不幸ヤンキー、"狼"に狩られる。〜跳躍〜

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
55 / 58
花人の秘密

不幸ヤンキー、”狼”に咲き誇る。【2】

しおりを挟む
 ―――ゴッスッ…ゴッスッ…ゴッス…!!!
 何度も殴られ、蹴られ、身動きでさえも取れずにいる最強とうたわれている”狼”をいたぶるのはさぞ楽しいのだろう。何も言葉を発さずとも歪んだ笑みを見せる高慢な金髪は満足げに場を離れる。そして息を吐いた。
「…はぁ~、飽きたわ。兄さん、殴ってもええ声出されへんなぁ~?」
「……」
「こうやって女はよがらせた…訳ではあらへんな。まっ、ワイもだけど」
「……」
 玉緒に何度も殴りつけられても哉太は反撃もしない、いや、反撃さえも出来ないのでなすがままだ。
 だが本当は能力だろうが力だろうがなんでも良い。手段を選ばなくても良い。ただ愉快に笑って、そこまで威力でいきがっているこの男に。「自分はお前よりも強いのだ」と主張するようなアホらしいこのバカな男のその腕をへし折って、能力の磁力で貼り付けて、フライやスピードの分まで殴りつけたいほどだ。…そんな気持ちで溢れれて暴走してしまいそうになっている。
 ―しかしその愚かな行為をさとす存在が居た。他人なんかはどうでもいいし関係もない。…ただ、赤い髪を2つに束ねた儚げな天使を見てしまったことで哉太は自分の中に居る猛獣な”狼”を必死で手なずけようとするのだ。それは彼が昔言っていたから。
 ―人を殺すなら生かして罪を償うべきだ―
 そう言っていた彼の、青年の彼の正義感溢れる表情で哉太は己を縛ったのだ。だが理由など知りもしない愚かで馬鹿な金髪は、あくどい笑みを浮かべる。まるで自分は哉太に”狼争い”で勝利したのかと言わんばかりだ。
「口も訊けんくなったか? …まぁええ。別に兄さんに恨みは無いって言いたいやけど、まぁ思うわなぁ~。人間の地位として、ステータスとして、”狼”としての能力として。…ここまで完璧な人間は居ないやろ?」
 …やめろ。…言うな。
 何も言わない哉太へ弱者は馬鹿にしたような息を吐いて下品な言葉でのさばった。
「はぁ~。兄さんは分かってないな~! こんだけ完璧やったら女にもモテるし金には困らんし、おまけに遊び放題や。…ワイも社長やけど、結構苦労したんやで? …まっ、今は全然やけど」
 だが彼が言いたいのはそれだけでは無いと哉太の直感が働く。だから脳内で咆哮するのだ。
 ……言うな。言うな!!!
 哉太が言葉に発さずとも剣幕を立てれば玉緒はいやらしい、まるで自分を、自分も哉太と同じ人間のように接した。…それは哉太がもっとも嫌いで、もっとも傷つけられるような言い方であった。
「ワイらは人間。…皆に勝ち組と言われ褒められ、たてまつられた人間で”狼”なんや!」
 ―――プッチィン…。
 哉太の心の糸が切れても弱者は愉快に話し出す。だが最強の”狼”は眼光をさらに鋭くさせた。すると弱者は少々驚きたじろぐが、言葉を発そうとして…。
「だからこれを機に―」
「てめぇ…それ以上言ったら」
 ―殺す。
 本気で殺しかかりそうな哉太の眼光の鋭さに玉緒は肩をすくめてから抵抗出来ない哉太を見つめた。玉緒にとってはそれは単なる遊びで暇潰し。心と幸のシルバーを頂けば異空間内の中で”リングスワン”で移動して関係者全員をへ突き落せばそれまで。
 ―だが哉太を味方に付ければ…。
 …しもべとして居させれば、”狼争い”としての勝ち星も上がっただろうに…な。
 やはり上手くいく訳は無いと分かった、玉緒はもう一度哉太の傍へ行く。そしてしたたかに、そして苛立ちを隠すように笑った。笑うのが商売人としての彼の生き様だったのかもしれない。
「まっ。裏切られるのが普通や。…だったら、気絶させへんとなっ!!!」
 殴りかかろうとする玉緒に哉太は目を背けなかった。これは自分じゃない。愛しい恋人で大切な…大事な人との約束だから。また言葉を反芻させる。
「罪人は殺すんじゃなくて生かすんだ。それで一生、自分の罪と向き合う時間をさせるんだ。死なせるなんてそんな遺族にも、被害者にも報われるような結果にさせてはいけない」
 ―だからあんたが手を汚さなくも良いんだ―
 …幸、俺は幸の為なら言いつけを。約束を、守るよ。…幸が俺を助けてくれたから。救ってくれたから。
 心に秘めた約束を胸に哉太は玉緒の拳を眼前に受け止める準備をした。このぐらいの威力ならば30分は耐えられる…とふと過ったその時、玉緒の右拳に、殴りかかろうとしている腕に何かが巻き付いていた。
「…なん、や?」
 玉緒の身勝手な暴力に背けずにいた哉太は、その光景に驚いて目を見張る。
「あおい…、ひがん…ばな?」
 それは儚げで美しく咲き誇る青い彼岸花が玉緒の攻撃を阻止しようと何束にもなって巻き付いていたのだから。
 …彼岸花…幸?
 愛しい恋人とは違う色をした青い彼岸花。普通であれば不幸の知らせ。でも今の哉太にとっては幸福と哀愁が入り混じったような…そんな光景であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...