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第44話 ようこそ
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玄関の扉が、重々しい音を立ててゆっくりと開かれる。
目の前に広がったのは、天井の高い広間と、赤い絨毯が敷き詰められた豪奢な床。そして、正面に立つ三人の人物が、俺を出迎えていた。
背が高く、がっしりとした体格の男性。豪快な笑みを浮かべながら、太い腕を組んで俺を見ている。目元の皺と日に焼けた肌が、戦場で鍛え上げられたことを物語っていた。
その隣に立つのは、深い青のドレスに身を包んだ落ち着いた女性。整った顔立ちと知的な眼差し、そして立ち姿の優雅さから、一目で只者じゃないとわかる。
そして――俺と同じくらいの年頃の、鮮やかな赤髪の少女がひとり。背筋を伸ばして立っているけれど、ちらちらとこちらを気にして目を合わせようとしないその様子は、どこか緊張しているようにも見えた。
「おおっ、来たな!君がユーリくんか!」
最初に口を開いたのは、もちろんあのがっしりとした男性だった。声がでかい。というか、声の圧がすごい。
「は、はいっ!」
思わず背筋を伸ばして返事をすると、男は満足そうに笑って俺に歩み寄ってきた。そして、どん、と肩に手を置かれる。重い!
「いやあ、噂は聞いてるぞ!大型の魔獣を倒したってな?まったく、王国の未来は明るいぞ!」
「い、いえ、そんな……あれは、ただ必死だっただけで……」
「謙遜するな謙遜するな!そういうのも大事だが、やるときはやれるってのが一番大事なんだ。はっはっはっ!」
豪快に笑う姿に、俺は苦笑しつつもなんだかちょっと安心した。
想像していたような堅苦しくて怖い人じゃなかった。というか、思ってたよりずっとフレンドリーすぎるくらいだ。
「申し遅れたな!俺がこの館の主、ヴァーミリオン公爵家の当主――レオン・ヴァーミリオンだっ!」
(公爵家って……どのくらい偉いんだっけ?)
前世じゃ、そんな上流階級を知る機会なんて一度もなかったし、この世界だってまだまだ知らないことばっかりだ。
来る前に、みんなに聞いておけばよかった……と、今更ながら軽く後悔した。
がはは!と豪快に笑いながら、レオンは堂々と胸を張った。
その風格は、ただの貴族というよりも、どこか武人のような雰囲気をまとっている。
「そしてこちらが、俺の妻――ミレティアだ」
隣にいた女性は、レオンの勢いとは対照的に、静かに会釈をする。知性を感じさせる眼差しと、落ち着いた微笑みが印象的だった。
「それから、この子が俺の娘!エリナだ!」
レオンに勢いよく背中をぽんと押されたその少女――
さっきからちらちらとこちらを気にしていた、赤髪の女の子が、少し驚いたように前に出てきた。
そして、俺と目が合うなり、そっと頭を下げる。
「……エリナです。はじめまして、ユーリくん」
表情はどこか澄ましていて、でもその耳のあたりがちょっと赤い。
「こちらこそ、はじめまして。よろしくお願いします!」
俺も、できるだけ丁寧に、でもかしこまりすぎないように頭を下げると、ミレティアがふわっと微笑んだ。
「礼儀正しいわね。ご両親にきちんと育てられたのがわかるわ」
「ありがとうございます……!」
なんだか、貴族の人に褒められるっていうのは、いつもと違う嬉しさがある。
慣れてないせいか、むずがゆくて、でもちょっと誇らしくて――照れくさくなる。
ふと、母さんと父さんの顔が浮かんできて、今ごろどうしてるかなって思った。
「さて、ユーリくん。立ち話もなんだ、こっちへ来なさい。お茶でも飲もうじゃないか!」
「えっ、あ、はい!」
そのままレオンに導かれるまま、俺は広間の奥、丸テーブルのある応接室へと通された。壁には絵画や甲冑が飾られていて、どこか歴史の重みを感じさせる。
ふかふかの椅子に腰を下ろした瞬間、すぐにメイドさんが優雅な動きでお茶を運んできてくれた。
(うわぁ……メイドさんだ!本物の!)
動きが無駄なくて、立ち居振る舞いがまるで舞台の演技みたいで、思わず見惚れてしまう。
(そういえば前世じゃ、メイドカフェってやつにすら行ったことなかったんだよな……)
まさか異世界で、人生初のメイド体験を迎えるとは思わなかった。
ちょっと得した気分になりながら、そっと差し出されたカップを受け取った。
「ねえ、緊張してない?すっごく広いから、最初びっくりするよね」
「はい……ちょっと緊張してます」
俺の正直な答えに、エリナがふっと笑った。
「でも、落ち着いて見える。すごいね」
「いや、たぶん顔ひきつってますよ……?」
苦笑いで返すと、今度はレオンがうんうんと頷いた。
「そういう返しができるのも、度胸のうちだ!」
……やっぱりこの人、いい意味で貴族っぽくないな。
「さて……今回こうして会ってもらったのは、実は娘の希望なんだよ」
と、レオンがちらりとエリナを見た。
「えっ、お、お父様……!」
急に振られて、エリナが明らかに動揺してる。さっきまでの冷静さはどこいったってくらい。
「最初に噂を聞いたのが、うちの娘でね。それで私も興味が湧いて、今回の招待と相成ったわけだ」
「そ、そうだったんですか……」
まさか、自分を招いてくれたのが同い年くらいの女の子だったとは。しかも、そのきっかけが――
「だって、すごいって聞いたんだもん。魔獣を一人で倒したって。しかも、村の子たちを助けて、無事に帰ってきたって……そんな人、会ってみたくなるでしょ?」
エリナが小さな声でそう言って、目を合わせてくる。
ちょっとだけ、胸がくすぐったくなる。
「でも、僕だけじゃなかったですよ。村の人たちがいたから、助けられたんです」
「そういうふうに言えるところも、素敵だと思う」
「えっ……」
今度は完全に俺が赤面する番だった。
そのやり取りを見ていたレオンが、大きく頷く。
「うむ!よし、気に入った!我が家の娘ともすぐに打ち解けたしな!」
「お父様、それ言わなくていいってば……!」
「はっはっはっ!」
この親子、意外と仲がいいんだな……と思っていたら。
「おねーちゃああああん!」
勢いよく部屋の扉が開いた。
そこに飛び込んできたのは、金色のくるくる巻き毛を揺らした、小さな女の子。ぱっと見てわかる、元気のかたまり。
「……あっ」
一瞬、メイドさんが慌てて止めようとしたけど、もう遅い。女の子はそのままテーブルの横にすべりこむと、エリナの膝の上にぴょこんと乗った。
「この子が、うちの次女。名前はミルラ。まだ三歳で、ちょっとお転婆でね」
ミレティアが肩をすくめて笑うと、ミルラはじっと俺を見つめた。
「この人だれー?」
「ユーリくんていうのよ。今日来てくれたお客様よ」
「ふーん……ゆーりくん!」
「え、は、はい!」
「ミルラとあそんで!」
「ええっ!?」
唐突すぎるお誘いに、俺は思わず固まった。
けど、レオンもミレティアも、そしてエリナまで笑ってる。
「やだって言っちゃやーなの!」
「……はい、わかりました」
ミルラの真っ直ぐな瞳に押されて、つい返事をしてしまう。小さな子の勢いって、なんかすごい。
こうして――俺の貴族の館での初日が、騒がしくもにぎやかに、そしてどこか温かく幕を開けたのだった。
目の前に広がったのは、天井の高い広間と、赤い絨毯が敷き詰められた豪奢な床。そして、正面に立つ三人の人物が、俺を出迎えていた。
背が高く、がっしりとした体格の男性。豪快な笑みを浮かべながら、太い腕を組んで俺を見ている。目元の皺と日に焼けた肌が、戦場で鍛え上げられたことを物語っていた。
その隣に立つのは、深い青のドレスに身を包んだ落ち着いた女性。整った顔立ちと知的な眼差し、そして立ち姿の優雅さから、一目で只者じゃないとわかる。
そして――俺と同じくらいの年頃の、鮮やかな赤髪の少女がひとり。背筋を伸ばして立っているけれど、ちらちらとこちらを気にして目を合わせようとしないその様子は、どこか緊張しているようにも見えた。
「おおっ、来たな!君がユーリくんか!」
最初に口を開いたのは、もちろんあのがっしりとした男性だった。声がでかい。というか、声の圧がすごい。
「は、はいっ!」
思わず背筋を伸ばして返事をすると、男は満足そうに笑って俺に歩み寄ってきた。そして、どん、と肩に手を置かれる。重い!
「いやあ、噂は聞いてるぞ!大型の魔獣を倒したってな?まったく、王国の未来は明るいぞ!」
「い、いえ、そんな……あれは、ただ必死だっただけで……」
「謙遜するな謙遜するな!そういうのも大事だが、やるときはやれるってのが一番大事なんだ。はっはっはっ!」
豪快に笑う姿に、俺は苦笑しつつもなんだかちょっと安心した。
想像していたような堅苦しくて怖い人じゃなかった。というか、思ってたよりずっとフレンドリーすぎるくらいだ。
「申し遅れたな!俺がこの館の主、ヴァーミリオン公爵家の当主――レオン・ヴァーミリオンだっ!」
(公爵家って……どのくらい偉いんだっけ?)
前世じゃ、そんな上流階級を知る機会なんて一度もなかったし、この世界だってまだまだ知らないことばっかりだ。
来る前に、みんなに聞いておけばよかった……と、今更ながら軽く後悔した。
がはは!と豪快に笑いながら、レオンは堂々と胸を張った。
その風格は、ただの貴族というよりも、どこか武人のような雰囲気をまとっている。
「そしてこちらが、俺の妻――ミレティアだ」
隣にいた女性は、レオンの勢いとは対照的に、静かに会釈をする。知性を感じさせる眼差しと、落ち着いた微笑みが印象的だった。
「それから、この子が俺の娘!エリナだ!」
レオンに勢いよく背中をぽんと押されたその少女――
さっきからちらちらとこちらを気にしていた、赤髪の女の子が、少し驚いたように前に出てきた。
そして、俺と目が合うなり、そっと頭を下げる。
「……エリナです。はじめまして、ユーリくん」
表情はどこか澄ましていて、でもその耳のあたりがちょっと赤い。
「こちらこそ、はじめまして。よろしくお願いします!」
俺も、できるだけ丁寧に、でもかしこまりすぎないように頭を下げると、ミレティアがふわっと微笑んだ。
「礼儀正しいわね。ご両親にきちんと育てられたのがわかるわ」
「ありがとうございます……!」
なんだか、貴族の人に褒められるっていうのは、いつもと違う嬉しさがある。
慣れてないせいか、むずがゆくて、でもちょっと誇らしくて――照れくさくなる。
ふと、母さんと父さんの顔が浮かんできて、今ごろどうしてるかなって思った。
「さて、ユーリくん。立ち話もなんだ、こっちへ来なさい。お茶でも飲もうじゃないか!」
「えっ、あ、はい!」
そのままレオンに導かれるまま、俺は広間の奥、丸テーブルのある応接室へと通された。壁には絵画や甲冑が飾られていて、どこか歴史の重みを感じさせる。
ふかふかの椅子に腰を下ろした瞬間、すぐにメイドさんが優雅な動きでお茶を運んできてくれた。
(うわぁ……メイドさんだ!本物の!)
動きが無駄なくて、立ち居振る舞いがまるで舞台の演技みたいで、思わず見惚れてしまう。
(そういえば前世じゃ、メイドカフェってやつにすら行ったことなかったんだよな……)
まさか異世界で、人生初のメイド体験を迎えるとは思わなかった。
ちょっと得した気分になりながら、そっと差し出されたカップを受け取った。
「ねえ、緊張してない?すっごく広いから、最初びっくりするよね」
「はい……ちょっと緊張してます」
俺の正直な答えに、エリナがふっと笑った。
「でも、落ち着いて見える。すごいね」
「いや、たぶん顔ひきつってますよ……?」
苦笑いで返すと、今度はレオンがうんうんと頷いた。
「そういう返しができるのも、度胸のうちだ!」
……やっぱりこの人、いい意味で貴族っぽくないな。
「さて……今回こうして会ってもらったのは、実は娘の希望なんだよ」
と、レオンがちらりとエリナを見た。
「えっ、お、お父様……!」
急に振られて、エリナが明らかに動揺してる。さっきまでの冷静さはどこいったってくらい。
「最初に噂を聞いたのが、うちの娘でね。それで私も興味が湧いて、今回の招待と相成ったわけだ」
「そ、そうだったんですか……」
まさか、自分を招いてくれたのが同い年くらいの女の子だったとは。しかも、そのきっかけが――
「だって、すごいって聞いたんだもん。魔獣を一人で倒したって。しかも、村の子たちを助けて、無事に帰ってきたって……そんな人、会ってみたくなるでしょ?」
エリナが小さな声でそう言って、目を合わせてくる。
ちょっとだけ、胸がくすぐったくなる。
「でも、僕だけじゃなかったですよ。村の人たちがいたから、助けられたんです」
「そういうふうに言えるところも、素敵だと思う」
「えっ……」
今度は完全に俺が赤面する番だった。
そのやり取りを見ていたレオンが、大きく頷く。
「うむ!よし、気に入った!我が家の娘ともすぐに打ち解けたしな!」
「お父様、それ言わなくていいってば……!」
「はっはっはっ!」
この親子、意外と仲がいいんだな……と思っていたら。
「おねーちゃああああん!」
勢いよく部屋の扉が開いた。
そこに飛び込んできたのは、金色のくるくる巻き毛を揺らした、小さな女の子。ぱっと見てわかる、元気のかたまり。
「……あっ」
一瞬、メイドさんが慌てて止めようとしたけど、もう遅い。女の子はそのままテーブルの横にすべりこむと、エリナの膝の上にぴょこんと乗った。
「この子が、うちの次女。名前はミルラ。まだ三歳で、ちょっとお転婆でね」
ミレティアが肩をすくめて笑うと、ミルラはじっと俺を見つめた。
「この人だれー?」
「ユーリくんていうのよ。今日来てくれたお客様よ」
「ふーん……ゆーりくん!」
「え、は、はい!」
「ミルラとあそんで!」
「ええっ!?」
唐突すぎるお誘いに、俺は思わず固まった。
けど、レオンもミレティアも、そしてエリナまで笑ってる。
「やだって言っちゃやーなの!」
「……はい、わかりました」
ミルラの真っ直ぐな瞳に押されて、つい返事をしてしまう。小さな子の勢いって、なんかすごい。
こうして――俺の貴族の館での初日が、騒がしくもにぎやかに、そしてどこか温かく幕を開けたのだった。
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