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後始末
オリヴィエは、帝国でも五指に入る貴重な聖魔法使いでもある。
言語理解能力だとか、魔道具製作の最高峰だとか、私の婚約者(だった)とかいろんな方面で魔が売れたがために、目立たなくさせているのだが、オリヴィエにかかれば瀕死の状態も安静にしていれば治る程度まで回復させることができるのだ。ただし、滅多なことで使われることはない。帝国では、死するものの運命として寿命は受け止められるからだ。手足をなくしてそれが何度でも生えてくるとわかれば無駄なことをする人間もいる。自信を大切にできないのであれば、捨ててもいいだろうという考えを、私もオリヴィエも持っている。
だが、今まさに死に絶えそうなエドワードに対しては、話がちょっと違ってくる。というわけで、オリヴィエはひとまずエドワードの首からの出血を止め、記憶も曖昧にした。すでに魅了でおかしくなってしまったエドワードをそのまま生かしても毒にしかならないからだ。大量出血の上、吸血鬼に噛みつかれたので、浄化魔法もかけておく。応急処置だが、この傷が元で亡くなるということは避けられる。それが彼にとって良いか悪いかは別にしても。
なぜなら、今死なれては公国も帝国もちょっと困るのである。何せ公国の次期大公になる予定だった男なのだから。まあ、廃されるのは決定しているとはいえ、調停が成り立つまでは生き延びてほしいというわけで、ここは男である私がエドワードを背負い、旧神殿から這い出た。
猟奇的なまでに肉片血まみれな私たちは、旧神殿の出入り口で勢揃いしていた皆様方に頭を下げた。誰もが息を呑み、私とオリヴィエを頭の先から足の先までまじまじと見つめた。ナターリエ嬢に至っては、顔を紙のように白く染めて目を見開いている。効果は抜群である。
「自分勝手な行動をとり、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
「ひとまず、状況説明をしてもらおうか」
そう言ったのは、第二皇子である兄、シルヴァン。隣に並んだナターリエ嬢を支えるように腰に手を回している。あれ?と思ったが、状況を説明するため、私はオリヴィエの隣に立った。
オリヴィエが説明をする間、エドワードは私の背に担いだままである。いい加減誰か手を貸してくれないかなと思うんだが。問題行動を取ったのは紛れもなく私なので、強くはいえない。ここで落としても問題ないかな。どうせ、こいつは親殺しで死刑か毒杯か、よくて幽閉されるんだろうし。
エドワードは目を覚ましているものの、虚な表情で状況がわかっていない様子。涎を垂らすのやめてもらえないかな。
わたしたちが血まみれのまま出てきたのには理由がある。というか、言い訳のためだ。これほどの激しい戦いの中、生きて帰れたのは、オリヴィエもさることながら私がいたからだと思わせるため。いや、男としてどうなのか、というか、皇子としてもちょっと考えさせられるんだけど、「こんな血生臭い人と結婚するのは嫌です」とナターリエの方から破棄してもらえないかな、と考えてたり、兄からの叱咤を避けられたりしないかなと。
「つまり、オリヴィエが全てを決着つけたわけだな」
あれ?
「いえ。エドワード公子の血に含まれた剣聖の因子が結果的には有効だったのだと愚行します」
「なるほど。それで我が弟は何をしていたんだ?」
「私を探して血溜まりの中へ飛び込んできてくれました」
「いつものことだな」
「ええ。いつものことでございました」
おかしいな。オリヴィエの計画では、私も幾分か役に立ったと言う予定だったのではなかったかな。
「アーサー。お前は婚約者をほったらかして何をしていた」
「は。オリヴィエを探しに走りました」
「それはなぜか」
「私は、オリヴィエを愛していると気づいたからです」
「……う、うむ。お前、堂々と言うがな……」
「つきましては、ナターリエ嬢には、大変申し訳なく思っています。契約を持ちかけたのは私、そして軽薄にもそれを反故にしたのも私でございます。如何なる仕打ちをお受けしますが、ここにエドワード公子を生かしたまま保護したことは、今回の契約を滞りなく進めるためでもありました」
「……相変わらず言い訳だけは達者だ」
私も必死なんだよ。兄上は少し黙っててほしい。
「それに、公爵邸で起こった事件の混乱を必要最低限に収め、箝口令を願い、オリヴィエに掛けられた嫌疑も無事解消させることができました」
「オリヴィエを疑ったものがいるのか」
兄の目が公国の騎士たちに向かう。ぎくりと身じろぎをし、目を逸らした奴らがそれだ。だが、兄が何かを言う前に、ナターリエ嬢が前に一歩踏み出した。顔色はまだ良くないし、扇で鼻を隠すのは、匂うと言うことだろうか。
「アーサー第3皇子殿下。詳細は理解いたしました。ですが、わたくしとの契約を反故にし、軽々しく扱ったことに関しては到底許せることではございません。それにわたくし、あなたのように血生臭い方と結婚するのは嫌ですわ。ですから、この婚約はなかったことにし、新たに帝国からのありがたいお申し出をお受けしたいと存じます」
「え?」
「わたくし、ナターリエ・ファーガソンは本日より帝国第2皇子殿下、シルヴァン様の婚約者となりました。どうぞよしなに、お願いいたしますわ」
ナターリエ嬢はパチリ、とウインクをしてみせた。
え?
「お前への罰は帝国に帰ってから、皇帝陛下と話し合いの上決定する。それまではオリヴィエと共に帝国で謹慎処分とする。さっさと帰るが良い」
「ナターリエ様、シルヴァン様。ご婚約おめでとうございます。私が至らないばかりに大変なご迷惑をおかしました。これから先、如何様なことでも、私に出来ることが有れば馳せ参じる所存でございます」
オリヴィエがそう言って美しいカーテシーを見せた。
「そうか、オリヴィエ。ならばお前は責任をとってそこのアーサーと婚姻し、生涯俺とナターリエのために身を子にして働くと良い」
「……ありがたき幸せ」
……うん。私はただ、オリヴィエの後ろで黙って見ていればいいんだよね、と自分に言い聞かせる。
おかしいな。私はこんなキャラだっただろうか。
言語理解能力だとか、魔道具製作の最高峰だとか、私の婚約者(だった)とかいろんな方面で魔が売れたがために、目立たなくさせているのだが、オリヴィエにかかれば瀕死の状態も安静にしていれば治る程度まで回復させることができるのだ。ただし、滅多なことで使われることはない。帝国では、死するものの運命として寿命は受け止められるからだ。手足をなくしてそれが何度でも生えてくるとわかれば無駄なことをする人間もいる。自信を大切にできないのであれば、捨ててもいいだろうという考えを、私もオリヴィエも持っている。
だが、今まさに死に絶えそうなエドワードに対しては、話がちょっと違ってくる。というわけで、オリヴィエはひとまずエドワードの首からの出血を止め、記憶も曖昧にした。すでに魅了でおかしくなってしまったエドワードをそのまま生かしても毒にしかならないからだ。大量出血の上、吸血鬼に噛みつかれたので、浄化魔法もかけておく。応急処置だが、この傷が元で亡くなるということは避けられる。それが彼にとって良いか悪いかは別にしても。
なぜなら、今死なれては公国も帝国もちょっと困るのである。何せ公国の次期大公になる予定だった男なのだから。まあ、廃されるのは決定しているとはいえ、調停が成り立つまでは生き延びてほしいというわけで、ここは男である私がエドワードを背負い、旧神殿から這い出た。
猟奇的なまでに肉片血まみれな私たちは、旧神殿の出入り口で勢揃いしていた皆様方に頭を下げた。誰もが息を呑み、私とオリヴィエを頭の先から足の先までまじまじと見つめた。ナターリエ嬢に至っては、顔を紙のように白く染めて目を見開いている。効果は抜群である。
「自分勝手な行動をとり、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
「ひとまず、状況説明をしてもらおうか」
そう言ったのは、第二皇子である兄、シルヴァン。隣に並んだナターリエ嬢を支えるように腰に手を回している。あれ?と思ったが、状況を説明するため、私はオリヴィエの隣に立った。
オリヴィエが説明をする間、エドワードは私の背に担いだままである。いい加減誰か手を貸してくれないかなと思うんだが。問題行動を取ったのは紛れもなく私なので、強くはいえない。ここで落としても問題ないかな。どうせ、こいつは親殺しで死刑か毒杯か、よくて幽閉されるんだろうし。
エドワードは目を覚ましているものの、虚な表情で状況がわかっていない様子。涎を垂らすのやめてもらえないかな。
わたしたちが血まみれのまま出てきたのには理由がある。というか、言い訳のためだ。これほどの激しい戦いの中、生きて帰れたのは、オリヴィエもさることながら私がいたからだと思わせるため。いや、男としてどうなのか、というか、皇子としてもちょっと考えさせられるんだけど、「こんな血生臭い人と結婚するのは嫌です」とナターリエの方から破棄してもらえないかな、と考えてたり、兄からの叱咤を避けられたりしないかなと。
「つまり、オリヴィエが全てを決着つけたわけだな」
あれ?
「いえ。エドワード公子の血に含まれた剣聖の因子が結果的には有効だったのだと愚行します」
「なるほど。それで我が弟は何をしていたんだ?」
「私を探して血溜まりの中へ飛び込んできてくれました」
「いつものことだな」
「ええ。いつものことでございました」
おかしいな。オリヴィエの計画では、私も幾分か役に立ったと言う予定だったのではなかったかな。
「アーサー。お前は婚約者をほったらかして何をしていた」
「は。オリヴィエを探しに走りました」
「それはなぜか」
「私は、オリヴィエを愛していると気づいたからです」
「……う、うむ。お前、堂々と言うがな……」
「つきましては、ナターリエ嬢には、大変申し訳なく思っています。契約を持ちかけたのは私、そして軽薄にもそれを反故にしたのも私でございます。如何なる仕打ちをお受けしますが、ここにエドワード公子を生かしたまま保護したことは、今回の契約を滞りなく進めるためでもありました」
「……相変わらず言い訳だけは達者だ」
私も必死なんだよ。兄上は少し黙っててほしい。
「それに、公爵邸で起こった事件の混乱を必要最低限に収め、箝口令を願い、オリヴィエに掛けられた嫌疑も無事解消させることができました」
「オリヴィエを疑ったものがいるのか」
兄の目が公国の騎士たちに向かう。ぎくりと身じろぎをし、目を逸らした奴らがそれだ。だが、兄が何かを言う前に、ナターリエ嬢が前に一歩踏み出した。顔色はまだ良くないし、扇で鼻を隠すのは、匂うと言うことだろうか。
「アーサー第3皇子殿下。詳細は理解いたしました。ですが、わたくしとの契約を反故にし、軽々しく扱ったことに関しては到底許せることではございません。それにわたくし、あなたのように血生臭い方と結婚するのは嫌ですわ。ですから、この婚約はなかったことにし、新たに帝国からのありがたいお申し出をお受けしたいと存じます」
「え?」
「わたくし、ナターリエ・ファーガソンは本日より帝国第2皇子殿下、シルヴァン様の婚約者となりました。どうぞよしなに、お願いいたしますわ」
ナターリエ嬢はパチリ、とウインクをしてみせた。
え?
「お前への罰は帝国に帰ってから、皇帝陛下と話し合いの上決定する。それまではオリヴィエと共に帝国で謹慎処分とする。さっさと帰るが良い」
「ナターリエ様、シルヴァン様。ご婚約おめでとうございます。私が至らないばかりに大変なご迷惑をおかしました。これから先、如何様なことでも、私に出来ることが有れば馳せ参じる所存でございます」
オリヴィエがそう言って美しいカーテシーを見せた。
「そうか、オリヴィエ。ならばお前は責任をとってそこのアーサーと婚姻し、生涯俺とナターリエのために身を子にして働くと良い」
「……ありがたき幸せ」
……うん。私はただ、オリヴィエの後ろで黙って見ていればいいんだよね、と自分に言い聞かせる。
おかしいな。私はこんなキャラだっただろうか。
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