なんで俺がお前と食事に行かなきゃいけないんだよ。俺、お前にご馳走するつもり一切ないよ?
 持っていたスマホの電源ボタンを押して液晶を消灯させた。人のスマホを覗き見しないでほしい。

「お前じゃ意味ねーんだけど?」
「ひどっせっかく人が! サイテー!」

 そんなこと言われても。
 俺がお前とクリスマスに食事に行く義理もないですし。俺がクリスマスを一緒に過ごしたいのは彼女の美玖だけです。

「だいたい夏生先輩は趣味が悪すぎるんですよ! クリスマスにバイト優先とか、彼氏出来たてほやほやの女のすることじゃないんですよ!? 絶対にあとで後悔するに決まってますよ!」

 ていうかキンキン声で騒ぐなよ。寝てる奴がいるんだからさ。

「美玖が起きるだろ、出てけ」

 美玖は疲れてるんだ。静かに寝かせてやれよ。
 シッシッと手であしらうと、雨宮は歯を食いしばって地団駄を踏んでいた。子供かお前は。

 そもそもこいつ、補講はどうしたんだ。クリスマスどころじゃないだろうが。
 こいつの期末の結果が赤点通り越して留年点と言われて、補習期間のテストも不合格だったから冬休みも登校して補講受けなきゃいけないんだろ。なんでか大輔がそんな情報仕入れてたぞ。職員室で先生達が頭を抱えていたとかなんとか。

「お前は冬休みの補講にいけよ。留年したいのか」

 冗談じゃなく本気で留年するぞ。お前普通科なのにそれ以上下がったら留年しか道がなくなるけどそれでいいわけ?

「勉強嫌い…でも先輩が教えてくれるならぁ」
「やだよ。塾に行けよ」

 ぷうと頬を膨らませた雨宮がまたしょうもないことを言いはじめたので俺はきっぱり拒絶した。
 そもそも俺は自分のことで手一杯だ。なんとか挽回した成績を維持するためにこれでも影で努力してるんだからな。学年トップクラスの癖に謙遜しているこの美玖と一緒にするなよ。

「勉強嫌いのくせに、よくうちの高校受けたな。仮にも進学校だぞ」
「だって頭のいい男子捕まえられるじゃないですか! 金持ちと結婚するのが女の幸せなんですよ!?」

 …呆れてものも言えない。こいつ、ほんと進歩ねぇな。
 雨宮にどっかにいけと促しても退室しない。……1年の中で一番美少女な雨宮に好かれているのに勿体ないと言う声もあるが、実際に前にしたらただただ鬱陶しいだけの存在である。

 これのどこがうらやましいのか。
 彼女と二人きりの貴重な時間を邪魔して来る女のどこを可愛いと思えばいいのか。羨ましいと抜かす奴に代われるもんなら代わってやりたい。

 終始雨宮がキーキー騒いでいて結構うるさかったんだけど、音楽聴きながら寝てる美玖は全く気づかず、すやすや熟睡していたのである。
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