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1.婚約者に好きになれなかったと言われた
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私はセシル・バセット。伯爵家の娘として生まれて、まあまあな容姿を持つ。まあまあな容姿とは、誰もが振り返るような美人ではなく、とはいえ卑下するほど不美人ではないという意味だと思って欲しい。
私は一か月前に学園を卒業し近々結婚する予定になっている。同じ年の婚約者は侯爵家の跡取り。そんな彼はたくさんの令嬢たちから婚約の打診を受けていたのに、私を選んでプロポーズをしてくれた。
突然の告白を受けたときは心底驚いたが、それ以上に嬉しくて思わずその場で婚約了承の返事をしてしまった。
あの日から今日までそれなりの苦労はあったものの、充実した幸せな日々を送っている。そしてその日々はずっと続くはずだった――。
♢♢♢
私の婚約者はベイリー侯爵家の嫡男スコット様。彼はライトブラウンの髪にダークブラウンの瞳を持つ。容姿は線の細い柔らか系の美人顔で性格は穏やか。
今私は彼と侯爵家の応接間で向かい合って座っている。今日の分の跡継ぎ教育が終わり休憩をするところだ。
休憩と言えばケーキとお茶。脳の疲労には甘いものが必須不可欠。この時間をどれほど朝から待ち焦がれていたことか。
じっと座って待っていると侍女が手際よくお茶を淹れケーキをサーブしてくれた。ベイリー侯爵家で出してくれるケーキといえばチーズケーキ。スコットがチーズケーキ以外を好まないからなのだが、その分チーズケーキのバリエーションはケーキ屋さん以上に豊富だと言っても過言ではない。
(眼福ね!)
テーブルの上には侯爵家専属パティシエの作った、たっぷりとブルーベリーソースのかかったレアチーズケーキが鎮座している。しかもチーズケーキの隣にはストロベリーアイスが寄り添って仲睦まじいこと! 豪華だわ~。お茶も高級茶葉を使っているので香りだけで幸せになれそう。この屋敷で食べるチーズケーキは見た目の美しさを裏切らないほど美味しい。
(美味しそう。早く食べたい!)
私が食べようとしたら、スコットに話があると言われ食べるのを「待て!」状態になった。仕方なく一度手にしたフォークをテーブルに戻した。それなのにスコットは神妙な顔をして口をなかなか開かない。スコットは普段スマートで貴族らしい振る舞いをするのに、ときどき煮え切らない態度を取ることがある。
ストロベリーアイスが溶けちゃうとイライラしながらも辛抱強く待った末に、スコットの口から出てきた言葉は耳を疑うものだった。きっと聞き間違いだと思う。そうでなければ困る。とにかく確認しなければならない。ストロベリーアイスはもう諦めた。
「スコット様。あの、もう一度言っていただけますか?」
スコットは目を泳がせると、もじもじしながら口を開いた。
「セシルと婚約解消した…………僕は精一杯努力した。だけど………だけど、とうとう君のことを好きになれなかった……ごめん……」
言い終わると机の角をじっと見つめる。これはスコットが後ろめたいときにする癖だ。
今衝撃的なことを言われた気がする。いやいや、聞き間違い? 頭の中が真っ白になりすぐには言葉が出ない。
「……………」
(嘘でしょう!? あなたから告白してきてくれて婚約したのよ。私を好きって言ったじゃない……)
驚いた。びっくりした。愕然とした。全部同じことだけど、それだけ動揺している。酷い言葉に対し私は毅然と抵抗をしなければならない。だって本当に意味が分からないもの! まずは控えめに抗議をする。
「好きになれないなんて、冗談にしてはあまりにも酷いです」
「いや、冗談ではない。本当だ!」
スコットは立ち上がって前のめりに叫んだが、私と目が合った瞬間気まずそうにそっとソファーに座り再び机の角を見つめた。「冗談だよ。あははー」と言って欲しかったのに、全力で否定されてイラっとした。ここまでくるとショックを超えて怒りが沸き起こる。スコットの胸ぐらを掴んで揺さぶりたい!
でもそれは淑女の取る行動ではない。私はきっと神様に試されている、それならこの状況を冷静に乗り切ろうと決めた。
スコットは黙ったまま詳しい説明をしない。これは私が「わかりました」と引き下がることを望んでいる。スコットは両親から甘やかされて育ったせいか、察してもらおうとするところがある。トラブルを避けたいのは理解できるが他人任せなところはいかがなものか。私が口を閉ざすと沈黙が続く。
スコットは私と婚約解消をしたいようだが普通に考えて無理だ。一度決まった貴族の結婚は家と家の契約なので、個人の感情でなしにしましょうとはいかない。そもそも手続きは面倒だし、しかも結婚式間近で多方面に迷惑をかける。何よりもお互いに醜聞になる。
モヤモヤするものはあるが結婚がなくなるのは大いに困る。となると説得するしかない。いざとなれば真面目で優しい侯爵ご夫妻がスコットを窘めてくれることを期待しよう。侯爵ご夫妻は伯爵令嬢の私に対して、身分を理由に見下すこともなく快く婚約者として迎え入れてくれた。「しっかり者のお嬢さんで嬉しい」とまで言ってくれたのだ。
私がしなければならないのは、スコットを前向きな気持ちにさせること! 今は「好きになれなかった」としても、これから好きになってもらえばいい。二年も婚約者として過ごしてきた実績が物を言うはず。
結婚式は三か月後で準備はすでに整っている。贅沢にお金をかけたドレスも仕上がっているし、ベイリー侯爵家は高位貴族で招待客も多く、式の場所は王族も使用する大聖堂を押さえている。後戻りはできない。
私は心を落ち着かせるためにティーカップを取りお茶を飲んだ。思った以上に動揺しているようで若干手が震えている。
(落ち着くのよ、セシル)
突然の心変わりの理由は何? 私は二年前のことを思い出してみた。あれは学園生活の中での出来事だった。私が昼休みに中庭にある桃の木に咲いた花を愛でていたとき、突然後ろから声をかけられた。
『美しいレディ。こちらを向かないでそのまま聞いてください。あなたが好きです。どうか、私と結婚してくださいませんか?』
不意打ちの告白に驚いた。でも男性にもてたことのなかった私は浮かれた。婚約者どころか恋人もいない。男性の友人すら一人もいない。そんな私に告白という大イベントが訪れたのだから当然だ。
そして相手は高位貴族で人気のある人。そう、私は顔を見なくても声で相手が誰なのか察することができた。クラスは一緒になったことはないが、朗読の合同授業で彼の声を聞いたことがあったからだ。綺麗な発音をする人だなあと印象に残っていた。
(ベイリー侯爵子息のスコット様だわ)
高位貴族であっても柔らかな物腰で人と接する姿に好感を抱いていた。もちろん話す機会はなく、「いい人ね」くらいの印象だけ。でも告白から芽生える恋もある。私は後ろを向いたまま問いかけた。
『それは本当ですか? 私でいいのでしょうか?』
『はい。あなたでなければ駄目なのです』
真剣な言葉にきゅんとして、私は恋に落ちた――と思った。女性は愛されて結婚した方が幸せになれるとも言うし、せっかく好きだと言ってくれる人が現れたのだ。この機会を逃してはいけない! 女神の後ろ髪は短い。私は浮かれていたので冷静ではなかった。
普通なら考えさせてくださいと伝え、親に相談するべきなのに即答してしまったのだ。
『はい。お受けします!』
私は世界の主人公になった気持ちで振り向いた。そしてすぐに婚約を結んで今に至る。スコットは間違いなく私に好きだと言った。あれは嘘だったの? もしかして罰ゲームだったとか?
私はティーカップをソーサーに戻すと、努めて優しくスコットに話しかけた。
「スコット様。もしかしてマリッジブルーですか? 私のこと、好きになれなかったなんて、悲しいです。二年間婚約者として過ごしてきた時間を思い出してください。それにおかしいですよね? スコット様が私に告白してくださったのではありませんか。それとも私が何かスコット様に嫌われるようなことをしてしまいましたか? 改善しますから考え直してください」
「いや、もう決めた」
スコットの揺るがない強い声に、心が折れそうになるが引き下がれない。
「そんな……納得できません。ちゃんと説明してください。私を好きになれなかったとはどういうことなのですか?」
「それは、その……」
スコットが机の角を見たまま口ごもる。いい加減こっちを見てはっきりしゃべって欲しい。子供じゃないんだから!
「どうか、教えてください」
「実は……告白は、その、告白は間違いだったんだ」
「は? 間違い?」
間抜けな声で復唱するとスコットはようやく顔を上げて私を見る。でも目が泳いでいる。
「そうだ。セシルではなく別の女性に告白したつもりだったのだが、間違えてしまった……その、ものすごく後姿がそっくりで……」
告白相手を間違えるなんてある? まだ別の人を好きになったと言われる方がましだった。最初から好きじゃなかったとか最悪ですが。
「それならそのときに間違えたと言ってくれればよかったのに」
「でも、セシルがすごく嬉しそうに即答するから言えなかった」
「もしかしてそれって私の……せい、ですか?」
スコットが気まずそうに、でも深く頷く。
(ええええ――――――。私が責められているの?)
「あのときセシルがいったん考えると言ってくれれば、返事をもらうまでの間に父に頼んで訂正できたと思う。でもそのタイミングがなかった。だから諦めて婚約したんだ。僕のミスだし婚約したからにはセシルを好きになろうと努力した。セシルはしっかり者で優しいし嫌いじゃない。友人としてなら好ましいと思うけど、でもどうしてもそれ以上の気持ちには、恋にはならなかった。それに告白するつもりだった女性がどうしても忘れられなくて……」
(要約するとスコットは自分の間違いを認めて、それを打ち明けるのが嫌だっただけだということよね? 諦めるとか努力したとか、あまりにも私に失礼だわ。そんなの打ち明けないで、墓まで持っていってよ!)
私は一か月前に学園を卒業し近々結婚する予定になっている。同じ年の婚約者は侯爵家の跡取り。そんな彼はたくさんの令嬢たちから婚約の打診を受けていたのに、私を選んでプロポーズをしてくれた。
突然の告白を受けたときは心底驚いたが、それ以上に嬉しくて思わずその場で婚約了承の返事をしてしまった。
あの日から今日までそれなりの苦労はあったものの、充実した幸せな日々を送っている。そしてその日々はずっと続くはずだった――。
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私の婚約者はベイリー侯爵家の嫡男スコット様。彼はライトブラウンの髪にダークブラウンの瞳を持つ。容姿は線の細い柔らか系の美人顔で性格は穏やか。
今私は彼と侯爵家の応接間で向かい合って座っている。今日の分の跡継ぎ教育が終わり休憩をするところだ。
休憩と言えばケーキとお茶。脳の疲労には甘いものが必須不可欠。この時間をどれほど朝から待ち焦がれていたことか。
じっと座って待っていると侍女が手際よくお茶を淹れケーキをサーブしてくれた。ベイリー侯爵家で出してくれるケーキといえばチーズケーキ。スコットがチーズケーキ以外を好まないからなのだが、その分チーズケーキのバリエーションはケーキ屋さん以上に豊富だと言っても過言ではない。
(眼福ね!)
テーブルの上には侯爵家専属パティシエの作った、たっぷりとブルーベリーソースのかかったレアチーズケーキが鎮座している。しかもチーズケーキの隣にはストロベリーアイスが寄り添って仲睦まじいこと! 豪華だわ~。お茶も高級茶葉を使っているので香りだけで幸せになれそう。この屋敷で食べるチーズケーキは見た目の美しさを裏切らないほど美味しい。
(美味しそう。早く食べたい!)
私が食べようとしたら、スコットに話があると言われ食べるのを「待て!」状態になった。仕方なく一度手にしたフォークをテーブルに戻した。それなのにスコットは神妙な顔をして口をなかなか開かない。スコットは普段スマートで貴族らしい振る舞いをするのに、ときどき煮え切らない態度を取ることがある。
ストロベリーアイスが溶けちゃうとイライラしながらも辛抱強く待った末に、スコットの口から出てきた言葉は耳を疑うものだった。きっと聞き間違いだと思う。そうでなければ困る。とにかく確認しなければならない。ストロベリーアイスはもう諦めた。
「スコット様。あの、もう一度言っていただけますか?」
スコットは目を泳がせると、もじもじしながら口を開いた。
「セシルと婚約解消した…………僕は精一杯努力した。だけど………だけど、とうとう君のことを好きになれなかった……ごめん……」
言い終わると机の角をじっと見つめる。これはスコットが後ろめたいときにする癖だ。
今衝撃的なことを言われた気がする。いやいや、聞き間違い? 頭の中が真っ白になりすぐには言葉が出ない。
「……………」
(嘘でしょう!? あなたから告白してきてくれて婚約したのよ。私を好きって言ったじゃない……)
驚いた。びっくりした。愕然とした。全部同じことだけど、それだけ動揺している。酷い言葉に対し私は毅然と抵抗をしなければならない。だって本当に意味が分からないもの! まずは控えめに抗議をする。
「好きになれないなんて、冗談にしてはあまりにも酷いです」
「いや、冗談ではない。本当だ!」
スコットは立ち上がって前のめりに叫んだが、私と目が合った瞬間気まずそうにそっとソファーに座り再び机の角を見つめた。「冗談だよ。あははー」と言って欲しかったのに、全力で否定されてイラっとした。ここまでくるとショックを超えて怒りが沸き起こる。スコットの胸ぐらを掴んで揺さぶりたい!
でもそれは淑女の取る行動ではない。私はきっと神様に試されている、それならこの状況を冷静に乗り切ろうと決めた。
スコットは黙ったまま詳しい説明をしない。これは私が「わかりました」と引き下がることを望んでいる。スコットは両親から甘やかされて育ったせいか、察してもらおうとするところがある。トラブルを避けたいのは理解できるが他人任せなところはいかがなものか。私が口を閉ざすと沈黙が続く。
スコットは私と婚約解消をしたいようだが普通に考えて無理だ。一度決まった貴族の結婚は家と家の契約なので、個人の感情でなしにしましょうとはいかない。そもそも手続きは面倒だし、しかも結婚式間近で多方面に迷惑をかける。何よりもお互いに醜聞になる。
モヤモヤするものはあるが結婚がなくなるのは大いに困る。となると説得するしかない。いざとなれば真面目で優しい侯爵ご夫妻がスコットを窘めてくれることを期待しよう。侯爵ご夫妻は伯爵令嬢の私に対して、身分を理由に見下すこともなく快く婚約者として迎え入れてくれた。「しっかり者のお嬢さんで嬉しい」とまで言ってくれたのだ。
私がしなければならないのは、スコットを前向きな気持ちにさせること! 今は「好きになれなかった」としても、これから好きになってもらえばいい。二年も婚約者として過ごしてきた実績が物を言うはず。
結婚式は三か月後で準備はすでに整っている。贅沢にお金をかけたドレスも仕上がっているし、ベイリー侯爵家は高位貴族で招待客も多く、式の場所は王族も使用する大聖堂を押さえている。後戻りはできない。
私は心を落ち着かせるためにティーカップを取りお茶を飲んだ。思った以上に動揺しているようで若干手が震えている。
(落ち着くのよ、セシル)
突然の心変わりの理由は何? 私は二年前のことを思い出してみた。あれは学園生活の中での出来事だった。私が昼休みに中庭にある桃の木に咲いた花を愛でていたとき、突然後ろから声をかけられた。
『美しいレディ。こちらを向かないでそのまま聞いてください。あなたが好きです。どうか、私と結婚してくださいませんか?』
不意打ちの告白に驚いた。でも男性にもてたことのなかった私は浮かれた。婚約者どころか恋人もいない。男性の友人すら一人もいない。そんな私に告白という大イベントが訪れたのだから当然だ。
そして相手は高位貴族で人気のある人。そう、私は顔を見なくても声で相手が誰なのか察することができた。クラスは一緒になったことはないが、朗読の合同授業で彼の声を聞いたことがあったからだ。綺麗な発音をする人だなあと印象に残っていた。
(ベイリー侯爵子息のスコット様だわ)
高位貴族であっても柔らかな物腰で人と接する姿に好感を抱いていた。もちろん話す機会はなく、「いい人ね」くらいの印象だけ。でも告白から芽生える恋もある。私は後ろを向いたまま問いかけた。
『それは本当ですか? 私でいいのでしょうか?』
『はい。あなたでなければ駄目なのです』
真剣な言葉にきゅんとして、私は恋に落ちた――と思った。女性は愛されて結婚した方が幸せになれるとも言うし、せっかく好きだと言ってくれる人が現れたのだ。この機会を逃してはいけない! 女神の後ろ髪は短い。私は浮かれていたので冷静ではなかった。
普通なら考えさせてくださいと伝え、親に相談するべきなのに即答してしまったのだ。
『はい。お受けします!』
私は世界の主人公になった気持ちで振り向いた。そしてすぐに婚約を結んで今に至る。スコットは間違いなく私に好きだと言った。あれは嘘だったの? もしかして罰ゲームだったとか?
私はティーカップをソーサーに戻すと、努めて優しくスコットに話しかけた。
「スコット様。もしかしてマリッジブルーですか? 私のこと、好きになれなかったなんて、悲しいです。二年間婚約者として過ごしてきた時間を思い出してください。それにおかしいですよね? スコット様が私に告白してくださったのではありませんか。それとも私が何かスコット様に嫌われるようなことをしてしまいましたか? 改善しますから考え直してください」
「いや、もう決めた」
スコットの揺るがない強い声に、心が折れそうになるが引き下がれない。
「そんな……納得できません。ちゃんと説明してください。私を好きになれなかったとはどういうことなのですか?」
「それは、その……」
スコットが机の角を見たまま口ごもる。いい加減こっちを見てはっきりしゃべって欲しい。子供じゃないんだから!
「どうか、教えてください」
「実は……告白は、その、告白は間違いだったんだ」
「は? 間違い?」
間抜けな声で復唱するとスコットはようやく顔を上げて私を見る。でも目が泳いでいる。
「そうだ。セシルではなく別の女性に告白したつもりだったのだが、間違えてしまった……その、ものすごく後姿がそっくりで……」
告白相手を間違えるなんてある? まだ別の人を好きになったと言われる方がましだった。最初から好きじゃなかったとか最悪ですが。
「それならそのときに間違えたと言ってくれればよかったのに」
「でも、セシルがすごく嬉しそうに即答するから言えなかった」
「もしかしてそれって私の……せい、ですか?」
スコットが気まずそうに、でも深く頷く。
(ええええ――――――。私が責められているの?)
「あのときセシルがいったん考えると言ってくれれば、返事をもらうまでの間に父に頼んで訂正できたと思う。でもそのタイミングがなかった。だから諦めて婚約したんだ。僕のミスだし婚約したからにはセシルを好きになろうと努力した。セシルはしっかり者で優しいし嫌いじゃない。友人としてなら好ましいと思うけど、でもどうしてもそれ以上の気持ちには、恋にはならなかった。それに告白するつもりだった女性がどうしても忘れられなくて……」
(要約するとスコットは自分の間違いを認めて、それを打ち明けるのが嫌だっただけだということよね? 諦めるとか努力したとか、あまりにも私に失礼だわ。そんなの打ち明けないで、墓まで持っていってよ!)
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