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13.祖父
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そもそも祖父カーター・フィンレーが後妻を迎えるに至ったには理由がある。当時天災で領地は荒れフィンレー公爵家であっても多額の借金を負っていた。
貿易商で国内で十本の指に入るほどの資産家ディアス伯爵家の娘マチルダは嫁ぎ先で夫を亡くし子供を連れて実家に戻っていた。マチルダの父親は高位貴族との縁を深めるためにカーターとマチルダの再婚を条件に無利子で資金援助を申し出た。カーターは家と領地を守るために再婚を決めた。ただ二人の間に子が出来ても跡継ぎは先妻の子であるローガンにすることを条件にした。
一族からは伯爵家からの子連れ再婚を馬鹿にして見下し反対する者もいたがカーターは反対した奴らに言ったそうだ。
「ディアス伯爵家と同等の援助をお前らがしてくれるのか?」と。そいつらはフィンレー公爵家の縁戚だと大きな顔をしているが、自尊心だけが無駄に高く財力も能力も卑小な自覚はないようだ。だが公爵家が没落すれば自分たちも同じ憂き目に遭うと気づき口を噤んだ。
このフィンレー公爵家の復興はマチルダの存在なくしては語れない。
彼女は貿易商の父親と同じくらい、いやそれ以上に商才に長けていた。
「こんな殿様商売しているから没落するんですよ」彼女はそうカーターを叱咤しどんどん公爵家の事業を改革していった。その手腕にカーターは黙らざるを得なかった。そしてたった五年で多額の借金を返済し利益を上げるまでにしたのだ。
カーターはマチルダに心からの感謝と尊敬の念を捧げたそうだ。
「マチルダは妻と言うより戦友だった。最高の素晴らしい仲間だった」とマチルダが亡くなってしばらくした時、彼女の好きなワインを片手に楽しそうにそう語っていたと父が言っていた。
マチルダに頭の上がらなかったカーターだが一族にとっては、変わることなく圧倒的な存在で彼の言葉は絶対だ。誰もがカーターの前では委縮するのだがシャルロッテは例外だった。
「おじい様!! 聞いてください。さっきアッカー伯爵とモラレス子爵がこんなことを言っていたのです!」
シャルロッテは意気込んで切々とさっきの話をカーターに告げ口した。ジョシュアは大人たちの名前を知らなかったがシャルロッテはしっかりと覚えていた。カーターは真剣に耳を傾けそしてシャルロッテに問いかけた。
「シャルロッテはそれでわしにどうして欲しいのだ?」
シャルロッテは可愛く首を傾げた。仕草は愛らしいが目の奥に怒りが見える。ジョシュアが心無い言葉で傷ついていることを知っているはずなのに何も手を打たないことをシャルロッテなりに非難している。
「別に? ただ知っていて欲しかったの。誰がジョシュに酷いことを言ったのか。だっておじい様にはジョシュを守る義務があるのよ。もしかして忘れているのかしらと思ったの」
シャルロッテの言葉にカーターは目を丸くした後「はっはははは」と声を上げて笑った。ジョシュアはその顔にぎょっとした。普段は難しい顔をしたカーターが声を上げて笑う姿など見たことがなかった。
「そうか。義務か。シャルロッテはわしに怒っているのだな。ジョシュアに辛く当たる連中をのさばらせているから。だがジョシュアはいずれこの家を継ぐ。そんなことに負けていてはやっていけないだろう? 自分で跳ねのけるくらい強くなる必要があるのだ」
「まあ! おじい様。ジョシュはまだ八歳よ? ジョシュに厳しくするよりお馬鹿さんな大人に反省させるべきだと思うわ。おじい様にそれが出来るのにしないのは怠慢っていうのよ。怠慢は怠けているという意味なのよ。こないだお勉強で出てきた言葉なの。使い方合っているわよね? えっと、それでね。まだ私たちは子供で遊ぶのが仕事よ。大人の都合で厳しくしないで欲しいわ」
カーターは眉を寄せ厳しい顔でシャルロッテをじっと見る。ジョシュアはシャルロッテが怒られてしまう、どうしようと焦った。
「そうか、シャルロッテはそう思うのだな?」
「はい」
「シャルロッテ、ジョシュア、ここに来なさい」
カーターは優しく目を細め二人に手招きをした。ジョシュアはシャルロッテに手を引かれ恐々と側に寄る。カーターは大きく腕を広げ二人いっぺんに抱きしめた。
「シャルロッテの言う通りだ。おじい様が悪かった。ジョシュア。お前は悪くない。すまなかった」
「う~~っ」
ジョシュアはその瞬間涙が溢れ出した。両親は「ごめんね」といつもすまなそうに謝りおじい様は厳しい言葉ばかりを自分に言う。愛されていないとは思わなかったけれど悪いことは全部自分のせいだと苦しかった。それを許してもらえたような気がした。
シャルロッテは抱きしめられながらも、もぞもぞと動きそっと手を伸ばしてカーターの頭を撫でた。
「おじい様、よくできました」
おじい様は驚きに固まった後、破顔した。
「シャルロッテはマチルダにそっくりだ。きっと素晴らしい女性になるだろうな」
ジョシュアもシャルロッテもマチルダに会ったことはない。二人が生まれる前に亡くなっている。会ってみたかったと思う。彼女がいたらまたこの家の中の雰囲気も違ったものになっていたはずだ。
シャルロッテが帰った後、カーターに呼び出された。
「ジョシュア。シャルロットが好きか?」
「はい。大人になったら結婚したいです」
カーターは嬉しそうに目を細めた。
「そうか。それなら強い男になれ。今はわしがお前たちを守ろう。だがお前が大人になってもきっと一族の中には愚かな人間が必ずいる。強くなって悪意からシャルロッテを守れる男になるんだ。約束できるか?」
「はい。元気になって強くなって、絶対ロッティを守れるようになります!」
「男の約束だぞ。ジョシュア」
「はい。男の約束です」
それは幼いジョシュアにとっての決意表明であり一生涯変わらぬ誓いとなった。
ちなみにそれ以降、件の二人、アッカー伯爵とモラレス子爵をジョシュアがフィンレー公爵邸内で見かけることはなかった。更に自分に嫌なことを言う大人はいなくなった。
貿易商で国内で十本の指に入るほどの資産家ディアス伯爵家の娘マチルダは嫁ぎ先で夫を亡くし子供を連れて実家に戻っていた。マチルダの父親は高位貴族との縁を深めるためにカーターとマチルダの再婚を条件に無利子で資金援助を申し出た。カーターは家と領地を守るために再婚を決めた。ただ二人の間に子が出来ても跡継ぎは先妻の子であるローガンにすることを条件にした。
一族からは伯爵家からの子連れ再婚を馬鹿にして見下し反対する者もいたがカーターは反対した奴らに言ったそうだ。
「ディアス伯爵家と同等の援助をお前らがしてくれるのか?」と。そいつらはフィンレー公爵家の縁戚だと大きな顔をしているが、自尊心だけが無駄に高く財力も能力も卑小な自覚はないようだ。だが公爵家が没落すれば自分たちも同じ憂き目に遭うと気づき口を噤んだ。
このフィンレー公爵家の復興はマチルダの存在なくしては語れない。
彼女は貿易商の父親と同じくらい、いやそれ以上に商才に長けていた。
「こんな殿様商売しているから没落するんですよ」彼女はそうカーターを叱咤しどんどん公爵家の事業を改革していった。その手腕にカーターは黙らざるを得なかった。そしてたった五年で多額の借金を返済し利益を上げるまでにしたのだ。
カーターはマチルダに心からの感謝と尊敬の念を捧げたそうだ。
「マチルダは妻と言うより戦友だった。最高の素晴らしい仲間だった」とマチルダが亡くなってしばらくした時、彼女の好きなワインを片手に楽しそうにそう語っていたと父が言っていた。
マチルダに頭の上がらなかったカーターだが一族にとっては、変わることなく圧倒的な存在で彼の言葉は絶対だ。誰もがカーターの前では委縮するのだがシャルロッテは例外だった。
「おじい様!! 聞いてください。さっきアッカー伯爵とモラレス子爵がこんなことを言っていたのです!」
シャルロッテは意気込んで切々とさっきの話をカーターに告げ口した。ジョシュアは大人たちの名前を知らなかったがシャルロッテはしっかりと覚えていた。カーターは真剣に耳を傾けそしてシャルロッテに問いかけた。
「シャルロッテはそれでわしにどうして欲しいのだ?」
シャルロッテは可愛く首を傾げた。仕草は愛らしいが目の奥に怒りが見える。ジョシュアが心無い言葉で傷ついていることを知っているはずなのに何も手を打たないことをシャルロッテなりに非難している。
「別に? ただ知っていて欲しかったの。誰がジョシュに酷いことを言ったのか。だっておじい様にはジョシュを守る義務があるのよ。もしかして忘れているのかしらと思ったの」
シャルロッテの言葉にカーターは目を丸くした後「はっはははは」と声を上げて笑った。ジョシュアはその顔にぎょっとした。普段は難しい顔をしたカーターが声を上げて笑う姿など見たことがなかった。
「そうか。義務か。シャルロッテはわしに怒っているのだな。ジョシュアに辛く当たる連中をのさばらせているから。だがジョシュアはいずれこの家を継ぐ。そんなことに負けていてはやっていけないだろう? 自分で跳ねのけるくらい強くなる必要があるのだ」
「まあ! おじい様。ジョシュはまだ八歳よ? ジョシュに厳しくするよりお馬鹿さんな大人に反省させるべきだと思うわ。おじい様にそれが出来るのにしないのは怠慢っていうのよ。怠慢は怠けているという意味なのよ。こないだお勉強で出てきた言葉なの。使い方合っているわよね? えっと、それでね。まだ私たちは子供で遊ぶのが仕事よ。大人の都合で厳しくしないで欲しいわ」
カーターは眉を寄せ厳しい顔でシャルロッテをじっと見る。ジョシュアはシャルロッテが怒られてしまう、どうしようと焦った。
「そうか、シャルロッテはそう思うのだな?」
「はい」
「シャルロッテ、ジョシュア、ここに来なさい」
カーターは優しく目を細め二人に手招きをした。ジョシュアはシャルロッテに手を引かれ恐々と側に寄る。カーターは大きく腕を広げ二人いっぺんに抱きしめた。
「シャルロッテの言う通りだ。おじい様が悪かった。ジョシュア。お前は悪くない。すまなかった」
「う~~っ」
ジョシュアはその瞬間涙が溢れ出した。両親は「ごめんね」といつもすまなそうに謝りおじい様は厳しい言葉ばかりを自分に言う。愛されていないとは思わなかったけれど悪いことは全部自分のせいだと苦しかった。それを許してもらえたような気がした。
シャルロッテは抱きしめられながらも、もぞもぞと動きそっと手を伸ばしてカーターの頭を撫でた。
「おじい様、よくできました」
おじい様は驚きに固まった後、破顔した。
「シャルロッテはマチルダにそっくりだ。きっと素晴らしい女性になるだろうな」
ジョシュアもシャルロッテもマチルダに会ったことはない。二人が生まれる前に亡くなっている。会ってみたかったと思う。彼女がいたらまたこの家の中の雰囲気も違ったものになっていたはずだ。
シャルロッテが帰った後、カーターに呼び出された。
「ジョシュア。シャルロットが好きか?」
「はい。大人になったら結婚したいです」
カーターは嬉しそうに目を細めた。
「そうか。それなら強い男になれ。今はわしがお前たちを守ろう。だがお前が大人になってもきっと一族の中には愚かな人間が必ずいる。強くなって悪意からシャルロッテを守れる男になるんだ。約束できるか?」
「はい。元気になって強くなって、絶対ロッティを守れるようになります!」
「男の約束だぞ。ジョシュア」
「はい。男の約束です」
それは幼いジョシュアにとっての決意表明であり一生涯変わらぬ誓いとなった。
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