107 / 416
第8章 動き出す日常
第107話 鍛冶
しおりを挟む
「お疲れさん」
「あ、シンヤ。お疲れ…………ん?隣の人は、誰?」
「あぁ、紹介するわ。こいつはリース。訳あって1ヶ月程、ここのクランハウスで生活を共にする予定だから、よろしく頼む」
「リ、リースです!よろしくお願いします!」
「ん、よろしく」
「にしても頑張ってるんだな、ノエ」
「鍛冶、楽しいから」
リースを伴って次に訪れた場所はクランハウスの敷地内にある、とある建物だった。ここでは日夜、武器・防具の製造や修復が行われている。ノエもニーベル同様、俺達と出会い行動を共にする内に固有スキルの鍛治が恩恵を受け、出来ることの幅が広がったのだ。その為、ニーベルが試飲用の酒を作り始めた段階で自分も鍛冶をやりたいと思ったノエの要望を受けた俺は専用の建物を創造したのである。それが3週間前のことでそこからは試作用の武器・防具を作ったり、傘下のクランの武器で破損や刃こぼれしたものを修復したりしていた。もちろん、全てをノエ1人で行っていたという訳ではなく、銅組と一緒に取り組んでいたのだが、ノエ以外は全員鍛冶をしたことがない為、指導と同時並行での作業となった。皆、飲み込みが早く、大事な工程はノエが行わなければならないがそれ以外の部分は既に任せられるレベルまで達している。チラリと奥の方を見れば、組長であるリームが軽く汗を流しながら、真剣な顔をして取り組んでいるのが窺える。少し前に聞いたのだが、組員達は別に強制されてこのようなことをしているのではないそうだ。ニーベルのところもそうだったが組員達は嫌々付き合わされているのではなく、自らの意思で行っているんだとか。戦闘だけでなく、こういった形で自分の力を発揮できるのが嬉しく、日々どんどん上達していくのも感じられて、ますますやる気が満ち溢れてくるみたいだ。こちらがわざわざ訊いてもいないのに目をキラキラさせながら語ってきたから、まず間違いはないだろう。
「ん?見学?」
「そうだ。リースが俺の目的地について回りたいらしくてな……………いいか?」
「ん、大丈夫」
「悪いな」
「す、すみません!お邪魔します!」
「別に、いい」
――――――――――――――――――――
「ここは?」
「武器・防具を、作る上で、素材となるものを、熱して打ち延ばす、場所。ものによっては、特に熱くしなくちゃ、いけないから、大変。でも、火魔法を、使えれば、それも解決」
「なるほど」
「本当に魔法って便利だな~………」
「次は、その熱した中から、良質なものを、抜き出して、炉で熱する。これは、少し時間を、かけて行う。その後、熱したものを、平たく延ばし、折り返して、2枚に重ねる。これを20回、繰り返すと、層が厚くなって、丈夫になる」
「大変だな」
「冒険者達が何気なく使ってるけど、そんな工程があったんだ」
「まだ終わってない。刃こぼれや、なるべく折れないように、"堅粉"と"保土"をそこに、練り込んで、また叩いて延ばす。こうすることで、ある程度は、武器や防具が、保つように、なる。で、それを火魔法で熱する。この時の温度は、触った人が一瞬で、溶ける程」
「どおりでこの建物の中が暑いはずだ」
「ひぃっ!!」
「そこからは、頃合いを見て、急冷する。これも、魔法を使えば、簡単。そして、その後は、色々と細かい部分を、修正していって、完成させる。後半部分は、ノエしか、できないから、腕が鳴る。ざっくりと、説明すると、こんな感じ」
「なるほど。勉強になった。ありがとう」
「す、凄い…………」
「ちなみに、製造じゃなくて、修復の方は……………」
その後もノエに色々と説明してもらいながら、回った。酒蔵でもそうだったがリースは本当に楽しそうに聞いていて、それは見ていてとても微笑ましかった。ずっと王城で暮らしているとこういったものに触れる機会などないのだろう。とはいっても俺はリースが以前、どんな暮らしをしていたのか詳しくは知らない。だが、少なくともこれだけ表情がコロコロと変わり、生き生きとした姿でいるということはさぞかし刺激のない日々を送っていたという想像はつく。まぁ、兄達のギスギスとした感情を直で感じ、緊張感といった別の刺激はあったのかもしれないが…………
「これが、ノエ達の、してること」
「そうか。よく分かった。ありがとう」
「ありがとうございました!とても興味深かったです!」
「また、いつでも、来るといい」
「お、ノエもリースが気に入ったのか?」
「ん。なんか憎めないし、好感が持てる」
「へ!?そ、そうなんですか!?」
「だから言っただろ?お前は生意気だが、何故か、人を不快にさせないんだ。ま、それも才能の一種だろう」
「生意気という部分には引っかかるけど…………そうか、そうなんだ」
「じゃあな、ノエ。また何かあったら来るわ」
「ん、待ってる」
「で、では!お邪魔しました!」
俺達はノエに挨拶をして、外へと出た。熱気を感じた身体に涼しい風が当たって、とても気持ちがいい。数歩前へと進んで後ろを振り向くとまだ入り方近くに佇んでいるリースがいることに気が付いた。
「どうした?」
「さっきの話だけど……………シンヤは僕のこと、どう思うの?」
「ん?言わなかったか?俺はお前を気に入ってるって。なんか憎めないし、余計なことをされても苛つかないから、大抵のことは許してやるかもな。あと、なんか知らんが可愛げもあるな。お前がもし女だったら、惚れてたかもな」
「そ、そうなんだ…………そうか、そんな風に」
「ん?何、顔赤くしてんだ?気持ち悪いぞ」
「き、気持ち悪いとか言うなよ!褒められて嬉しくない奴なんていないだろ!」
「落ち着けって。悪かったよ。言い過ぎた」
「ふ、ふんっ!分かればいいんだ」
肩で風を切って、俺の横を通り過ぎていくリースを見て思う。すぐに感情的になるのは見ていて面白いし、そこに嘘が含まれていないのは好感が持てる。しかし……………
「俺を残して、どこに行くつもりなんだ?」
もう少し落ち着いて、周りをよく見る。それは最優先で教育していくべきだとこの時、はっきりと胸に刻み込んだのだった。
「あ、シンヤ。お疲れ…………ん?隣の人は、誰?」
「あぁ、紹介するわ。こいつはリース。訳あって1ヶ月程、ここのクランハウスで生活を共にする予定だから、よろしく頼む」
「リ、リースです!よろしくお願いします!」
「ん、よろしく」
「にしても頑張ってるんだな、ノエ」
「鍛冶、楽しいから」
リースを伴って次に訪れた場所はクランハウスの敷地内にある、とある建物だった。ここでは日夜、武器・防具の製造や修復が行われている。ノエもニーベル同様、俺達と出会い行動を共にする内に固有スキルの鍛治が恩恵を受け、出来ることの幅が広がったのだ。その為、ニーベルが試飲用の酒を作り始めた段階で自分も鍛冶をやりたいと思ったノエの要望を受けた俺は専用の建物を創造したのである。それが3週間前のことでそこからは試作用の武器・防具を作ったり、傘下のクランの武器で破損や刃こぼれしたものを修復したりしていた。もちろん、全てをノエ1人で行っていたという訳ではなく、銅組と一緒に取り組んでいたのだが、ノエ以外は全員鍛冶をしたことがない為、指導と同時並行での作業となった。皆、飲み込みが早く、大事な工程はノエが行わなければならないがそれ以外の部分は既に任せられるレベルまで達している。チラリと奥の方を見れば、組長であるリームが軽く汗を流しながら、真剣な顔をして取り組んでいるのが窺える。少し前に聞いたのだが、組員達は別に強制されてこのようなことをしているのではないそうだ。ニーベルのところもそうだったが組員達は嫌々付き合わされているのではなく、自らの意思で行っているんだとか。戦闘だけでなく、こういった形で自分の力を発揮できるのが嬉しく、日々どんどん上達していくのも感じられて、ますますやる気が満ち溢れてくるみたいだ。こちらがわざわざ訊いてもいないのに目をキラキラさせながら語ってきたから、まず間違いはないだろう。
「ん?見学?」
「そうだ。リースが俺の目的地について回りたいらしくてな……………いいか?」
「ん、大丈夫」
「悪いな」
「す、すみません!お邪魔します!」
「別に、いい」
――――――――――――――――――――
「ここは?」
「武器・防具を、作る上で、素材となるものを、熱して打ち延ばす、場所。ものによっては、特に熱くしなくちゃ、いけないから、大変。でも、火魔法を、使えれば、それも解決」
「なるほど」
「本当に魔法って便利だな~………」
「次は、その熱した中から、良質なものを、抜き出して、炉で熱する。これは、少し時間を、かけて行う。その後、熱したものを、平たく延ばし、折り返して、2枚に重ねる。これを20回、繰り返すと、層が厚くなって、丈夫になる」
「大変だな」
「冒険者達が何気なく使ってるけど、そんな工程があったんだ」
「まだ終わってない。刃こぼれや、なるべく折れないように、"堅粉"と"保土"をそこに、練り込んで、また叩いて延ばす。こうすることで、ある程度は、武器や防具が、保つように、なる。で、それを火魔法で熱する。この時の温度は、触った人が一瞬で、溶ける程」
「どおりでこの建物の中が暑いはずだ」
「ひぃっ!!」
「そこからは、頃合いを見て、急冷する。これも、魔法を使えば、簡単。そして、その後は、色々と細かい部分を、修正していって、完成させる。後半部分は、ノエしか、できないから、腕が鳴る。ざっくりと、説明すると、こんな感じ」
「なるほど。勉強になった。ありがとう」
「す、凄い…………」
「ちなみに、製造じゃなくて、修復の方は……………」
その後もノエに色々と説明してもらいながら、回った。酒蔵でもそうだったがリースは本当に楽しそうに聞いていて、それは見ていてとても微笑ましかった。ずっと王城で暮らしているとこういったものに触れる機会などないのだろう。とはいっても俺はリースが以前、どんな暮らしをしていたのか詳しくは知らない。だが、少なくともこれだけ表情がコロコロと変わり、生き生きとした姿でいるということはさぞかし刺激のない日々を送っていたという想像はつく。まぁ、兄達のギスギスとした感情を直で感じ、緊張感といった別の刺激はあったのかもしれないが…………
「これが、ノエ達の、してること」
「そうか。よく分かった。ありがとう」
「ありがとうございました!とても興味深かったです!」
「また、いつでも、来るといい」
「お、ノエもリースが気に入ったのか?」
「ん。なんか憎めないし、好感が持てる」
「へ!?そ、そうなんですか!?」
「だから言っただろ?お前は生意気だが、何故か、人を不快にさせないんだ。ま、それも才能の一種だろう」
「生意気という部分には引っかかるけど…………そうか、そうなんだ」
「じゃあな、ノエ。また何かあったら来るわ」
「ん、待ってる」
「で、では!お邪魔しました!」
俺達はノエに挨拶をして、外へと出た。熱気を感じた身体に涼しい風が当たって、とても気持ちがいい。数歩前へと進んで後ろを振り向くとまだ入り方近くに佇んでいるリースがいることに気が付いた。
「どうした?」
「さっきの話だけど……………シンヤは僕のこと、どう思うの?」
「ん?言わなかったか?俺はお前を気に入ってるって。なんか憎めないし、余計なことをされても苛つかないから、大抵のことは許してやるかもな。あと、なんか知らんが可愛げもあるな。お前がもし女だったら、惚れてたかもな」
「そ、そうなんだ…………そうか、そんな風に」
「ん?何、顔赤くしてんだ?気持ち悪いぞ」
「き、気持ち悪いとか言うなよ!褒められて嬉しくない奴なんていないだろ!」
「落ち着けって。悪かったよ。言い過ぎた」
「ふ、ふんっ!分かればいいんだ」
肩で風を切って、俺の横を通り過ぎていくリースを見て思う。すぐに感情的になるのは見ていて面白いし、そこに嘘が含まれていないのは好感が持てる。しかし……………
「俺を残して、どこに行くつもりなんだ?」
もう少し落ち着いて、周りをよく見る。それは最優先で教育していくべきだとこの時、はっきりと胸に刻み込んだのだった。
10
あなたにおすすめの小説
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる