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16.結婚しました
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この世界がシャルロッテとジョシュアの結婚を祝ってくれているかのような晴天に心も浮き立つ。自分がものすごく浮かれているのは承知しているが花嫁なので許してほしい。
シャルロッテはフィンレー公爵家のお抱えのデザイナーが全力で仕立ててくれたウエディングドレスを着ている。髪もお化粧も完璧で平凡な顔のシャルロッテもお姫様のように綺麗になった。
満足げに全身鏡を見ているとお母様がうきうきと横に並ぶ。ちなみにシャルロッテの母ナンシーは身内贔屓なくすごく美人だ。シャルロッテは完全に父アルロ似で子供の頃は密かに母に似たかったと思っていた。
「我が妹もとうとう結婚かあ。感慨深いなあ」
その横で兄フレデリックがニヤニヤと笑っている。兄は隣国で父の営んでいる商会とは別に、新たな商会を立ち上げ忙しくしていたので久しぶりに顔を合わせた。ちなみに兄は母にそっくりで間違いなく美人さんだ。
「お兄様ったら。久しぶりに会った妹のウエディング姿に綺麗だよくらい言ってもいいと思うの」
「そうだな。悪かったよ。綺麗だよ、シャルロッテ。ジョシュアと幸せになれ」
「はい」
お父様はソファーの隅に座りしょんぼりしている。シャルロッテがお嫁に行くのが寂しいらしい。花嫁修業でフィンレー公爵家に来てからも頻繁に会いに来ていたのに、結婚式を挙げるとなると一層寂しいらしい。哀愁漂う父の背中に愛情を噛みしめ感謝した。
「お父様、お母様、今まで――」
「わあ――――――!! 何も言うな。お父様を泣かせる気か。挨拶なんていらない。お前はただ幸せになってくれればいいんだ。もし何か困ったことがあったら真っ先にお父様に言いなさい」
今まで育ててくれた感謝の言葉を伝えようとしたらお父様に全力で拒否をされた。畏まった挨拶に憧れていたので残念。
「あら、駄目よ。最初はジョシュアに相談しなさい。あなたたちは今日から夫婦になるのだから。お互いを頼み支え合わなくてはね。でも二人で解決できない時は相談してね」
「はい、お父様。お母様」
少しだけ瞳を潤ませたお父様と一緒に大聖堂に移動する。これからジョシュアに愛を誓う。俄かに緊張してきた。母と兄はいそいそと先に移動した。大聖堂へと入る扉が開き音楽が鳴る。お父様とゆっくりと足を進めるとその先には真っ白なタキシードを着た麗しい新郎が待っている。ジョシュアも緊張しているようで顔が強張っている。その顔を見たらシャルロッテの緊張は解けてしまった。
「シャルロッテ。お前は私の自慢の娘だ。幸せにおなり」
「はい。お父様」
厳かな雰囲気の中、自分はずっと大切に守られてきたことを実感する。たとえお嫁に行っても両親の自慢の娘でいられるよう頑張ろう。
お父様の手を離しジョシュアの手に触れる。彼はシャルロッテをじっと見て頬を緩ませた。そっと「綺麗だよ」と耳元で囁く。目を細め愛おし気に自分を見る姿にきゅんとする。シャルロッテは心の中で「あなたの方が綺麗よ」と思ったが口には出さなかった。ジョシュアは自分自身の容姿に頓着していないので褒められても「ふ~ん」と言った感じになる。
二人で祭壇の神様に膝を折り、神父に促され宣誓の言葉を交わす。そして私たちは晴れて夫婦となった。
皆の「おめでとう」の言葉が二人を包み込んだ。
-----------
シャルロッテのフィンレー公爵家での新婚生活は順調である。
おじ様、おば様改め、お義父様、お義母様は子供の頃から知っているし、お屋敷の使用人もみんなジョシュアとシャルロッテを心から祝福してくれた。何ならお母様に怒られたりしない分、実家より居心地がいいかもしれない。
「シャルロッテ。寂しいけれど行ってくるよ」
「もう、ジョシュったら。気を付けて行って来てね。待っているから」
シャルロッテはジョシュアと抱擁して夫を仕事に送り出す。毎朝、シャルロッテと離れたくないと仕事に出かけるのを渋るジョシュアを宥めている。
そのあとはお義母様に教えを乞いながら結婚式のお礼状を書いている。なかなかの量を一通ずつ手書きするので骨が折れるが、幸せいっぱいのシャルロッテは張り切って書き始める。
午後になったら突然の来訪者が現れた。またか……みなさん約束もなくよく来るなあと思う。
「若奥様。追い返しましょうか?」
執事のジョンが気を遣ってくれてそう申し出てくれた。心遣いに感謝するがこれはシャルロッテの仕事だ。それに『若奥様』と呼ばれるとつい気合が入り張り切ってしまう。
「いいえ。私がお相手をするわ。応接室にお通しして」
「かしこまりました」
お礼状を書いて肩が凝っていたから気分転換になるだろう。その相手がたとえ招かざる客でも。
「お待たせしました」
部屋にはでっぷりとした中年の男性と可愛らしい十五歳の少女が座っていた。親子なのに全く似ていない。遺伝子は神秘的だ。二人は同時に顔を上げると同じ表情でシャルロッテを睨んできた。……息ぴったり。間違いなく親子のようだ。
「お嬢さん。ジョシュアと結婚できたんだ。もう満足しただろう。さっさと離婚したほうが身のためじゃないか? 伯爵令嬢に公爵夫人は荷が重かろう?」
挨拶もしないで失礼ですよ。狸さん。
「こんにちは。スミス子爵。お招きした覚えはありませんがようこそ。ご心配頂きありがとうございます。ですが私のことなら大丈夫ですわ」
「おばさん! 図々しいわよ」
五歳年上でおばさん呼ばわり……。少しだけ切ない。
この親子はシャルロッテを下に見ているが根拠が分からない。私の実家の爵位はあなたたちよりも上ですよ。伯爵令嬢に荷が重かったら子爵令嬢にとっては更に大変なのが分からないのかしら。
「スミス子爵はお嬢さまがジョシュアに相応しいと思っていらっしゃるのかしら?」
伯爵はお腹を突き出し自慢げに当然だと頷く。
「もちろんだ。娘の方が若くて美人だ。ジョシュアとの間に子供が生まれればとんでもなく美しい子供が生まれるだろう」
少しだけ痛い所を突かれた……。シャルロッテはもし子供が生まれるならジョシュアに似て欲しいと切実に思っている。ジョシュアはシャルロッテ似の娘が欲しいと言っていたが、まあどっちに似ても可愛いけど。
「それで、娘さんは語学や算術は得意なのかしら? もちろん領地経営についての勉強はしていますよね? そこまでおっしゃるならフィンレー公爵家に相応しい成績だと思いますけど」
「……」
「……」
都合が悪くなると黙ってしまう。ありがちでつまらないと思う。娘さんの成績は下から十本の指に入っていると小耳に挟んでいる。せめて上から数えやすい順位にいて欲しいものだ。
「残念ながら公爵家の嫁は可愛いだけでは務まりません。もう少しお勉強をしてから出直して下さいませ」
「キ――!! 可愛いが正義なのよ。可愛ければ皆が何とかしてくれるからやっていけるわ」
「そ、そうだ。これだけ可愛ければ周りが支えてくれる。勉強など必要ない」
「アーチャー伯爵が昨日娘さんとお見えになった時も同じことをおっしゃっていましたわね」
「アーチャー伯爵も来たのか……」
狸さんは苦虫を噛み潰したような顔をする。この用件で押しかけて来たのはこれで何組めだろう。数えていないが、もう慣れてしまったので傷つくことはない。シャルロッテは後ろを振り返り執事にニッコリと微笑んだ。
「お話は以上ですね? ジョン。スミス子爵はお帰りになるそうです。お見送りをお願いね」
「えっ? まだ話は終わっていないぞ」
「ジョシュアは今日はいないの? 会いたいんだけど」
「ごきげんよう。スミス子爵。ご令嬢。次にいらっしゃるときは事前にご連絡くださいませ」
シャルロッテは強引に話を切り上げた。そのまま席を立ち踵を返すと応接室をあとにした。何か喚き声が聞こえるが気にしない。
結婚式が無事に終わって一週間ほど経ってから無礼なお客様が勝手に来るようになった。シャルロッテを追い出したい者や精神的に追い詰めようという意図を持ってくる者もいる。
どうせならご機嫌伺いをして取り込もうとか考えないのかしら。相変わらずフィンレー公爵家に群がるのは自我の強い貴族ばかりだ。
この辺りを一掃できなかったおじい様に文句が言いたくなる。お義母様はこういう輩で心を痛めてきた。シャルロッテが嫁いできたからには盾となってお守りしようと決意をしている。
お義父様も頑張ってはいるようだけど、どこか一族に対して甘い。出来るだけ穏便に済ませようとしている。
ちなみにこのことをジョシュアに報告したら怖い顔をして紙に何かを書き留めていた……。彼が謎の人名リストを作っていることを知っているが、あえて気付かない振りをした。
シャルロッテはフィンレー公爵家のお抱えのデザイナーが全力で仕立ててくれたウエディングドレスを着ている。髪もお化粧も完璧で平凡な顔のシャルロッテもお姫様のように綺麗になった。
満足げに全身鏡を見ているとお母様がうきうきと横に並ぶ。ちなみにシャルロッテの母ナンシーは身内贔屓なくすごく美人だ。シャルロッテは完全に父アルロ似で子供の頃は密かに母に似たかったと思っていた。
「我が妹もとうとう結婚かあ。感慨深いなあ」
その横で兄フレデリックがニヤニヤと笑っている。兄は隣国で父の営んでいる商会とは別に、新たな商会を立ち上げ忙しくしていたので久しぶりに顔を合わせた。ちなみに兄は母にそっくりで間違いなく美人さんだ。
「お兄様ったら。久しぶりに会った妹のウエディング姿に綺麗だよくらい言ってもいいと思うの」
「そうだな。悪かったよ。綺麗だよ、シャルロッテ。ジョシュアと幸せになれ」
「はい」
お父様はソファーの隅に座りしょんぼりしている。シャルロッテがお嫁に行くのが寂しいらしい。花嫁修業でフィンレー公爵家に来てからも頻繁に会いに来ていたのに、結婚式を挙げるとなると一層寂しいらしい。哀愁漂う父の背中に愛情を噛みしめ感謝した。
「お父様、お母様、今まで――」
「わあ――――――!! 何も言うな。お父様を泣かせる気か。挨拶なんていらない。お前はただ幸せになってくれればいいんだ。もし何か困ったことがあったら真っ先にお父様に言いなさい」
今まで育ててくれた感謝の言葉を伝えようとしたらお父様に全力で拒否をされた。畏まった挨拶に憧れていたので残念。
「あら、駄目よ。最初はジョシュアに相談しなさい。あなたたちは今日から夫婦になるのだから。お互いを頼み支え合わなくてはね。でも二人で解決できない時は相談してね」
「はい、お父様。お母様」
少しだけ瞳を潤ませたお父様と一緒に大聖堂に移動する。これからジョシュアに愛を誓う。俄かに緊張してきた。母と兄はいそいそと先に移動した。大聖堂へと入る扉が開き音楽が鳴る。お父様とゆっくりと足を進めるとその先には真っ白なタキシードを着た麗しい新郎が待っている。ジョシュアも緊張しているようで顔が強張っている。その顔を見たらシャルロッテの緊張は解けてしまった。
「シャルロッテ。お前は私の自慢の娘だ。幸せにおなり」
「はい。お父様」
厳かな雰囲気の中、自分はずっと大切に守られてきたことを実感する。たとえお嫁に行っても両親の自慢の娘でいられるよう頑張ろう。
お父様の手を離しジョシュアの手に触れる。彼はシャルロッテをじっと見て頬を緩ませた。そっと「綺麗だよ」と耳元で囁く。目を細め愛おし気に自分を見る姿にきゅんとする。シャルロッテは心の中で「あなたの方が綺麗よ」と思ったが口には出さなかった。ジョシュアは自分自身の容姿に頓着していないので褒められても「ふ~ん」と言った感じになる。
二人で祭壇の神様に膝を折り、神父に促され宣誓の言葉を交わす。そして私たちは晴れて夫婦となった。
皆の「おめでとう」の言葉が二人を包み込んだ。
-----------
シャルロッテのフィンレー公爵家での新婚生活は順調である。
おじ様、おば様改め、お義父様、お義母様は子供の頃から知っているし、お屋敷の使用人もみんなジョシュアとシャルロッテを心から祝福してくれた。何ならお母様に怒られたりしない分、実家より居心地がいいかもしれない。
「シャルロッテ。寂しいけれど行ってくるよ」
「もう、ジョシュったら。気を付けて行って来てね。待っているから」
シャルロッテはジョシュアと抱擁して夫を仕事に送り出す。毎朝、シャルロッテと離れたくないと仕事に出かけるのを渋るジョシュアを宥めている。
そのあとはお義母様に教えを乞いながら結婚式のお礼状を書いている。なかなかの量を一通ずつ手書きするので骨が折れるが、幸せいっぱいのシャルロッテは張り切って書き始める。
午後になったら突然の来訪者が現れた。またか……みなさん約束もなくよく来るなあと思う。
「若奥様。追い返しましょうか?」
執事のジョンが気を遣ってくれてそう申し出てくれた。心遣いに感謝するがこれはシャルロッテの仕事だ。それに『若奥様』と呼ばれるとつい気合が入り張り切ってしまう。
「いいえ。私がお相手をするわ。応接室にお通しして」
「かしこまりました」
お礼状を書いて肩が凝っていたから気分転換になるだろう。その相手がたとえ招かざる客でも。
「お待たせしました」
部屋にはでっぷりとした中年の男性と可愛らしい十五歳の少女が座っていた。親子なのに全く似ていない。遺伝子は神秘的だ。二人は同時に顔を上げると同じ表情でシャルロッテを睨んできた。……息ぴったり。間違いなく親子のようだ。
「お嬢さん。ジョシュアと結婚できたんだ。もう満足しただろう。さっさと離婚したほうが身のためじゃないか? 伯爵令嬢に公爵夫人は荷が重かろう?」
挨拶もしないで失礼ですよ。狸さん。
「こんにちは。スミス子爵。お招きした覚えはありませんがようこそ。ご心配頂きありがとうございます。ですが私のことなら大丈夫ですわ」
「おばさん! 図々しいわよ」
五歳年上でおばさん呼ばわり……。少しだけ切ない。
この親子はシャルロッテを下に見ているが根拠が分からない。私の実家の爵位はあなたたちよりも上ですよ。伯爵令嬢に荷が重かったら子爵令嬢にとっては更に大変なのが分からないのかしら。
「スミス子爵はお嬢さまがジョシュアに相応しいと思っていらっしゃるのかしら?」
伯爵はお腹を突き出し自慢げに当然だと頷く。
「もちろんだ。娘の方が若くて美人だ。ジョシュアとの間に子供が生まれればとんでもなく美しい子供が生まれるだろう」
少しだけ痛い所を突かれた……。シャルロッテはもし子供が生まれるならジョシュアに似て欲しいと切実に思っている。ジョシュアはシャルロッテ似の娘が欲しいと言っていたが、まあどっちに似ても可愛いけど。
「それで、娘さんは語学や算術は得意なのかしら? もちろん領地経営についての勉強はしていますよね? そこまでおっしゃるならフィンレー公爵家に相応しい成績だと思いますけど」
「……」
「……」
都合が悪くなると黙ってしまう。ありがちでつまらないと思う。娘さんの成績は下から十本の指に入っていると小耳に挟んでいる。せめて上から数えやすい順位にいて欲しいものだ。
「残念ながら公爵家の嫁は可愛いだけでは務まりません。もう少しお勉強をしてから出直して下さいませ」
「キ――!! 可愛いが正義なのよ。可愛ければ皆が何とかしてくれるからやっていけるわ」
「そ、そうだ。これだけ可愛ければ周りが支えてくれる。勉強など必要ない」
「アーチャー伯爵が昨日娘さんとお見えになった時も同じことをおっしゃっていましたわね」
「アーチャー伯爵も来たのか……」
狸さんは苦虫を噛み潰したような顔をする。この用件で押しかけて来たのはこれで何組めだろう。数えていないが、もう慣れてしまったので傷つくことはない。シャルロッテは後ろを振り返り執事にニッコリと微笑んだ。
「お話は以上ですね? ジョン。スミス子爵はお帰りになるそうです。お見送りをお願いね」
「えっ? まだ話は終わっていないぞ」
「ジョシュアは今日はいないの? 会いたいんだけど」
「ごきげんよう。スミス子爵。ご令嬢。次にいらっしゃるときは事前にご連絡くださいませ」
シャルロッテは強引に話を切り上げた。そのまま席を立ち踵を返すと応接室をあとにした。何か喚き声が聞こえるが気にしない。
結婚式が無事に終わって一週間ほど経ってから無礼なお客様が勝手に来るようになった。シャルロッテを追い出したい者や精神的に追い詰めようという意図を持ってくる者もいる。
どうせならご機嫌伺いをして取り込もうとか考えないのかしら。相変わらずフィンレー公爵家に群がるのは自我の強い貴族ばかりだ。
この辺りを一掃できなかったおじい様に文句が言いたくなる。お義母様はこういう輩で心を痛めてきた。シャルロッテが嫁いできたからには盾となってお守りしようと決意をしている。
お義父様も頑張ってはいるようだけど、どこか一族に対して甘い。出来るだけ穏便に済ませようとしている。
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