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真実の愛とは斯くも難しく
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エドワードはその後順調に回復している、とはいえすっかり毒気が抜け、幼い子供のようになってしまった。脊髄の損傷から四肢麻痺になった上、記憶は10歳頃から曖昧なまま。おそらく最初に魅了された頃ではないか、とオリヴィエが医師と話していた。
自分の父親を殺したことも、ミラと出会ったことも何も覚えておらず、ベッドの住人だ。そしてこの度、彼の幽閉が決まった。とは言っても、おそらく長くは持たないだろうと言うこと。なるべく穏やかな場所で過ごしてもらうための処置だった。
公国は、結局帝国の属国となり、兄シルヴァンとナターリエ嬢の婚姻を持って、シルヴァンが公爵になる形に収まった。とはいえ、彼女はまだ学生の身であり、卒業を待つ形になる。
「一目惚れでしたの」
婚姻したのちに、そう言ったのは大公妃になったナターリエである。
彼女の心に住み着いていたのは、もとより兄上だったのだ。私を見つめる目が遠い誰かを見ているようだったのも頷けた。兄は皇帝に顔が似ているが、髪の色は母上似。つまり私と同じ色だから面影を探していたのかもしれない。
兄上は芯のしっかりしたナターリエ姉上を気に入っており、溺愛の域に達しているそうだ。
私とオリヴィエについては、「誰が見ても相思相愛のお二人の仲を裂く、悪女にさせられた」と憤慨された。
帝国に戻ってから、しばらく謹慎を受け、その間は旧神殿についての調書を書けと地獄の日々を送った。とはいえ、オリヴィエと一緒の作業だったので全く苦にもならなかったが。
私とオリヴィエの関係は、あの時一瞬だけ変わったかのようにも見えたが、すっかり元通りになってしまった。私は相変わらずオリヴィエに支えられ、オリヴィエの後をついて歩く。面白そうなことを発見するのはいつもオリヴィエで、私はその案に乗る。オリヴィエがいるから、全ての物事に色がつき、楽しさに染まる。できれば危険な真似はしてほしくないけれど、それも含めてオリヴィエなのだから仕方がない。
「ねえ、アーサー。歴史書を紐解くと、帝国の初代皇后陛下も勇者の血を引いていたのよ」
「へえ。つまり、私にもその血が流れていると言うことかな?」
「だとしたら私たち、とても遠い親戚なのね」
「剣聖も勇者の血筋だったと言うのなら、兄上が公爵になるのは、ある意味理に適ってるってことか」
「言われてみればそうね」
「じゃあ、吸血族に狙われても大丈夫ってことだ」
「その前に瞬殺されそうだけれど?」
「あの人にハニートラップは無駄だな」
あはは、と笑っていると、大地を轟かせるような声が後ろから響いた。
「面白そうな話をしているな」
なんで兄上がこんなところに!と慌てて逃げ出す私たち。
いや、私たちは謹慎が解けて学園に戻ってきたのだった。卒業だけはさせてやるとお情けを頂戴した。それで、公爵邸にお世話になっているのだ。
旧神殿は、建て直されることになった。礼拝堂は風化して危険な状態ではあったものの、奥まった場所にある小部屋などは無事で、さまざまな貴重な資料が出てきたのだ。そこで言語学博士のようなオリヴィエの出番だ。資料を整理し直し、オリヴィエが翻訳し、私が清書をする。たまに不思議なアーティファクトを発見し、このまま埋没させておくのは惜しいと言うことになった。
礼拝堂にあった像は、聖女と勇者を象ったものらしい。幸い原案が出てきたので、それも再現させるらしい。後何十年かかるかはわからないけれど、これが光の子たちの象徴になればいい、とオリヴィエは瞳をキラキラさせていた。
私はオリヴィエと、一度だけ真実の愛について語り合ったことがあるけれど、結局答えは出なかった。
「アーサーが真実の愛を見つけたら、迷わず私を切り離してくださいね」
「無理だ」
オリヴィエはまだ私の愛に確証がないらしい。あれから、オリヴィエから愛の告白はない。
好きだと言われたが、愛しているとは言われていなかった。しかしそれでも、私の愛は変わらない。
「私が愛しているのはオリヴィエなんだから、私の中に真実の愛は存在するはずだ」
「私がおばあちゃんになったら、若いどなたかを愛するようになるかもしれませんよ?」
「ない」
「真実の愛が子供や家族に向けてだったらどうです?」
「……真実の愛が唯一の愛とは限らないじゃないか」
「確かに。それでは、声高らかに言えるものではないかもしれませんね」
以前、ナターリエ嬢が、似たようなことを言っていた気がする。
「私はオリヴィエを愛していると声高々言えるがな」
「恥ずかしいのでやめてください」
私は、オリヴィエと一緒に真実の愛を見つけたいのだ。
神を探すよりも難しいかもしれませんね、と言われたが、私は諦めない。
真実の愛とは、斯くも難しく、しかし抗えない美しいものだと思うから。
完
自分の父親を殺したことも、ミラと出会ったことも何も覚えておらず、ベッドの住人だ。そしてこの度、彼の幽閉が決まった。とは言っても、おそらく長くは持たないだろうと言うこと。なるべく穏やかな場所で過ごしてもらうための処置だった。
公国は、結局帝国の属国となり、兄シルヴァンとナターリエ嬢の婚姻を持って、シルヴァンが公爵になる形に収まった。とはいえ、彼女はまだ学生の身であり、卒業を待つ形になる。
「一目惚れでしたの」
婚姻したのちに、そう言ったのは大公妃になったナターリエである。
彼女の心に住み着いていたのは、もとより兄上だったのだ。私を見つめる目が遠い誰かを見ているようだったのも頷けた。兄は皇帝に顔が似ているが、髪の色は母上似。つまり私と同じ色だから面影を探していたのかもしれない。
兄上は芯のしっかりしたナターリエ姉上を気に入っており、溺愛の域に達しているそうだ。
私とオリヴィエについては、「誰が見ても相思相愛のお二人の仲を裂く、悪女にさせられた」と憤慨された。
帝国に戻ってから、しばらく謹慎を受け、その間は旧神殿についての調書を書けと地獄の日々を送った。とはいえ、オリヴィエと一緒の作業だったので全く苦にもならなかったが。
私とオリヴィエの関係は、あの時一瞬だけ変わったかのようにも見えたが、すっかり元通りになってしまった。私は相変わらずオリヴィエに支えられ、オリヴィエの後をついて歩く。面白そうなことを発見するのはいつもオリヴィエで、私はその案に乗る。オリヴィエがいるから、全ての物事に色がつき、楽しさに染まる。できれば危険な真似はしてほしくないけれど、それも含めてオリヴィエなのだから仕方がない。
「ねえ、アーサー。歴史書を紐解くと、帝国の初代皇后陛下も勇者の血を引いていたのよ」
「へえ。つまり、私にもその血が流れていると言うことかな?」
「だとしたら私たち、とても遠い親戚なのね」
「剣聖も勇者の血筋だったと言うのなら、兄上が公爵になるのは、ある意味理に適ってるってことか」
「言われてみればそうね」
「じゃあ、吸血族に狙われても大丈夫ってことだ」
「その前に瞬殺されそうだけれど?」
「あの人にハニートラップは無駄だな」
あはは、と笑っていると、大地を轟かせるような声が後ろから響いた。
「面白そうな話をしているな」
なんで兄上がこんなところに!と慌てて逃げ出す私たち。
いや、私たちは謹慎が解けて学園に戻ってきたのだった。卒業だけはさせてやるとお情けを頂戴した。それで、公爵邸にお世話になっているのだ。
旧神殿は、建て直されることになった。礼拝堂は風化して危険な状態ではあったものの、奥まった場所にある小部屋などは無事で、さまざまな貴重な資料が出てきたのだ。そこで言語学博士のようなオリヴィエの出番だ。資料を整理し直し、オリヴィエが翻訳し、私が清書をする。たまに不思議なアーティファクトを発見し、このまま埋没させておくのは惜しいと言うことになった。
礼拝堂にあった像は、聖女と勇者を象ったものらしい。幸い原案が出てきたので、それも再現させるらしい。後何十年かかるかはわからないけれど、これが光の子たちの象徴になればいい、とオリヴィエは瞳をキラキラさせていた。
私はオリヴィエと、一度だけ真実の愛について語り合ったことがあるけれど、結局答えは出なかった。
「アーサーが真実の愛を見つけたら、迷わず私を切り離してくださいね」
「無理だ」
オリヴィエはまだ私の愛に確証がないらしい。あれから、オリヴィエから愛の告白はない。
好きだと言われたが、愛しているとは言われていなかった。しかしそれでも、私の愛は変わらない。
「私が愛しているのはオリヴィエなんだから、私の中に真実の愛は存在するはずだ」
「私がおばあちゃんになったら、若いどなたかを愛するようになるかもしれませんよ?」
「ない」
「真実の愛が子供や家族に向けてだったらどうです?」
「……真実の愛が唯一の愛とは限らないじゃないか」
「確かに。それでは、声高らかに言えるものではないかもしれませんね」
以前、ナターリエ嬢が、似たようなことを言っていた気がする。
「私はオリヴィエを愛していると声高々言えるがな」
「恥ずかしいのでやめてください」
私は、オリヴィエと一緒に真実の愛を見つけたいのだ。
神を探すよりも難しいかもしれませんね、と言われたが、私は諦めない。
真実の愛とは、斯くも難しく、しかし抗えない美しいものだと思うから。
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