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第8話 魔王討伐出立の日
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魔王討伐への出発の朝、アルバート様を中心とした討伐隊が広場に一同集合し、出立式が開かれた。
臣下らや大勢の民の前で宣誓することで、討伐隊の士気と団結を高めるためだろう。また、王子自ら討伐に加わることを民に示すことで王室への信頼性を高め、同時に聖女の人気も高める狙いがあるに違いない。
実際、ティアナさんが民の前に姿を見せた時、その美しさと神々しさからか、感嘆のため息が広がった。
今日はさすがにしなだれかかっていないが、彼の横にはティアナさんが控えている。彼女は動きやすい隊服に身を包んでいた。
騎士団には女性がいないので、彼女に合わせて女性らしさも残した隊服を準備されていたようだ。出で立ちは勇ましい格好でも彼女の魅力をまったく損なわせていない。
彼女自身も隊服を着ると身が引き締まるのか、緊張感のある、しかし自信と希望を多分に含んだ晴れ晴れとした表情を見せている。
大勢の民から憧れの眼差しを向けられ、気分が高揚しているのかもしれない。あるいは帰還すれば、王位第一継承者として認められたアルバート様の婚約者として横に立つことができると、夢に浸っているのかもしれない。
「本日は我々魔王討伐隊出立の儀のために集まりいただき、皆に感謝を申し上げたい」
アルバート様による演説が始まる。
ストラウス殿下と違って健康体である彼はもともと剣術を嗜んでいたが、準備期間のふた月の間にさらに体を作り上げたようだ。王子として放たれる威厳だけではなく、討伐隊を率いる司令官たる威風を大きく成長させていた。
凛々しい顔つきの彼を眺めながら、横に立って共に戦いたいと思っていた時もあったなと思い出す。
この任務を完遂すれば、本当に彼は第一王位継承者の座を手に入れることができるのだろうか。
発言力の高い第一王子派の臣下は、アルバート様が魔王討伐に成功すれば王位継承順位を検討すると言ったとのことだったが、あくまでも検討すると言っただけで支持するとまでは言い切っていない。
ご嫡男であるストラウス殿下が第一王位継承者であることを疑問視する者がいるのは、ご病弱でいらっしゃるからだ。
――ではもし完全復帰とは言わないまでも、公務にご参加できるほどご回復されたとしたら?
扱いづらい邪魔な第二王子を戦場に追いやろうとする方々だ。アルバート様が討伐に成功して無事帰還したとしても、やはり第一王子であるストラウス殿下を王位継承の第一にするべきだと、のけのけと言ってみせるだろう。
一方、まだ聖女として何ら成果を上げていない今のティアナさんを私に代わり、アルバート様の婚約者にすることはできないと彼は考えていた。だから昨日の内容は私たち三人だけの話に留めている。――つまり。
不意に昨日のティアナさんの態度を思い出して胸が焼けつきそうな気分になったが、深呼吸して気を落ち着かせる。
つまり私は、対外的には今もなおアルバート様の婚約者として通っているのだ。いまだ王族に、ストラウス殿下に近づくことができる立場にある。
ならば私がするべきことは。今できることは……。
私は溢れ出そうな笑みを抑え込むために、決意のために拳を作る。
「――々は完全勝利を収め、必ずやこの国に平和をもたらす!」
アルバート様は最後に高らかに宣言すると、観衆はわっと沸き上がる。
計算高い彼は、悠久に渡るこの国の安寧と暖衣飽食を誓う言葉で民をやすやすと味方につけた。実行力に優れ、人の心を動かす術に長けている彼ならば、私たちの婚約解消さえ事も無げにやってのけてみせるに違いない。
国王陛下と王妃殿下にお言葉をかけられたアルバート様は、挨拶を交わすと力強く頷く。そして最後に私がお声をかけることとなった。
「アルバート殿下、どうぞご武運を」
「ああ。ありがとう。きっと無事に戻ってくる」
アルバート様はそっけない礼と定型の言葉を簡潔に述べた。
ちくりと痛む胸に気づかないふりをして、私は横のティアナさんにも言葉をかける。
「聖女ティアナ様、どうかお怪我をなさりませんように」
「はい。お気遣いありがとうございます」
「殿下を何とぞよろしくお願いいたします」
するとティアナさんは目を細め、横に薄く引いた唇を指で隠した。
「ええ、もちろんです。殿下のお心とお体をしっかりとお支えし、勝利して帰ってきます。戻ってきたらまた殿下とヴィオレーヌ様と私の三人でお茶をご一緒したいです」
「……ええ。ぜひ楽しみにしております」
それはとてもとても苦いお茶となるでしょうから。
私は思惑を隠して笑顔を返すともう一度アルバート様を見る。
「殿下、無事のご帰還を心よりお待ち申し上げております」
「ああ。――それでは」
アルバート様は私を一瞥だけすると、すぐに視線を正面に戻す。
「いざ出陣!」
威勢よく張り上げたアルバート様の声を合図に討伐隊は前進し始めた。
私の言葉は嘘ではありません。
お二人の無事のご帰還をお待ち申し上げておりますわ。――ええ。心より。
臣下らや大勢の民の前で宣誓することで、討伐隊の士気と団結を高めるためだろう。また、王子自ら討伐に加わることを民に示すことで王室への信頼性を高め、同時に聖女の人気も高める狙いがあるに違いない。
実際、ティアナさんが民の前に姿を見せた時、その美しさと神々しさからか、感嘆のため息が広がった。
今日はさすがにしなだれかかっていないが、彼の横にはティアナさんが控えている。彼女は動きやすい隊服に身を包んでいた。
騎士団には女性がいないので、彼女に合わせて女性らしさも残した隊服を準備されていたようだ。出で立ちは勇ましい格好でも彼女の魅力をまったく損なわせていない。
彼女自身も隊服を着ると身が引き締まるのか、緊張感のある、しかし自信と希望を多分に含んだ晴れ晴れとした表情を見せている。
大勢の民から憧れの眼差しを向けられ、気分が高揚しているのかもしれない。あるいは帰還すれば、王位第一継承者として認められたアルバート様の婚約者として横に立つことができると、夢に浸っているのかもしれない。
「本日は我々魔王討伐隊出立の儀のために集まりいただき、皆に感謝を申し上げたい」
アルバート様による演説が始まる。
ストラウス殿下と違って健康体である彼はもともと剣術を嗜んでいたが、準備期間のふた月の間にさらに体を作り上げたようだ。王子として放たれる威厳だけではなく、討伐隊を率いる司令官たる威風を大きく成長させていた。
凛々しい顔つきの彼を眺めながら、横に立って共に戦いたいと思っていた時もあったなと思い出す。
この任務を完遂すれば、本当に彼は第一王位継承者の座を手に入れることができるのだろうか。
発言力の高い第一王子派の臣下は、アルバート様が魔王討伐に成功すれば王位継承順位を検討すると言ったとのことだったが、あくまでも検討すると言っただけで支持するとまでは言い切っていない。
ご嫡男であるストラウス殿下が第一王位継承者であることを疑問視する者がいるのは、ご病弱でいらっしゃるからだ。
――ではもし完全復帰とは言わないまでも、公務にご参加できるほどご回復されたとしたら?
扱いづらい邪魔な第二王子を戦場に追いやろうとする方々だ。アルバート様が討伐に成功して無事帰還したとしても、やはり第一王子であるストラウス殿下を王位継承の第一にするべきだと、のけのけと言ってみせるだろう。
一方、まだ聖女として何ら成果を上げていない今のティアナさんを私に代わり、アルバート様の婚約者にすることはできないと彼は考えていた。だから昨日の内容は私たち三人だけの話に留めている。――つまり。
不意に昨日のティアナさんの態度を思い出して胸が焼けつきそうな気分になったが、深呼吸して気を落ち着かせる。
つまり私は、対外的には今もなおアルバート様の婚約者として通っているのだ。いまだ王族に、ストラウス殿下に近づくことができる立場にある。
ならば私がするべきことは。今できることは……。
私は溢れ出そうな笑みを抑え込むために、決意のために拳を作る。
「――々は完全勝利を収め、必ずやこの国に平和をもたらす!」
アルバート様は最後に高らかに宣言すると、観衆はわっと沸き上がる。
計算高い彼は、悠久に渡るこの国の安寧と暖衣飽食を誓う言葉で民をやすやすと味方につけた。実行力に優れ、人の心を動かす術に長けている彼ならば、私たちの婚約解消さえ事も無げにやってのけてみせるに違いない。
国王陛下と王妃殿下にお言葉をかけられたアルバート様は、挨拶を交わすと力強く頷く。そして最後に私がお声をかけることとなった。
「アルバート殿下、どうぞご武運を」
「ああ。ありがとう。きっと無事に戻ってくる」
アルバート様はそっけない礼と定型の言葉を簡潔に述べた。
ちくりと痛む胸に気づかないふりをして、私は横のティアナさんにも言葉をかける。
「聖女ティアナ様、どうかお怪我をなさりませんように」
「はい。お気遣いありがとうございます」
「殿下を何とぞよろしくお願いいたします」
するとティアナさんは目を細め、横に薄く引いた唇を指で隠した。
「ええ、もちろんです。殿下のお心とお体をしっかりとお支えし、勝利して帰ってきます。戻ってきたらまた殿下とヴィオレーヌ様と私の三人でお茶をご一緒したいです」
「……ええ。ぜひ楽しみにしております」
それはとてもとても苦いお茶となるでしょうから。
私は思惑を隠して笑顔を返すともう一度アルバート様を見る。
「殿下、無事のご帰還を心よりお待ち申し上げております」
「ああ。――それでは」
アルバート様は私を一瞥だけすると、すぐに視線を正面に戻す。
「いざ出陣!」
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