妖怪奇譚【一話完結短編集】

だんぞう

文字の大きさ
12 / 51

居候

しおりを挟む
 いつからか、うちに鬼火が住み着いた。
 部屋の中を、何をするでもなくゆらゆらと漂い、しいて言うならば俺のあとをついてくる。
 ただ、決して家の外へは出てこない。

 手をかざしても熱くはないのだが、水は怖いらしく近寄らない。
 ぶつかったと思ってもすり抜けたりするのに、火の上の方を軽く撫でると、炎が大きくなったりする。
 喜んでいるのだろうか……いや、鬼火の考えていることはわからない。

 俺が飯を食うときは必ずテーブルの上に居るし、スマホを見ていると覗きたそうに俺のまわりをチョロチョロする。
 笑ったのが、赤ちゃんが泣き止むので有名なあのCM。
 あれがテレビに映った時は、まるでそれに見入っているかのように炎の動きが静かになる。

 ある朝「おはよう」と言ってしまったら、炎の色がわずかに赤くなった。
 赤って警戒色って聞くけれど、怖さは感じなかった。
 ちなみに「ただいま」の時はわずかに青くなる。
 色味をもっと解析したら、会話みたいなことができるようになるのだろうか。

 冷蔵庫は苦手。
 掃除機も苦手。
 ガスコンロは大好きで、部屋の明かりを点けるときはやけにはしゃぐ。

 ゾンビは映画もゲームも苦手。俺の背中に隠れたりする。
 逆にドライブ系のゲームは好きなようで、いつもより画面に近づいている。
 番組では他に動物モノが好きな気がする。
 あと意外にウケてたのがスター・ウォーズ。
 ライトセイバーの戦闘シーンでは変にエキサイトする。

 餌やりや散歩やトイレの世話みたいな面倒がない……のが、だんだん物足りなくなってきて、ヤバいなとか思い始める。

 ライターとかキャンドルとかを買ってきて灯すと、色味と炎の形が少し優しくなる。
 音楽はクラシックとロックが好き。
 イーグルスのデスペラードで少し黄色くなるなんて、お前なかなかわかってるじゃねぇか。

 炭酸飲料とかビールとかシャンパンとかの泡が弾けると、その上で踊るように炎がゆらめくから、一人で飲んでいるって気がしない。

 カレー、けっこう好きなのかと思っていたが、辛すぎるのは苦手っぽい。

 梅雨の時期は元気がないから、毎日スター・ウォーズとイーグルス。

 風鈴の音、好きみたいだな。
 ただ、窓を開けたり、網戸にすると窓際には近づかない。

 最近、「居候」って呼ぶと、炎の上の方がぴょんと跳ねる。
 それでまんまと撫でたりすると、炎が大きくなる。
 この撫でさせられてる感、呼ばさせてられている感、そんなに悪くない。

 ハロウィンが近づいたから、飾るための小さなカボチャを買ってきたら、やけに炎を踊らせる。
 まさかアレか?
 アレを期待されているのか?

 ナイフで顔を切り抜き、スプーンで中身をくり抜くと、居候のやつ、喜び勇んでカボチャの中に籠もりやがった。
 いつになくピンク色の炎。

「お前、もしかして生まれは海外か?」

 居候は何も言わないが、カーテンに映るカボチャの顔の影が笑顔に見えた。



 その晩は虹色に光る炎のゆらめきを肴に、ちょっとたくさん飲んだ。

 目を覚ましたとき、居候は消えていた。
 ハロウィンまではまだ一週間以上もあるってのにさ。

「あんなに喜ぶんなら、もっと早くジャック・ランタン作ってあげれば良かったな」

 そう。
 別れがこんなにつらくなってしまう前に。



<終>

鬼火
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...