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小話2.あなたに甘えたい

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「お帰りなさい。ジョシュ」

 シャルロッテはジョシュアと婚約をしてすぐにフィンレー公爵家に滞在しながらの花嫁修業中である。
 仕事から帰宅したジョシュアを玄関まで出迎える。午前中は急用があり外出していたが午後からは屋敷で一緒に領地経営の勉強をする。一緒に過ごせる時間が長いって幸せだ。お父様の反対を押し切って早めに花嫁修業に来てよかった。

「ただいま。ロッティが出迎えてくれるなんて夢のようだな」

 ジョシュアは満面の笑みを浮かべ喜びを露わにする。その顔を見られるシャルロッテの方が夢のようだ。
 ジョシュアが両手を広げたのでそこに飛び込みお帰りなさいの抱擁を交わす。そして話をしながら並んで歩く。
 シャルロッテは歩きなれないヒールの高い靴を履いていたのでカクンとよろけた。すぐにジョシュアが抱きとめる。

「ロッティ。大丈夫?」

 ジョシュアは心配げにシャルロッテを抱き上げ歩き出した。

「足を怪我しているといけないからこのまま運ぶね」

「うん。ありがとう」

 ああ、お姫様抱っこだ。子供の頃からの………憧れ。ずるい方法を取ったのは「お姫様抱っこして」とは言い出せなかったからだ。

 ジョシュア。ごめんなさい。乙女の夢を叶えたくてわざとヒールの高い靴を履いてカクンをしました。心で謝りながらシャルロッテは彼の胸板に頬を寄せ鼓動に耳を澄ます。格好いい人は鼓動も素敵。ジョシュアのぬくもりをうっとりと堪能しお姫様気分を味わう。
 子供の頃は女の子のように小さく華奢だったジョシュアが自分を軽々と抱き上げてしまう、こんな未来が来るなんて想像もしなかった。
 ジョシュアは見た目通り逞しくその腕は安心感がある。部屋に着くとジョシュアはシャルロッテをソファーに降ろし、足首を入念に確かめる。あまりにも自分を心配する姿に仕事から帰ってきて疲れているジョシュアに甘えてしまったことに罪悪感が湧く。

「ジョシュ。足は大丈夫よ。ごめんなさい。よろけたのはわざとなの」

「それなら足は痛くない?」

 彼は責めもせずにひたすらシャルロッテを案じる。申し訳なさすぎる。

「本当に大丈夫。気をつけながらカクンってしたから。ごめんなさい」

 しゅんと俯き謝ればおでこに柔らかな感触がする。おでこに口付けたジョシュアがニコニコしている。

「気にしなくていいけど。どうしてそんなことしたの?」

「ジョシュにお姫様抱っこして欲しくて。実は……子供の頃からの憧れだったの……」

 俯きながら言い訳をする。大人になってもまだそんなことに憧れているなんて彼に呆れられてしまうかも……。

「なんだそんなこと。わざわざ転ばなくても、いつでも言ってくれれば抱っこするのに。ロッティなら大歓迎だよ。なんならいつもお姫様抱っこで移動する?」

「それは駄目。いつもだとジョシュの負担になるし、それに年に一回くらいのほうが特別感があってきゅんとするの」

 ジョシュアは本当にシャルロッテに甘い。そしてそれについ甘えてしまうシャルロッテの意思は綿あめように儚い。
 それでも心の中で呟いた。

(またお願いします!)

 

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