妖怪奇譚【一話完結短編集】

だんぞう

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監視カメラに映ったモノ

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 監視カメラに映っていたのは猿のように見えた。
 しかしどの監視カメラにもその背中しか映っていない。
 だからそれが猿だという断定はできない……それが、幼稚園の隣のコンビニ店主からDVDを渡されたときに言われた言葉。
 一応そいつが映っている部分だけ編集し、焼いてくれたとのこと。

 普段は気さくで明るい彼が、重苦しい表情でそんな言い方をした時点で気付けば良かった。
 私は保護者達への説明をしなければならないという使命感から、特に躊躇いもせず、そのDVDを再生した。



 第一印象は「これは猿ではない」だった。
 猿のようには見える。
 だけど時折、その表面がズレるのだ。
 まるで、緩い靴下を履いていると歩いただけで落ちてくる、あんな感じに。
 その度に、黒い小さな何かが、ちらりと見えてズレを直す。
 画像が粗いのと、ソレが素早いのとで、ソレが何なのかまではわからない。
 しかし肩から生えて動いている二本の手とは明らかに違う何か。
 猿というよりは、猿のガワを被っている違う何者かに見えて仕方がない。

 いやもしかして猿が、仲間の猿の皮を被っているだけなのかも……そう考えて、そんなことをする猿はもはや猿ではないのでは、と思ってしまい、その考えは捨てる。
 いっそわからぬモノのままの方がいい気がしてきた。
 思考がそこに及ばぬ方が、近づかぬ方が、いい。
 自然とそんな風に考えてしまう。

 ああそうか。
 だから猿だという断定はできない、と。
 あんな言い回しを。

 そういえば、目撃したあの子の描いた絵も、猿のようには見えなかった。
 人型の何かのお腹辺りに、縦に裂けたような傷。
 「おケガをしていたのかな?」と尋ねたとき、ただ「目」とだけ答えたあの子。
 いつの間にか私達の周りに集まっていた子供達も皆、口々に「目」と答えた。
 「ヒサルキ」と答えたあのときのように。

 私は、一人目の子が描いた絵というものを知らない。
 その絵を見たという保育士さんも最近は休みがちだから、次に出勤できたときに見せようとカメラに収めたはずの今日の絵が、なぜか見つからない。
 あの絵が消えていることは不可解なのに、なぜかほっとしている自分にも気付く。

 気にし過ぎちゃだめなんだ。
 ただでさえ、ここ一週間、串刺しになる動物が次第に大きくなってきているから。

 せめてもの手がかりになればと、監視カメラ映像を入手したものの、結局はわからずじまい。
 「ヒサルキ」について、考えれば考えるほど、わからなくなる。
 子供達の「わからない」という声が、やけに耳にこだました。



 電話の鳴る音に、思考を中断させられる。
 受話器を取ると、絵を描いた子の保護者から。
 少し取り乱していたので、落ち着くようになだめながら、向こうの話に根気よく耳を傾ける。
 しばらく事情を聞いた後、冷静さを取り戻したのか、病院に連れていきますと電話を切られた。

 通話先のなくなった受話器を握りしめながら、今聞いた話を整理する。
 いや、でも……目をこする度に、目の角度が変わる、というのは……どんどん縦になってゆく、とは……。
 私はいま、理解がそれに届くのを恐れていることをはっきりと自覚している。
 あり得ない、と切って捨てることができればどんなにも平穏なことか。

 ふと思い出す。
 コンビニ店主が、やけに目をこすっていたことを。
 私は、あのDVDを点けっぱなしにしていたことを思い出し、慌てて再生を止める。
 その一瞬、視界に入ったあの猿のような何かは、自分の腹をこちらに向けていて、その腹を押さえるように添えた手の指の隙間から、何故か視線を感じた。

 なんで突然思い出したのか、その理由を私は目にする。
 消した真っ黒のテレビ画面に、目をこすっている私が映っている。



<終>

ヒサルキ
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