裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都

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34 エルランドの絵皿

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 オルコット家のタウンハウスの食堂で、大きなテーブルの上に数枚の陶器の絵皿を並べたローゼリアは皿を前にして腕組みをしていた。

「どれもいまひとつなのよね…」

「エルランドのお皿は描かれている絵が細やかで、私どもにはどれも素敵なお皿に見えますのに…」

 一人の侍女の言葉に残りの二人の侍女がうんうんと頷いている。

「そう、確かにどの絵皿も素敵だわ。けれど何かが足りないような気がするの」

 テーブルに並べてくれたメイドたちと一緒に絵皿を眺めていたら、伯爵が食堂に現れた。

「これがエルランドから取り寄せた次に売りたいものか?」

「ええ、いくつかの工房にサンプルを作って頂いたのですが、どれもいまひとつなのです」

「これなんかいいんじゃないのか?」

 そう言って伯爵は縁を青地に金色で彩色された絵皿を指で差す。

「そちらのお皿は他のものと比べる為に取り寄せたものなので販売予定はありませんの。エルランドで有名な工房のものなので、絵皿の技術はとても高いのですが高価なので、一枚も割らずに運ぶとなると通常の料金に追加料金がかかってしまいますでしょう。そうなるとランゲルまでの輸送料金が高額になってしまいますの。今回お願いしたいお皿は低位貴族や裕福な平民を狙いどころとして想定していますので、追加料金をかけずにランゲルまで運びたいと思っていますわ。ですから途中に多少割れてもいいように値段を下げないといけませんの。良いものと比べて品質は下がりますが、こればかりは致し方ありませんわね」

「ランゲル国内の工房で似たようなものを作らせるのは難しいのか?」

 ローゼリアは首を横に振る。

「繊細な絵柄となりますとランゲルよりもやはりエルランドですわ。エルランドでは貴族や裕福な商人が陶器をコレクションとして集め、サロンでお見せすることもありますの。ですから工房同士が良いものを作ろうと競い合っていますわ。人気のある工房にはファンもいるくらいで、そういった工房の陶器の価格は他の工房よりも高くなりますのよ」

「見るからに国外で作られた皿を我が国の貴族たちは買うのか?」

「ええ、ですから私が想定している購買層は低位貴族か裕福な商人なのです。この国は高位貴族になればなるほど海外製品を避けるきらいがありますわ。ですが人というものは新しいものに興味をもつものです。ちょうど本が売れたところなので、物語の一場面が描かれたお皿を販売したいと思っていましたの」

 そう言いながらローゼリアは青地に金彩のある絵皿を手に取る。見本用に取り寄せたと言っていたその絵皿は、よくよく見ると青の色がローゼリアの瞳の色に近かった。

「こちらのお皿は母のお気に入りの工房が作ったものですの。没落する前のフォレスター家では使う陶器の殆どをエルランド製のものを使っておりましたわ。それにエルランド製の陶器は薄いのに堅さはありとても使いやすいので、一度手にしてもらえればランゲルでも買う方はいると思うのですが」

「エルランドはそんなに陶器作りが盛んなのか?」

「ええ、王都の近くには陶器工房だけを集めた村もあるらしいですわ。私もフォレスターで使っていた陶器の工房でしたら名前をいくつか知っているのですが、価格を考えると新たに安価で良いものを作れる工房を探さないといけませんの。ですからこうやっていくつかの工房のものを取り寄せて検討していますのよ」

 伯爵はローゼリアの言葉を聞いた後に少し考えるそぶりを見せてからローゼリアを見る。

「こういうものは直接見た方がいいのだろうな」

「ええ、留学時代にもう少し陶器の工房を知っておくべきでしたわ」

「エルランドへ買い付けに行ってみるか?買い付けのついでになるが、フォレスターの家族にも会えるぞ」

 伯爵の言葉にローゼリアは瞳を大きく見開いた。

「よろしいの?!」

「貴族は平民とは違い、他国へ行く場合は申請が必要だが、出国理由が商売や観光等の一時的なもので、かつ当主でなければ申請だけで審査まではいらん。ワシは隠居したらいくらでも他国へ行けるが、逆にイアンは当主になったら難しくなるだろう。だから今回はイアンも護衛代わりに一緒に連れて行くといい」

「伯爵様、ありがとうございます」

 こうして、離婚するよりも早くローゼリアはエルランドにいる家族に会いに行ける事になった。
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