俺は善人にはなれない

気衒い

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第14章 獣人族領

第307話 獣人族領

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「アタシら、どうなるのか

な………………」

とある軍団レギオンハウスの地下

にある檻の中。そこに幽閉された獣人族

の少女シーフォンは胸に押し寄せる不安

から思わず、そう呟いた。すると一緒の

檻に入れられたこれまた獣人族の少女が

反応した。

「シーフォン?」

「いや、自分でも柄にもないなって思う

よ。まさか、元気だけが取り柄のアタシ

がこんなに弱気になるとは………………で

もさ、仕方ないじゃんか。アタシらの大

切なお頭が囚われてるんだ。それなのに

アタシはこんなところでただただ無事を

祈ることしかできなくて…………………ア

タシはなんて弱いんだ!!」

シーフォンの目から溢れ出した涙。それ

は止まることなく次々と頰を伝い、顎先

から垂れた雫が石畳みの床に染みを作っ

ていく。ここに来るまで彼女はずっと我

慢していたのだ。普段から明るい性格の

彼女は率先して場の空気を和らげるのが

常だったし、それが役目だと彼女自身も

思っていた。しかし、彼女は万能な神な

どではなく、1人の少女なのだ。いつも

いつも明るい訳ではない。人目につかな

いところでは悩んだり、落ち込んだりも

する。その苦悩の大きさが今まではそれ

ほどではなかった為、次の日まで引きず

ったり、ましてや泣くほど悲しい思いは

しなかったのだ。ところが、今彼女の置

かれている状況は今までのとは比になら

ないものだった。それこそ、思わずこう

して泣き叫んでしまう程に。

「アタシは弱い。奴らに対して何もでき

なかった。そんな自分がひどく許せな

い。だから………………もっともっと強く

なりたい!!」

シーフォンの張り裂けそうな想いの強さ

が同室の少女……………だけではなく、周

りの檻に入れられた者達へも響いてい

く。その瞬間、彼女の言葉を聞いて光を

失った瞳に炎が灯り、生気がどんどんと

漲ってくるのをその場の全員が感じてい

た。決して1人ではない。同じ想いを抱

いている同志達がここには大勢いたの

だ。この時、彼女達の想いは1つになっ

た。

「……………そして、あいつ・・・だけは何が何でも許さない。絶対にケジメをつけさせてやる」

シーフォンの強い意志が篭った瞳は遥か

遠くの方へと向いていたのだった。







―――――――――――――――――――――









「ここから先が獣人族領か」

フリーダムを出発したシンヤ達は獣人族

領の手前まで休まずに走り続け、馬車で

2日は掛かる距離をたったの1時間で辿

り着いていた。そして現在、入領審査を

終えたシンヤ達は一息ついていたのだっ

た。通常、人族領と魔族領の行き来には

何の問題もないが獣人族領と人族領、そ

して獣人族領と魔族領の行き来に置いて

は審査を受ける必要があった。これは獣

人族側が"己の強さを示し、それが基準

値に達した者だけが獣人族領へと足を踏

み入れてよい"という意味不明な決まり

を作ったせいだ。ちなみにこの制度は自

由をモットーとする冒険者の間ではすこ

ぶる不評だった。

「いよいよですわね」

「私の両親が生まれたところ……………」

「そういえば、ティアの両親は」

「はい。私は人族領の村で生まれました

が、両親の生まれは獣人族領です。だか

ら、一応私の故郷……………でもあるんで

すかね?」

「どこで生まれたかじゃなくて、お前の

帰る場所こそが故郷だ。だから、無理し

てそう思わなくてもいい」

「そう…………ですね。ありがとうござ

います」

「別に礼はいらん」

「ふふっ」

「何がおかしいんだ、サラ」

「相変わらず、照れ屋ですわね」

「どう反応すればいいのか分からんだけ

だ」

「はいはい。そういうことにしておきま

すわ」

「おい」










「団長!奴ら、とうとう来ましたぜ!」

「そうか。予想よりは随分と早い

が………………まぁ、いい」

「それで本当に通しちゃって良かったん

ですか?」

「構わん。どうせ、奴らには何もできん

からな……………それで?人数はどのくら

いだ?クランメンバー全員で来たか?そ

れとも傘下も引き連れて堂々と登場

か?」

「………………」

「おい、どうした?」

「そ、それがあの……………」

「何だ?」

「今から言うことは真実なので決して疑

わないで聞いて下さいね」

「そんなの当たり前だろう。お前が嘘を

付くメリットがないからな」

魔道具越しに男の深呼吸する音が聞こ

え、次の瞬間、団長と呼ばれた男は驚愕

の事実を知ることとなった。

「奴らの人数ですが………………たったの

3人です」

「…………………は?」

「奴らは無謀にもたったの3人でやって

来て、獣人族領へと足を踏み入れていき

ました」

「そ…………」

直後、団長と呼ばれた男は息を大きく吸

い込み、こう叫んだ。

「そんな馬鹿な話がある

か~~~~~!!!!!」
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