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第37話 温もりを求めて
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温かい。とても温かい。優しい温かさ。
はるか昔から私はこの温もりを求めていた気がする。ずっと得られなかった温もりが今この腕の中にあるという安心感を覚える一方で、今にも消えゆきそうで恐怖も感じる。
腕を伸ばしてその温もりを引き寄せると、私の思いに応えてくれたかのようにまた温もりが体を包み込む。
この温もりに包まれているのなら、きっと何でも乗り越えられるような気がする。夜の幸せな夢から目覚めて厳しい現実の朝を迎えたとしても、この温もりがあるのならばきっと大丈夫だと、そう思える。
そんな気持ちを抱きながら、私は浮上してきた意識に逆らわずに目を開けた。すると。
「おはよう」
「――っ!?」
すぐ近くから聞こえる低い男性の声にびっくりして体が跳ね、その勢いのまま身を引こうとしたが、私の動きを押さえ込むように腰に腕を回された。しかしその手は私が少し抵抗すれば解放されるぐらい優しい。
「XX動くな。XXに体をXX」
そこでようやく私はレイヴァン様の横で眠っていたことを思い出す。昨日は階段から落ちた私を気遣って、夜をご一緒していただいたのだ。ということは、先ほどからの温もりは彼の温もりだったということ。
視線を上にやると目に入ったのは、朝起きで少し気だるさを含んだような、溶けるような笑みを浮かべているレイヴァン様だった。朝から煌びやかすぎて、眩しすぎる。
「お、おーディ・もーリー。アむーるレイヴァン」
「ああ。おはよう、クリスタル」
初めて受けた額への口づけは胸が熱くどきどきと高鳴った。昨日は夜のご挨拶はないのかとねだったら、一昨日の夜よりも長くて、間近に迫るレイヴァン様の熱さえ伝わってきて心臓がどうにかなりそうだった。
今朝も何だか気恥ずかしくて、私はシーツで半分顔を隠しながら朝の挨拶をしているのに、レイヴァン様と言えば、いつもと何も変わらない。
あの口づけは、サンティルノ国では何も特別なものではなくて普通の夜の挨拶なのだろうか。けれど、これまで夜の挨拶が無かったところを見ると、少しぐらいは私に気持ちを寄せてくださっているのかもしれない。
「クリスタル? 気分は」
昨日から何度も私に確認を取って聞き慣れた言葉に、私は大丈夫ですと答えたが、レイヴァン様はそうかと言ってなぜか少し苦笑している。
「さあ、XXか」
起きるかと言ったのかもしれない。レイヴァン様は私の腰から手を引いて身を起こしたから。
離れていく温もりに寂しさを感じていると、私の背中と膝裏にレイヴァン様の腕が差し込まれて持ち上げられた。再び彼の温もりに包まれる。きっと私の部屋まで連れて行ってくれるのだろう。もう少しだけレイヴァン様の温もりを感じていられるらしい。
「どうかしたのか? 今日はXXだな」
意外そうに何かを尋ねてくるけれど私に答える術はない。首を傾げると彼は小さくくすりと笑った。
レイヴァン様が私の寝室まで連れて行ってくれると、すでにマノンさんが朝の準備をしてくれていた。
「おはようございます、レイヴァン様、クリスタル様」
「おはよう」
「おーディ・もーリー。あミューマノン」
私はまだレイヴァン様の腕の中から挨拶する。その後、彼は私をベッドの端に下ろし、マノンさんに何かを言うと私に振り返り、何か言葉を残して立ち去ろうとした。
「エ、エふぁリスとライあー」
私は慌ててその背中に向かってお礼を述べると、彼は振り返って笑顔で一度頷き、今度こそ自分の部屋へと向かった。
「マノンさん、レイヴァン様は何とおっしゃいましたか?」
「また後でとおっしゃいました。朝食のお迎えに来てくださるのかもしれませんね」
「そ、そうなのでしょうか」
皆さんに注目されたら恥ずかしいし、レイヴァン様にご迷惑をかけるのも心苦しいけれど、彼の温かさを感じたい気持ちもある。
「クリスタル様、痛みはいかがですか?」
「まだ少しはありますが、大したことはありません。一人でも歩けます」
「そうですか。本当に良かったです。ではレイヴァン様がいらっしゃった時にその旨をお伝えいたしましょうか?」
「え?」
マノンさんは、頬が赤いですよと自分の頬に手を当ててくすくす笑う。
「抱いて運ばれましたら、お恥ずかしいですよね。それにクリスタル様のことですから、レイヴァン様にご迷惑をおかけしていることを気に病まれているのでは?」
「あ……はい」
彼女の言葉を否定できなくてつい頷いてしまった。
「承知いたしました。ではクリスタル様、朝のご準備をいたしましょう。まずは洗顔ですね」
「……はい」
私はマノンさんが桶に注ぎ込んでくれた水に手を入れて洗顔をしようとしたところ、思わず手が止まる。すると彼女はくすりと笑った。
「本日は私がご用意いたしました」
だから大丈夫です。
そんな言葉が今にも続きそうで、反応に困った私は目を伏せた。
その後、朝の準備ができたところでレイヴァン様が現れた。マノンさんは先ほどのことを伝えているようだ。
彼は私とマノンさんを交互に見た後、彼女に何かを言って私のほうへとやって来た。そのまま椅子に座った私に目線を合わせてくる。何だかきまりが悪くて思わず視線を逸らしてしまう。――が。
「クリスタル」
レイヴァン様から名前を呼ばれ、おずおずと顔を正面に戻した。何だか少し不機嫌そうだ。
「君は私のXXで、私は君のXXだ。私には君をXXがある」
ほとんど意味が分からず、私はマノンさんに視線をやると答えてくれた。
「君は私の妻で、私は君の夫だ。私には君を守る義務がある、とのことです」
「義務……」
本来なら負うこともなかった義務を、私はレイヴァン様に背負わせているのだろうか。
「クリスタル」
いつのまにか落としていた私の視線を戻すために、レイヴァン様は指で私の顎を押し上げて強制的に目線を合わせた。
「悪いが、XX」
「悪いがその義務を執行させてもらうぞ、と」
マノンさんが伝えてくれるや否や、レイヴァン様は私を抱き上げた。慌てて彼の肩に手を回してバランスを取る。レイヴァン様に少し抗議の目を向けると、彼はまた小さく笑った。
はるか昔から私はこの温もりを求めていた気がする。ずっと得られなかった温もりが今この腕の中にあるという安心感を覚える一方で、今にも消えゆきそうで恐怖も感じる。
腕を伸ばしてその温もりを引き寄せると、私の思いに応えてくれたかのようにまた温もりが体を包み込む。
この温もりに包まれているのなら、きっと何でも乗り越えられるような気がする。夜の幸せな夢から目覚めて厳しい現実の朝を迎えたとしても、この温もりがあるのならばきっと大丈夫だと、そう思える。
そんな気持ちを抱きながら、私は浮上してきた意識に逆らわずに目を開けた。すると。
「おはよう」
「――っ!?」
すぐ近くから聞こえる低い男性の声にびっくりして体が跳ね、その勢いのまま身を引こうとしたが、私の動きを押さえ込むように腰に腕を回された。しかしその手は私が少し抵抗すれば解放されるぐらい優しい。
「XX動くな。XXに体をXX」
そこでようやく私はレイヴァン様の横で眠っていたことを思い出す。昨日は階段から落ちた私を気遣って、夜をご一緒していただいたのだ。ということは、先ほどからの温もりは彼の温もりだったということ。
視線を上にやると目に入ったのは、朝起きで少し気だるさを含んだような、溶けるような笑みを浮かべているレイヴァン様だった。朝から煌びやかすぎて、眩しすぎる。
「お、おーディ・もーリー。アむーるレイヴァン」
「ああ。おはよう、クリスタル」
初めて受けた額への口づけは胸が熱くどきどきと高鳴った。昨日は夜のご挨拶はないのかとねだったら、一昨日の夜よりも長くて、間近に迫るレイヴァン様の熱さえ伝わってきて心臓がどうにかなりそうだった。
今朝も何だか気恥ずかしくて、私はシーツで半分顔を隠しながら朝の挨拶をしているのに、レイヴァン様と言えば、いつもと何も変わらない。
あの口づけは、サンティルノ国では何も特別なものではなくて普通の夜の挨拶なのだろうか。けれど、これまで夜の挨拶が無かったところを見ると、少しぐらいは私に気持ちを寄せてくださっているのかもしれない。
「クリスタル? 気分は」
昨日から何度も私に確認を取って聞き慣れた言葉に、私は大丈夫ですと答えたが、レイヴァン様はそうかと言ってなぜか少し苦笑している。
「さあ、XXか」
起きるかと言ったのかもしれない。レイヴァン様は私の腰から手を引いて身を起こしたから。
離れていく温もりに寂しさを感じていると、私の背中と膝裏にレイヴァン様の腕が差し込まれて持ち上げられた。再び彼の温もりに包まれる。きっと私の部屋まで連れて行ってくれるのだろう。もう少しだけレイヴァン様の温もりを感じていられるらしい。
「どうかしたのか? 今日はXXだな」
意外そうに何かを尋ねてくるけれど私に答える術はない。首を傾げると彼は小さくくすりと笑った。
レイヴァン様が私の寝室まで連れて行ってくれると、すでにマノンさんが朝の準備をしてくれていた。
「おはようございます、レイヴァン様、クリスタル様」
「おはよう」
「おーディ・もーリー。あミューマノン」
私はまだレイヴァン様の腕の中から挨拶する。その後、彼は私をベッドの端に下ろし、マノンさんに何かを言うと私に振り返り、何か言葉を残して立ち去ろうとした。
「エ、エふぁリスとライあー」
私は慌ててその背中に向かってお礼を述べると、彼は振り返って笑顔で一度頷き、今度こそ自分の部屋へと向かった。
「マノンさん、レイヴァン様は何とおっしゃいましたか?」
「また後でとおっしゃいました。朝食のお迎えに来てくださるのかもしれませんね」
「そ、そうなのでしょうか」
皆さんに注目されたら恥ずかしいし、レイヴァン様にご迷惑をかけるのも心苦しいけれど、彼の温かさを感じたい気持ちもある。
「クリスタル様、痛みはいかがですか?」
「まだ少しはありますが、大したことはありません。一人でも歩けます」
「そうですか。本当に良かったです。ではレイヴァン様がいらっしゃった時にその旨をお伝えいたしましょうか?」
「え?」
マノンさんは、頬が赤いですよと自分の頬に手を当ててくすくす笑う。
「抱いて運ばれましたら、お恥ずかしいですよね。それにクリスタル様のことですから、レイヴァン様にご迷惑をおかけしていることを気に病まれているのでは?」
「あ……はい」
彼女の言葉を否定できなくてつい頷いてしまった。
「承知いたしました。ではクリスタル様、朝のご準備をいたしましょう。まずは洗顔ですね」
「……はい」
私はマノンさんが桶に注ぎ込んでくれた水に手を入れて洗顔をしようとしたところ、思わず手が止まる。すると彼女はくすりと笑った。
「本日は私がご用意いたしました」
だから大丈夫です。
そんな言葉が今にも続きそうで、反応に困った私は目を伏せた。
その後、朝の準備ができたところでレイヴァン様が現れた。マノンさんは先ほどのことを伝えているようだ。
彼は私とマノンさんを交互に見た後、彼女に何かを言って私のほうへとやって来た。そのまま椅子に座った私に目線を合わせてくる。何だかきまりが悪くて思わず視線を逸らしてしまう。――が。
「クリスタル」
レイヴァン様から名前を呼ばれ、おずおずと顔を正面に戻した。何だか少し不機嫌そうだ。
「君は私のXXで、私は君のXXだ。私には君をXXがある」
ほとんど意味が分からず、私はマノンさんに視線をやると答えてくれた。
「君は私の妻で、私は君の夫だ。私には君を守る義務がある、とのことです」
「義務……」
本来なら負うこともなかった義務を、私はレイヴァン様に背負わせているのだろうか。
「クリスタル」
いつのまにか落としていた私の視線を戻すために、レイヴァン様は指で私の顎を押し上げて強制的に目線を合わせた。
「悪いが、XX」
「悪いがその義務を執行させてもらうぞ、と」
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