俺は善人にはなれない

気衒い

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第15章 親子喧嘩

第342話 代償

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「……………なんだと」

キョウヤの驚きの発言に対してシンヤが

呟き、それ以外の者達は呆然としてい

て、反応することすらできなかった。そ

んな中、キョウヤは至ってマイペースに

話を続けた。

「俺は異世界に召喚されてからというも

のの頻繁に"世界旅行"という固有スキ

ルを行使し続けた。とはいってもその代

償はHPやMPが一時的に半分になるな

どステータスに軽く負荷が掛かる程度で

それほど大きくはなく、それと引き換え

に得るメリットの方が魅力的だった。だ

から、俺は自分の好きなタイミングで遠

慮なく使っていったんだ………………しか

し、それも最初のうちだけだった。徐々

にスキルの求める代償は厳しいものとな

り、10年が経ち、40歳となった俺

は………………不老・痛覚麻痺・感情欠落

といった状態に陥っていた」

「「「「「なっ!?」」」」」

「シンヤ、お前の疑問に対する答えはこ

うだ……………俺は35年前、"歳"とい

う概念を失った。だから、その時から歳

が一切変わっていないんだ」

「………………」

ブロン達がショックから身体を震わせる

中、シンヤだけは黙ったまま、キョウヤ

の話を聞いていた。そして、段々と我慢

ができなくなってきたブロンは思わず、

口を開いた。

「キョウヤ様…………これだけは聞かせて

下さい。ワシらに見せていたあの沢山の

表情は感情は………………全て嘘だったん

ですか?」

「いや、"感情欠落"とはいっても全く

感情がなくなった訳じゃない。人として

大切な部分は失ったが、ある程度の感情

は持ち合わせていた。だから、安心して

くれ。ブロン達にしていた反応は全て本

物だ。一切取り繕ってはいない」

「そ、そうなんですか?……………いや、

でものぅ」

「おい、ブロン」

キョウヤからの説明を受けてもなお、あ

まり納得のいっていないブロンに対し

て、シンヤは鋭い表情になって言った。

「一体何が言いたいんだ?こいつがお前

達を誑かしていたとでも言いたいのか?

それとも偽りの姿を見せられていたと糾

弾でもしたいのか?」

「い、いや、そんなことは……………」

「どうしたんだ?さっきから、自分達の

ことしか考えられてないぞ。まぁ、確か

にブロンの懸念がもし本当だったとした

ら、お前らはさぞ辛い想いをするのかも

しれない。だが、こんな状態に陥って、

どう考えても辛いのは……………こいつの

方だろ」

「「「「「っ!?」」」」」

シンヤの言葉にハッとなるブロン達。そ

の反応はまるで目から鱗が落ちたかのよ

うだった。

「こいつは言った。"人として大切な部

分を失った"と……………それがどれだけ

辛いことか分かるか?」


「「「「「……………」」」」」

誰もが口を開くことができず、ただただ

黙っていた。自分達が完全に間違いだっ

たと気が付いたからである。

「"痛覚"が鈍くなる、あるいは感じな

くなる、それと同時に"感情"にも制限

がかかり、挙げ句の果てに"歳"まで取

らなくなる………………そんなことになれ

ば、人として生きていない、自分は何者

なんだと自問自答することだって、ある

かもしれない……………最悪の場合、自ら

死を選んでいたっておかしくはなかっ

た」

シンヤの静かな、しかし感情の篭った言

葉が訓練場の隅から隅まで響いていく。

特別、大きな声という訳ではなかった

が、不思議と皆の耳には届いていた。

「………………キョウヤ、そこまでして、

お前は一体何を見ていた・・・・・・んだ?」

キョウヤを真っ直ぐ見つめるシンヤ。キ

ョウヤもまたその視線を真正面から受け

止めた結果、お互いの視線がぶつかり合

った。

「……………お前だよ」

「……………は?」

「異世界での…………いや、日本でのお前

の暮らしぶりを見ていたんだ」

「………………お前は一体何を言っている

んだ?」

シンヤは激しく動揺した。キョウヤの発

言がひどく荒唐無稽なものに感じたから

だった。

「俺は十奈をずっと探し続けていた結

果、異世界こっちへと召喚さ

れた。別に彼女のことを諦めた訳ではな

いが、いずれまたどこかで会えるんじゃ

ないか、彼女がいなくなったのには何か

意味があるはずだと………………俺は異世界こっちへと着いた瞬間、思うようにな

った。そうなった時に俺の頭の中にあっ

たのはシンヤ、お前のことだった」

キョウヤの言葉がシンヤの耳に右から入

っては左へと抜けていく。シンヤは予想

だにしない展開に混乱した頭を落ち着け

ようと一旦質問をした。

「……………一体何故だ?何故、俺なんか

を」

「大切な1人息子を心配しない親がどこ

にいる?」

「っ!?」

「俺はお前のことは片時も忘れたことは

ない。なんせ異世界こっちにいながら、

日本でのお前の様子を見る度に俺は一喜

一憂していたぐらいだ。初めてハイハイ

をした時、初めて言葉を話した時、初め

て自分の足で立って歩いた時、そして初

めて名前の由来を知った時……………お前

が初めてのことに出会う度に俺はそれら

に心踊らされ、お前のコロコロと変わる

その表情全てが愛おしくて仕方がなかっ

た」

「くっ……………」

シンヤはキョウヤの言葉を受けて、辛そ

うに顔を歪ませた。そこには色々な感情

が見え隠れしているように感じられた。

「だったら……………」

そして、ダムが決壊するように長年堰き

止められた感情がシンヤの中でいきなり

爆発した。

「だったら、何で顔を見せてくれなかっ

たんだよ!そもそも何で俺を置いていっ

たんだよ!!何で…………………何でもっ

と一緒にいてくれなかったんだよ」

気が付けば、シンヤの瞳からは涙が溢れ

ていた。皆、シンヤが泣いているところ

など一度も見たことがなかった為、とて

も驚いた表情をしていた。

「ふざけんな、クソ親父!!今更、ノコ

ノコと現れて、父親面すんな!!お、俺

の親は……………あの人とブロンだけなん

だよ」

「……………そうだな」

「ふざけんなよ!!父親なら、俺が辛い

時はそばにいてくれよ!!あの人がいな

くなって、独りぼっちになった時に来て

くれよ!!お、俺は………………」

「本当にそうだな。すまん」

「何でだよ……………何で言い返さないん

だよ………………俺、今無茶苦茶なこと言

ってんだぞ?お前の状況を知っていなが

ら、俺は……………」

「いや、シンヤの反応は正しい。子が親

を求めるのは当然の心理だ」

「だけど、お前は」

「いや、どんな理由があれど、俺はお前

を置いて出て行った。情状酌量の余地は

ない………………だから、シンヤ。本当に

すまん」

後半部分を声を詰まらせながら、言うキ

ョウヤ。気付くと彼の瞳からもとめどな

く涙が溢れていた。

「ごめんな……………本当にごめんな。辛

かったよな?」

「うるせぇよ……………辛くねぇよ」

「ああ、うるさくて結構だよ……………こ

うして息子に触れられるんならな」

キョウヤはシンヤにゆっくりと近付き、

やがて目の前まで来るとシンヤを思い切

り、抱き締めた。

「ふざけんな……………クソ親

父……………」

「ああ、俺はとんだクソ親父だ」

「この馬鹿が……………なんなんだよ」

「ああ、俺は大馬鹿野郎だ」

それは離れていた2人の距離を……………

年月を埋めるような力強い抱擁だった。

一方のシンヤは照れもあってか、キョウ

ヤの脇腹を軽く小突いていた。

「今更、会えたって、どうしろってんだ

よ」

「まぁ、一般的には会えなかった分、家

族水入らずで過ごすんじゃないか?確か

昔、そういう"番組"がなかったか?」

「"番組"とか懐かしい単語、出してく

んじゃねぇよ」

「だが、悪いなシンヤ。これからお前と

想い出を積み重ねていくことはできそう

にない」

「…………………は?」

シンヤの驚いた表情を見つめながら、キ

ョウヤはこう告げた。


「俺はもうすぐ死ぬんだ」




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