欲深い聖女のなれの果ては

あねもね

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第15話 ※ティアナ視点(2):会いたい

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 会いたい。会いたい。会いたい。
 妹に会いたいの。母が守りたかった妹に会いたい。

 会わせて。会わせて。会わせて。
 神様、どうか私を妹に会わせて!
 私をどうかここから連れ出して!

 時間を奪われ、お金を奪われ、自由や俗世の娯楽を奪われ、会いたいという気持ちだけが増幅し、いつしか私の生きる目的は、生きる意味は妹だけとなっていた。
 そんな姿を哀れに思ってくれたのだろうか。ただ一つを願う純粋な心だと興味が引かれたのだろうか。
 天から私へと手を差し伸べられた。

 それを感じ取ったのは私だけではなかったらしい。数日後に彼らは私が勤める館にやってきた。この館にはおよそふさわしくない出で立ちをした品格のある彼らは、王宮から遣わされた神官だと名乗った。
 彼らは私こそがこの国を救う聖女だと言う。

 館から連れ出されて見上げた空は天高く、どこまでも青く澄んでいた。どこへでも飛んで行けそうだった。
 しかし自由を手に入れたと思ったのもつかの間、見たこともないほどの豪勢な馬車ではあったが、私はまた小さな空間に押し込められて運ばれていく。

 着いた先の王宮は、言葉では表せないほどの素晴らしい光景だった。
 視界いっぱいに広がる王城。左右を同じ形に美しく整備された広い庭。清潔感があり、乱れ一つない服装の男性。綺麗に化粧され、彩り豊かで華やかなドレス姿の女性。
 建物も人も、私がこれまで見てきた世界とは違う、全てがきらきらと輝いていて新鮮なものだった。

 驚く私を横目に腕を取って部屋へと連れて行かれた。王族に会う前に身なりを整えるということらしい。
 私にと用意されたお部屋も広く立派な調度品ばかりで、まるでお姫様になったような気分だ。

「聖女様は平民でお育ちとのことですが、美しくお手入れされているのですね。お肌も髪もとても綺麗」

 侍女という世話役の女性が私に笑顔を見せた。
 長い間、下心なく誰かに褒められるということがなかった私は嬉しくなって口を開く。

「あ、お客様を取るので常日頃から綺麗にしておかなければならないんです」
「お客様? ……ああ」

 言葉の意味に気付いた彼女が、途端に侮蔑の表情へと変わった。すると年長の侍女がたしなめる。

「聖女様に対して余計なおしゃべりはしないのよ。聖女様、あなた様もご出身のことはくれぐれも口にされませんように。あなたも今の話は他言無用よ。もしこの話を漏らしたら……分かるわね」

 最後の警告は若い侍女にかけられた。
 その後、私と共に魔王討伐隊に加わるという第二王子のアルバート様が現れる。
 身分を隠して訪れた貴族の男を客として受けたことがあるが、彼もまたどこか平民とは違う雰囲気があった。しかし目の前の王子は、その彼とは圧倒的な差をつけた高貴さをまとっていた。

「アルバート第二王子様、ですか」

 彼はくすりと小さく笑う。

「私のことはアルバートでいい」
「ア、アルバート様?」
「ああ。ティアナ嬢。私も君のことをティアナと呼ぼう。ただしこれは二人の間だけの呼び方ということでね。貴族間は特に礼義に厳しいんだ」

 この時、二人以外の時は何と呼べばいいのか聞いておけば良かったと思う。

「さて。これから大変な使命を課してしまうが、一緒に乗り越えていこう。せめて王宮にいるふた月、君には快適な生活を過ごしてもらいたいと思っている。何か希望があればぜひ言ってほしい」

 ふた月か。
 ふた月もこんな豪勢な部屋にいたら、普通の生活に戻れなくなってしまう。

「平民の私には部屋が豪華すぎて落ち着かないので、もう少し控えていただけると」
「君は謙虚なんだね。分かった。部屋替えさせるよ」
「ありがとうございます。あと、一つお願いがあります。故郷にいる妹に会い行きたいんです。もう何年も会えていなくて」
「ああ。聞いているよ。病気の妹さんだね」
「はい!」

 私の事情も知ってくれている。この方なら私の願いを聞いてくれる。
 そう感じて久々に、実に久々に気分が華やいだ。

「君が妹さんを思う気持ちは分かるよ。私にも病床に伏す兄がいるんだ」
「そう……だったんですか」
「ああ。毎日祈っている」

 彼はつらそうに視線を落として言った。
 この人も私と一緒だ。きょうだいの健康を願って願って願い続けている。

「あの。第一王子様にお会いすることは」
「……君のその聖女の力で兄の病気を治すことができるのかい?」

 もしそうだったら妹の病気を治している。

「いえ……。すみません。お見舞いだけでもと思ったのですが」
「ありがとう。君は優しいね。だけど兄はあまり人と会うことを好まないんだ。気持ちだけもらっておくね」

 彼は穏やかに微笑む。

「それで君にはすぐにでも妹さんに会わせてあげたいんだけど、今日明日は難しいかな。聖女は我が国の希望の光だ。陛下にも会ってもらわないといけないし、聖女の儀など臣下に披露する催しもあって、しばらく行事が立て込むんだ。本当に申し訳ない。でも妹さんのことは心配しないで。王室御用達の優秀な医者を君の故郷に向かわせたから」
「そう、ですか。分かりました」

 自分勝手ばかり言ってはならない。王室専属医師を派遣してくれると言うのだし、親戚が呼んでくれる医師よりもよほど安心だろう。
 私は自分をそう納得させて頷く。

「理解いただいてありがとう。あと君と年代が近くて話しやすい同性も必要だろう。その内に紹介するよ」

 言葉通り、三歳上だというヴィオレーヌ様を紹介されたが、初見で私が歓迎されていないことは分かった。侍女と同じ蔑むような冷たい瞳で私を見つめていたからだ。
 せっかく紹介してもらったが、できるだけ接触を控えようと考えた。

 その後、言われた通り国王と謁見し、聖女の儀式などにも参加した。しかしそこで終わりではない。それからは鍛錬の日々が始まる。
 途中、故郷に戻るために一日だけ休みを取らせてほしいと何度も懇願したが、その度に何かしらの理由をつけてはアルバート様からやんわりとなだめられつつ却下された。

 嘆いても抗議してみても仮病を使っても、私の願いは叶えられない。
 そこで私はヴィオレーヌ様をすることにした。
 女性ばかりの館で暮らしてきた私は女性の嫉妬深さも醜さも、そこから起こす言動も知っている。彼女にそれらしい言葉を吐けば、アルバート様から私を引き離す行動を取るだろうと思ったのだ。

 しかしそのもくろみも、貴族令嬢としての体面とアルバート様の介入によってあっけなく失敗に終わってしまった。
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