俺は善人にはなれない

気衒い

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第12章 vs聖義の剣

第236話 間一髪

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スニクの入り口付近。現在、そこには

荒々しい戦闘の跡が刻まれていた。度重

なる衝撃で大地はめくれ、魔法の着弾に

よる煙が濛々と立ち込めている。誰の目

から見ても激しい戦いが行われていると

感じる程だ。そして、そんな状態の中を

2つの影が移動した。それはこの状況を

作り出した元凶達、すなわちスニクの長

老シードと"聖義の剣"の部隊長クロス

であった。

「"絶命剣"!!」

「ほれ、"支柱当て"」

「ちいっ!なかなかにしぶといな」

「怖い技を使うのぅ」

大剣と杖が拮抗する。本来、武器の相性

でいうと大剣の方が圧倒的に有利であ

り、それはクロスの経験上でもそうだっ

た。彼は今まで幾度となく死闘をくぐり

抜けてきたが、その中でただの一度でも

杖を使う者との接近戦で互角まで持ち込

まれたことがない。というよりも杖を使

う者は1人の例外もなく、魔法主体の遠

距離型。そもそも彼自身が杖と大剣で接

近戦を行った記憶がないのだ。つまり、

彼の目の前にいる老人は例外中の例外で

あり、このような事態を彼は予測してい

なかったのである。

「珍しい戦い方をする奴だ」

「ほぅ。今時の若者はこのような戦法を

使わんか」

「ああ。お前の戦い方ならば、武器が杖

である必要がない。剣士でも魔法を使う

奴はいるしな」

「昔、仲間にも同じことを言われたの

ぅ」

「昔?」

「ああ。20年以上前・・・・・・

に冒険者をしておっての。その時に|と

あるクラン《・・・・・・》に所属して

おったんじゃ」

「ふんっ。お前程の実力者が率いるクラ

ンだ。その戦法も相まって、さぞかし目

立ったことだろう」

「いや、ワシはクランマスターではなか

った」

「なんだと!?」

「随分と過大評価をしてくれておるよう

じゃが、以前はここまでの実力がなかっ

た。だから、当然じゃろう」

「だが、それにしても杖で接近戦を行う

ダークエルフなど目立ってしょうがない

はず!いくら20年以上前とはいえ、そ

んな奴がいたなんて話は今日まで聞いた

ことがないぞ」

「ワシらのクランは少々、特殊での。普

段は表立って活動することはなく、かと

いって犯罪に手を染めている訳でもな

い。依頼もちゃんとした手続きで受けた

ことはないのぅ。だから、人前に出ない

ことで存在すら怪しまれる程のクランだ

ったんじゃ。知られていないのも無理は

ない」

「な、なんだと!?そんなクランが存在

するのか!?依頼はギルドを通して行う

し、物理的に不可能だと思うが」

「まぁ、世の中には色々あるんじ

ゃ…………さて、お喋りはこの辺にし

て、そろそろ決着をつけるとするかの。

お仲間も待ちくたびれておるじゃろう」

そう言うとシードは徐にクロスへ向かっ

て、人差し指を突き付けた。

「"|水の拘束《ウォーター・バイン

ド》"」

「ぬおっ!?」

途端、水でできた鎖が突如として現れ、

クロスを拘束し始めた。これにはたまら

ずクロスも唸る。

「水の上級魔法じゃ。この拘束は並大抵

のことでは外れぬ。そればかりか、時間

が1分経過する毎に対象者をより強い力

で締め上げてゆく。最終的にどうなるか

は……………分かるじゃろ?」

「くそっ!なんなんだ、これは」

クロスはもがきにもがいた。でないと正

気を保つことができないからだ。シード

の言う通り、さっきよりも締め付けがき

つくなっており、このまま時間が過ぎて

いく恐怖に耐えられる自信が彼にはなか

った。これには仲間達も流石に心配し

た。

「「「クロスさん!!!」」」

「お前達は来るな!」

居ても立ってもいられず、駆け寄ろうと

した仲間達を制するクロス。その瞳は何

かを決意したかのようだった。

「正直、ここまで追い詰められるとは思

ってもみなかった」

「そうか。だったら、この先は改心して

至極真っ当な人生を……………」

「まさか、この方法に頼らなければなら

ないとはな!」

突然叫び出したクロスは懐から注射器の

ようなものを取り出して、それを首の辺

りに刺した。するとその直後、彼の身体

に変化が起きる。頭から2本の角また背

中からは翼が生え始め、目は真っ赤に充

血して、端の前歯が2本鋭く飛び出る。

身体は徐々に大きく…………最終的には

5mぐらいになり、その影響で上に着て

いた服が全て弾け飛んでしまい、ズボン

に至っては直径30cmの穴が開いてし

まっている。そこからは長く太い尻尾が

伸びていて、気が付けば全体的に肌の色

も真っ黒になっていた。また身体の周り

ではどす黒い魔力が渦巻き、触れてはい

けないオーラを纏っている。明らかにと

んでもない変貌を遂げていた。

「お主……………それは」

「へっ、やっとこの鎖から解放された

ぜ」

「…………なんという禍々しい魔力じ

ゃ。明らかに正規の方法による変化では

ない。お主、そんな無茶をすれば死んで

しまうぞ」

「あん?うるせぇよ。そんなに俺がパワ

ーアップしたのを認めたくないのか?」

「そうではない。お主も薄々勘付いてお

るはずじゃ。その状態を保っている間は

おそらく、お主の命を少しずつ削ってい

っているということに」

「はん。説教なんざ聞く気はねぇ。それ

よりもまずはお前を倒す方が先

だ………………おい、お前ら!」

クロスは仲間達に振り返ると醜悪な笑み

を浮かべて、こう言った。

「今からこの爺さんとそこの門番を殺

る………………だから、お前達も一緒にこ

の姿になって暴れようぜ」

仲間達の返答は聞くまでもなかった。










「ごふっ!」

強い一撃をもらい、シードは地面にうつ

伏せに倒れた。彼の全身は血だらけだっ

た為、地面が真っ赤に染まっていく。ク

ロスの急激なパワーアップにより、それ

まで拮抗していた実力は一方に傾き出し

た。さらにクロスの仲間達の追撃もなか

なかに厳しく、門番のジェイドもそれに

巻き込まれ瀕死寸前だった。もはや、さ

っきとはえらい違い。主導権を握ってい

るのは完全にクロス側だった。これには

彼も笑いが止まらない。

「ふははははっ!どうだ!参ったか!こ

れがパワーアップした俺の力だ!」

「……………」

「ふんっ!絶望により、声も出ない

か………………情けない。これが一瞬とは

いえ、ライバルと認めた男の姿かよ」

「……………」

「ここまで言われて、言い返す気力もな

いとは……………もういい。速やかにあの

世へと送ってやる。全く……………つまら

ない男に出会ってしまったもんだ」

クロスは仲間達にも指示を出すと一斉攻

撃の準備を整える。そして、数十秒後、

掛け声と共に一気に襲いかかった。

「消えろ、ダークエルフの老いぼれ

よ!」

「「「うおおおおっ~!!!」」」

地鳴りがする程の勢いで突っ込んでいく

"聖義の剣"。ジェイドは諦めて天を見

上げ、シードは地面を見つめてひたすら

に何かを考え込んでいた。ボロボロな2

人に対して数十人が一気に押し寄せると

いう構図はとても見ていられるものでは

ないが、これは紛れもなく現実である。

ということはここで都合よく助けが入る

なんてことはまずない。だからこそ、ジ

ェイドが取った態度は正常であり、非常

に悲しい結末だった……………本来である

ならば。

「"光狼斬"」

「ごはっ!」

「な、なんだ!?」

「ぐあああっ!いてぇ!」

よく通る声で技の名前が紡がれた直後、

クロスの仲間達は何者かによって、斬り

つけられて次々と倒れていった。この場

にいる者は全員、目を疑ったであろう。

先程まで勢いよく突撃したにも関わら

ず、それが数秒後には倒れ伏しているな

ど一体誰が予測できようか。そして、そ

れを為したのがまさか、魔物であるな

ど……………

「シード殿、ジェイド殿、助太刀致

す!」

「こ、これは…………」

それは立派な剣を咥えた"神狼"フェン

リルだった。しかも人語を話すというオ

プション付きである。ジェイドは思わ

ず、フェンリルを注視しかけたが、今は

シードの安否確認が先だと思い直し、慌

てて、振り返った。するとそこに

は…………

「貴様、何者だ!」

「良かった~間に合った」

シードを庇う形でクロスの大剣を受け止

めるリースがいたのだった。
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