妖怪奇譚【一話完結短編集】

だんぞう

文字の大きさ
11 / 51

監視カメラに映ったモノ

しおりを挟む
 監視カメラに映っていたのは猿のように見えた。
 しかしどの監視カメラにもその背中しか映っていない。
 だからそれが猿だという断定はできない……それが、幼稚園の隣のコンビニ店主からDVDを渡されたときに言われた言葉。
 一応そいつが映っている部分だけ編集し、焼いてくれたとのこと。

 普段は気さくで明るい彼が、重苦しい表情でそんな言い方をした時点で気付けば良かった。
 私は保護者達への説明をしなければならないという使命感から、特に躊躇いもせず、そのDVDを再生した。



 第一印象は「これは猿ではない」だった。
 猿のようには見える。
 だけど時折、その表面がズレるのだ。
 まるで、緩い靴下を履いていると歩いただけで落ちてくる、あんな感じに。
 その度に、黒い小さな何かが、ちらりと見えてズレを直す。
 画像が粗いのと、ソレが素早いのとで、ソレが何なのかまではわからない。
 しかし肩から生えて動いている二本の手とは明らかに違う何か。
 猿というよりは、猿のガワを被っている違う何者かに見えて仕方がない。

 いやもしかして猿が、仲間の猿の皮を被っているだけなのかも……そう考えて、そんなことをする猿はもはや猿ではないのでは、と思ってしまい、その考えは捨てる。
 いっそわからぬモノのままの方がいい気がしてきた。
 思考がそこに及ばぬ方が、近づかぬ方が、いい。
 自然とそんな風に考えてしまう。

 ああそうか。
 だから猿だという断定はできない、と。
 あんな言い回しを。

 そういえば、目撃したあの子の描いた絵も、猿のようには見えなかった。
 人型の何かのお腹辺りに、縦に裂けたような傷。
 「おケガをしていたのかな?」と尋ねたとき、ただ「目」とだけ答えたあの子。
 いつの間にか私達の周りに集まっていた子供達も皆、口々に「目」と答えた。
 「ヒサルキ」と答えたあのときのように。

 私は、一人目の子が描いた絵というものを知らない。
 その絵を見たという保育士さんも最近は休みがちだから、次に出勤できたときに見せようとカメラに収めたはずの今日の絵が、なぜか見つからない。
 あの絵が消えていることは不可解なのに、なぜかほっとしている自分にも気付く。

 気にし過ぎちゃだめなんだ。
 ただでさえ、ここ一週間、串刺しになる動物が次第に大きくなってきているから。

 せめてもの手がかりになればと、監視カメラ映像を入手したものの、結局はわからずじまい。
 「ヒサルキ」について、考えれば考えるほど、わからなくなる。
 子供達の「わからない」という声が、やけに耳にこだました。



 電話の鳴る音に、思考を中断させられる。
 受話器を取ると、絵を描いた子の保護者から。
 少し取り乱していたので、落ち着くようになだめながら、向こうの話に根気よく耳を傾ける。
 しばらく事情を聞いた後、冷静さを取り戻したのか、病院に連れていきますと電話を切られた。

 通話先のなくなった受話器を握りしめながら、今聞いた話を整理する。
 いや、でも……目をこする度に、目の角度が変わる、というのは……どんどん縦になってゆく、とは……。
 私はいま、理解がそれに届くのを恐れていることをはっきりと自覚している。
 あり得ない、と切って捨てることができればどんなにも平穏なことか。

 ふと思い出す。
 コンビニ店主が、やけに目をこすっていたことを。
 私は、あのDVDを点けっぱなしにしていたことを思い出し、慌てて再生を止める。
 その一瞬、視界に入ったあの猿のような何かは、自分の腹をこちらに向けていて、その腹を押さえるように添えた手の指の隙間から、何故か視線を感じた。

 なんで突然思い出したのか、その理由を私は目にする。
 消した真っ黒のテレビ画面に、目をこすっている私が映っている。



<終>

ヒサルキ
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

BODY SWAP

廣瀬純七
大衆娯楽
ある日突然に体が入れ替わった純と拓也の話

処理中です...