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秘めた愛と
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「……それで、我が弟は、婚約者殿をほっぽってオリヴィエを追いかけていったと」
一方、ようやくシルヴァン率いる軍隊がバッハルト公国にたどり着き、弟アーサーが見当たらないことを聞きただしてみれば、元婚約者の尻を追っかけて、現婚約者を置き去りにしていったのだと言うではないか。
シルヴァンは眉間に指を当て、ため息をついた。
「あ、あの。慌ただしくなりまして、誠に申し訳ございません。しかしながら、本日お越しいただいた皆様のご到着を歓迎いたします。つきましては、ささやかながらお食事の準備と、お部屋へご案内したいのですが」
シルヴァンは軍隊を率いるだけあってかなりの長身で、体つきもアーサーとは全く違う。ナターリエは見上げながらも気丈に振る舞っていた。その内心、実はかなりときめいてしまっている。ナターリエの初恋の人が目の前にいるのだから無理もない。
そう。何を隠そう、シルヴァンはナターリエの初恋の君なのである。
初めて出会ったのは数年前。 ナターリエはまだ6歳かそこらだったと思う。ナターリエは父と連れ立って、軍事訓練を兼ねて帝国からの友好国協定に来ていたシルヴァンに出会った。とはいえ、挨拶をするだけだったのだが。
シルヴァンはちょうど今のナターリエと同じくらいの年だった。すでに凛々しく赤い軍服がとても似合っていた。アーサーと同じ銀髪でも、こちらは短く刈り込んでいて、剣傷だろうか白く跡が残り髪が生えていない場所もある。そんなところもなぜかカッコよく見えてときめいてしまった。
キリリとした形の良い眉といい、長いまつ毛といい、筋の通った鼻といい。ますますハンサムに磨きがかかっているようにも思う。愛情豊かそうな唇からまろび出る低音の落ち着いた声が大人の男性を意識させ、ナターリエは今にも叫び出したくなってしまった。
ぶっちゃけ、何から何までがナターリエの好みだったのだ。
「いや。その前に決め事だけをさっさと片付けてしまおう。こちらこそ、分別を弁えない弟のためにご迷惑をおかけして申し訳なかった。それにお国が大変な時だと言うのに、わざわざ出迎えてくださったことに感謝する」
そんな事を言われるのをうっとりと聞いていたナターリエだったが、一拍置いて我に帰る。
「と、とんでもございませんわ。アーサー様は……アーサー様にはとてもよくして頂いていますし、オリヴィエ様にも大変ご迷惑おかけしてしまって。それに今もオリヴィエ様は危険な場所におられて、アーサー様が慌ててしまわれたのも無理がない事と存じます」
「そうですか。それで、あなたはアーサーで満足できると?」
「は、はい…?」
シルヴァンは、片手を差し出しナターリエをエスコートに誘った。なんて自然な紳士なのかしらときゃあきゃあ騒ぐ心の中を沈めながら、そっと手を預ける。
「私では、役不足でしょうか?」
「え……?」
突然、熱のこもった視線を向けられてナターリエは思考停止した。
公国に辿り着いて一番、シルヴァンはナターリエを視界に入れた。青みがかったプラチナブロンドに愛らしい新緑の瞳。ツンと顎をあげ貴族令嬢然としているが、肝はかなり据わっているらしい。自分よりも大きな男どもに並ばれても、視線を泳がせることもなく綺麗なカーテシーで迎えてくれた。かなり好感が持てる。
もとより、皇帝から資料を見せられたときも、国のためにと婚約者の変更を即決したような女だと聞いた。決断力のある女性だ。実に好ましい。これでまだ15歳だと言うのだから、先が楽しみで、正直アーサーに嫉妬をした。
オリヴィエといい、彼女といい。アーサーは誰よりも女運がいいと見える。
だと言うのに、アーサーのやつ。まあ、オリヴィエの危機だと言うのであれば当然の行動だと思うが、帝国の皇子としては落第点をつけてやる。
しかし、ならば俺がもらってもあいつは文句も言えんだろうな。それどころか、元さやで感謝しそうな気もする。本人は気づいていないのだろうが、あんなにべったり深く愛しあっていながら、幼い頃からの腐れ縁だの、相棒だの、よくほざいたものだ。そのくせ俺たちがオリヴィエにちょっかいを出せば、大慌てで飛んできて子猿のように威嚇していたくせに、そう言うところはすっぽり忘れているんだろうな。
さて、ナターリエ・ファーガソン侯爵令嬢か。昔、一度あったことがある。本人は覚えているかどうかわからんが、俺の嫁候補に選ばれていたはずだ。その頃は兄上が結婚したばかりの頃だから、俺はまだ必要ないと断ったのだが。
まあ昔は昔、今は今。親父にも俺に任せると言質をもらったから、少し頑張ってみるか。幸い心象は悪くなさそうだし。帝国の男はこれと決めたらしつこく、強引だと知ってもらわねば。
俺はなるべく当たりの良い笑顔をナターリエ嬢に向けてみた。真っ赤になって潤んだ瞳でこちらを見上げている。かわいいな。年の差八つはまだ、いけるよな?
「アーサーではなく、俺、いや私を選んではくれまいか」
悪く思うなよ、アーサー。
「ハックション!」
私は何か悪寒がして、体を震わせた。オリヴィエを追って来たは良いものの、公爵邸では大公の撲殺死体で大騒ぎだ。衛兵を呼んで騎士団を呼び寄せるように伝えたが、オリヴィエが容疑者になっていて、私はそれを訂正しなければならなくなった。1から説明をして、そもそも大公のような巨体を女手一つで撲殺できるわけがないだろうと言えば、それもそうかと納得できたようだ。それと同時に、メイドと側近の一人が血まみれになった公子が出ていくのを目撃しており、オリヴィエがその後を追いかけるのを見たと言う庭師のおかげで、私も急いで公爵邸を後にした。
オリヴィエからの連絡はまだない。まさか、通信もできないような状況に陥っているんじゃないだろうな。
「くそっ、やはり1人で行かせるのではなかった。私の計算ミスだ」
もとより、兄上が到着したら、オリヴィエについていく予定だった。ナターリエを兄上に任せる気満々でいたのだから。
シルヴァン兄上には婚約者がいない。戦場に立つ男だから、女は邪魔になると言っていたけど、そうじゃない。帝国で、1人にさせるのが嫌なのだ。実力主義の帝国人は、隙あらば刺客を放ってくる。男に守られるのが基本の女性ではとてもじゃないが、王族の相手にはなれない。長兄が成婚し、子供は姫が2人。今現在身籠っている子が男であれば良いけれど。ここで、次兄が結婚して皇子を産もうものなら、大変なことになる。それを危惧しているのだ。
けれど、もし公国が属国になれば?私よりもシルヴァン兄上の方が守りに堅い。ナターリエは自立していて度胸もある。そう言う点ではオリヴィエと似通っているから、シルヴァン兄上の好みのツボに嵌まる。あとは、ナターリエが兄上を気に入るかどうかの問題だけど。私のことは男として見ていないようなきらいもあるし、なんとなく、たくましい男性が好きそうな気がする。父親の財務大臣も割とガッチリしている方だし。
私には、オリヴィエがいる。いや、オリヴィエでなきゃだめなんだ。
オリヴィエは強い。強いが、それでも私と同い年の女の子だ。怖くないわけがないし、1人で平気なはずがない。もし彼女に何かあったら、私は――。
考えるより先に、追いつかなくては。
一方、ようやくシルヴァン率いる軍隊がバッハルト公国にたどり着き、弟アーサーが見当たらないことを聞きただしてみれば、元婚約者の尻を追っかけて、現婚約者を置き去りにしていったのだと言うではないか。
シルヴァンは眉間に指を当て、ため息をついた。
「あ、あの。慌ただしくなりまして、誠に申し訳ございません。しかしながら、本日お越しいただいた皆様のご到着を歓迎いたします。つきましては、ささやかながらお食事の準備と、お部屋へご案内したいのですが」
シルヴァンは軍隊を率いるだけあってかなりの長身で、体つきもアーサーとは全く違う。ナターリエは見上げながらも気丈に振る舞っていた。その内心、実はかなりときめいてしまっている。ナターリエの初恋の人が目の前にいるのだから無理もない。
そう。何を隠そう、シルヴァンはナターリエの初恋の君なのである。
初めて出会ったのは数年前。 ナターリエはまだ6歳かそこらだったと思う。ナターリエは父と連れ立って、軍事訓練を兼ねて帝国からの友好国協定に来ていたシルヴァンに出会った。とはいえ、挨拶をするだけだったのだが。
シルヴァンはちょうど今のナターリエと同じくらいの年だった。すでに凛々しく赤い軍服がとても似合っていた。アーサーと同じ銀髪でも、こちらは短く刈り込んでいて、剣傷だろうか白く跡が残り髪が生えていない場所もある。そんなところもなぜかカッコよく見えてときめいてしまった。
キリリとした形の良い眉といい、長いまつ毛といい、筋の通った鼻といい。ますますハンサムに磨きがかかっているようにも思う。愛情豊かそうな唇からまろび出る低音の落ち着いた声が大人の男性を意識させ、ナターリエは今にも叫び出したくなってしまった。
ぶっちゃけ、何から何までがナターリエの好みだったのだ。
「いや。その前に決め事だけをさっさと片付けてしまおう。こちらこそ、分別を弁えない弟のためにご迷惑をおかけして申し訳なかった。それにお国が大変な時だと言うのに、わざわざ出迎えてくださったことに感謝する」
そんな事を言われるのをうっとりと聞いていたナターリエだったが、一拍置いて我に帰る。
「と、とんでもございませんわ。アーサー様は……アーサー様にはとてもよくして頂いていますし、オリヴィエ様にも大変ご迷惑おかけしてしまって。それに今もオリヴィエ様は危険な場所におられて、アーサー様が慌ててしまわれたのも無理がない事と存じます」
「そうですか。それで、あなたはアーサーで満足できると?」
「は、はい…?」
シルヴァンは、片手を差し出しナターリエをエスコートに誘った。なんて自然な紳士なのかしらときゃあきゃあ騒ぐ心の中を沈めながら、そっと手を預ける。
「私では、役不足でしょうか?」
「え……?」
突然、熱のこもった視線を向けられてナターリエは思考停止した。
公国に辿り着いて一番、シルヴァンはナターリエを視界に入れた。青みがかったプラチナブロンドに愛らしい新緑の瞳。ツンと顎をあげ貴族令嬢然としているが、肝はかなり据わっているらしい。自分よりも大きな男どもに並ばれても、視線を泳がせることもなく綺麗なカーテシーで迎えてくれた。かなり好感が持てる。
もとより、皇帝から資料を見せられたときも、国のためにと婚約者の変更を即決したような女だと聞いた。決断力のある女性だ。実に好ましい。これでまだ15歳だと言うのだから、先が楽しみで、正直アーサーに嫉妬をした。
オリヴィエといい、彼女といい。アーサーは誰よりも女運がいいと見える。
だと言うのに、アーサーのやつ。まあ、オリヴィエの危機だと言うのであれば当然の行動だと思うが、帝国の皇子としては落第点をつけてやる。
しかし、ならば俺がもらってもあいつは文句も言えんだろうな。それどころか、元さやで感謝しそうな気もする。本人は気づいていないのだろうが、あんなにべったり深く愛しあっていながら、幼い頃からの腐れ縁だの、相棒だの、よくほざいたものだ。そのくせ俺たちがオリヴィエにちょっかいを出せば、大慌てで飛んできて子猿のように威嚇していたくせに、そう言うところはすっぽり忘れているんだろうな。
さて、ナターリエ・ファーガソン侯爵令嬢か。昔、一度あったことがある。本人は覚えているかどうかわからんが、俺の嫁候補に選ばれていたはずだ。その頃は兄上が結婚したばかりの頃だから、俺はまだ必要ないと断ったのだが。
まあ昔は昔、今は今。親父にも俺に任せると言質をもらったから、少し頑張ってみるか。幸い心象は悪くなさそうだし。帝国の男はこれと決めたらしつこく、強引だと知ってもらわねば。
俺はなるべく当たりの良い笑顔をナターリエ嬢に向けてみた。真っ赤になって潤んだ瞳でこちらを見上げている。かわいいな。年の差八つはまだ、いけるよな?
「アーサーではなく、俺、いや私を選んではくれまいか」
悪く思うなよ、アーサー。
「ハックション!」
私は何か悪寒がして、体を震わせた。オリヴィエを追って来たは良いものの、公爵邸では大公の撲殺死体で大騒ぎだ。衛兵を呼んで騎士団を呼び寄せるように伝えたが、オリヴィエが容疑者になっていて、私はそれを訂正しなければならなくなった。1から説明をして、そもそも大公のような巨体を女手一つで撲殺できるわけがないだろうと言えば、それもそうかと納得できたようだ。それと同時に、メイドと側近の一人が血まみれになった公子が出ていくのを目撃しており、オリヴィエがその後を追いかけるのを見たと言う庭師のおかげで、私も急いで公爵邸を後にした。
オリヴィエからの連絡はまだない。まさか、通信もできないような状況に陥っているんじゃないだろうな。
「くそっ、やはり1人で行かせるのではなかった。私の計算ミスだ」
もとより、兄上が到着したら、オリヴィエについていく予定だった。ナターリエを兄上に任せる気満々でいたのだから。
シルヴァン兄上には婚約者がいない。戦場に立つ男だから、女は邪魔になると言っていたけど、そうじゃない。帝国で、1人にさせるのが嫌なのだ。実力主義の帝国人は、隙あらば刺客を放ってくる。男に守られるのが基本の女性ではとてもじゃないが、王族の相手にはなれない。長兄が成婚し、子供は姫が2人。今現在身籠っている子が男であれば良いけれど。ここで、次兄が結婚して皇子を産もうものなら、大変なことになる。それを危惧しているのだ。
けれど、もし公国が属国になれば?私よりもシルヴァン兄上の方が守りに堅い。ナターリエは自立していて度胸もある。そう言う点ではオリヴィエと似通っているから、シルヴァン兄上の好みのツボに嵌まる。あとは、ナターリエが兄上を気に入るかどうかの問題だけど。私のことは男として見ていないようなきらいもあるし、なんとなく、たくましい男性が好きそうな気がする。父親の財務大臣も割とガッチリしている方だし。
私には、オリヴィエがいる。いや、オリヴィエでなきゃだめなんだ。
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