社畜の異世界再出発

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第40話 模擬戦の朝

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朝。まだ陽が昇りきらない空の下で、俺はひとり広場にいた。

昨日は夜遅くまで宴だったけど、今朝も訓練はサボらない。これが俺の日課だ。偉いぞ、俺。

(……起きてちゃんと動いてるの、俺とリノアくらいかも)

リノアはすでに広場に来ていて、朝の準備運動を終わらせていた。
それよりさらに早く、メアリが一人で剣を振っていたのを見て、なんだか負けた気がしてしまう。

「……うーん、昨日、楽しかったけど……ちょっと食べすぎたかも」

「僕もだよ。でも訓練サボるわけにいかないしね」

「うん。がんばろっ」

そんな会話を交わしながら、俺たちは朝の準備運動を始める。

そのときだった。

「……ぐぅ……うっぷ……気持ちわる……」

「もうやだ……酒の神様が怒ってるぅ……」

ベンチの陰から、まるで屍のような声が聞こえた。ロイとボリスだ。

「なにやってんの、ふたりとも」

「……昨日の酒が……身体に……残って……」

「残ってじゃなくて、溺れてたでしょ」

隣ではミレイナが冷ややかに呟いている。彼女は顔色ひとつ変えず、すでに弓の手入れ中。さすが元傭兵。肝臓も強い。

――あ、ロイも元傭兵だったっけ。……うん、でもそれとこれとは別問題だと思う。

「エマさんは?」

「……エマはさっき、スープ作ってからまた寝に戻った」

「カイさんは?」

「あいつは二日酔い組に薬を処方して、そのまま村の調整ごとやってる。いつも通りだ」

(カイ、すげぇ……)

「おう、やってるか、ちびっこども!」

そこへ、朝日を背に堂々と現れたのは――アーベルだった。

昨日の宴では酒をほどほどにしてたみたいで、今日はめちゃくちゃ元気そうだ。なんか背中から風が吹いてるように見える。朝のテンション高い系おじさん。

「おはようございます! アーベルさん!」

「おお、ユーリくん、元気だな! さすが噂の雷の王子!」

「その呼び名はもうやめてって言ってるでしょーが!」

笑いながら手を振ると、アーベルはにやりと笑って近づいてきた。

「実はな、昨日からずっと考えてたんだが……」

その口ぶりに、なんとなく嫌な予感がする。

「――ユーリ、ちょいと、俺と手合わせしてくれないか?」

「えっ」

「模擬戦だ模擬戦! お前がどれだけすごいのか、俺の身体で感じてみたくなってな!」

(感じなくていいよ!?)

「いやいや、模擬戦って……僕、まだ子どもですけど……?」

「そういう話じゃないんだよ。俺な、昔ちょっとだけ紅蓮流を習っててさ。……まあ、初伝の前ってとこだけどな」

アーベルはにかっと笑い、腰にさげた木刀を軽く持ち上げる。

「放浪の剣士に教わったんだ。おかげで、ベルス村の自警団でもそれなりにやれてる。だけど――」

目が、真剣になった。

「……お前の噂は聞いてる。正直、最初は信じてなかったけどさ。昨日の様子を見て……なんとなく、本当なんだろうなって思った。だから――その力、ちょっと見せてくれないか?」

(うわぁ……ちゃんと見ててくれた上での、めちゃくちゃ前向きでいい人な理由……断りにくい……!)

周囲の子どもたちも、興味津々でこっちを見ている。

「ねえねえ、昨日の見た!? ユーリくん、めっちゃかっこよかったー!」

「剣、あんなに速く動くなんて思わなかった!」

「昨日の焚き火で聞いたよ! 魔獣と戦ったって!」

リノアが「ちょっと、言いすぎないであげて」って制止してるけど、みんなの目はキラキラしてる。

(……まあ、ここで逃げたら、なんかダサいよな)

俺は深呼吸をひとつして、頷いた。

「……わかりました。模擬戦、受けます。でも手加減、忘れないでくださいよ?」

「あはは、こっちが言いたいセリフだっての!」

アーベルが嬉しそうに頷いた。


「じゃあ、整ったら声かけてくれ。準備は朝飯の後でもいいぞ」

アーベルはそう言い残して、一度離れていった。たぶん、ストレッチでもしに行ったんだろう。やる気満々だな。

その間、俺は少しだけ広場の端でフォームを確認していた。

(昨日、食べすぎて身体が重い……気がするけど……気のせいだと思いたい)

俺の隣には、リノアとメアリ。

「ユーリ、ほんとにやるの?」

「まあ……せっかくだし。模擬戦だから、怪我しない程度で終わらせるつもりだけど」

「ん……がんばって」

メアリがぽつりと呟く。そういうの、ちょっと嬉しい。

「……でも、無理しすぎたらだめだよ? ユーリなら大丈夫だと思うけど、相手を怪我させちゃったら大変だしね」

リノアの言葉に、「え、それって俺が心配されてないパターンじゃん?」と苦笑しつつも――信じてくれてることが分かるからこそ、俺はそっと気を引き締めた。


そして――広場に、即席の模擬戦場ができあがる。

地面にはロイが線を引いてくれて、観客用のスペースまで確保されていた。子どもたちは大興奮。ボリスとミレイナは既にベンチで観戦スタンバイ済み。ガルドは腕を組んで、どっしりと構えている。

「模擬戦なんていつものことだけどさ……今日はなんか、空気が違うな」

ロイはにやっと笑いながら、軽く肩を回す。その目は、どこか懐かしさを帯びていた。

カイは「はい、これは怪我したときの応急セット」と冷静に薬箱を持ってきてくれた。

「ユーリ、準備はいいか?」

「いつでもどうぞ、アーベルさん」

俺は木剣を握り、軽く構える。

空は、すっかり朝の色に変わっていた。

(さて――どこまで手加減できるかな)
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