俺は善人にはなれない

気衒い

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第14章 獣人族領

第306話 面会

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「ウィアよ……………大きくなったな」

「ううっ……………お父様」

「慣れない言葉遣いはやめなさい。昔か

ら得意ではなかっただろう?」

「ううっ……………」

「何故に泣く?」

「30年振りに会えたのに………………こ

の国を出た時から、次に帰るのは"ビス

ト"のみんなや父ちゃんに胸を張れる人

になってからだと思ってたの

に………………こんな形でなん

て………………自分が情けない」

「どんな形であれ、大事な娘の顔を見ら

れたらそれでいい。元気そうで良かっ

た」

「ううっ、父ちゃん」

「だが、そんな大事な娘を泣かせ、こん

な辛い想いまでさせている貴様らは一体

何者だ?」

「全く……………せっかく親子水入らずの

再会を楽しませてやろうとしたのにもう

いいんですか?」

「こちらの質問に答えよ。貴様らは一体

何者で何の目的があって、こんなことを

している?」

「いや、質問が1個増えてる

し…………………ああ、もう。答えてやり

ますよ。ってか、そもそも俺達の素性を

言わないと話が進みませんしね」

片目に眼帯をつけたその男はニヤリと笑

うと大きな声でこう言った。

「我々はあの巨大な闇組織"闇獣あんじゅう"のメンバーです!」

「何っ!?あのドブねずみ共が関わって

いるのか!?」

「そして、我々の目的についてです

が……………」








―――――――――――――――――――――







「ハーメルン、大丈夫か?」

「ああ。仲間達のおかげでどうにかね。

わざわざ、お見舞いに来てくれてありが

とう、カグヤ」

「悪いな。本当はすぐにでも行きたかっ

たんだが、あいにくと最近バタバタして

いてな」

「例の件だろう?どうやら、また迷惑を

かけたようだね。ごめん」

「いや、これはアタシ達が自分達の意思

でやっていることだ。気にすんな」

「そう言ってくれて助かるよ。それにし

ても……………はぁ~」

「どうしたんだ?」

「いや、情けないなと思って。高ランク

冒険者と言われ、世間からはとても強く

て凄い人物みたいに捉えられているけ

ど、蓋を開けてみたらこのザマだよ」

「……………」

「それに意気揚々と同盟を持ち掛けたは

いいが、ここ連続でその相手に迷惑ばか

り掛けてるし……………あの時の僕は随分

と調子に乗っていたようだ。まるで自分

には弱点が一切なく、無敵になった気で

いて。だからこそ、世界最高ランクの冒

険者に同盟話を持ち掛けたりなんかした

んだろう………………はぁ~。あの時の僕

をぶん殴ってやりたいよ」

「お前は負い目を感じる必要はないだ

ろ。理由や過程はどうあれ、最終的に同

意を示したのはシンヤだ。お前が強い弱

いだとかは関係ない。だからこそ、あい

つはハーメルンのことを見捨てず、レム

ロスでお前を守ったんだ」

「………………」

「今はただ怪我のせいで暗い気持ちにな

っているだけだ。そんなのはいいからこ

っちのことは気にせず、治療に専念して

くれ……………あ、ちなみにもし今後自分

を責めたり落ち込んだりしてたら、後で

キツいお仕置きが待ってるからな」

「えっ!?」

「言っておくが、お前のクランのメンバ

ーに監視しててもらうから、誤魔化せな

いぞ?」

「そ、そんなの聞いてないよ!」

「もう話はつけてあるから。じゃあな」

「ち、ちょっと待」

ハーメルンの制止を振り切ってカグヤは

部屋を出ていった。後に残されたのは伸

ばした手が宙に浮いたままのハーメル

ン……………と気まずそうに目を逸らす彼

のクランの副マスターだけだった。

「あ~あ、行っちゃった」

「あ、あの……………ハーメルンさん?」

「何?言っておくけど、裏切り者の言葉

は僕の耳には一切届かないからね」

「う、裏切り者って……………そんなこ

と」

「じゃあ、何で敬語なの?後ろめたいこ

とがあるからだよね?」

「いや、それは……………」

「…………ふっ。冗談だよ」

「えっ」

「裏切り者だなんてとんでもない。みん

な僕のことを想ってくれているんだか

ら、そんな風に思う訳ないよ」

「っ!?な、なんだよ。怒ったのかと思

ってかなり焦ったぞ」

「そんな訳ないじゃん……………ただ、カ

グヤの思い通りになるのが気に食わなか

っただけで」

「ん?それって怒っているんじ

ゃ……………」

「何?」

「い、いや何でもない………………あ、そうだ!"朱鬼しゅき"からこんなものを預かっていたんだった」

「露骨な話題逸らしだね」

「い、いや本当なんだって!!ほら、こ

れ!」

そう言って副クランマスターが差し出し

たのは封筒だった。気になったハーメル

ンが早速中を開けてみるとそこには小さ

く折り畳まれた紙が入っており、それを

広げていくと………………

「こ、これはっ!?」

「全く……………相変わらず、粋な計らい

をしてくれるね彼らは」

クラン"黒天の星"の全メンバーによる

激励の言葉が書かれていた。そして最も

目立つ中心部分には短い言葉で"任せろ

"という文字があったのだが、唯一それ

だけには名前がなかった。しかし、ハー

メルンはそれを誰が書いたのか瞬時に理

解し、と同時に気が付けば彼の瞳からは

一筋の涙が流れていたのだった。
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