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33 危げな彼女
「何を考えていらっしゃるのです?」
イアンと並んでダンスホールで踊る人々を見ながら考え事をしていたので、隣から声がかかった。
「そうですね……昔の事、かしら?」
「どんな事があったのですか?」
「そんな事は言えませんわ。イアン様、果実水を渡した事は失敗でしてよ。お酒を飲んでいましたら聞かれた事は何でも話していたかもしれませんから」
ローゼリアはふふふと笑う。
「今からでも飲みます?」
「お断りしますわ」
そう言いながらローゼリアはデザートコーナーのあるテーブルの方へ歩いていく。
ローゼリアが移動しようとすると親鳥を追い掛ける雛のようにいつもイアンが後から付いてくる。
「無理に私に付き合おうとされなくてもよろしいのに」
こうして一緒にいてくれるのは嬉しいが、自分と一緒にいることは婚活中のイアンにとっては良くないと分かっている。本当にイアンは気になる令嬢がいないのだろうか?
「今日は商会に関係している方は参加していませんし、どこの派閥にも属していないウチは付き合いのある家門も少ないですからね。本日は義父の代理として参加をしていますし、義母上をお一人にしていたら他の男に絡まれるかもしれないじゃないですか」
「あら、夜会で一人きりなのは慣れていますの。それに私に話しかけて下さるような殿方はいらっしゃらなくてよ。私は人気がございませんのにイアン様は過保護過ぎますわ」
そう言いながらローゼリアはころころと笑う。
しかし、イアンはローゼリアの自覚なき不用心さに危機感を感じていた。
以前のローゼリアは王太子の婚約者であり公爵家の令嬢だったのだ。並の男では近付く事も出来ない存在だったのだと、どうして本人は気付かないのだろか。
化粧で不美人に見られているから誰にも相手にされないのだと本人は思っているようだがそれは違う。
イアンは素顔に近いローゼリアの顔の方に馴染みがあるので分かるのだが、化粧で厚塗りをしていても近付いてよくよく見ると顔立ちは整っているし、化粧と髪型を変えれば誰もが振り返るような美しい女性になるのだと女性慣れした男ならすぐに気付くだろうとイアンは思うから、ローゼリアから離れる事が出来なかった。
「そうですか……。義母上と離れてしまったら話が出来るような知人のいない俺はこの会場で一人になってしまいます。義母上が俺の話し相手になってくださると助かるのですが」
「あいにくイアン様が関心を持って下さりそうな話題は持ってはいませんわ」
「でしたら俺に貴族のご令嬢との付き合い方を教えて下さい」
「ご令嬢とのお付き合いですか?……例えばどのような事かしら?」
ローゼリアはデザートのテーブルの中からカットされたシフォンケーキが乗せられた皿を手に取りながら話を進める。
「……そうですね。外でデートに出掛ける時はどのような場所に出掛けられるのかとか」
「申し訳ございませんわ。イアンさま、それは私の得意な話題ではありませんわね」
「どうしてですか?」
「だって、経験がないのですもの」
「前の方とはどこかに出かけられた事は無いのですか?観劇とか、音楽観賞とか」
イアンが街の巡回騎士をしていた時、王太子が時々街歩きをしているという噂はよく耳にしていた。イアンは王太子と遭遇した事は無かったが、同僚に王太子を見かけたという話は何度も聞いた事があった。
「ええ、一度も。危険だからとあまり外に出してはもらえませんでしたから」
「でしたら、義母上が男性と行ってみたいと思う場所はありますか?」
「えっ、伯爵様とですか?」
「いえっ、そうではなく一人の令嬢として男性と行ってみたい場所を聞いているのです」
ローゼリアは少しの間考える素振りを見せる。
「それでしたら、カフェに行ってみる事ですわ。街歩きにも憧れていましたが、それはこの間イアン様としましたから」
先日の街歩きが楽しかったのか、ローゼリアは貴族然とした表情を崩してにこやかに笑う。その笑顔はこれまでイアンが見たローゼリアの笑顔の中で一番愛らしい笑みだった。
イアンは急に自分の頬が熱くなるのを感じ、すぐにローゼリアから目を逸らした。
「イアン様?どうしましたの?」
「い、いえっ、何でもありません」
「シャンパンで酔われましたの?ふふふ、顔が赤いですわよ」
「………ええ、少し酔ってしまったようです」
そう言いながらイアンは自分の頬をぽりぽりと掻く。ローゼリアにはそれがとても子供っぽい仕草のように思えて、また笑ってしまいそうになってしまった。
イアンと並んでダンスホールで踊る人々を見ながら考え事をしていたので、隣から声がかかった。
「そうですね……昔の事、かしら?」
「どんな事があったのですか?」
「そんな事は言えませんわ。イアン様、果実水を渡した事は失敗でしてよ。お酒を飲んでいましたら聞かれた事は何でも話していたかもしれませんから」
ローゼリアはふふふと笑う。
「今からでも飲みます?」
「お断りしますわ」
そう言いながらローゼリアはデザートコーナーのあるテーブルの方へ歩いていく。
ローゼリアが移動しようとすると親鳥を追い掛ける雛のようにいつもイアンが後から付いてくる。
「無理に私に付き合おうとされなくてもよろしいのに」
こうして一緒にいてくれるのは嬉しいが、自分と一緒にいることは婚活中のイアンにとっては良くないと分かっている。本当にイアンは気になる令嬢がいないのだろうか?
「今日は商会に関係している方は参加していませんし、どこの派閥にも属していないウチは付き合いのある家門も少ないですからね。本日は義父の代理として参加をしていますし、義母上をお一人にしていたら他の男に絡まれるかもしれないじゃないですか」
「あら、夜会で一人きりなのは慣れていますの。それに私に話しかけて下さるような殿方はいらっしゃらなくてよ。私は人気がございませんのにイアン様は過保護過ぎますわ」
そう言いながらローゼリアはころころと笑う。
しかし、イアンはローゼリアの自覚なき不用心さに危機感を感じていた。
以前のローゼリアは王太子の婚約者であり公爵家の令嬢だったのだ。並の男では近付く事も出来ない存在だったのだと、どうして本人は気付かないのだろか。
化粧で不美人に見られているから誰にも相手にされないのだと本人は思っているようだがそれは違う。
イアンは素顔に近いローゼリアの顔の方に馴染みがあるので分かるのだが、化粧で厚塗りをしていても近付いてよくよく見ると顔立ちは整っているし、化粧と髪型を変えれば誰もが振り返るような美しい女性になるのだと女性慣れした男ならすぐに気付くだろうとイアンは思うから、ローゼリアから離れる事が出来なかった。
「そうですか……。義母上と離れてしまったら話が出来るような知人のいない俺はこの会場で一人になってしまいます。義母上が俺の話し相手になってくださると助かるのですが」
「あいにくイアン様が関心を持って下さりそうな話題は持ってはいませんわ」
「でしたら俺に貴族のご令嬢との付き合い方を教えて下さい」
「ご令嬢とのお付き合いですか?……例えばどのような事かしら?」
ローゼリアはデザートのテーブルの中からカットされたシフォンケーキが乗せられた皿を手に取りながら話を進める。
「……そうですね。外でデートに出掛ける時はどのような場所に出掛けられるのかとか」
「申し訳ございませんわ。イアンさま、それは私の得意な話題ではありませんわね」
「どうしてですか?」
「だって、経験がないのですもの」
「前の方とはどこかに出かけられた事は無いのですか?観劇とか、音楽観賞とか」
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「ええ、一度も。危険だからとあまり外に出してはもらえませんでしたから」
「でしたら、義母上が男性と行ってみたいと思う場所はありますか?」
「えっ、伯爵様とですか?」
「いえっ、そうではなく一人の令嬢として男性と行ってみたい場所を聞いているのです」
ローゼリアは少しの間考える素振りを見せる。
「それでしたら、カフェに行ってみる事ですわ。街歩きにも憧れていましたが、それはこの間イアン様としましたから」
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イアンは急に自分の頬が熱くなるのを感じ、すぐにローゼリアから目を逸らした。
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「い、いえっ、何でもありません」
「シャンパンで酔われましたの?ふふふ、顔が赤いですわよ」
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